No.54 読者からのご意見と回答(2)

今回は読者の方々からいただいたコメントと、それに対する私の返事をご紹介します。お忙しい中、貴重なご意見をお寄せ頂きまして誠に有り難うございました。紙面の都合上すべてをご紹介できないことをお詫び申し上げると共に今後ともより多くの方々からご意見を賜りますようお願い申し上げます。

読者A:
米国で貧富の差が広がっている理由ですが、教育制度にも問題があるのではないかと思います。米国の学生1人当たりの教育費は、イギリスやフランス、ドイツの2倍であるにもかかわらず、その結果はお粗末なもので、私がもっとも最近見た学力の世界ランキングで米国は17位でした。現在はさらに下がっているのではないかと思います。主な理由は、私生児と中退者の相関関係と、また教師の組合による教育制度の支配にあるのではないかと考えます。教師の質の低下が容認され、また教師ではない職員の数がここ20年間で倍増しています。さらに、カリフォルニアやミシガンなどでは、大多数の有権者が教育バウチャー制(公的機関が私立学校に授業料の支払いを保証する証明書を発行して、経済的に公立・私立どちらの学校でも選択できるようにしようという計画)などの真の改革を望んでおり、国家として栄えるには我々の教育制度を抜本的に改革しなければならないと考えます。
耕助:
米国の教育制度がひどいものであり、改善が必要であるということに私も同感です。
読者A:
「大きな」政府が社会福祉を受ける者の数を増大させた結果、片親の家庭が増加し(犯罪の増加にもつながった)、労働に対するインセンティブが失われてしまいました。失業手当の方が賃金収入より割がいいため、労働者は低賃金の仕事につくよりも、失業手当やフードスタンプで暮らす方を選ぶようになったのです。
耕助:
問題は大企業が国家から略奪しているためだと思います。大企業は低賃金労働者を求めて、製造基盤を海外に移転します。自国の国民に高い人件費を払うかわりに、メキシコで自動車を製造し、完成車を米国で販売するのです。この方法で生まれた利益は、裕福な高給取りである経営者や資金運用者のものとなります。解雇された米国人が、低賃金の窓拭きやハンバーガー売りに好んで身を転じると思いますか。米国については最新のデータがありませんが、日本では求人63人に対して100人の求職者がいるといいますから、日本が米国よりも恵まれているとも言えないようです。
読者A:
政府の肥大化や司法制度の崩壊、自分達のことしか代表していない政府のことをこのOWで取り上げたらどうでしょう。
耕助:
大半の国民が金持ちや権力者のプロパガンダに欺かれ、米国の問題は、弱者にあまりにも多くの援助を与える政府にあるのだと思い込まされていますが、弱者や貧困者が金持ちや権力者を利用しているせいでこれらの問題が起きているのではないと私は考えます。
冷戦中と冷戦後の防衛費を比べてみて下さい。アカの脅威が消えてから、防衛費がどれだけ減ったでしょうか。なぜもっと減らないのでしょうか。防衛費は依然として税金の主要な出費項目となっています。

50万人の若者をベトナム戦争で死なせた政府が、あれから20年たった今、ベトナムは友好国になったと言いますが、その間、敵から味方に変わるためにベトナムが何をしたというのでしょうか。50万人の死は一体何のためだったのでしょう。私にはこういった問題の方が、未婚の母の生活保護による負担よりもよっぽど深刻に感じられます。

読者A:
あなたがここで取り上げている点にほとんど同意しますが、その中で私が最も共感を覚えたのは、米国に限らず、多くの国では、国民が権利と義務を正しく判断できなくなっているという点です。我々はこの点について完全に混乱しています。事実、我々が使う言葉から、個人としての「義務」という言葉はほとんど消えかかっています。それどころか、自分がただ生きているというだけで、すべての人に貸しがあるとでもいうような態度を取る傾向があり、これは非常に嘆かわしいことです。
これについて考える時、いつも思い出すのは父のことです。彼はギリシャの小さな村で生まれました。戦後、そこで4エーカーの森を与えられ、2頭の牛を使ってその森を開墾し、なんとか家族が生活できるまでにしたと聞いています。父はその時代の人が誰でもそうであるように、質素で、気取らず、何も要求せず、感謝の気持ちを忘れない人間です。毎年、父を米国に招いていますが、彼はいつも米国の技術的な進歩に驚き、あと30才若ければ自分もこの国で新しい生活を始めるのだが、と思うようです。しかし、社会問題の話になると、彼は決まって次のように私に言います。

