No.128 日本の憲法を覆す日米防衛協力のための指針

日本の憲法を覆す日米防衛協力のための指針

————————————————————

1. 新たな「日米防衛協力のための指針」は憲法違反である。理由を以下に示そう。

(1) この指針は、米軍が交戦、武力による威嚇および武力行使で国際紛争を解決するのを支援することを日本に要求している。
(2) 日本国憲法は、日本が国際紛争を解決するために交戦および武力による威嚇、武力行使を行うことを明確に禁じている。
(3) 日本の法律では、犯罪を手助けすることは共犯と見なされる。
(4) 国際紛争の解決手段として交戦、武力による威嚇、武力行使を行う米国を助けるという行為は、交戦、威嚇、武力行使により国際紛争を解決するに等しく、それを憲法で禁じられている日本にとっては、明らかに憲法違反である。

2. 新たな指針では、以下の点を検討している。

(1) 平素から行う協力
(2) 日本に対する武力攻撃に際しての対処行動等
(3) 日本周辺地域における事態で日本の平和と安全に重要な影響を与える場合(「周辺の事態」)の協力

 ところがこの新たな指針は、(1)「平素から行う協力」と(2)「日本に対する武力攻撃に際しての対処行動等」に関し、1978年の指針と全く同じであり、新しく追加された項目はない。今回の指針で加わった項目はすべて、(3)「日本周辺地域」という曖昧かつ未定義、無制限な地域における米軍に対する日本の協力に関するものなのである。つまり、新たに加わった内容はすべて、米国の交戦、威嚇、武力行使による国際紛争の解決に日本が加担することに関するものであり、これは日本の憲法に違反する行為である。
 1978年の指針には、日本国外における米軍の交戦、威嚇、武力行使を日本が支援することをコミットするような内容は全く含まれていない。1978年の指針において、日本国外に関する唯一の記述は次のとおりである。「日本以外の極東における事態で日本の安全に重要な影響を与える場合に日本が米軍に対して行う便宜供与のあり方は、日米安保条約、その関連取極、その他の日米間の関係取極及び日本の関係法令によって規律される。日米両政府は、日本が上記の法的枠組みの範囲内において米軍に対し行う便宜供与のあり方について、あらかじめ相互に研究を行う。このような研究には、米軍による自衛隊の基地の共同使用その他の便宜供与のあり方に関する研究が含まれる」
 新たな指針には「日本に対する武力攻撃に際しての共同対処行動等は、引き続き日米防衛協力の中核的要素である」という一文が盛り込まれている。しかし1978年の指針は日本に対する武力攻撃のみが対象であった。「引き続き中核的要素である」とわざわざ明記したのは、中核的要素であった日本の防衛が、この新しい指針においては全体の一要素になったことを表しているのである。

3. 新たな指針が日本国憲法に違反し、憲法を骨抜きにしようとしていることは、「日本周辺地域」という巧妙な表現に端的に表れている。「周辺地域」が定義されていないことから、全く制限がないに等しい。アジアに限らず、世界であろうが、宇宙の果てであろうが、米軍が国際紛争解決のために交戦、威嚇、武力行使を行う際に、両国政府はこの指針に基づいて日本に支援を要求できるのである。これは誇張ではない。全世界および宇宙を「米国周辺地域」とし、自国の軍事的野望を正当化するのは米国の常套手段である。朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、さらにはグレナダやパナマへの侵攻、北朝鮮やミャンマーに対する圧力、中国への内政干渉、宇宙開発における軍事的搾取など、これらすべての軍事行為を米国はその平和と安全保障を確保するためだと主張した。米国防総省は10月2日、赤外線レーザーを人工衛星に照射する実験を数日中に実施すると発表した。実験の目的は米国の衛星をレーザー攻撃から守る手段を開発するデータを得るためとしているが、識者は宇宙軍拡競争を誘発する恐れがあると懸念している。
 新たな指針は、「周辺事態の概念は地理的なものではなく、事態の性質に着目したもの」としているが、これが理解できるであろうか。このようにわかりにくい表現を使うのは、両国政府が、この指針を承認させた後、好きな時に好きなように新たな解釈を与えるために、意図的に行ったとしか思えない。両国の国民は政府にこれを明確にするよう今すぐ要求すべきである。
 指針は、「周辺事態は、日本の平和と安全に重要な影響を与えることから、自衛隊は、生命・財産の保護及び航行の安全確保を目的として、情報収集、警戒監視、機雷の除去等の活動を行う。米軍は、周辺事態により影響を受けた平和と安全の回復のための活動を行う」としている。日本の周辺とはどこなのか。米国の平和と安全に重要な影響を与える地域と見なせば、米国は世界や宇宙のいかなる場所でも周辺地域と見なすのではないであろうか。警戒監視、機雷の除去等にその対象国が抵抗すればどうなるのか。米国の交戦および武力行使や威嚇を支援するための警戒監視や機雷の除去は、泥棒を助けるために警報装置を切るのと同様、明らかに憲法違反である。
 指針には、「日米両国政府は、周辺事態の推移によっては日本に対する武力攻撃が差し迫ったものとなるような場合もあり得ることを念頭に置きつつ、日本の防衛のための準備と周辺事態への対応又はそのための準備との間の密接な相互関係に留意する」とある。これは危険である。これは侵略を防衛と正当化するために帝国主義の侵略者たちが使ってきた常套手段である。米国はこれまでにも、ベトナム、ラオス、韓国、イラクなどへの軍事介入や投爆を「米国周辺事態への対応」として正当化した。日本国民は、「日本に対する武力攻撃」に発展するかもしれない「日本周辺事態」での戦闘を、米国の要求に応じて支援し、領海や領土以外での米国の戦争行為に加担することにコミットしたいのであろうか。

