No.105 米国植民地時代の遺物、沖縄

クリントン大統領
コーエン国防長官
米国会議員

 我々が本書簡を書くに至ったのは、米国の第三海兵師団をこのまま沖縄に駐留させ続ければ、米国の国益および安全保障が脅かされるだろうとの深い懸念からである。我々は軍事、政治、経済問題を徹底的に研究し、また日米両国における世論調査を検討した結果、以下のような2つの結論に達した。

1) 米国の安全保障の維持、日本の国防、この地域の安定のために、第三海兵師団は沖縄に駐留する必要はない。

2) 第三海兵師団を沖縄に継続して展開させることは、日米安全保障条約を支持する米国寄りの日本の連立政権の立場を弱くし、その結果、日米安保および日米関係全体を危険に晒すことになる。

 沖縄の海兵隊を巡る醜悪な事件が続出している。1995年9月の少女暴行事件、1996年12月に起きた454キロの爆弾投下事故、また今年2月に表面化した鳥島射撃場における1,520発の劣化ウラン弾誤射事件などは、重要な同盟関係に亀裂を入れかねない数々の問題の氷山の一角に過ぎない。自動車やヘリコプター事故、護送隊による交通渋滞、住民を悩ませ、学校の授業を邪魔する海兵隊航空機による絶え間ない騒音が、沖縄海兵隊に対する日本人の怒りをさらに煽っている。また、実弾射撃演習が郊外で火災を起こしたり、環境破壊を招き、さらに第三海兵師団の基地や演習場が小さな沖縄県のほとんどの土地を占領している状況にも不満は高まっている。

 以下に、最もよく上げられる沖縄第三海兵師団の駐留理由に対して、調査研究に基づいた我々の反論を提示する。

1) 沖縄第三海兵師団は有事「即応体制部隊」であるとよく言われてる。だが、軍備も手薄で、また大半が移動できないこの第三師団がその役目を果たすことは到底できない。

 米国海軍には、沖縄から韓国や中東などの前方展開地域に海兵隊を移動させる海上輸送能力がない。韓国や中東での有事の際、沖縄の海兵隊のほとんどは沖縄で立ち往生することになるであろう。現実的な妥協策は、約2,000人の第31海兵遠征隊だけを沖縄に残し、残りをハワイまたはグアムに移駐することである。

2) 東アジアに堅固で健全な同盟関係が築かれていることを考えれば、軍事的な仮想侵略者を抑止するために第三海兵師団を沖縄に駐留させる必要はないし、第三師団にはその役目を果たすことはできない。

 ロシアと中国が韓国と外交関係を結んだ結果、北朝鮮は事実上孤立化し、現在、経済的に崩壊寸前の状態にある。韓国のGNPは北朝鮮のほぼ20倍、人口は2倍である。
 中国の通常軍事力は増強されていると米国では広く考えられているが、事実は減少している。中国の戦闘機、潜水艦、戦艦、兵力はここのところすべて減少しており、軍隊の近代化も試みられてはいるが、台湾、韓国、日本に比べてその速度は遅い。例えば、1990年代初頭より中国はロシアからSU-27戦闘機を48機輸入したが、老朽化したミグ17、ミグ19、ミグ21など戦闘機4,500機は近々破棄しなければならない。またロシアから巨大な潜水艦を2隻購入したが、それだけでは中国海軍の60隻の老朽化した潜水艦をすべて代替させることはできない。さらに財政赤字の増大、また軍司令官に対する影響力も含めた中央権力の低下が、この近代化政策の障害になり続けると思われる。

3) 日本政府による第三海兵師団への財政支援に対して、日本の納税者、特に沖縄県民の怒りが高まっているため、第三海兵師団に対する日本政府の財政支援が難しくなる。

 世論調査によれば、日本国民の約3分の2が日米安全保障条約の維持を求めているものの、ほぼ同じ割合の日本国民が米軍駐留の縮小を望んでいる。1996年5月15日に発表された朝日新聞による世論調査によれば、日米同盟関係の維持には70%が賛成する一方、69%が米軍基地の縮小を望んでいる。

