米国政府が日本製高級乗用車13車種に対して100%関税という制裁を発表した時、私は日本はここは我慢して、WTOの裁定を待つという正道を取るべきだと考えていた。米国政府のような野蛮な手段は使わずに、すじを通し、報復はすべきでないと思っていた。しかし、あらためて事態を冷静に吟味した結果、米国の蛮行に対抗するには報復しかないと私は確信したのである。
現在、報復以外に日本が取れる手段は2つしかない。私は、日本はどちらの手段も取るべきではないと考える。私が日本政府に進言する報復措置を説明する前に、まずその2つの選択肢を検討してみよう。
1. 日本はWTOの裁定が出るまで待つべきではない
最初の選択肢は、米国の報復関税に関する世界貿易機関(WTO)の裁定を待つことである。米国の一方的な制裁措置はWTO協定違反であり、日本が勝つ可能性は非常に高い。さらに、WTOの秩序を完全に乱し、米国が勝手に制裁関税を適用したことに対して、国際世論も一様に米国に批判的である。しかし、問題なのは、WTOがすべての処理手続きを終え裁定を出すまでには、少なくとも18カ月はかかるということだ。つまり、最終的には米国が負けの裁定が出ることが分かっていても、その裁定が出るまでの18カ月間は日本の自動車会社は100%の関税を支払わなければならないのである。また米国の制裁関税が協定違反であるとの裁定が下されたとしても、日本の自動車メーカーにはそれまでに支払わされた関税を償還請求する権利もない。日本がWTOの下で報復措置を取る権利を認められるのは、WTOが米国の制裁を協定違反と認めたにもかかわらず、米国がその後も関税を徴収しようとした場合だけなのである。つまり、裁定が下されるまでの期間、日本の自動車メ-カーはその不当な制裁関税を払わされ、米国が協定違反だという裁定が下されても、支払った関税を償還請求するような権利を日本側に保証するような仕組みがWTOにはないのである。
これでは起訴された泥棒が、裁判の間野放しにされ、盗みを続けるのと同じではないか。そして、この場合の判決内容は、1)泥棒に盗みを止めるように勧告する、2)その後盗みを止めない場合、被害者は報復措置を取ることが認められ、しかし、3)裁判所の判決がでるまでの間の損失を償還する手段は何も提供されない、ということなのである。
もちろん、100%関税を支払うために日本車を値上げして輸出を継続することはできる。しかし、今までの倍の価格になれば、いくら性能がよくても日本車が売れなくなるのは目に見えている。米国が制裁措置を発動すれば、5月20日まで遡って制裁関税が徴収されることになっているため、事実、マツダやホンダなどのように制裁関税を避けるために輸出をストップした日本車メーカーもあり、すでに損害が出ている。
結論として、日本がこの選択肢を選べば、高級車の輸出は全面的にストップすることになる。日本が18カ月間堪え忍び、このような事態になることだけは、避けなければいけない。
2. 繰り返してはならない半導体交渉の過ち
報復措置以外に日本に残されたもう1つの方法は、6月28日までに米国の要求に従うことである。しかし、日本はそれだけはしてはいけない。日米半導体交渉を思い出して欲しい。日本が外国製半導体のマーケット・シェアを20%まで高めるという自主的な目的を掲げたことが仇となり、自主的な目標であるのに米国側はそれを日本政府の約束であると吹聴した。その結果、目標達成に死に物狂いで努力するはめになったのは、米国メーカーではなく日本側ではなかったか。米国メーカーは品質や値段や納期などお構いなく、日本での売上を企業努力なしに達成したのである。5月18日付け朝日新聞で、三菱信託銀行の島田巌氏も指摘しているように、このような理不尽な要求に日本が屈服したのは半導体だけではない。ガーディアン社の複層ガラス、モトローラ社の移動電話、クレイ社の大型コンピューター、カリフォルニア米など、例を挙げればきりがない。
米国を相手に貿易交渉を行うのは、犬を相手にしているのと同じだと私は思う。犬を相手に理屈が通じないのはあたりまえである。犬には例を示して教え込むしかない。これまで、米国という犬が吠えたり、かみついたりするたびに、日本は米国の要求に屈してきた。つまり、吠えたりかみついたりするやり方を米国に教えたのは日本なのである。今回の米国のかみつき(高級乗用車に対する100%関税)に屈して、米国製自動車や部品購入の要求をまたしても日本が受け入れれば、米国はさらに吠えたり、かみついたりするようになるだろう。
日本は今こそ、そういった態度を改めるよう犬に教えなければいけない。ではそれにはどうすればよいだろうか。先に挙げた島田氏は同記事の中で、報復関税で米国に対抗すべきであるとしている。私も島田氏の意見に基本的には賛成である。同氏が言うように、「こめかみに突きつけられたピストルを取り除いた上で」、両者が同じ土俵に立つことができるようにすることは重要である。あるいは、逆にブルドッグの顎にこちらの銃口を突きつけてやるぐらいの強硬な態度が必要なのかもしれない。しかしそのために、日本は米国が使っているような卑劣な方法は取るべきではない。報復は報復でも、ルールに則った報復措置を取るべきである。その方法を以下に説明しよう。
日本はルールに則って報復すべし
1. 米国の嘘を暴け
