今回も引き続き、選挙の重要な争点である自民党の税制改革について私見を述べたいと思います。前回のメモで所得税や法人税の減税について、自民党の政策がいかに不当なものかを分析しましたが、今日は減税による税収の不足分をどうやって補うつもりでいるのかを検討してみたいと思います。 安全保障や規制緩和などの問題は自分に関係がないと考えている読者も、自分が支払う所得税や消費税が今回の選挙の争点になると考えれば無関心ではいられないはずです。是非お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。
参院選について思うこと(13)
1. 自民党とその支援者が最高税率を引き下げ、その損失分の補充として収入の少ない人から税金を取ろうと課税最低限の引き下げを主張する時によく引き合いに出されるのが、「日本の低額所得者は、他の国に比べて税負担が低い」ということである。しかし、この時彼らは、日本の社会保障・社会福祉負担費が他の諸国に比べて低いという事実について、決して触れようとはしない。次の表を見て欲しい。他の諸国では弱者を保護するために高額所得者から高い税金を徴収して社会保障や社会福祉を充実させているのに対し、日本は低額所得者への課税を強化して、高額所得者のために減税することで金持ちの保障や福祉を充実させようとしているのである。
OECD諸国の社会保障・社会福祉がGDPに占める割合
——————————————————-
1.デンマーク 6.7
2.スウェーデン 6.0
3.フィンランド 3.4
4.オーストリア 3.3
5.ドイツ 2.7
6.ノルウェー 2.3
7.イギリス 1.9
8.スペイン 1.8
9.アイスランド 1.7
10.フランス 1.5
11.ニュージーランド1.1
12.オーストラリア 1.0
13.ベルギー 1.0
14.イタリア 0.7
15.オランダ 0.7
16.日本 0.7
17.ポルトガル 0.6
18.韓国 0.5
2. 自民党は高額所得者や大企業を優遇するために数々の減税を望んでいるが、歳出が同じ場合、一体どうやって税収の不足分を補うつもりなのであろうか。それには、国債を発行して日本の巨額の公的債務をさらに増やすか、消費税を増税するか、またその両方を行うかのいずれかしかない。ただし、国債はいつか償還しなければならないし、利払いが毎日発生することを考えれば、結局は消費税増税が必ず必要となる。消費税は所得の中で消費の占める割合が高い低額所得者にとって最も負担が大きくなる。自民党の消費税増税計画は、自民党支援者である高額所得者や大企業から、選挙で投票にも行かない無関心で怠惰な一般国民に税負担を転嫁するという、歴史上最もひどい課税政策であると言える。
大蔵省が96年2月に国会に提出した資料から、高額所得者の減税のために、どれだけ消費税を増税しなければならないかを算出した。以下の表は、サラリーマン家庭を収入別に分け、各階層の実収入平均を示したもので、最下位10%のサラリーマンの実収入平均346万円から、最上位10%の平均1,199万円まで10分割されている。ちなみに、自民党が減税しようとしている最上位0.1%の高額所得者が納める所得税・住民税は合計で1,011.2万円で、その納税額は上位10%のサラリーマンの平均所得1,199万円とほぼ同額である。
この表で、自分の年収に近い項目を見て欲しい。収入のすぐ右の欄が、自民党が消費税を導入する前に自分が支払っていたすべての税金の割合である。そして右へ進むに従って、消費税3%を加算した場合、5%、10%、18%を加算した場合の試算を示している。自分が払う税金の割合が、消費税の増税でどのように増えていくかがこの表からわかるであろう。また、縦の列を見れば、いかに税率の累進度が減り、税率が不公平なものになっていくかがわかるはずである。
収入に占める税金の割合
収入に占める税金の割合
——————————————–
収入階層別 平均 消費税 消費税 消費税 消費税 消費税
ランク 実収入 @0% @3% @5% @10% @18%
—— ———- —- —- —- —- —-
1 3,460,000円 4.9 6.7 7.9 10.9 15.7
2 4,460,000円 5.7 7.4 8.5 11.4 15.9
3 5,100,000円 6.6 8.2 9.3 11.9 16.2
4 5,580,000円 7.6 9.2 10.3 12.9 17.2
5 6,260,000円 8.1 9.7 10.8 13.4 17.7
6 6,880,000円 9.0 10.5 11.5 14.0 18.0
7 7,470,000円 9.5 11.2 12.2 14.8 19.1
8 8,160,000円 10.7 12.2 13.2 15.7 19.7
9 9,180,000円 12.3 13.8 14.8 17.3 21.3
10 11,990,000円 15.9 17.3 18.2 20.6 24.3
国会に提出されたこの大蔵省資料には、あらかじめ消費税3%、10%、18%の3段階の消費税が想定されており、0%と5%は私が後から加えたものである。ではなぜ96年2月の国会で消費税率3%に加えて、消費税10%と18%の想定がなされたのか。自民党がゆくゆくは10%に、最終的には18%にまで消費税を増税したいと目論んでいたからだと私は見ているが、日本国民はどのように考えているのであろうか。
3日後の7月12日は、いよいよ参院選である。これまでこのメモを読んで下さった読者の皆様には投票に行っていただき、できれば今まで選挙に行くことのなかった2人の仲間を誘って、投票所に足を運んで欲しいと思う。さもなければ、高額所得者のための減税が先行実施され、気がついたときには消費税は10%、18%へと引き上げられていた、ということにもなりかねないであろう。