4. 「日本周辺地域」という無限を示す言葉が使われたことから、米国の軍事的野望に対する日本の支援という点で、もう1つの問題が浮き彫りにされる。日本は、この機会にこの問題を是正すべきである。それは、ベトナムやイラクを武力攻撃したり、さらには朝鮮などを威嚇するために米国が日本の飛行場や施設、サービス、資金を利用することが日本国憲法に違反するということである。米国にそれを許すことは、自分の土地や施設サービス、資金を殺人犯や強盗に使わせることが違法であるのと同じように、憲法違反なのである。今後、米国に日本国憲法に抵触するような行為を取らせないために、領土および領海以外で、国際紛争解決のための交戦や武力行使、威嚇に、日本の土地、施設、サービス、資金を使わせないよう、指針は書き換えられるべきである。

5. この指針が、国際紛争解決のための米国の交戦、武力行使、威嚇を日本に支援するという、日本の憲法違反にあたる行為を要求している部分を具体的に検討しよう。

(1) 指針には、「日米両国政府は、日本に対する武力攻撃に際しての共同作戦計画についての検討及び周辺事態に際しての相互協力計画についての検討を含む共同作業を行う」とある。これは安保の枠を越え、武力攻撃だけでなく、未定義の(つまり無制限の)周辺事態にまで及んでいる。これは明らかに違憲である。武力攻撃の時の共同作戦計画と、周辺事態に際しての相互協力計画は別物である。国際紛争解決のための交戦、威嚇、武力行使のための計画や協力は、泥棒との共同計画や協力が法律違反であるのと同様に、憲法違反なのである。
(2) 指針は、「日米両国政府は、捜索・救難活動について協力する。日本は、日本領域及び戦闘行動が行われている地域とは一線を画される日本の周囲の海域において捜索・救難活動を実施する。米国は、米軍が活動している際には、活動区域内及びその付近での捜索・救難活動を実施する」と述べている。この「捜索・救難」はあたかも人道的活動のようであるが、ここで述べられているのは米国が国際紛争を解決するために日本国外で好戦的な威嚇や武力行使を行う場合についてである。泥棒や殺人犯が現場から逃げるのを「捜索・救難」することは日本の法律下では共犯となる。すなわち、米国が国際紛争の解決のために威嚇したり、武力行使するのを後押しすることは憲法違反なのである。
(3) 米軍の活動に対する日本の支援 以下の文章を読むときに忘れてならないことは、全く限定も定義もされていない「日本の周辺地域」における米軍の活動を日本が支援するという点である。米国は、防衛という名の下にこれまで幾度となく全世界を米国周辺ととらえ、軍事活動を行ってきた。したがって以下の項目は、地球全土や宇宙において、米国の武力行使の支援を日本側に無制限に協力を求めるためのものである。泥棒や殺人犯に施設や後方支援、運用上の協力を提供する人はその共犯となり得るのと同様、以下に書かれていることすべては、潜在的に、日本国憲法第9条に違反する。