 ハワイの知事とグアムの議員はどちらも海兵隊を受け入れたいという意志を表明している。ハワイには第三海兵師団の一個連隊がすでに駐留しているが、第三師団の司令部は沖縄に置かれている。司令部と歩兵一個連隊、砲兵一個大隊を沖縄からハワイに移動させれば、第三海兵師団の全体的な指令・統制機構は向上する。沖縄知事は、ハワイまたはグアムへの再配備にかかる費用を援助する旨提案している。

 沖縄配備を継続させる理由がなければ、沖縄第三海兵師団を巡る問題が日米安全保障条約を危険に晒し、日本に真に必要不可欠な軍事施設、横須賀と佐世保の海軍基地の維持を脅かすことになりかねない。海兵隊の沖縄駐留継続に対する怒りから、日本政府が米軍基地の土地使用を許可する法律を延長することが困難になっている今、事態は緊急を要する。現行の法律のもとに結ばれた、3,000人の地主の土地の契約期限は5月14日に切れる。その土地の中には、アジアで最大かつ最も利用頻度の高い米軍基地、嘉手納空軍基地の軍事滑走路や、その他11の米軍基地や施設が含まれている。賃貸借契約の拒否運動を行っている地主達の行動によって日本に政治危機が生まれ、これが米軍基地の維持を脅かし、さらには日米安保や米国の国益に好意的ではない連立野党を政権につかせることにもなりかねない。与党、野党の現在の指導者達は米国が沖縄から海兵隊を撤退させる意向を表明すれば、日米安全保障条約の維持に必要な借地の延長に関する法律を支持し易くなると述べている。

 我々は沖縄第三海兵師団の移駐に対する支持を強く要求する。

チャルマーズ・ジョンソン
(以下の人々を代表して)

Dr. K. Amemiya, Del Mar, California (Japan Policy Research Institute)
Dr. Hans Baerwald, Blue Oaks Ranch, California (Professor Emeritus, Japanese Politics, UCLA)
Dr. Herbert P. Bix, Boston Massachusetts (Lecturer, Japanese History, Harvard University)
Dr. Bruce Cumings, Evanston, Illinois (Director, Center for International and Comparative Studies, Northwestern University)
Dr. Norma Field, Chicago, Illinois (Professor of East Asian Languages & Civilizations, University of Chicago)
Dr. Andrew Gordon, Cambridge, Massachusetts (Reischauer Institute of Japanese Studies, Harvard University)
Dr. Terry MacDougall, Kyoto, Japan (Stanford University)
Dr. Margaret McKeon, Durham, North Carolina (Professor of Political Science, Duke University)
Dr. Michael Mochizuki, Washington D.C. (Brookings Institution)
Dr. Michael Molasky, New London, Connecticut (Professor of Japanese, Connecticut College)
Mr. Richard W. Ormsby, Chicago, Illinois (President, Ormsby International, Veteran, 3rd Marine Division (Okinawa))
Dr. Steve Rabson, Providence, Rhode Island (Professor of Japanese, Brown University)
Dr. Richard J. Smethurst, Pittsburgh, Pennsylvania (Professor of History, University of Pittsburgh)
Mr. Patrick Smith, Norfolk, Connecticut (Author of Japan: A Reinterpretation (1997))
Dr. Koji Taira, Urbana-Champaign, Illinois (Professor of Economics, University of Illinois)
Dr. Meredith Woo-Cumings, Evanston, Illinois (Professor of Political Science, Northwestern University)

