No.174 参院選について思うこと(8)

参院選について思うこと(8)

前回は、日米安全保障条約と呼ばれるものが欺瞞であることについて言及した。安全保障問題を取り上げたのは、怠慢や無関心から投票しない人、あるいは投票所に足を運ぶ人を含めても、日本の防衛について考えている日本国民はほとんどいないと思うからである。日本人が関心を持っているのは税金、失業、破綻した銀行、その他の経済問題であろう。しかし、あえて私が安全保障条約を取り上げたのは、日本政府がいかに恐ろしい欺きを行っているかを暴露するためであった。いかなる国家においても、その政府の最も神聖な義務は国民の生命を守ることである。しかし、過去38年間にわたって日本の政府は、日本が軍事攻撃に対して無防備であったにもかかわらず、日本は米国に守られていると国民に信じ込ませてきた。そのような政治家をどうして日本国民は信頼することができるだろうか。その政治家が、日本の経済問題に正直かつ正しく対処すると、どうして信用できよう。
私が暴露するのは、過去の欺瞞ばかりではない。裏切りは今も続いている。昨年9月、日本政府は「日米防衛協力のための新たな指針(新ガイドライン)」に合意した。この指針は、米国の世界的な軍事行動のために、日本の国土や施設、国民の財産や生命を、自由に使えるようにする一方で、外国が日本に武力攻撃や侵略を加えた場合は、日本は自力で防衛しなければならないというものである。新ガイドラインには次のように記されている。

「日本に対する武力攻撃がなされた場合、日本は日本に対する武力攻撃に即応して主体的に行動し、極力早期にこれを排除する。その際、米国は、日本に対して適切に協力する」

日本は自分で防衛しなければならない。米国が約束しているのは、米国が「適切」だと思う範囲内での協力であり、それ以上の何ものでもない。日米安全保障条約でもこの指針でも、米国が何をもって適切とするのか、積極的に日本を守るのか、単に日本を励ますだけか、中立の立場をとるのか、それとも積極的に攻撃側、侵略側を支援するのかは全くわからない。ところが裏切り者の日本の指導者たちは今も、この新ガイドラインの実行性を確保するために、ガイドライン関連法案を国会で可決させようとしている。
日本の指導者は日本を無防備にしたばかりでなく、日本の食糧自給率やエネルギー自給率を低くする政策によって、日本の自給能力をも奪ってしまった。これだけ食糧や燃料を輸入に頼っている日本は、経済封鎖に遭えば一たまりもない。日本の現況は北朝鮮と大差がない。ただ1つだけ違いがあるとすれば、自尊心の強い北朝鮮が米国に従わないために国民が餓えているのに対し、日本国民は米国に媚びへつらうため、肥えてはいるものの自衛力は極めて低い点にある。
「米国が日本の防衛を肩代わりしてくれるからこそ、その分日本は産業や福祉に投資できるのである。日本は米国に恩義がある」。このような説明を日本の国民は何度政治家から聞かされてきたであろうか。これもまた嘘である。日本の防衛費は世界第三位、国民一人当たりにすると世界第四位である。

防衛予算      国民一人当たり
米国    2,540億ドル       963ドル
ロシア    630億ドル       429ドル
日本     540億ドル       432ドル
フランス   410億ドル       707ドル
イギリス   350億ドル       600ドル
中国     290億ドル       24ドル

日本の防衛は、裸の王様と同じである。アンデルセン童話との違いは、童話の王様は衣服を身にまとっていると無邪気にも信じるお人好しであるのに対し、日本の指導者は日本が米国に守られていると国民を騙す悪人である点にある。日本はすでに巨額の防衛費を支出している。しかし、それは日本を守るためではなく、米国の軍事目的を支援するのに使われているため、日本の防衛は裸同然である。日本は農産物や石油をあまりにも米国に依存し過ぎている。もし米国が50年前日本に対して行ったような、また現在、北朝鮮やイラクに行っている経済封鎖を日本に課せば、日本はいかなる軍事力をもってしても自国を守ることは不可能である。
日本の指導者達は、米国に隷属することが日本の防衛だと考えているように思える。この政策は少なくとも2つの理由から、世間知らずと言える。第一に、米国はたとえ日本を守りたくともそれができない。これまで自国の指導者がずっと批判してきた日本を守るために、米国人兵士が血を流すことを米国民が許すはずがないからである。
第二は、諸外国に対して米国がとってきた政策を見れば、いくら日本が米国に貢いでも、やくざに防衛を依頼しているようなものであることは明らかである。例を挙げると、南米チリでは、米国が大金を費やして介入したにもかかわらず1970年、国民が民主的にサルバドル・アジェンデを大統領に選出した。アジェンデがチリの米国政府と米国大企業への従属をやめようと試みた時、米国はすべての力を使って、「チリを極度の窮乏と貧困に追い込む」秘密工作を始め、1973年に軍事クーデターを援助し、アジェンデを殺害し、政府を転覆させた。そして、何千人ものチリ国民を逮捕、拷問、殺害したのである。チリの民主主義を阻止したこの軍事クーデターには、米国から巨額の資金援助が行われた。
パナマの指導者オマール・トリホス将軍は、パナマ運河の独占運営権およびパナマにある米軍基地を1999年までにパナマに返還することを決めた条約を、カーター大統領と結んだ。1981年1月、パナマ運河返還に反対の立場をとり、パナマ運河条約を米国史上最大の失策の1つだとしたレーガンが大統領に就任した。同年7月、トリホス将軍は謎の飛行機事故で死亡し、その原因は未だにわかっていない。その後、CIAの後ろ盾があったマニュエル・ノリエガ将軍が後継者となった。しかし、ノリエガは米国の言いなりにはならず、米国はパナマ運河条約を遵守すべきだと主張した。米国はノリエガ追放を試みるが失敗し、ノリエガを悪者に仕立て上げ始めた。1989年12月、米軍がパナマに侵攻し、数千人のパナマ人を殺害し、ノリエガを誘拐した。米国はパナマに傀儡政権をたて、現在、大失策の「パナマ運河条約」について、この政権と再交渉しようとしている。
それから9ヵ月後、米国はクウェートに侵攻したサダム・フセインに対する攻撃を開始した。イラン・イラク戦争では、米国はサダム・フセイン率いるイラクに巨額の資金援助や武器援助を行った。いわばイラクは米国の味方であった。そのイラクによるクウェート侵攻は、米国がパナマを侵攻したよりもずっと正当な理由があり、また米国ほど残忍でもなかった。クウェートに対して、イラクの領土から140億ドル分の石油を採掘することを外交的に止めさせることができなかったイラクは、クウェートに対する武力行使について、まず米国に相談した。それに対して米国は、イラクにも、クウェートにも、どちらの味方もしないと答えた。そこで、イラクはクウェートを侵攻することにしたのである。イラクのクウェート侵攻による、クウェート人の犠牲者数は、米国がパナマで殺したパナマ人の1割にも満たなかった。この後の湾岸戦争の展開は皆さんご存知の通りである。日本はこの戦いのために、1兆3千億円を支払わされている。それから約10年後、米国は未だにサダム・フセインを悪人と扱い、経済制裁で、罪のないイラク人を苦しめているのである。
日本は本当に、米国の属国になるしか道はないと考えているのであろうか。それとも日本の指導者たちは、選挙で投票さえしない国民のために、米国に背いてまで、田中角栄、アジェンデ、トリホス、ノリエガ、サダム・フセインのようになるのはごめんだ、と考えているのであろうか。