(a) 「日本は、必要に応じ、新たな施設・区域の提供を適時かつ適切に行うとともに、米軍による自衛隊施設及び民間空港・港湾の一時的使用を確保する」とある。この項目の意味するところは、米国が必要であると要求すれば、日本はどのような場合でも適時かつ適切に、新たな施設・区域を提供しなければならないということである。そして、これは米国が必要と判断したどの地域においても国際紛争解決のために、米国の交戦、威嚇、武力行使を支援するという、憲法に違反する行為である。
(b) 「日本は、日米安全保障条約の目的の達成のため活動する米軍に対して、後方地域支援を行う。この後方地域支援は、米軍が施設の使用及び種々の活動を効果的に行うことを可能とすることを主眼とするものである。そのような性質から、後方地域支援は、主として日本の領域において行われるが、戦闘行動が行われている地域とは一線を画される日本の周囲の公海及びその上空において行われることもあると考えられる」と指針にある。これは、日本が爆弾を落としたり、拳銃を発砲しない限り憲法には違反しないと示唆することにより、日本の憲法の間違った解釈、極めて危険な解釈をほのめかしている。米軍の好戦的な威嚇および武力行使を支援することは、その当事者程罪は重くないと、そそのかしているようである。これは真実ではない。この指針が日本に米国の武力行使に加担するようにそそのかすようなやり方で、殺人犯や泥棒を助けるような人間は、どこの裁判所でも有罪になる。
(c) 「後方地域支援を行うに当たって、日本は、中央政府及び地方公共団体が有する権限及び能力並びに民間が有する能力を適切に活用する」とある。この項目で日本全土が米国の軍事機関の付属物となりうる。日本は、米軍を後方地域支援するために、中央政府および地方公共団体の権限及び能力、並びに民間が有する能力を、米国が適切と考えるように活用しなければならないのである。
(d) 「周辺事態は、日本の平和と安全に重要な影響を与えることから、自衛隊は、生命・財産の保護及び航行の安全確保を目的として、情報収集、警戒監視、機雷の除去等の活動を行う。米軍は、周辺事態により影響を受けた平和と安全の回復のための活動を行う」とある。日本の周辺とはどこなのか。米国の平和と安全に重要な影響を与える地域と見なせば、世界中いかなる場所でも米国は周辺地域と見なしてきた。米国の交戦および武力行使や威嚇を支援するために自衛隊が警戒監視や機雷の除去を行うには、憲法に違反するしかない。犯罪を助けるために情報収集や監視、障害物を除去すれば法律違反であることを忘れてはならない。

6. 指針の最後に「周辺事態における協力の対象となる機能及び分野並びに協力項目例」という副題のついた別表がくる。この別表に当てはまるのは日本の防衛ではなく、極めて曖昧な「周辺事態」において日本が米国の活動をどのように支援するかということである。ここで書かれていることは、潜在的に、日本国憲法に違反している。なぜならば、米国が交戦、威嚇、武力行使で国際紛争を解決しようとする時、日本が米国に提供するいかなる支援も、交戦や威嚇、武力行使に日本が参加することを意味するからである。

