No.160 読売の7つの提言に対する反論(3):担保不動産の証券化

先週に引き続き、読売新聞の「経済危機7つの提言」に対する反論をお送りします。今回は5つ目の提言である「担保不動産の証券化」に関する反論です。 読売新聞はこの提言で米国を引き合いに出して公的資金の投入を煽っていますが、その結果米国で起こった深刻な問題については全く触れていません。このことから、この記者が何らかの意図をもって、自分の主張を訴えるために都合の良い情報のみを提供していることがわかります。経営破綻の後始末を国民の税金で行い、海外資本との合併・提携を促進し、日本経済の舵取りを外資に委ねること、これが本当に日本のとるべき道なのでしょうか。

あすでは遅すぎる・経済危機7つの提言
担保不動産の証券化(連載5)
98.04.25 読売新聞
経済危機取材班 論説委員・太田宏

担保不動産の証券化に公的資金を

・ 金融破綻回避に万全尽くせ
・ 30兆円生かし貸し渋り解消
・ 大型合併で競争力強化を

読売:時代が大きく変わる時、指導者が大局を見失い、呪縛(じゅばく)を断ち切れないと、結末は決まって悲劇的だ。今の不況はその典型だろう。

ハドソン:この一文から、よくありがちな策略が読み取れる。筆者にはあらかじめ自分が宣伝したい政策がある。(この論説委員の場合は、金融機関の博打のつけである不良債権すべてを、政府に税金で補填させようというものである。)論説委員は手近にちょうど良い問題を発見した。問題が大きければ大きいほど良い。そしてそのための単純な解決策を提案するのである。
問題は誰の目にも明らかであった。米国からの金利引き下げの要求に日本が屈したことによって、日本経済は巨額の国家債務を抱えることになった。低金利政策を開始した後、金融機関は主に不動産部門向けに放漫な融資を行った。銀行の身内や詐欺師が多かった。不動産投資を優遇した政府の税制に促され、まっとうな投資家さえも不動産投資に励んだ。ここで読売新聞は、日本の貯蓄を産業への直接投資ではなく土地や株式への投機を促した、劣悪な税制を非難するのではなく、英米社会からの受け売りの呪文を繰り返し、それを「解決策」として提言しているのである。

読売:大不況の原因は何か。吉田和男・京大教授は「消費税率引き上げより、金融混乱による消費の冷え込みが大きい」と指摘する。

ハドソン:消費者は自分達がなぜ支出をやめたのかわかっている。求人が減少し、資金が海外へ流出するのを目にし、雇用不安を感じているのである。日本の消費者は、万が一の場合に備えて、貯えているのである。

耕助:加えて、個人消費の需要はほぼ満たされている。日本は主要経済大国の中で、すでに最低の失業率、最高の平均賃金、最大の消費を達成している。日本の貯蓄高が世界で最も多いのは、良質な住宅以外に大半の日本人が買いたいと思うものがないからである。(それにもかかわらず自民党と大蔵省は金融機関を助けるために、地価の下落を防ごうと必死になっている。)

読売:実際、消費税率アップ直後の昨春、大きく落ちた個人消費は夏には持ち直した。だが、北海道拓殖銀行や山一証券が破綻(はたん)し、金融がパニック状態になった秋から再び落ち込んでいる。国際投機資金が金融不安を材料に日本株を売り浴びせ、それが経営者・消費者心理を冷やして不況感を増幅させ、株価をさらに下げて金融不安を高める――という悪循環に陥った。巨大バブル崩壊の中で、政府は「銀行はつぶさない」という護送船団行政を放棄したが、これに代わる安全装置の設計を怠ったからだ。

ハドソン:政府が経済問題の解決策を用意できないのは、大抵の場合その問題の解決を望まない特別権益を擁護しているからである。一般にそうした特別権益を持つ人々は危機的状況から利益を得ている。ここで読売新聞が「国際投機資金」に目を向けたまでは良かったが、日本の株価を下げているのはこうした「投機家」ではない。彼らにできるのは株の空売りだけで、株価を下落させることまではできない。主要な原因はビッグバンや規制緩和であり、海外への資本流出に対する歯止めを取り払ってしまったことである。それによって、資本逃避市場への投資が可能になった結果、株価が下落しているのである。

耕助:個人消費が落ち込んだ原因が消費税増税ではなく(あるいは買いたいものがないからではなく)、金融不安にあると、なぜ読売新聞は断言できるのか。読売新聞の提言は、自分達が望む、金融業界のさらなる救済を正当化するために最も都合の良い理由付けに過ぎない。

