No.49 米国植民地日本の規制緩和

長年にわたって、米国政府は日本に対して傲慢で威圧的な態度をとってきました。そして日本政府がそれに対してなぜ卑屈な態度をとるのか、いつも不思議に思っていました。主権国の政府同士が互いにそのような態度をとっている関係は他には見あたりません。しかし、最近になってその謎がとけました。米国政府は日本を主権国家と思っていないばかりか、米国の植民地と見ているのです。そして日本の政府高官の多くも、独立国家を統治しているのではなく、米国植民地の管理者としてふるまっているのです。

日本が米国の植民地であることが顕著に表われているのが、最近米国政府から日本政府に送られた日本の規制緩和に対する尊大な要望書と、それを素直に受け取った日本政府の態度です。

以下に、米国政府から送られた要望書を抜粋し、それに対する私のコメント(===>以下)を加えました。皆さんは、米国政府が日本政府に対してこのように事細かな要求を掲げていることをご存じでしょうか。ぜひ、お読み下さい。

(以下要望書は通産省より受け取った日本文のまま)

米国政府の日本における規制緩和、行政改革及び競争政策に関する
日本政府に対する要望書

平成7年11月

(本要望書(原文:英語)は、米国政府より公表され、我が国政府に提出されたものであり、別添文書は、関係各省庁の協力を得て外務省にて作成した抄訳です。)

米国政府は、日米間の新たな経済パートナーシップのための枠組みに関する共同発表(「包括協議」)の下での規制緩和・競争政策等作業部会との関連で、日本政府に対し、日本における具体的な規制緩和、行政改革及び競争政策に関する事項を取り上げた要望書を提出することができることを喜ばしく思う。

===> 1995年12月の大半の間、自国の政府機能をストップさせ、官庁を閉じていた米国政府が、どうして日本政府に対して社会をどう規制しろとか行政を改革しろとか言えるのだろうか?
===> 歴史的に帝国主義の列強は、植民地に対してその活動を規制したり管理する方法を命じてきた。しかし、主権国家が別の主権国家の内政に関して規制や管理の方法を命じるのは聞いたことがない。

本要望書は、現在日本政府が1995年3月31日に公表した5ヵ年の「規制緩和推進計画」に関する初めての年次改定作業を進めているとともに、関心を有する内外の関係者からの具体的なコメントを検討していることを認識しつつ、準備されたものである。米国は日本政府がその後1995年4月13日に同計画を3年以内に実施する意図を表明したことを認識している。
===> 私は主権国家が自国の規制緩和や行政改革について外国にコメントを求めるなど、聞いたことがない。読者はこのような前例を聞いたことがあるだろうか。日本政府は本当に「日本における特定の規制緩和、行政改革及び競争政策に関して、関心を有する外国関係者から具体的なコメント」を求めたのだろうか。もしそれが事実であるとすれば、これまでに主権国家でそのようなコメントを外国に頼んだ国が日本以外にあったろうか。また同様に、そういった要請に応えて、言語道断にも要望書を他国に提出した国が米国以外にあっただろうか。「言語道断」では語気が強すぎるというのなら次の文章、特に最後の一文を読んで欲しい。

本要望書は、1994年11月15日に日本政府に対して提出した当初のリスト及び1995年4月21日に提出した日本の規制緩和推進計画に対するコメントを基に、米国政府による提言の広範なリストたることを意図している。本要望書は、米国政府が懸念、関心を有する日本の規制緩和、行政改革及び競争政策の問題を完全に網羅するリストたることを意図していない。規制緩和や経済及び行政システムの自由化は継続的なプロセスであるため、米国は今後追加的な提言や要望を日本政府に対して提出することがあり得る。
===> 「米国内」の規制緩和、行政改革及び競争政策の問題について、米国政府が懸念/関心を有するのであればよくわかる。しかしなぜ、「日本」の問題について米国政府が懸念/関心を有するのか理解できない。もっとも米国政府が日本を植民地であると見なしているのであれば話は別だが。

米国政府は、包括協議の規制緩和・競争政策作業部会や他のフォーラムにおいて進行中の協議との関連で、規制緩和、行政改革及び競争政策、また規制緩和推進計画の改定に関して日本政府と建設的な対話ができることを期待している。
===> 日本政府は米国政府に、「冗談じゃない、そんな対話をする必要も時間もない!」と言ってやるべきだ。

I. 基本的原則

米国政府は、1994年11月15日に日本政府に対して提出した要望書に記した基本的原則を再認識する。米国は、引き続き、日本における効果的な規制緩和が、競争を促進させ、外国製品・サービス・投資に対する市場アクセスを増大させ、市場における効率性の増大、低価格、増大した製品とサービスの選択と入手可能性を通じて、日本の消費者、生産者、及びサービス提供者にも多大な利益をもたらすことになると信じる。
===> これは日本政府の懸念/関心事であり、米国政府がとやかくいう筋のものではない!

