No.3 阪神大震災の復興財源を考える

1月17日に起きた阪神大震災の復興財源を、日本はどうやって賄うつもりなのだろうか。復興経費として兵庫県は約9兆5,000億円、また、日本商工会議所会頭の稲葉興作氏は約40兆円(GNPの約10%)という金額を見積もっている。しかし、この莫大な見積り額には、今回の被災地以外の鉄道、道路、その他ライフラインの見直しや再構築の費用は含まれていない。本来ならば、他の地域でも同様の悲劇が起こらないようにするためにも、総点検と震災対策の見直しが必要なはずである。地震の頻度は東京を含めた東日本の方が高く、鉄道や高速道路も兵庫より東京の方が古い。さらに、人口密度も関東の方が高いということからも、就業時間中や通勤中に東京で阪神大震災並みの地震が起きたら、早朝5時45分という神戸の場合よりもずっと多くの犠牲者が出ることは明らかである。

我々は今回の阪神大震災から多くの教訓を得た。例えば、建築物についていえば、この地震で倒壊した鉄筋コンクリートの建物の大部分は新建築基準法が施行された1981年より以前に建てられたものであるということが分かった。この事実は、1981年以前に建てられたすべての鉄筋コンクリートの建物が阪神と同じ危険に晒されているということを示唆しているのではないだろうか。

耐震技術世界一を誇っていた日本の新幹線はどうだったのか。山陽新幹線で最も被害が大きかった線路は不安定な地盤の上にあり、さらに尼崎と六甲トンネル間の橋梁にはわずか12キロメートルの間に7カ所も破損箇所が見つかった。また、線路下の支柱440本にも被害が出た。山陽新幹線でこれなら、それより古い東海道新幹線はどうなるのか。政府は新幹線を全面ストップさせても総点検や耐震対策を施すべきではないのだろうか。高速道路についても状況はまったく同じはずだ。

さらに、調査によれば、13大都市中、阪神大震災クラスの地震対策ができているところは札幌、川崎、京都の3都市のみで、残りの10都市は地震対策があったとしても、より小規模な地震を想定している。

増税と国債発行だけしか道はないのか

このような事実から、被災地だけでなく日本全土にわたり震災対策が必要なことは誰にでも分かることだ。そしてそれには莫大な費用がかかる。しかし、実際の政府の対応、特に復興財源については非常にがっかりさせられる。

久保亘社会党書記長は、被災地復興のために「政府にできることは、国債の発行、増税、歳出の見直ししかない」と述べている。しかし、政府の議論のほとんどが、この3つの手段のうちの最初の2つ、つまり国債の発行と増税に集中している。

2月初めの日本経済新聞によれば、日本政府は西日本の地震被災地の復旧を財政援助するために、総額1兆円の国債を発行するであろうという。また増税についても、五十嵐広三官房長官や他の官僚はすでに増税について話を進めている。武村正義蔵相も2月7日の記者会見で政府は増税を検討する必要があると述べ、村山首相も2日後の記者会見で、増税の可能性を否定しなかった。

しかし、久保氏が提案した3つめの手段、つまり歳出の見直しはどうなったのだろうか。それについての議論は一向に聞かれない。一体なぜだろう。この地震で被害を受けた企業約8,000社、そして何万人もの市民は、企業会計や家計の見直しを余儀なくされている。地震のために、少なくとも4,500人が職を失うことになるだろうという報告もある。被害を受けた一般企業や市民は支出の見直しどころか、どうやって生きていけばいいのかと深刻に悩んでいる。それなのに政府は災害などまったくなかったかのごとく支出の見直しを行っていないというのは一体どうしたというのだ。稲葉商工会会頭の見積りが妥当な線であるとすれば、約40兆円、GNPの10%もの復興費が必要になるのだから、政府は歳出削減を避けては通れないはずだ。各個人、家庭、企業が収入の一割に影響を及ぼすような災害にあって、支出計画を見直したり、縮小しないようなことがあり得るだろうか。

米国への資金援助を神戸に回せ

そこで私は、日本国民の金を米国政府の愚行に浪費するのを止め、自国民の支援と保護に回すことを提案する。今こそ、愚かで有害な米国の冒険に資金援助するような余裕はないと、日本政府は米国政府に伝えるべきである。まず第一に、阪神大震災の災害復旧と、被災家族や企業の援助が最優先されるべきである。そして次に、将来やってくる震災の犠牲者と被害を最小限に抑えるために必要な方策を取るべきである。

日本政府が自国民の保護のために具体的に、どういった支出を神戸の復興や震災対策に回すべきなのか。以下のAP通信の記事(抄訳)が参考になる。

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米国は、北朝鮮の核計画の中止やルワンダへの食料提供、さらには、ボスニアのモスレム人とクロアチア人勢力の間の連邦国家体制の支援など、次から次へと外交政策を決定している。しかし、そのための資金援助は必ずといっていい程日本に求めている。そして日本は決まって援助を約束するのである。ウィンストン・ロード国務次官補は「我々が日本へ援助を求めに行くのを、日本はむしろ歓迎してくれます」と日本の対応ぶりについて述べている。