まず日本政府は、日米貿易摩擦に関して米国がいつも持ち出す大前提が完全な誤りであることを指摘し、その大前提を覆すべきである。米国政府は日本との貿易について常に嘘をついてきた。ワシントンの嘘吐き達は巨額な対日貿易赤字が存在すると見せかけているが、その主張に使われる日米間の貿易統計では、米国企業が海外で製造し(米国企業は海外で販売する製品の86%は米国の外で製造している)、米国以外の国から日本に輸入される製品をまったく無視しているのである。IBMのコンピュータやマッキントッシュ、インテルの半導体、モトローラの携帯電話、ゼロックスのコピー機、キャタピラーのトラクター、デュポンの化学製品、3Mのポストイット、ReebokやNikeの運動靴、WilsonやPrinceのテニスラケット、リ-バイスのジーンズ、ポロのシャツ、ブルックスブラザーズのネクタイ、オレオのクッキー、ケロッグのコーンフレーク、コカコーラやペプシ、BudweiserやCoors、パンパースのおしめ、シックやジレットの剃刀、GMの大半の乗用車(日本人が乗っているGM車の69%はヨーロッパから輸入されている)等々、日本には米国メーカ-の製品が溢れている。しかし、いくら日本人消費者がこれらの米国ブランドの製品を好んで買っても、日米間の貿易ではないために、米国からの輸出は一向に増えないのである。それはなぜか。
米国人経営者が、低賃金労働者を利用するために米国以外の国で製品を作っているからである。海賊のように利益を貪る米国人経営者が海外の低賃金労働者を使うのは、もちろん利益を上げるためである。それが何を意味するかと言えば株価の上昇、さらには自分達のボーナスやストック・オプションの増加を意味する。だからこそ、米国経営者は平均で平社員の159倍もの報酬を得ているのである。ちなみに日本の場合、その開きは10倍程度に留まっている。つまり、米国は、利子収入で暮らせるような一部の海賊がさらに豊かになるために、賃金収入で暮らすほとんどの国民を略奪している状態にあるのだ。
貿易を事実に則して正確に計算すれば、つまり、どこで製造されたものであれ、米国企業が日本で販売する製品の金額と日本企業が米国で販売する製品の金額とで比較すれば、二国間の貿易黒字あるいは赤字は存在しないのである。日本政府がやるべきことは、この嘘を暴くことである。そして、いくら仲間が貧困で喘いでいようが、選挙に資金を回す海賊からの援助を当て込んで、米国政府が日本をスケープゴートにしているという実状を暴露するのである。
2. 日本政府が100%関税を支払うと発表する
日本政府はすぐにでも、政府が100%関税を支払うと発表すべきである。そうすれば、WTOの裁定が出るまでの間、日本の自動車メーカーはこれまで通りの価格で高級車を米国で販売することができる。これはWTOの裁定がでるまで、明らかに違反である関税制裁による影響を防ぐための予防注射のようなものである。しかし、WTOが米国の制裁関税が正当であるという判定を下した場合には、日本政府はその関税の支払いを止めると発表すべきである。
3. 日本政府は59億ドルを米国政府に支払わせる
この関税制裁の支払に、日本政府は約59億ドル必要である。日本政府はこれを米国政府に支払わせるべきである。それをどうやって行えばよいか。具体策を示そう。
a) 日米自動車交渉が解決するまでは日本はAPECから脱退し、それで節約できる費用を関税の支払いに回すと発表する。アジア諸国の大半がAPECに米国が加盟していることを不満に思っている。アジア諸国が米国を受け入れているのは、日本がそれを主張したからである。その日本がAPECから脱退すれば、米国の覇権のもとにアジア太平洋貿易圏を構築しようという米国の野望は打ち砕かれるであろう。
b) 米国が北朝鮮に買わせたがっている原子力装置に対する資金援助を止め、それを関税の支払いに回すと発表する。
c) 日米自動車交渉が解決するまでは、ハイチへの資金援助を停止し、ウォール街の投機家がメキシコでの博打に投じた資金の損失を食い止めることも止め、さらに、今後は一切、米国政府の気まぐれにつき合うことも止めると発表する。そして、その費用を関税の支払いに回す。自らの略奪で貧しくなった米国には、日本からの資金的な援助がなければ、最早自国の外交政策も実施することはできないのである。
d) 日米自動車交渉が解決するまでは、米国債の購入を停止し、米国政府の負債を増やすのを止めると発表する。その費用を関税の支払いに回す。
e) 日本は、米国政府がドルを下落させるのを防ごうとしてきたが、今後はそれを停止すると発表する。日米自動車交渉が解決するまでは、日本はドル安を食い止めるための買い支えを全面的に停止し、その費用を関税の支払いに回すと発表する。
これらの報復措置を取れば、いくら犬でも餌をやる人の手を噛むようなまねはしなくなるはずだ。
ある人は、これらの報復措置を隠密裏に行い、米国政府の面子が保てるように、日本の報復措置とクリントンとカンターの高級車に対する関税を結びつけるのを避けるべきだと言うかもしれない。しかし、私はそれには反対である。日本政府は、米国政府、米国の一般市民、そして世界に対して、米国政府に払わせているのは、クリントンとカンターが発表した報復関税そのものであることを知らせるべきなのだ。人間ならば面子を保てるよう助けるだろうが、相手が犬であれば、粗相をしたらそれに鼻をこすりつけて、同じ間違いを繰り返さないように調教するしかないのである。日本政府の対応に期待したい。