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米国植民地主義の遺物、沖縄
チャルマーズ・ジョンソン

 米軍理論家のラルフ・コッサがジャパンタイムズ(1997年2月16日)の編集長に宛てた手紙の中で、大田昌秀沖縄県知事には自分が置かれている地政学的環境を理解する能力が欠けている(あるいは、理解しようとしていない)と非難した。さらにコッサは、大田知事が日本の(また米国の)国家安全保障上の利益を守るために、米国の軍人が自分の命を犠牲にしていることに無神経であると指摘した。
 このコッサの主張はナンセンスである。米国第三の大物である下院議長のニュート・ギングリッチは自ら、1995年7月のスピーチで「今日、軍事予算は米国を守るためではなく、世界を導くために必要なのである。世界の指導者としての立場、つまりアメリカの覇権をあきらめれば、防衛予算はずっと小さくなる」と語っている。
 沖縄の米軍は米国を守るためではなく日本を守るために沖縄にいるとコッサは主張する。しかし、朝日新聞の軍事関係の編集委員、田岡俊次は、「1950年代後半以来、日本は核を除く空の防衛をすべて自国の力で賄ってきた。米軍が撤退しても日本の軍事費の増大にはつながらない」と述べている。
 沖縄における米軍の駐留を支持する人々の中には、沖縄の兵力と航空機は有事に備えた前方展開軍事力であると主張する人がいる。しかし、沖縄が再度戦いの舞台になる可能性は低い。沖縄にいる米軍は韓国や中東などの戦地に移動しなければならないが、佐世保に停泊する米国の水陸両用小舟艇は、沖縄にいる米軍を移動させられる程大きくはない。有事の際、沖縄の米軍はそこに立ち往生する可能性が最も高い。
 では、なぜ米軍が沖縄に駐留しているのか。第二次世界大戦の結果、東アジアに誕生したアメリカ帝国の代表者、つまり植民地主義者としてそこにいると私は考える。米国の最初の東アジアの植民地、フィリピンが1898年のマニラ湾の戦いの結果誕生したのと同じように、現在の米国の植民地、沖縄は、1945年の沖縄戦の結果誕生した。過去50年の間、沖縄は国際社会の中で、1910~1945年の日本の植民地、韓国と同じように考えられてきたのである。
 沖縄と韓国は特に次の四つの点で類似している。
 まず第一に、正式な法体系について、韓国は日本の法規に黙従したと日本人は常に主張してきた。同様に、米国と日本は、日本政府が領土の一部を米国に貸しているだけだと主張している。もちろんここでは、日露戦争中に日本軍が韓国を占領したことも、第二次世界大戦中に米軍が沖縄を占領したという事実も無視されている。
 第二に、韓国において日本は教育や強制的な改名、韓国語の禁止などにより、韓国人の国家的なアイデンティティを破壊しようと試みた。米国も1950年代、1960年代を通じて、沖縄に同じことを行った。沖縄の方言でニュースを放送したり、沖縄の人々を琉球人と呼ぶことにより、沖縄の日本に対する忠誠心を弱めようとしたのである。
 第三に、韓国の日本人と沖縄の米国人は、それぞれの占領が両地域の経済的発展に貢献したと主張する。しかし、韓国が世界でも有数の豊かな国になったのは、冷戦で途中時間が開いたものの、日本支配から解放された後である。沖縄も米軍が撤退すれば繁栄するであろう。
 第四に、日本人は日本の安全保障のために韓国を占領せざるを得なかったと主張する。韓国は日本の中心部を狙った剣のようであると言われていた。しかし、吉田茂がかつてよく言っていたように、日本が韓国を占領しなければ、アジア大陸に巻き込まれることはなく、1930年代、1940年代に中国と破滅的な戦争をすることもなかったであろう。米国は東アジアの安全保障と安定維持のために米国の駐留が是非とも必要だと主張するが、これも日本の韓国に関する主張と同様、信頼できるものではない。平和と安定はアジア経済の急成長によってもたらされるのであり、外国の軍隊によってもたらされるものではないからである。
 では、韓国と沖縄の違いはなにか。それは韓国が50年前に植民地支配から解放されたのに対し、沖縄は20世紀が終わろうとする今も半植民地的状態にあることである。

[1997年3月3日付けジャパンタイムスより、著者の許可を得て翻訳転載]

*Chalmers Johnson:米国アリゾナ州生まれ。88年までカリフォルニア大学バークレー校の政治学部長を務めた後、同大学サンディエゴ校の国際関係・大平洋研究大学院教授を経て、現在は日本政策所長。著書に『通産省と日本の奇跡–産業政策の発展』、『尾崎・ゾルゲ事件』など。