No.151 新著『アメリカは日本を世界の孤児にする』

昨年末、『アメリカは日本を世界の孤児にする』と題する著書を出版いたしました。拙著のご紹介を兼ね、去る1月28日、東京の虎ノ門パストラルにおきまして、「新春の集い」と題して、出版記念講演を開催させていただきました。当日は、日米の新防衛協力指針(新ガイドライン)に関する意見ばかりではなく、現在、日本が抱えている問題、日本企業が目指すべき目標など提案させていただきました。なお、会場の都合でご招待できなかったお客様が多数いらっしゃいましたこと、この場をお借りして深くお詫び申し上げます。  今回は、「新春の集い」における私の発言内容をまとめたものをご紹介させていただきます。

新著『アメリカは日本を世界の孤児にする』

出版にあたって
まず最初に私が本を書くことになった理由をお話したいと思う。
我が社は創立25周年を迎え、年商約200億円、社員数700名の会社になった。これもひとえに懇意にしていただいているお客様あってのことと感謝している。我々に商売のチャンスを与えて下さったのも、我が社が間違ったことを行った時にそれを正して下さったのもすべてこうしたお客様である。商売のやり方が気に入らなければ黙って取引きを中止されて当然のところを、何が気に入らないかを私たちに教えて下さる、そうしたお客様がいたからこそこれまでやってこられたのだと私は確信している。
また、会社がここまで成長できたもう1つの理由は、この日本という国が素晴らしい国であったからである。これが日本以外の国であれば、私の母国、米国でもあるいはイギリスや中国などでも、ここまで成功することは決してなかった。自分のこととして考えてみていただきたい。個人としての幸福や、また自分の勤めている会社の業績は、自分個人の努力よりも、たまたま我々が素晴らしい国で生活し、仕事をしているからであるとは考えられないだろうか。
しかし、最近の日本を見ていると私は危機感を覚えずにはいられない。日本人はアメリカのマインドコントロールに負け、自信を喪失している。そして我々の先輩たちが築いてきた社会を駄目にし、日本をますますアメリカに似た国にしている。日本で暮らし、2人の娘を持つ親として、また日本の会社の経営者として、日本社会が悪くなるのは困る。我々の無知や愚かな行動が日本社会を悪くしていることを私は非常に懸念している。そこで、何か自分にできることはないかと考え、微力ではあっても日本を悪くする流れに対抗したいと思う気持ちをニュースレターに記すようになった。それが本として出版されたのである。

日米安保と新ガイドライン - その知られざる内容
昨年12月に出版した『アメリカは日本を世界の孤児にする』は、「新たな日米防衛協力のための指針(新ガイドライン)」へ反対を唱えるものである。この新ガイドラインの中味は日本を米国の世界戦略のために利用するという恐ろしいもので、その内容を理解すれば誰もがこれに反対するはずである。しかし現実には、ほとんどの日本人が中味を読んでいない。このために反対もできないのである。そこで、日本国民に少しでもガイドラインを理解することができるようにとの願いを込めて、この本を完成させた。
「日米防衛協力」と聞けば、誰しも日本の防衛のためにこの新ガイドラインがあると考えるであろう。もともと日本と米国の間には日米安全保障条約(安保)があり、この安保の運用のために1978年に日米防衛協力のための指針が作られた。そして、昨年9月、その見直しが終了し、新しいガイドラインが誕生したのである。ほとんどの日本人は、まず日米安保の内容を全く知らない。安保はわずか数ページの短い文書(参考までに、最後に掲載する)であり、その内容は、日本と米国は良い国であり、両国の良好な関係のためにというような宣伝文句がほとんどで、基本的に重要なのは第五条と第六条だけである。第五条の主旨は、日本の防衛は日本人の問題であり米国には関係ない、ただし米国が日本を防衛したいと考えればそれを行うというものである。日米安保は、米国が日本を防衛することに対して、全く拘束力を持たない。つまり、日本を防衛するかどうか、またどこまで防衛するかは米国の判断に委ねられている。また安保の第六条は、米国が日本の防衛を手伝うこともあり得るので、米軍基地のために土地や設備をよこせというのである。これが日米安保の内容である。
1978年のガイドラインには事細かに、米国の家来としての日本の役割が規定されている。そして97年の新ガイドラインはさらに馬鹿げた内容であり、米国は全くコミットしていないにもかかわらず、日本がどう米国の手伝いをするかが、詳細に記述されている。
拙著『アメリカは日本を世界の孤児にする』ではもう1つ大切なことを指摘している。国家にとって憲法は最も神聖なものである。しかし、このガイドラインに従うのなら日本は憲法第九条に違反することになる。そうなると日本の国際的な信用はがた落ちになる。例えばガイドラインでは、米国が戦争を行う際に日本が後方支援や機雷除去を行うことが規定されている。これは銀行強盗の友人を助けるために警報機を切るようなものである。橋本首相や日本政府はこうした行為が憲法違反ではないと主張しているが、違憲であることは間違いない。自国の憲法をないがしろにする国を信用してくれる国があるだろうか。日本の防衛という点からするとこれが一番危険である。他の国が日本を信用できないと考えるようになればなるほど、日本の立場は危なくなる。