「共産主義はロシアのものと思っていたが、今日、共産主義が存在するのは米国である。何百万人の人間が生活保護を受け、何もしないでお金を手にしている。政府は貧しいというだけで保護しているが、これでは彼らが生活保護から脱出することなど期待できないではないか。彼らが職につき、かつ社会福祉よりも高額の収入が得られるようになぜ徹底しないのか。政府が人々を保護するのは、ひそかに彼らをコントロールするための手口なのである。政府に依存させて、彼らを保護する政府を再選し現状を維持しない限り生きていけないようにしている。このような状況が事態をさらに悪化させているのだ」

父のこの言い分に理論的に反論しようと思えばできますが、基本的な原則については彼が言っていることがもっともで、私にはこれにどう答えたらいいのか分かりません。

耕助:
あなたのお父さんは素晴らしい人生を送っていらっしゃいますね。私の父とよく似ていますが、1つだけ違うのは、あなたのお父さんの国が戦争で荒廃していたのに対し、私の父は戦争で潤った国にいたことでしょうか。私があなたのお父さんに言えることは次のようなことです。
米国では、衣食住、交通、教育、医療、その他生活や幸福のために必要なものすべてについて、国民が自分でお金を払わなければならない。
裕福な家に生まれなかった人間がお金を得るためには、働くか、他人に乞うか、盗むか、福祉や施しを受けるかのいずれかである。
しかし、資本の持ち主や経営者は、必ずしも米国民を雇う必要はない。米国民の代わりに、メキシコ人やマレーシア人など米国民よりも低賃金で働く人間を誰でも雇うことができる。また米国では、最低賃金が設定されており、米国人が低賃金で仕事を請けようとしてもできなくなっている。それどころか、税制優遇措置や、GATT、NAFTA、 WTOなどによって、資本家が米国人を雇わないことをむしろ奨励するような体制ができあがっている。
さらに、仕事を求めているにもかかわらず資本家や経営者が雇おうとしない米国民に、連邦および州政府は職を提供する手段をほとんど何も講じていない。それどころか、企業の経営者や資本家と同様、職を減らそうとしている。
戦後、ギリシャ政府は国民が自活できるようにと4エーカーの土地と2頭の牛を提供したと言いますが、米国政府は国民にそういったものを何も提供していない。
従って、多くの国民には、物乞いか盗みか、生活保護か施ししか選択肢が残されていないのである。
読者A:
周囲を見渡してみると、我々の価値感が荒廃し、教育の質は日々悪くなり、教師は基本的な原則(単なる知識だけではなく)を子供達に教えるよりも、「政治的に妥当なこと」を維持するためにより多くの時間を注いでいます。他方、親は子供に正直さや倫理観の重要さを教えず、それを教えるのは政府や学者などの役目だと考えています。こういう状況を見ているとやりきれなくなります。
プラトンの『テアイテトス』にある次の2つの質問を覚えているでしょうか。

「いつも転化しており、決して一定でないものは何か?」
「いつも同じ状態で、決して転化しないものは何か?」

プラトンは『国家』の中で、これに対する間接的な回答を与えています。最初の質問に対する答えは、感覚、物質的な世界です。これは常に変化し、一定に留まることはありません。これに対して、2番目の質問に対する答えは、本質やアイディア、価値、真実の世界です。真実であることを知っていれば、それは常に真実です。例えば勇気のある行動は、常に喝采を得るものです。弟子のアリストテレスは多くの点でプラトンと意見を異にしていましたが、この感覚と知的な知識の差についてはプラトンと同意見でした。これとは逆に、アテネの「ソフィスト(詭弁家)」は弁護士になる若者に、どんな手を使っても訴訟に勝つように教えていました。William Jamesがそれから何千年もの後に言ったように、ソフィストたちは何が何でも物質的な成功を追い求めたのです。

耕助:
また読まなければならない本が増えました。
読者A:
我々が失ったのは、永遠の価値観や倫理に基づく世界です。その代わりに、はかない物質的、感覚的な世界に基づく価値観に準じて意思決定を行っては、その価値観を常に変えています。我々は、今日のソフィスト派の生徒となり、価値観の必要性をほとんど無視し、物質的な成功を望んでいるのです。
いつもこのようなことを考えているので、このような内容のことだったら何日間でも書いていられるのですが、仕事があるのでそうも言ってはいられません。私は問題が存在することを認識し、私がこれまでに述べたことを確信していますが、経営者として人世の物質的側面を助長しているという意味では、私もその問題の一部であると感じています。