読売:「預金は全額保護する」と宣言したものの、財政的な裏付けがなく、政府と金融システムに対する「信認の崩壊」が起きた。

ハドソン:信認が揺らいだのは、政府が経営危機にある銀行を接収し、経営を刷新するのではなくそのまま運営させているためである。これは「金融投機は良くて、政府は悪い」という自民党の哲学の一部であり、読売新聞もこの政治哲学を支持している。銀行の博打のつけが巨額になればなる程、その銀行を救済するために納税者が負担する税金が高くなることは明らかである。これこそ、日本の産業経済を崩壊させている原因である。

耕助:また、汚職も政府に対する日本国民の信頼を失墜させた原因である。

読売:政治が住宅金融専門会社処理の真相を隠し続けた結果、金融安定の決め手である公的資金投入が政治的タブーになり、橋本首相がその呪縛で身動きできなかったためだ。世論も、乱脈経営や倫理の追及ばかりにこだわり過ぎると結局は高くつく、ということに早く気づくべきだった。

ハドソン:これは一体どういう意味なのか。「乱脈経営や倫理」を日本国民が追求すべきではないというのだろうか。国民が汚職をなくしたいと願うことは愚かであり、代償を伴うと読売新聞は思わせたいのであろうか。とんでもないことである。不良債権をすべて洗い出し、それを銀行に残っている資産で返済させるよう、日本国民は要求すべきなのである。融資が焦げ付いた半分の原因は銀行にある。銀行と、地上げ屋などの融資先には自分で自分の責任を取らせ、「これが人生だ。文句を言ったら事態はもっと悪くなる」と言ってやれば良かったのである。日本のサラリーマンが不安を感じるのはもっともなのである。

読売:銀行株が狙い撃ちされ、金融破綻が相次いでも首相の反応は鈍かった。

ハドソン:これは全くばかげている。株が売却されたからといって破綻をきたす銀行も企業もない。最初に株を売って利益を手にしたのはずっと以前のことである。株が売却されて株主は打撃を被るかもしれないが、銀行には影響はないはずである。株価を高く維持しても経済全体の利益にはならない。経済にとって重要なのは、個人や企業、政府の現在の消費や投資である。銀行が打撃を受けるのは預金の引き出しである。そのために銀行は資産ポートフォリオを売却し始めなければならないからである。銀行は預金者からの預かり金をかなり投資に回したため、資産を売却せざるを得ない状況にある。したがって、預金の引き出し要求がある度に、預金債務額に対する資産額の割合は減少する。ビッグバンは、危うい状況にある日本の銀行から預金を引き出し、外貨預金に換えることを日本国民に奨励するものである。したがって、ビッグバンは日本の金融問題をさらに悪化させることになると言える。橋本首相の政策で批判すべきはこの点である。しかし、読売新聞はこれを問題の原因としてではなく、解決策として提言している。

読売:危機感を高めた宮沢元首相らが財政資金投入の具体策を提言してようやく、首相は「公的支援」を表明する。これが30兆円の公的資金投入の道を開き、金融は落ち着きを取り戻した。だが首相のあまりに遅い決断が、不況を決定的に深くした。

ハドソン:「公的資金」と言っているが、これは納税者のお金であり、将来税率を上げることで賄われる税収のことである。つまり、ビッグバンとそれがもたらすもののために、経済全体が大きな代償を支払わされるのである。

読売:指導者が市場のスピードとパワーに対応できなかったための悲劇だ。

ハドソン:しかし「市場のスピードやパワー」を作り出したのも橋本首相ではないか。「市場至上主義」を形成せよとの米国のアドバイスを受け入れて、自民党が行った失策のためである。この点を読売新聞は全く無視している。

読売:30兆円には、経済社会を安心させるための見せ金という性格があるにせよ、これまでに使われたのは2兆円だ。資金枠をフル動員するくらいの決意が求められる。

ハドソン:言い換えれば、銀行を救済し、ビッグバンにより日本の富を米国やヨーロッパに還流し続けるために、日本のサラリーマンやその雇い主は、永久に税金を払い続けなければならないということである。