「規制緩和推進計画」は、これら諸原則の一部を包括してはいるが、米国政府は日本政府が規制緩和への確約を下記の諸原則を完全に採用するまで拡充することを強く勧める。
===> 醜いアメリカ人は、日本政府は米国政府が提案する具体的な原則を完全に採用しなさい、と言っているのだ!

A. 広範な、かつ継続的な見直し
公式、非公式を問わず、また、社会的か経済的かを問わず、日本における全ての規制は見直されるべきである。この見直しは、継続的に行われるべきである。
===> 見直す規制が全てか一部か、またはどれかを決めることは日本政府の問題であって米国政府の問題ではない。

B. 原則規制からの自由、例外としての規制
規制の見直しにおいては、規制が正当な目的を達成するために必要とされる以上に広範ないしは過重負担となっていないかを考慮すべきである。存続される規制は、健康、安全ないし環境の保護、国家安全保障、あるいはごまかしからの消費者保護といった、既に認められた公共政策と密接かつ直接的に関係しているものであるべき。
===> これもまったく米国には関係のないこと。

C. 透明性及び明確性の向上
規制は透明性及び無差別の原則に基づくべきであり、規制を実施する官吏はその活動に明確な説明ができる責任をもつべきである。全ての公式・非公式の規制は、書面に明記され、一般に入手可能な形で交付されるべきである。それぞれの規制の担当官庁及び担当者は常に明らかにされるべきである。新規および現行規制の変更に際しては、事前に開示され、一般からの意見提出に十分な機会が提供されるべきである。
===> どのような原則に基づいて日本の規制を定めるかは、米国政府ではなく日本政府が決めることである。

D. 非公式な政府権限の委譲の禁止
政府系機関及び非政府機関(非営利団体、特殊法人及び事業者団体を含む)による間接的な、事実上の規制は、国会の承認による正式かつ透明な権限の委譲に基づかない場合には、厳しく禁止されるべきである。
===> これも全く米国政府には関係のないことではないか。

E. 負担とならない地方レベルでの規制
地方政府は適当な場合には、不必要で負担となる地方規制を見直し、また排除するために「規制緩和推進計画」と同種の措置をとることが勧奨されるべきである。また国レベルでの規制緩和の努力を、全体にせよ部分的にせよ、否定したり覆すような効果を持つ新たな地方規制の制定を禁止する指針が採用されるべきである。
===> これも全く米国政府には関係がない!

F. サンセット条項(時限規定)の導入
特定の規制の固定された有効期限を明記するサンセット条項は、適当な場合には、将来新たに発効される規制に含まれるべきである。サンセット条項はまた、現行規制が見直されるに際して組み込まれるべきである。
===> いい加減にしてほしい!

G. 市場メカニズムの奨励
資源の最良かつ最適配分及び個々の企業の成否の決定は、積極的かつ効果的な独占禁止法執行政策により補完された市場メカニズムによって導かれるべきである。競争を不当に制限するような民間の慣行が公式な規制を代替・補完することは認められるべきではない。
===> 米国に戻って自分の国の管理をしたらどうか?

II. 規制緩和手続き

米国政府は、規制緩和が変化する情勢に呼応するものであるためには、精力的なプロセスでなければならないと信じる。このため、米国政府は1994年11月15日に提出した要望書の中で、日本政府に対し、「規制緩和推進計画」が民間部門参加のメカニズム、一般からの意見の定期的聴取、意見を提出する民間企業や個人が不利に扱われたり、制裁を加えられたりすることのないよう保護する指示の発出、及び規制緩和年次報告に関する規定を含むことを提言した。
===> 日本の規制緩和は米国政府に関係のないことだと私は信じている。従って米国政府の提言は言語道断であり、日本政府はそれを無視すべきなのだ。

米国政府は日本政府の精力的な規制緩和手続への確約を認識する。この確約を遂行するにあたり、責任ある官吏が、「建て前」、あるいは規制緩和手続の目に見える側面が、上記の基本的な「本音」、あるいは哲学的な原則に基づいて理解され、実施され、見直されることを保証することが重要である。諸原則の誠実かつ完全な実施によってのみ、意味ある規制緩和が出現する。
===> これを読んでいると、あたかも親が子供を諭しているかのようだ。

III. 具体的な規制緩和の提案

===> 以下に引用するのは、植民地である日本の行政官に対して米国政府が提出した言語道断な要望書の、具体的な規制緩和に関する提案の一部である。

A.1.d
植物検疫制限:基準に合致していることの米国製造業者による自己認証の受け入れ(特にピーナツバターのアフラトキシン)
===> なぜ日本が独自に設定した基準ではなく、外国の農業製品基準を受け入れなければならないのだろうか。どうして日本政府は輸入食物が日本の安全基準を満たしているかどうかを調べることによって国民を保護することをやめ、その代わりそれを日本へ輸出する業者に基準に合っているかどうかを決めさせる必要があるのだろうか。政府のストによって自国の役所も満足に開くこともできない政府が、なぜさも重要事項のようにピーナツバターについて提案をするのだろう。