(1) 別表の最初にくるのは、「日米両国政府が各々主体的に行う活動における協力」である。これでは、日米両国政府のどちらかが一方的に行動に出た場合に、もう一方の政府は必ずそれを支援しなければならない、ということにならないであろうか。
(a) 「日本領域及び日本の周囲の海域における捜索・救難活動並びにこれに関する情報の交換」。米国が一方的に威嚇や武力行使、その他交戦活動で国際紛争を解決しようとした場合であっても、日本はその活動に協力することが義務づけられる。これは、犯罪者が犯罪を犯すのを手伝うのが法律違反であるのと同様に、明らかに憲法違反である。
(b) 「非戦闘員を退避させるための活動」。これには、「情報の交換並びに非戦闘員との連絡及び非戦闘員の集結・輸送、非戦闘員の輸送のための米航空機・船舶による自衛隊施設及び民間空港・港湾の使用、日本国内における一時的な宿泊、輸送及び衛生に係る非戦闘員への援助」が含まれる。この文面が日本周辺事態における米軍への支援だということを思い出さなければ、まるで人道的な活動のように聞こえる。米国が威嚇や武力により日本国外の国際紛争を解決しようとすれば、日本も戦闘員と非戦闘員の区別なくその活動に加担させられる。戦車を標的に誘導する無線オペレーター(非戦闘員)も、交戦時には、戦車から標的目掛けて発砲する戦闘員と同等に重要である。したがって非戦闘員を退避させることは交戦や威嚇、武力行使に参加するのと同じことであり、憲法違反なのである。
(c) 「国際の平和と安定の維持を目的とする経済制裁の実効性を確保するための活動」の項目には、「経済制裁の実効性を確保するために国際連合安全保障理事会決議に基づいて行われる船舶の検査及びこのような検査に関連する活動」が含まれる。「国連安全保障理事会の決議に基づいて行われる」とあるが、その決議とは米国が気に入った決議であり、気に入らなければ米国はすべての決議に対して拒否権を発動する。日本は国連財政を支える主要国であるが、安全保障理事国でもなければ、拒否権も持たず、その決議に対する発言権もない。加えて、進んで検査を受けようとする船舶を日本の自衛隊が日本国外で検査する必要はない。検査に応じない船舶を日本国外で捜索するためには、威嚇や武力行使といった憲法違反の行動を取らなければならない。
(2) 別表の2つ目の項目は、日本周辺事態に対する「米軍の活動に対する日本の支援」についてである。
(a) 「施設の使用」は、米国が考える周辺事態における国際紛争を、米国が武力行使で解決しようとするときに日本が自衛隊施設及び民間空港・港湾を提供するなどの協力を行うという内容である。しかし米国が交戦を行うために日本の施設を提供することは、明らかに憲法違反である。「後方地域支援」として、日本が(武器・弾薬を除く)物資及び燃料・油脂・潤滑油を提供するとある。武器・弾薬であろうとなかろうと、威嚇や武力行為のために提供すればそれは軍事活動への参加を意味する、憲法違反である。また、それら物資運搬の輸送を行うということも、犯罪を助けるために輸送を行えば共犯であるのと同じく、憲法違反なのである。後方支援にはさらに、「米軍施設区域の警備」、「米軍施設区域の周囲の海域の警戒監視」等々、交戦、威嚇、武力行為に協力するためのさまざな事柄が事細かに提示されている。しかしこれらはいずれも憲法違反なのである。

別表の最後、「運用面における日米協力」では、「機雷除去」として「日本領域及び日本の周囲の公海における機雷の除去並びに機雷に関する情報の交換」とある。泥棒を助けるために防犯装置を切ることと、米軍の交戦的な威嚇と武力行使を助けるために機雷を除去することは同じことなのである。

7. 「日米防衛協力のための指針」は今、どのような位置づけにあるのか。
 9月23日、この新しい指針の発表に際して次のような共同声明文が発表された。「小渕恵三外務大臣、久間章生防衛庁長官、マデレーン・オルブライト国務長官及びウィリアム・コーエン国防長官は、1997年9月23日、ニューヨークにおいて、日米安全保障協議委員会(SCC)を開催し、日米防衛協力のための指針(「指針」)の見直しを行った。そして、新たな指針の下での共同作業を直ちに開始するとともに、各々の政府がとる適切な政策及び措置を通じた新たな指針のフォローアップを行うことで意見が一致した」。さらに声明文には、「日米安全保障協議委員会が了承し、公表したこの指針は、1978年の指針に代わるものである」とある。
 この言葉から、この新たな指針はすでに採択され、施行されていることが既成事実であるかのような印象を受ける。しかし、本当にそうなのだろうか。我々は以下の質問に対する回答を今すぐ要求する権利があるし、要求しなければいけないと思う。

(1) 誰が、どのような権限のもとでこの指針を採択し、施行したのか。
(2) 小渕恵三外務大臣、久間章生防衛庁長官は、日本を拘束させる取決めを締結するだけの権限を持っているのか。持っていないとすれば、誰の権限に基づいて、合法的に日本をこの指針にコミットさせたのであろうか。
(3) 小渕恵三外務大臣、久間章生防衛庁長官は日本国憲法に違反する取決めに日本をコミットさせる権限を持っているのか。そうでないとすれば、誰の権限に基づいて、合法的に日本をこの指針にコミットさせたのであろうか。
(4) 日本の法律および日本国憲法のもとでは、この新たな指針はどのような位置づけにあるのだろうか。

日本の憲法と法律の民主的過程のもとで、この新しい指針は国民の審判を受け、国会で審議されるべきであると、私は考える。