耕助:
あなたも問題の罠にはまっているのかもしれませんが、少なくともそれを認識しています。問題の認識は、その罠から抜け出る上でもっとも重要な第一歩であると言えるでしょう。
読者A:
重要なのはこの問題をどうするかということです。我々にどうにかすることができるのでしょうか。私はそれが可能であり、取れる方法はたくさんあると思っています。最も重要な原則は、基本に戻るということです。価値観や古典、個人としての責任・完璧さを教え、また、ただ単なる金儲けの方法ではなく考え方を教えるのです。これには長い時間がかかり、我々が生きている間に結果は表れないかもしれませんが、今すぐ始めれば、我々の子供達の時代には問題が改善される可能性はあるかもしれません。
耕助:
以下は私の提案です。
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100,000,000 あなたは私のコラムに対してこのようにご意見を送ってくれました。
あなたのように私の意見に賛同してくれる人が10人いるとします。
その10人がそれぞれまた10人に意見を伝え、納得させたとします。
各人それぞれがまた10人に話すよう説得するのです。
各人がまた10人を納得させます。
各人がまた10人を納得させます。
各人がまた10人を納得させます。
各人がまた10人を納得させます。
社会の大半の人間に我々の意見を納得させることができます。

読者B:
『働き過ぎと浪費の悪循環』(No.38、39)はとても良い記事でした。著者、あるいは誰かが解決策を提示してくれたらと願います。生活保護を受けている人からトップまで、あらゆるレベルの人が自分の収入以上の消費を行っている現状を目にしています。この国家的な病に効く薬が私には思いつきません。米国民は自分が無料で手にできるものが減るのを恐れて、議会にさえ財政支出を抑制させることができないのですから、嫌気がさします。
耕助:
我々は原則のもとで生きています。社会の基本的な原則として、まず我々は衣食住がなければ生きていくことはできません。また、我々の幸せにつながる財貨やサービスの分配に大きな差があれば、大半の人々は幸せには感じません。我々は衣食住や教育、交通、医療などに対してお金を支払わなければなりません。さらにそのお金を得るには働くか、投資をするか、福祉を受けるか、あるいは盗みや物乞いしかありません。しかし、社会には、最低賃金や労働年齢を規定する決まりはあっても、国民に仕事を保証する規則はありません。それどころか、企業の経営者は、企業の利益を上げるために国内の雇用や賃金を削ろうとあらゆることを行っています。そして大学では、我々を人材として扱い、裕福な経営者のための利益の追求こそ企業の目的だと教えているのです。国民に物乞いや盗み、福祉に頼って欲しくないと考えるのであれば、働きたがっている国民に職を保証するような新しい規則が絶対に必要です。
読者C:
企業として一番安いものを買うために外国にその目が行くのは致し方ないことだと私は思います。『製造基盤を取り戻さない限り、米国は変わらない』(No.44)は米国が製造基盤を持っていないように述べているが、それは発展途上国が得意とする製造に関してだけであって、そのほかのものについては現在米国が圧倒的な強い製造基盤を持っていると私は思います。コンピュータ教育、ソフトウェア等は米国以外のいずれの国も空洞化する勢いではないでしょうか。日本もこれらの分野についてもっともっと米国から学ばなくてはならないと私は思います。
耕助:
米国は製造基盤を失い、米国では今や、製造業よりもファストフード・レストランで働く労働者の数の方が多くなりました。ディスカウント・ストアのWalmartの方が自動車業界よりも多くの米国人を雇用しています。米国企業は、米国外で販売する製品のほぼ90%、また米国内で販売する製品の約3分の1を国外で生産しています。米国の実質賃金は1959年以降20%下がり、課長レベル以下の社員の一週間の賃金は400ドルでしかありません。さらに、米国家庭では共働きでなければ家計が成り立たず、その結果、家庭で子供の世話をする人が誰もいなくなってしまいました。
すべての企業には社会で事業を行うためのライセンスが必要です。社会が企業にそのライセンスを与えるのが、企業の所有者の利益と経営者のボーナスを増やすためだけであれば、企業が最も安いものを求めて海外に行くのを致し方ないと感じるのも当然かもしれません。しかし、私が考える社会の目的は、最大多数の国民に最大の幸せをもたらすことです。したがって、社会から幸せを奪うのではなく、幸せを増やすよう企業の活動を徹底させる必要があると考えます。企業が消費者である国民に害を与えたり、欺いたり、また、自然環境を汚染したり、政治の腐敗を招くことによって国民を略奪しないよう、社会は企業を規制すべきです。そして、国民の幸せに不可欠な財貨やサービスの代金を国民が支払えるよう、企業が国民に職を提供することが必要です。さらに社会は、企業が人間を石油や石炭などの資源と同様に扱ったり、搾取したりすることのないよう、人間が社会の目的であることを企業に認識させるべきなのです。
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(読者のお名前はプライバシーを守るために匿名にいたしました。今後も公表するようにとのご指示がない限り匿名にさせて頂きますのでご了承下さい。)
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