読売:危機管理の体制は一応整ったが、金融の再生はこれからだ。そのカギを握るのは、担保不動産や貸出債権の証券化だろう。

ハドソン:「証券化」とはすべての不良債権と借用書を、約1億円の各ポートフォリオと抱き合わせ、それを値引きして販売することである。米国ではS&Lスキャンダルの後、この方法により多くの「にわか成り金」が誕生した。日本でも「証券化」を行えば、ポートフォリオで大儲けすることを狙った高利貸し達が日本に参入するであろう。

読売:不良債権問題は、償却や引当金という帳簿上の処理では解決しない。担保不動産が実際に売却され、銀行に戻った金が再び融資に回されて初めて金融が正常化する。

ハドソン:米国はそうではなかった。日本の場合もいずれ景気が回復すれば、資産価値は大幅に上がる。米国のS&Lでも、政府が不良資産を証券化して処分せずに所有し続けていたならば資産価値が上がり、米国の納税者が負担しなければならなかった損失は実際よりも95%少なくて済んだはずだと言われている。

読売:貸出債権、担保不動産の証券化はその有力手段であり、将来の金融の中核業務となる。

ハドソン:これがつまり不良債権を実際の価値よりも安く政府が売却し、一部の人が大儲けをするということである。例えば、地上げ屋やヤクザが、不良債権を10分の1の価格で買い戻すことができるということなのだ。

読売:凍りついた土地が動けば経済も動き出す。

ハドソン:必ず経済が動き出す保証はない。事実、銀行の損失が増えれば増えるほど、その銀行を救済するために政府は税収を増やさなければならなくなる。投機家は金持ちになるかもしれないが、日本の実体経済全体には全く好影響はない。

読売:流通市場を国民財産として整備し、土地本位経済の大転換をめざすべきだ。

ハドソン:日本政府は、土地を公的資産にすべきである。土地を賃貸し、賃貸料を集めれば良い。これで政府は所得税や消費税を、土地への税金に転換できる。

読売:米国では、住宅ローンの半分、不動産融資の15%が証券化され、売り出されているが、日本では実績が乏しい。

ハドソン:違いは、米国では、住宅融資開始手数料を取る銀行から、不動産の「優良」債権を公的機関が引き受け、それを値引きなしの正価で年金基金に売却している点である。米国における債権の証券化は、単に住宅ローン市場に流動性を提供しているだけである。しかし、日本の問題は優良債権の流動性ではなく、不良債権の負担である。読売新聞はこの違いがわかっていない。読売新聞や橋本首相は間違った米国人からアドバイスを受けているのであろう。彼らは、日本を犠牲にして暴利をむさぼることを目的に、日本を意図的に間違った方向へ導こうとしているのである。

読売:証券化商品を郵便貯金や簡易保険資金の投資対象とするなど公的な「呼び水」が必要だ。

ハドソン:そうなれば、預金者が犠牲になり、銀行は不良債権を郵便貯金の預金者に押しつけるであろう。一般庶民が犠牲になり、富裕者がすべての利益を享受するというのが読売の提言なのか。

読売:担保不動産が虫食いだったり、暴力団が絡んでいるなどの障害もある。住宅・都市整備公団による虫食い状態の土地の買収と再開発など公的関与が欠かせない。

ハドソン:ここでも同じ解決策が提言されている。公団が「虫食い状態の土地」を買収し、銀行にその代金を過分に支払うということは、国民の税金を使うということである。

読売:欧米のような民間債権回収会社(サービサー)の導入も急ぐべきだろう。米国の大銀行も八〇年代後半、不動産・中南米融資の焦げつきで倒産の危機に追い込まれた。日本の金融機関の支援で生き延びた銀行もある。

ハドソン:これは確かに正しい。しかし日米間で大きな違いがある。日本の金融機関は不良債権となった不動産に対し巨額の資金を支払い、第三世界の債務者を助けることで、米国の金融機関を救済することに一役買った。

読売:だがその後、果敢なリストラや合併で見事に再生し、バブルの後始末に追われる日本の銀行をしり目に、さらなる巨大合併に挑んでいる。

ハドソン:読売新聞は米国史を自分の都合の良いようにでっち上げている。「リストラや合併で見事に再生した」米国の銀行などない。銀行が再生を果たせたのは、消費者ローンによるところが大きい。政府は金利が下がっているにもかかわらず、銀行にクレジット・カードやその他の消費者ローンの金利を20%以上に維持することを許した。これによって銀行が手にする利益が増大した。そして銀行は寡占状態を作り、消費者の手数料を値上げしたのである。さらにこうした銀行は悪党達が規制の網をくぐって、スイスや他の地域に不正な資金移動を行うのを手伝い、こうした資本逃避からも利益を享受した。米国の銀行が巨大合併を始めたのは、こうした再生を果たした後になってからである。また民営化や規制緩和によりこうした略奪が「合法的」になったため、銀行を仲間に引き入れることは好ましいことになった。

