No.170 参院選について思うこと(4)

 来る7月12日の参院選に関する4つ目の私の意見をお送りします。前回までは、日本が現在直面している問題は政治家や官僚の責任というよりも、6割近くの日本人が民主主義の基本的な義務である投票を行っていないことにある、という私の考えを述べてきました。官僚や政治家に対するいかなる非難も、結局は国民自身に反ってくるのです。なぜなら、日本国憲法にあるように、行政各部、つまりは官僚を指揮監督する責任を持つのは、内閣、ひいては内閣総理大臣を指名する国会議員であり、その国会議員を選挙で選んでいるのは国民だからです。したがって、日本の問題を解決するためには、良い候補者を当選させ、悪い候補者を落選させるしかありません。「参院選について思うこと(1)」では、まずは投票することが必要不可欠であることを強調し、投票率を100%に近づけることができれば、日本の問題をかなり是正できるであろうと述べました。2つ目と3つ目では、社会全体そして個人にとって最も重要な政策課題を把握した上で投票すれば、さらに問題が改善されることを訴えるとともに、私が重要であると考える経済政策、および主権や安全保障政策に関する政策を提示しました。今回は、日本国民が7月12日の参院選で戦略的に投票すれば、それ以上のことを成し得るという、第3レベルの投票について言及したいと思います。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。

参院選について思うこと(4)

 日本をこのような窮境に至らしめた責任は、明らかに自由民主党にある。自民党は高度経済成長期を築いた先達たちが掲げた目標、すなわち日本国民の幸福のために経済を運営するという目標を捨て、代わりに企業利益の最大化という英米流の経済目標を取り入れた。個人消費の低迷は自民党の消費税増税が招いた結果であるにもかかわらず、個人消費の増大が必要であると声高に叫んでいるのも自民党である。自民党は腐敗した金融機関を助けるために地価の下落を抑えることによって、国民が良質の住宅を購入するのを妨げている。自民党の政策によって日本の失業率は戦後最悪となった。自民党が行った「ビッグバン」は、資本を日本から海外へ流出させ、日本企業が使える資金を枯渇させた。さらに資本の流出による円の下落が日本人の所得や資産価値を目減りさせ、日本企業を外国人投機家の買収の餌食にすると同時に、日本人従業員をレイオフの危機に晒し、外国人投機家に収益増や資本利得という甘い汁を吸わせる状況を作った。自民党政権のもとで、日本の公的債務(国と地方の長期債務残高)はわずか30年の間にGDP比わずか1%から100%以上に急増した。それにもかかわらず、自民党は国民の中でも権力のある富裕層の所得税、法人税、有価証券取引税、地価税の削減を検討し、その一方で国民全体が負担しなければならない消費税のさらなる引き上げを計画している。(そして我々の子孫に、より多くの負債が残されるのである。)自民党は、日米安全保障条約によって、日本が軍事的攻撃や侵略を受ければ、米国が日本を守ってくれるものと日本国民に信じ込ませることによって日本の防衛を骨抜きにし、日本の食糧およびエネルギー自給率を北朝鮮なみに引き下げ、食料やエネルギーの供給を外国に依存させてしまった。

 戦略的に投票するということはつまり、来る7月12日の参院選で、日本にこのような問題をもたらし、国民を混乱に導いた自民党を罰するために、自民党には投票しない、ということを意味する。7月12日の投票率が高くなり、幾人かの自民党議員が落選し、参議院における自民党の議席が減少すれば、自民党や他の政党は、当選するためには日本の国民に対して誠実に、正直に、要求にかなった政治を行わなければならないということを肝に命じるであろう。

 自民党にこれらの問題の責任を回避させてはならない。自民党の政治家に責任を橋本総理に転嫁させてはならない。橋本を総理大臣に選出したのは国民ではなく、橋本の仲間である自民党議員なのである。同様に、自民党議員に大蔵省や官僚を非難させてもならない。官僚の立法上、行政上の指揮統制責任は、自民党が過半数を占める国会にある。また、マスコミなど、我々国民が統制する権限も義務もない対象も非難すべきではない。民主主義国家における国民の権限と義務は、選挙で政治家を当選させるか、落選させることによって政治家を統制することである。来る7月12日の選挙で、自民党に投票することで直接的に、あるいは棄権することで間接的に自民党議員を当選させてしまえば、この混迷状態はさらに悪化しかねない。これを回避するには、自民党を落選させて罰するしかない。

 日本を統治する能力のある政党は自民党しかないと信じて票を投じる人もいるかもしれない。しかし、これは間違っていると私は思う。第一に、自民党が国民を追い込んだ現在の状況を見ると、自民党に政権をとれるだけの能力があるとは私には思えない。第二に、たとえ能力があったとしても詐欺師や売国奴よりは、多少能力は落ちても誠実で正直な指導者の方を私は好む。近年自民党がとった政策の多くは、私に言わせれば国家反逆罪にも等しい。第三に、それでも他の政党よりも自民党を好むというのであれば、唯一の選択肢は自民党の最近の政策や行動を分析した上で、それを肯定するというのであれば自民党に再び投票し、同様の政策をとることを奨励すればよいが、それを否定するのであれば罰として他の政党に投票し、国民が変化を求めていることを教えるのである。たとえ7月12日の参院選で自民党が大敗したとしても、自民党は依然として参議院で最大数の議席を維持し、衆議院でも支配政党であり続けるであろう。つまり、次回の参院選では、まだ未知数の信頼できない別の政党に政権が移るという可能性はかなり低いということである。したがって、この参院選は、そうしたリスクを冒すことなく、自民党に重要な教訓を与える絶好のチャンスと言えるであろう。

 ここまで読まれた読者は、私が自民党を嫌っていると思うかもしれない。しかし、そうではない。私は、自民党は日本で最高の与党であり、共産党が最高の野党だと思っている。自動車にアクセルとブレーキの両方が必要であるのと同じように、民主主義国家にとっては両政党の機能が十分に保たれることが必要不可欠である。さらに、自民党は日本の良き時代であった高度経済成長期を通して、日本の政権を担ってきた。現在との違いは、当時は今よりもずっと投票率が高かった点にある。政権を維持するためには、自民党は国民のための政治を行わざるを得ない状況にあった。自民党の堕落が始まったのは、日本人が民主主義の義務を果たさなくなってきた頃からである。民主主義国家の国民としての義務を果たすことが、日本の政治家と官僚にその義務を果たさせる唯一無二の方法なのである。