米国との貿易関係がいかにぎくしゃくしていようが、日本の寛大な援助は増える一方である。日本のODA(政府開発援助)は世界第一位であり、1993年には1兆1,470億円に達した。中東の平和維持活動に200億円以上、ルワンダに65億6,000万円、カンボジアの再建に61億3,000万円、ハイチの負債の決済に14億2,000万円、カリブ諸国の他のプロジェクトに11億5,000万円を提供している。さらに、ウクライナの核兵器解体の援助に加えて、クリントン政権が北朝鮮に約束した核計画中止のための4,000億円の技術援助に対しても、日本の負担分は大きな額になるはずだ。

国連定期予算への供出額では日本は127億円で、米国に次ぎ第二位である。また国連の平和維持活動にも357億円で世界第二位の貢献である。(米下院本会議は2月16日、国連平和維持活動への支出削減を盛り込んだ法案を可決した。)

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この記事には、ブッシュ大統領が湾岸戦争で日本に請求した1兆3,000億円は含まれていない。また、メキシコ通貨危機からウォール街の投資を支援するために、日本政府に支払うようにクリントン大統領が要求した4,000億円も含まれてはいない。

米国に見る外交政策の矛盾

日本にこれだけの資金を出させている当の米国は一体どれだけ世界に貢献しているというのか。かつて世界に君臨した米国は、世界のボスとしてリーダーシップを取る習慣は今もまったく変わらないが、それを支える資金力、軍隊の貢献、そして政治的な影響力に関しては見る影もない。

世界銀行と地域開発銀行に対しては825億円の支払いが滞っている。また国連に対しても、一般基金への支払いが遅れ、平和維持会計に対してはほぼ700億円の不足で会計年度を終えようとしている。そして、ソマリアでの平和維持活動で8人のアメリカ兵が殺されたのは、外国からの司令が引き起こしたことだとし、多国籍軍による平和活動に反対する気運を高めている。実際には、それが米国の司令であったことは周知の事実であり、他の諸国は米国よりもずっと多くの犠牲者を出している。また、米国の実力政治家の中には、米国の単独決定により、国連への支払いの中から、平和維持活動のために米国が自発的に提供した資金を払い戻すべきだと提案している者もいる。こうすれば、帳簿上、昨年の時点で、米国は国連に対して400億円の貸しがあることになる。もちろん、米国が砂漠の嵐作戦で他の諸国に供出させた額はまったく無視されている。

さらに問題なのは、日本を含む世界、あるいは米国人自身が抱いている米国に対するイメージと実際の行動がかけ離れていることである。最近の世論調査によれば、米国人の80%が、米国の貧しい国に対する援助はGNP比で他のどの先進諸国よりも多いと信じている。しかし実際には、先進諸国18カ国中、10位以内に入らないどころか最下位の18位である。実際の援助額で見ても、日本が世界最大の援助国として1993~1994年に1兆1,470億円のODAを提供したのに対し、米国は前年度の5分の1も削り9,700億ドルにとどまっている。

世界を目指すのはまだ早い日本

私は関経連の川上哲郎会長の意見に賛成する。同氏は、日本がODAの10%の予算を阪神大震災の被災地の再建に割り当てることを政府に提案している。政府は国民の金を他国に与える前に、自国民の援助に使うべきである。日本国民や企業、宗教団体が被災者のために義援金430億円を寄付したというのに、政府が国民の税金を米国政府の言うままに世界中にばらまいてよいのだろうか。

こういう時こそ日本は外国からの客観的な助言に耳を貸すべきであろう。最後に、ワシントンポストのHobart Rowen記者の意見を紹介する。このような指摘が米国側から出されているということに注目して欲しい。

「日本政府は今こそ税金を日本国民のために使うべきである。この阪神大震災は、日本に悲惨な現実を突き付けることになった。世界1、2を競う経済規模と技術力を誇る日本が第三世界とほぼ変わらないといえば、日本の政治家は憤慨するかもしれない。しかし、国民はそれが紛れもない事実であることを悟っている。国際都市神戸や、他の大 都市の家々は木造で発火しやすく、壊れやすい。また医療や水道、ガスなどのライフラインの設備も他の先進国と比べるとかなり劣っている。このような後進的な側面が、神戸に限らず至る所に見られる。給与がいくら高かろうが、このような日本社会は、米国よりもむしろ東南アジアやラテンアメリカ、インドなどの貧しい地域に近い。貯蓄率は高いが真の生活水準は低いという日本の矛盾がこの地震で暴露されることになった。結論として言えることは、全世界が望んでいる高品質の製品を生産し輸出するエコノミック・アニマルの日本も、その財力にものを言わせて、IMFや世界銀行、さらには国連で高い地位を要求するにはまだ時期尚早だということだ。まずは国内問題に当たるのが日本には相応しいだろう。自国の近代化に全力を尽くすべきである」

先進国の中でも最も犯罪の多い国である米国の政府が、世界の警察官として振る舞うのもおかしいが、自国民を自然災害から守る余裕さえない日本政府が、この警察官をてらった行動に資金援助しているというのもそれと同じくらいばかげているのではないだろうか。