読売:シティコープとトラベラーズの合併で、資産七千億ドル、百ヵ国に三千の拠点を持つ世界最大の総合金融機関が誕生する。バンカメリカもネーションズバンクと合併する。

ハドソン:読売新聞はシティコープとトラベラーズの合併が現在の米国の法律上、非合法であるということを読者に伝えていない。本来こうした合併を行うためには、法律の改正が必要であった。政治家を買収するために巨額の政治献金が支払われたにもかかわらず、ほとんどの上院議員、下院議員は悪名高いキーティング・ファイブ事件の影響か、今回は醜聞を恐れてこうした銀行の要求を聞き入れなかったようである。(キーティング・ファイブとは、「S&L不正の象徴」とも呼ばれるチャールズ・キーティングから選挙資金を得た見返りに、彼に有利な働きかけを行い、「けん責処分」を受けた上院議員5人を指す。多くの米国人はシティバンクをこのS&Lの悪党と同等と捉えている。)彼らの手口はまず不正を犯し、その後にそれを合法化することである。果たしてこれがうまくいくのであろうか。

読売:十年前まで傷だらけだった銀行とは思えない。日本の銀行も、国内、海外資本との大型合併、提携を含めて、素早く、大胆に変身しないと脱落は必至だ。

ハドソン:海外資本との合併や提携は、日本経済の外国人支配や国際金融資本に委ねることにつながる。日本の貯蓄をどのように使うかを、日本政府ではなく、こうした外資系金融機関とその後ろにいる外国政府が決定することになるのである。彼らが日本にとって最適な使い方をするであろうか。こうした乗っ取り屋達は手段を選ばず、最も手っ取り早く自分達が利益を得るために行動することは間違いない。

読売:銀行経営者は責任追及などを恐れて、大型再編に積極的でないようだ。護送船団時代の横並び的発想と言わざるを得ない。人材や資金を中核業務に集中投入した「顔のある銀行」への脱皮や、金融持ち株会社化、国境を超えた戦略的再編に早く踏み込まないとビッグバンは生き残れない。

ハドソン:つまり読売新聞は、日本の銀行経営者は資金力のある外資に身売りすべきだ、と言いたいのか。

読売:今は、金融が景気の足を引っ張っている。三月の銀行融資は一年前より1.6%も減った。国際決済銀行(BIS)の自己資本比率規制が効いているが、貸し渋りは銀行が自分の首を絞めるに等しい。公的資金による資本増強を融資増加に確実につなぐべきだ。

ハドソン:しかし、誰に融資をするのか。読売はこの点に言及していない。外国人が日本の金融制度を乗っ取れば、日本に対する融資についてどのような条件をつきつけてくるか、また誰に融資をすることになるかはわからない。自国の多国籍企業に融資するかもしれない。

読売:「民業の補完」としての政府系金融機関の存在意義が試されている。中小、中堅企業など規模別のきめ細かい公的支援が必要だ。

ハドソン:ここで初めて前向きな提案が提示された。確かに、日本にとっての解決策は、破綻した日本の金融制度に代わる新しいタイプの政府系金融機関を作るしかない。選択肢としては、日本の金融制度全体を外国人の手に委ねるという道も考えられるが、日本がそれを世界標準と考えているのであれば大間違いである。米国は自国の金融機関を外資に明け渡すなどということは決してしない。日本が好景気に沸いていた1980年代、日本の莫大な資金力をもってしても、米国の主要銀行を買収することは不可能であった。米国政府が許さなかったからである。しかし今、米国は、日本の金融機関を主に米国資本に買わせるよう日本に迫っている。
読売新聞は、たとえ日本経済を犠牲にしてでも、米国の要求をすべて受け入れるよう提案している。グローバル化された世界では、政府に代わって世界的な金融資本が主要事項を決定している。顔の見えない政府役人が、顔の見えない銀行家や資金運用者に取って代わろうとしている。彼らには国家の発展や繁栄を助けることなど眼中になく、短期間で高利益を上げることにしか興味がないのである。日本は本当に21世紀がこうしたカジノ経済になることを望んでいるのであろうか。