今年4月、クリントン大統領訪日の直前に、Washington Times紙が、私の友人であるニューヨーク私立大学教授の霍見芳浩氏にインタビューを行いました。その訪日から1ヶ月が過ぎようとしていますが、この記事にある霍見教授のコメントは現在の日米関係を今も的確に捉えていると思います。是非お読み下さい。
クリントンの訪日に関する
霍見芳浩教授へのインタビュー
(1996年4月11日付け、Washington Times紙より)
Q:
クリントンにとってこの訪日はどのような重要性を持つのか、またこの訪問でクリントンは何を達成する必要があるのか。
A:
クリントンが日本や他のアジア諸国に対して、指導者としての信頼を真に築きたいと望んでいるのであれば、この訪日は彼にとって非常に重要である。しかし残念ながら、クリントンはこれを達成できないであろうと私は見ている。彼には彼自身の間違った目的がある。それは米国の有権者に対して、彼が米国人の職を増やすために日本市場をこじ開けているのだと見せかけることである。だが、この派手な計画は失敗するであろう。なぜなら日本は彼の愚かな要求には屈しないからである。
クリントンが昨年10月にAPEC大阪会議の出席を取りやめたのは、APECの議題でどのような立場をとればよいのか分からなかったのと、沖縄での3人の米海兵隊員による女児暴行事件に対して日本へ謝罪しているように見られたくなかったためだった。そのため、訪日中止に際し、共和党議会との予算折衝の最中にワシントンを離れることはできないという見え透いた言い訳をでっち上げたのだった。日本だけでなく、アジア太平洋諸国の首脳陣はクリントンの下手な言い訳をすぐに見抜き、彼の直前の訪日中止を自分たちに対する侮辱と受け取った。
Q:
沖縄での米兵の暴行事件と、中国の台湾沖軍事演習は、日米安全保障条約にどのような影響を与えたか。
A:
実際、この2つの事件は、日本にある米軍基地が日本を守るためではなく、太平洋地域における米国の政治的および軍事的勢力維持のためにあることを物語っている。日米安全保障条約は完全に時代遅れのものだ。日本は今後も米兵1人あたり約20万ドルの資金を負担し続けることもできるが、しかし駐日米軍を米国に引き上げるか、韓国へ移すよう米国に要求すべきである。サウジアラビアがそうであるように、日本も米軍に対して主にその兵たん基地のみを残させるべきである。さらに言えば、この安保条約があるがゆえに、長きにわたり日本人は国益や国家の方向性を見失ってしまっている。
Q:
昨年夏の貿易交渉は二国間の大きな対立を示したが、世界に対してどのような印象を与えたと考えるか。
A:
昨年の夏だけでなくこれまで全ての日米交渉は対立し、非生産的なものであった。クリントンは日本や他のアジア諸国との貿易赤字に対して、誤った考えにとりつかれている。彼の愚かな妄想が、デトロイトの自動車メーカーやモトローラ、コダック、フェデラル・エキスプレスなどに利用されているのである。経済戦略研究所などのロビイ団体は、コダック、デトロイト、モトローラ等、特別の利害関係を持つ団体からの援助を受けており、米国の貿易赤字が主に日本市場の閉鎖性によって生まれているという、日本を隠れ蓑にするための神話を永久に利用しようとしている。しかし、米国の連邦準備制度でさえ、これまで長い間、米国の貿易赤字は米国の慢性的な財政赤字と低い貯蓄率によって生まれた、米国に起因する問題であると言い続けているのだ。米国の貿易赤字が悪化したのは、米国労働者を首にし、重要な部品や製品をアジアからの輸入に頼るようになった、貪欲で私利を求める米国経営者の行動によってもたらされたものなのだ。
例えば、デトロイトのビッグスリーは日本の自動車や自動車部品の最大の輸入業者である。商品貿易における米国の対日貿易赤字(670億ドル)は、サービス貿易での日本の対米赤字を考慮すれば即座に半減する。さらに、日本の対米投資と、米国にある日本企業の商品・サービス輸出(日本向けを除く)も考慮しなければならない。すべてを考慮に入れれば、米国が毎年、100億ドル相当の対日貿易黒字を享受していることが誰にでも簡単に分かるはずだ。さらに、米国メーカーが雇用を海外に移しているのに対し、日本メーカーの投資は過去10年間に800万人分もの高賃金の職を創出している。日本や他のアジア太平洋諸国は、米国が日本及びアジアに対する貿易赤字にとりつかれているのは誤りだと考えている。彼らにとって米国は、国内問題を日本や他のアジア諸国に責任転嫁する「ならず者」なのだ。
Q:
日本の写真フィルムと印画紙市場への米国の参入が、二国間の1つの争点となっている。米国政府は政府レベルの交渉を要求しているが、こういったことは政府レベルで話し合われるべき問題なのだろうか。
A:
写真フィルム、印画紙、半導体、自動車と二国間の問題はきりがないが、こういった問題はそれこそクリントンが懸念すべき問題ではない。クリントンがコダックやモトローラ、ビックスリーなどの特別利益団体にアジア太平洋における米国の貿易政策を牛耳らせておく限り、米国はアジア太平洋諸国から指導者としての信頼を得ることはできない。例えば、クリントンは日本に半導体協定の期限延長を迫っている。しかし日本はこの協定が日米両国にとっても、他のアジア太平洋諸国にとっても何の役にも立たないと見ているため、今年で終結したいと考えている。米国政府はこの協定があったからこそ、日本の半導体市場を20%以上開放することができ、米国の雇用と輸出を創出できたと主張する。しかし実際はこの魅力的な20%という数字には、日本で製造された米国の半導体も数えられている。これには米国の雇用はまったく関係がない。またこの数字には、米国での雇用と輸出に貢献している在米日本メーカーの製造する半導体も数えられていない。さらに、この協定によって米国内の半導体価格が300%以上も釣り上げられ、コンピュータ関連で3万人以上の職が削減されたのである。
コダックの例も、1社の貪欲な行動が米国全体の貿易政策を歪めることになったことを示す。富士写真フィルムと日本政府が結託してコダックを日本から追い出したとする確実な証拠があるというのならば、コダックは米国通商代表部ではなく日本の公正取引委員会に正式な提訴を行えばよいのである。日本はまだ米国の植民地ではない。現実には、コダックは提訴には踏み切っていないが、日本の公正取引委員会は自主的にこれについて調査を開始しており、富士写真フィルムもその調査を歓迎している。1987年、富士写真フィルムは革新的な新製品の使い捨てカメラを発売したが、コダックはこれに対して全く無防備だった。それどころか、コダックはそれをまねた製品を生み出すまでに12カ月以上を要している。その間に、富士写真は米国以外の市場を拡大していった。コダックが富士写真の市場占有率を12%に押さえ、市場で独占的な立場を保っているのは米国だけである。1993年に、モトローラからコダックに移籍したジョージ・フィッシャーは、レーガン・ブッシュ政権時代にロビイ活動に成功し、モトローラの携帯電話を日本国内の規格とは合わなかったにもかかわらず、日本に押しつけた人物である。今度は、クリントン政権に対して、日本のフィルム市場をコダックのために政治的に開放させるよう要求している。コダックが公正な競争で負けて奪われた市場シェアを政治的圧力で奪い返そうというのである。
安全保障から地球規模の自然環境、さらには世界貿易・投資と、日米が解決に向かって互いに協力すべき重要な分野は多い。しかし、米国が特別利益団体に対して貿易や外交政策の主導権を委ね続ける限り、日米が協力して問題解決に取り組むことはあり得ないであろう。