No.168 参院選について思うこと(2)

前回のメモでは、現在日本が直面する悲惨な問題の多くや、暗い将来といったものは政治家や官僚、マスコミの責任ではなく、日本の有権者の責任であると述べました。日本を立て直すためにも、責任を他者に転嫁するのではなく、まずは我が身を振り返り、この事態を招いた張本人は民主主義の義務を怠った国民自身であり、またこれまで事態の修復に積極的に取り組まなかったことに原因があるのだということを認めるべきです。  その意味からも、来たる7月12日の参院選は日本の進路を軌道修正する絶好の好機です。民主主義の義務を果たすためには、  (1)とにかく投票する、  (2)知識を持って投票する、  (3)戦略的に投票する、 の4つのレベルがあると述べました。(1)の投票そのものについてはすでに触れましたので、このメモでは第二段階にあたる「知識を持って投票する」について、私の考えを述べたいと思います。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。

参院選について思うこと(2)

 投票そのものの重要性について、ここでもう一度繰り返す。民主主義の第一段階の義務を果たすためには、とにかく投票することである。まずは7月12日の参院選、そして将来のすべての選挙に票を投じることで、国民は日本の社会を良くするために計り知れない力を持つ。有権者全員が投票するのであれば、現職の政治家は自分の支援団体だけでなく、すべての国民にとって良い政治を行わなければ再選されないことに気づくであろう。また悪い政治家を落選させることは、良い候補者を当選させることと同じくらい重要である。国民が満足するように国を治められない現職政治家を落選させることで、政治家に国民が満足する政策や行動をとらせることができる。また投票率を100%に近づけることで、選挙に対するカネの影響力も無効にすることができる。なぜならば100%の有権者の票をすべて買うことは不可能だからである。最後に、候補者について詳しく調べなくとも、投票するだけで効果は出る。なぜならば社会がうまくいっているかどうか、人間は本能的に察知するからである。社会がうまくいっていると思えば現職者を再選させればいいし、うまくいっていないと思えば責任者を落選させるのである。
 民主主義の義務をさらに遂行しようと思うならば、第二段階の「知識を持った投票」をすべきである。知識を持った投票とは、具体的には、社会全体と自分自身にとって重要な政策を見極め、各政党がその政策課題についてどのような立場をとっているかを調べることである。それをはっきりさせた上で、選挙では最善の政策を掲げる政党を勝たせるか、さもなければ最悪の政策を掲げる政党を敗北させるのである。私はここで、候補者よりも政党を強調したい。なぜならば、国や地方自治体の統治により大きな影響力を持つのは候補者個人ではなく、政党だからである。  

 以下に、私個人が7月12日の参院選で最も重要であると考える経済政策を挙げてみる。

1. 経済の目標:
 与党政治家や官僚は日本経済が成長していないため、景気は後退しているという。これは彼らが成長を経済目標と考えているためである。果たして本当にそうであろうか。私はそうは思わない。経済の目標とは、製品やサービスの提供と雇用の創出により、国民の幸福に貢献することであると私は信じている。

2.
個人消費の増大:
与党政治家や官僚は経済を立て直すには個人消費の増大が必要だという。しかし、もし本当にそう思うのであれば、なぜ消費税率を下げないのか。日本の個人消費は消費税が3%から5%に上がった1997年4月1日を境に急激に落ち込んでいる。私個人としては、消費低迷の大きな原因は買いたいものがないからだと考える。1200兆円もの個人金融資産が存在するのもそのためである。これ以上消費を増やすのは、満腹な人の口をこじ開け、食べ物を無理矢理詰め込むようなものであり、国民の幸福につながるとは思えない。

3.
地価政策:
 多くの日本人が最も買いたいと思っているものは、職場に近い良質の住宅である。しかし、与党や官僚は金融機関を助けるために地価の下落を必死になって抑えている。

4.
社会資本整備:
 高齢化社会に対応した老人医療や設備、地震対策のための耐震建築や補償・保険、さらには環境の浄化、公園・娯楽施設といった、個人では買うことができない社会資本の整備は豊かな国民生活の実現には欠かせない。それにもかかわらず、政府や官僚は公共設備投資を削減している。

5.
失業率の増加:
 日本の失業率が戦後最悪を記録した。消費税増税や公共設備投資の削減が経済を不活発にし、また規制緩和が資本集約型の大企業を自由に活動させて労働集約型の中小企業を倒産に追い込んだ。グローバル化が日本の大企業に生産拠点の海外移転を促し、逆に多国籍企業を国内に招き入れ、日本の中小企業を大競争の渦に巻き込んだ。さらには、金融機関が不良債権の処理のために、企業の設備投資や研究開発、雇用に必要な資本を枯渇させた。与党がこれまでとってきたすべての政策が、失業率増加の原因となったのである。

6.
ビッグバン:
 予期した通り、ビッグバンは資本の大流出を招いた。日本企業の競争力の維持や雇用に必要な資本を枯渇させ、その結果、資本コストを上昇させている。また資本流出が円の下落を招いたことで日本人の所得や財産は平成10年4月1日以降9%、1年前より16%、2年前より21%、3年前より40%も目減りした。これは日本企業の資産価値においても同様で、投機家の餌食にされ、従業員のレイオフを招きやすい状況が作り出された。

7.
税制改革:
 与党の政治家は自分のスポンサーである富裕者のために、所得税最高税率の引き下げや、法人税、相続税、土地取引税などの減税を計画している。その一方で、投票しようとしない一般国民には、課税最低限の引き下げ、消費税増税などを計画している。

8.
債務増大:
 国と地方の長期債務残高がGDPに占める割合は1970年の9.6%から1997年には92.2%へ激増した。これは湯水のように税金を浪費した結果であり、この借金は我々の子孫が返済することになるのである。