太りすぎのアメリカ人とあまりにも食べようとしない日本人
米国に行く日本人は、米国人に肥満が多いことに気づくはずである。米国の最も深刻な健康問題は太りすぎであり、これが原因で心臓病などの病気が多発している。なぜ太りすぎかと言えば理由は簡単で、食べすぎで体を壊すからである。日本人は米国人ほど食べないから、肥満は少ない。しかし、日本がいま行おうとしていることは、米国人のように食べすぎて太りすぎになることである。それは、日本人があまりに食べないがために、つまり、お金をあまりに使わないがために景気が良くならないという見方に端を発している。日本人に余計なものを食べさせるために減税を行い内需を拡大すべきであると、日本政府は内外から言われている。しかし、日本は世界で最も消費が高いと私は見ている。例えば公衆電話の前で携帯電話を使っている人がいるような国が、日本以外にどこにあるであろう。余計なものまで消費している。日本の大都市では鉄道が発達しており車など必要ないはずなのに、一家に一台マイカーを所有するのは当たり前である。車を使えば時間が倍以上かかる場合でも車を運転したがり、猫の額ほどしかない庭を駐車場にする。
日本人が本当に必要としていても、なかなか手に入れることができないものがある。それは良質の住宅だ。日本人がマイホームを持てないのは、大蔵省と自民党が地価が下がらないように操作しているためである。日本では土地が人々の生活や商売に利用されているのではなく、銀行の担保に使われている。そしてその担保の価値が下がらないように、政府は地価の下落を食い止めるために必死になっている。地価を我々の手に届く範囲に落とせば、マイホームを持てる日本人の数は飛躍的に増えるはずである。

日本が目指すべき目標
経済がうまくいっているかどうかを考えるとき、それがどういう状態を指すのかを定義しなければならない。日本の目標は国民が幸福になることなのか、それとも経済大国になることなのか。偉大な経営者であった松下幸之助や土光敏夫は、日本人の幸福こそが企業の目標であると考えていた。日本を経済大国にするために商売を行うなどとは決して言わなかった。企業の役割は2つあり、国民の幸福に役に立つ物やサービスを提供することと、雇用を創出することであった。利益は企業の目標ではなく、企業の存続に必要な研究開発費や設備投資以外の利益はとってはいけないというのが彼らの主張であった。しかし、最近自民党や大蔵省、マスコミが主張していることは、決して日本人の幸福とは言えない。世界的な競争力が必要であり、G7、IMF、国連などが主導するグローバル・スタンダードに合わせる必要がある、というのである。松下幸之助や土光敏夫が生きていたら、我々にどのようなアドバイスをしてくれるであろうか。「自分たちが豊かにしてきた日本は、いまやその消費レベルも生活水準も世界のトップレベルになった。これ以上個人消費を増やせば、アメリカ人が太りすぎたように日本社会も駄目になる。2台目、3台目の携帯電話や自動車、10台目のパソコンを買うようになる。個人消費はもう限界であり、これからは社会消費が必要だ」と言うのではないであろうか。例えば、醜い電柱を地下に埋める、空気をきれいにする、高齢者の負担を減らす、といった公共投資や社会保障の充実に支出をすれば良いのである。しかし、政府やマスコミは景気を上げるには個人消費しかないようなことを言う。1,200兆円の貯蓄があるという国民が、わずかな減税で購買意欲を起こし消費が増えると政府は本当に思っているのであろうか。

日本人はなぜ黙っているのか
最近の日本では汚職が跡を絶たない。日本人はなぜこうしたおかしなことが起きても何も言わないのであろうか。日本人がおとなしい、静かな民族だからであろうか。私が日本に来る直前、日米安保改正の問題からアイゼンハワー大統領が来日を取りやめるという事件があった。体制に対してあれだけ強く反対を表明できた人々は一体どこにいってしまったのか。私が日本に来てからも、東大、京大、早稲田などは大学紛争で激しくもめていた。あの時にあれほど激しく反対を示していた国民が、なぜいま、何が起きても怒らないのであろうか。日本国民が怒りを示さないために、次々に悪いことが起こるのではないかと私は思う。

分子しか見ていない日本人
一昨年のアメリカのデータによると役職に就いていない一般社員の1996年の年収は192万円であった。その年の日本の一般社員の年収は460万円で、アメリカ人の約2.5倍である。日本人はなぜ自分の収入の4割しかない米国流のやり方にすべて切り替えたいと考えるのか。それはアメリカのマインドコントロールにより、すっかり操られているからに相違ない。日本人はアメリカを良い国、成功している国と思っている。アメリカが成功しているとしたら、どうしてドルが20年間に360円から120円に下がったのか。 少し無礼な言い方かもしれないが、日本人は物事を客観的に捉えられないのではないかと思わざるを得ない。日本の物価が高いとよく言われる。ここに2つの分数がある。1/Xと2/Yでは、とちらが大きいだろうか。普通なら分母のXとYがわからなければ、どちらが大きいかは判断できないはずである。しかし例えば、テニスボールがアメリカでは70円なのに日本では100円だから、ということだけで大勢の日本人は日本の物価が高いと言われて納得している。日本人の給料はアメリカの2.4倍から2.5倍高いのだから、分母の数字も入れて比べてみれば、日本の方が安くなる。分数の比較ができない人達が、何も考えないで言われたことをそのまま信じ込んでいるのである。
商売の中で一番大きな経費は人件費である。物価高のみ問題視して、物価を大幅に下げようとすれば、最終的には人件費を減らすしかない。しかし、物価が下がっても、給料まで下がれば我々の生活は一向に良くならないはずである。海外旅行で米国に行く日本人は米国の物価の安さに驚くかもしれない。しかし、そう感じるのは日本の人件費や給料に比べて、米国の人件費や給与が格段に安いことの表れなのである。