A.2.a/b
食品添加物/製品基準:米国において「一般的に安全と認識されている食品添加物」と分類されているものに対する使用基準の適用の緩和(特にマヨネーズ等でのソルビン酸カリウム、ソルビン酸、安息香酸、安息香酸ナトリウム)。基準に合致していることの米国製造業者による自己認証の受け入れ。
===> ここでも米国政府は日本に外国の製品基準を受け入れるよう指示し、また日本政府に米国の製造業者がその基準を満たしているかを取り締まる代わりに、外国業者をただ信用するように指示している。もし米国政府が日本を独立国家であると認めているのであれば、輸入品の基準を設け、その準拠を監視することが日本政府の義務と権利であると尊重するのが本筋ではないだろうか。

A.4
競争馬:外国産馬の出走制限の廃止と馬主登録の海外居住者への開放
===> アメリカ大使館も満足に開けておくことができず、よってビザの発給やパスポートの更新サービスすら満足に提供できない政府が、なぜよその国の競争馬の規制についてとやかく言えるのであろうか?

A.5.a.iii
木材製品:外国の建築資材や建設方法の受け入れの迅速化(米国規格の製材・合板、米国基準の釘・釘うち機)
===> 米国政府が米国企業に日本で製品を売らせたいのであれば、日本が米国の基準を認可するよう帝国主義的に圧力をかけるのではなく、日本の基準に準拠させるよう自国の企業に助言をすべきではないだろうか。

A.5.b.i
木造建築資材や建設方法の増加:建築基準法の見直しと性能規定化の迅速化
===> この要求を阪神大震災の直後にするのはまったく思いやりがない。米国政府は、この建物の密集した地震国、日本では、火が広がりやすいことが致命的な危険性を持つことをまったく知らないか、それに対する配慮を明らかに欠いているようだ。阪神大震災は、国民の命を守るためには建築基準法を緩めるのではなく、むしろ強化する必要があることを示したに他ならない。

B.2.a
自動二輪車:警察庁が発表したように、1996年10月までに400cc以上の大型自動二輪車の運転免許試験に関する厳しい制限を撤廃すべき
===> 他国に対して運転免許試験をどうしろというとは、米国はなんと傲慢なのだろうか。ましてや、その指示に期限を付けるなど、考えられない。

B.2.c
高速道路における自動二輪車と自動車の制限速度を平等にすべき
===> 他国の高速道路の制限速度にいちゃもんをつけるとは、米国政府はなんと傲慢なのだろうか! 米国政府は米国国民には交通事故から身を守るためにシートベルトとエアバッグの装着を義務づけているのに、日本国民に対しては、シートベルトもエアバッグもない自動二輪車の制限速度を上げろというとは!

B.2.d
特に大型二輪車について、高速道路での二人乗り禁止を撤廃すべき
===> 昨年、米国の交通事故による死亡率は国民一人当たりにつき日本と比べて51%増であった。米国政府は日本の規制緩和を要求するよりも、自国の高速道路の規制を厳しくした方が、彼らを選挙で選び、税金を払ってくれている米国民のためになるというものだ。

C.2.b
建設基準:国際基準の反映
===> 何だって? インチやフィート、オンスやポンドを使えというのか。今だにメートル法を採用していない数少ない国がそんなことを言うのはまさに滑稽だ。

C.2.h
製材、合板、その他木材製品の米国の格付け基準の受け入れ
===> なぜ日本が自国の基準ではなく、米国の基準を受け入れる必要があるのだろうか?

C.2.k
米国の家庭用ガス炉の基準と試験の受け入れ

C.2.l
米国の天井タイルの基準と試験の受け入れ

C.2.m
米国の石膏板の基準と試験の受け入れ

C.2.n
米国の防火基準と試験の受け入れ、認証手続きの簡素化

C.6.a
電気設備と配線での米国基準と試験結果の受け入れ

C.10.b
複数階集合住宅ユニット:米国の軽量規格鉄骨枠組み仕様の住居用利用での認可

E.1.a
米国ANSI/ASTOM基準を満たしている用品を電気事業者が利用できるよう通産省の技術基準(TS)を改訂する。

E.1.b
ANSI/ASTOM基準を満たしている米国用品が通産省令で定められている技術基準(TS)、日本工業規格(JIS)及び日本電気技術委員会(JEC)による基準をも満たさなければならないとの要件を廃止する。
===> 米国の植民地であれば、これらは適切な要求だろう。しかし独立国家が、なぜこれらに従わなければならないのであろうか?

C.11.a
就労ビザ:技能労働者の就労ビザ発給の迅速化(2~3週間以内)
===> 外国人への就労ビザの発行をあれほど渋る政府が、なんと厚顔無恥な要求をするのだろうか!

D.1.a
流通関係/輸入手続:全関連省庁による申請の並行処理を可能とするため、全関連行政機関を結ぶ、コンピュータ化、ペーパーレス化された輸入手続きシステム構築

H.2
法的サービス:近いうちに司法研修所の入所人員の数を倍にする。

L.2.b
運輸/海運:日本の港湾における日曜荷役の効率向上のための措置実施及び運送業者、荷主双方の営業に対する規制、遅延を排除するための週7日荷役制の導入
===> 米国の納税者は米国がこんな要求をすることに喜んで税金を払っているのだろうか。それとも米国政府は日本の納税者が米国の納税者の肩代わりをしてくれることを期待しているのだろうか?

D.4.a
小売流通:大規模小売店舗法の2000年度までの段階的廃止及び大規模小売店に対する新規規制を課す地方の権限を抑止する適切な措置

D.4.b
営業時間、休日日数に関する許可を含む、既存店舗の営業に関する大規模小売店舗法上の全ての規制の廃止
===> 日本の大店舗法は、巨大企業が小規模小売店を支配し、破壊するのを防止することで、失業を防ぎ、そこから派生する貧困、犯罪、福祉援助金などを抑える働きをしている。巨大企業に支配される米国では、それらの問題が溢れているではないか。大店舗法は健全な競争を保ち、ジャングルや戦争のような破壊的な競争を防ぐためのもので、ボクシングやレスリングの重量制や、他のスポーツの年齢別のような役目をしているのだ。米国政府が日本に要求していることは、人間的でスポーツのような競争形態から、ジャングルや戦争のような米国式の野蛮な競争への変更なのである。

F.1.d
保険及び金融サービス/保険:郵政省等のような政府主体による、民間保険会社と直接競合する保険サービスの提供禁止
===> 米国政府はここでも、ビジネスの目的は社会の人々を幸福にするための製品やサービスを提供することであるという日本独自の哲学を捨てるよう提案している。そしてビジネスの目的はビジネスの所有者やそれを行っている者たちを儲けさせることだという現在の米国のビジネス哲学を日本に受け入れさせようとしているのだ。米国の哲学を信じている者は政府機関が民間企業の利益を侵害することを好まないし、日本の哲学を信じている者は民間企業に、国民の幸福に欠かせない製品やサービスを国民の手から奪わせたくはないのである。

G.1.b
投資関係/土地及びオフィス・スペースへのアクセス:取得後5年以内の土地譲渡益に対する課税の軽減

G.4.c
合併・買収(M&A):日本企業、外国企業間も含め、M&Aに関連した企業の株価上昇に対するキャピタル・ゲイン課税の軽減
===> 土地や株式の投機家を優遇することで失われる税収の損失を日本がどうやって補填すればいいかについて、米国政府にはどんな提案があるのだろうか。

I.2.a
医療・医薬品/臨床実験:安全性と有効性の確認された臨床試験データに基づき外国政府により承認されている医療用具は、日本で補完的臨床試験を免除する。
===> 言い替えると、こういった基準の緩和を他国に要求するだけの権力を持つ政府のレベルにまで日本の医療用具のための基準を下げろと言うのだろうか?

IV. 行政改革

C.3
事業者団体:事業者団体における規制その他の手続で日本における事業活動に影響し得るものについては、外国の業界を含む非構成事業者の意見を反映させる。
===> 米国政府は、米国でも同じようにさせているのか。どのように外国業者の意見を反映させているというのだ。

V. 競争政策

A.1.a
公取委の職員数を日本の経済規模に見合うものに増やす(96年度に少なくとも18人増員することに併せ、98年度までに少なくとも200人増員が必要)。F.3 談合の疑いのある活動を通報できるような談合捜査オフィス及び談合防止ホットラインを警察庁に設ける。
===> 米国政府はこのための費用を誰が負担すると思っているのだろうか。日本の納税者か、それとも米国の納税者か。

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紙面の都合により、「米国政府の日本における規制緩和、行政改革及び競争政策に関する日本政府に対する要望書 平成7年11月」という言語道断な要望書のごく一部だけをここに紹介した。このコラムの米国人読者は、自分達の政府が税金を使って、自国のことではなく日本のことについてここまで細かく干渉していることを知っているのだろうか。また日本の読者は現在行われている日本の規制緩和キャンペーンが、単に米国政府からの帝国主義的な要求に弱腰でひれ伏している政府が招いた結果だということを理解しているのであろうか。