イギリスやアメリカは本当に成功しているのか
現在、私は The State We’re In”という本を読んでいる。これはイギリスの『ガーディアン』紙の新聞記者が仕事を一年間休んで、イギリスが失敗した理由を分析した本である。要約すると、アジアの国、特に日本は正しい行動をとってきたが、イギリスやアメリカは自らの愚かな行為のために国を駄目にしたと結論づけている。解決策は、規制緩和、国際化、ビッグバンなどをやめて、アジア諸国と同じように行動すべきであるというのが結論であった。いま日本では、アメリカやイギリスの経済の方が成功しているから規制緩和、国際化、ビッグバンを行わなければならないと言われている。しかし、統計を見ればそれが間違っていることがすぐわかる。現在、イギリスの労働人口の30%はパートタイマーである。アメリカでも労働人口の半分はパートタイマーである。世界の大企業トップ200社は平均で売上の4.85%を研究開発に割いているのに対し、イギリスの13社の研究開発費は売上の2.29%でしかない。また昨年も一昨年も、アメリカの特許権をとったトップ10社のうち7社は日本企業で、残り3社がアメリカでヨーロッパ勢はゼロであった。イギリスやアメリカでは1970年からGDPに占める賃金の割合が減少している。サッチャーやレーガンのやり方は賃金を減らし、資本家の儲けを増やすものである。日本は本当にイギリスやアメリカのような国になりたいのであろうか。皆さんに冷静に考えていただきたいと思う。

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< 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約 >

発効:昭和35年6月23日

日本国及びアメリカ合衆国は、
両国の間に伝統的に存在する平和及び友好の関係を強化し、並びに民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配を擁護することを希望し、
また、両国の間の、一層緊密な経済的協力を促進し、並びにそれぞれの国における経済的安定及び福祉の条件を助長することを希望し、
国際連合憲章の目的及び原則に対する信念並びにすべての国民及びすべての政府とともに平和のうちに生きようとする願望を再確認し、
両国が国際連合憲章に定める個別的又は集団的自衛の固有の権利を有していることを確認し、
両国が極東における国際の平和及び安全の維持に共通の関心を有することを考慮し、
相互協力及び安全保障条約を締結することを決意し、
よって、次のとおり協定する。

第一条
締約国は、国際連合憲章に定めるところに従い、それぞれが関係することのある国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びにそれぞれの国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎むことを約束する。
締約国は、他の平和愛好国と協同して、国際の平和及び安全を維持する国際連合の任務が一層効果的に遂行されるように国際連合を強化することに努力する。

第二条
締約国は、その自由な諸制度を強化することにより、これらの制度の基礎をなす原則の理解を促進することにより、並びに安定及び福祉の条件を助長することによって、平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する。締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の経済的協力を促進する。

第三条
締約国は、個別的に及び相互に協力して、継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる。

第四条
締約国は、この条約の実施に関して随時協議し、また、日本国の安全又は極東における国際の平和及び安全に対する脅威が生じたときはいつでも、いずれか一方の締約国の要請により協議する。

第五条
各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
前記の武力攻撃及びその結果として執ったすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従って直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執ったときは、終止しなければならない。

第六条
日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。
前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、1952年2月28日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基づく行政協定(改正を含む)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。

第七条
この条約は、国際連合憲章に基づく締約国の権利及び義務又は国際の平和及び安全を維持する国際連合の責任に対しては、どのような影響も及ぼすものではなく、また、及ぼすものと解釈してはならない。

第八条
この条約は、日本国及びアメリカ合衆国により各自の憲法上の手続に従って批准されなければならない。この条約は、両国が東京で批准書を交換した日に効力を生ずる。

第九条
1951年9月8日にサン・フランシスコ市で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約は、この条約の効力の発生の時に効力を失う。

第十条
この条約は、日本区域における国際の平和及び安全の維持のため十分な定めをする国際連合の措置が効力を生じたと日本国政府及びアメリカ合衆国政府が認める時まで効力を有する。
もっとも、この条約が10年間効力を存続した後は、いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了させる意思を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行われた後一年で終了する。

以上の証拠として、下名の全権委員は、この条約に署名した。

1960年1月19日にワシントンで、ひとしく正文である日本語及び英語により本書二通を作成した。

(署名略)”