No.180 参院選について思うこと(14) - 最終回 -

参院選について思うこと(14)

 来る日曜日の参院選では、有権者1人1人の行動が日本社会に多大なる影響を及ぼす。自分自身が自民党に投票したり、さらに知人にも自民党に投票するよう働きかければ、もちろん自民党の圧勝に一役買うことになる。しかし、自分が棄権したり、周りの人に投票するよう働きかけないことも、自民党支持と同じことである。どちらの行動も、現政権を助け、自民党が現在の政策をとり続けるよう奨励することに他ならない。なぜならば自民党は組織票に強く、投票率が低ければ低いほど得票率が高くなるため、棄権は自民党にとって一票と同じ価値を持つからである。したがって、棄権すれば自民党支持を意味し、自民党にこれまで同様、日本国民の公益ではなく、一握りの支援者に限定された利益のために国を治めることを奨励することになるのである。

 自民党に一票を投じても棄権しても、それは自民党がこれまで行ってきた政策をすべて信任するということに他ならない。それはすなわち、日米安全保障条約があたかも米国が日本を守るという確約であるかのように、日本国民に信じ込ませてきた自民党のやり方を支持することである。実際には、安保は単に日本に米軍基地を存続させることを許可する条約であって、日本が軍事攻撃を受けようが侵略されようが、米国が日本を必ず守るとはどこにも記載されていない。

 自民党に投票するか、棄権するということは、自民党が推進するガイドライン関連法案の立法化を支持することである。すなわち、米国の全世界における軍事的野望に加担するために、違憲であるにもかかわらず、日本の土地や施設、日本国民の生命を米軍のために供出することを約束する新ガイドラインを、自民党に施行させることである。この新ガイドラインには日米安保同様、日本が軍事攻撃や侵攻を受けても、米国が必ず日本を助けるとは全く記載されていない。

 さらに、自民党への一票、あるいは棄権は、大企業の法人税、金持ちの相続税、年収3千万円以上の富裕層に対する所得税などを減税するために、消費税を10%に増税してもかまわないと、自民党に言うことと同じである。

 そして、自民党に投票するか、棄権するということは、土地や株や為替の博打で勝った分についてはそのまま賭博師が手にし、失敗して不良債権を抱え込んだ金融機関の負債については、国民の税金で肩代わりするためにいずれ消費税が18%に上がっても全然かまわないと自民党に意思表示することに他ならないのである。

 近年、日本は無数の問題を抱え、目標を見失っている。1950年代から1970年代の高度経済成長期とは、経済的、社会的、精神的にかけ離れている。多くの人はマスコミを非難するが、それはお門違いだと私は思う。なぜなら国民は、マスコミをどうすることもできないからである。ある人は教育制度が悪いという。しかし、その発言者は、文部省を立法上、行政上、指揮監督するのは内閣総理大臣であり、ひいては総理を指名する国会であることを忘れている。したがって、教育問題の責任を追及するのであれば、文部省よりも、国会を支配する与党を非難すべきである。そして、最終責任は、その与党を投票あるいは棄権によって選んだ、国民自身にあることを思い知るべきである。また、これは文部省だけでなく、大蔵省他、行政各部について言えることであり、こうした行政機関を非難すれば、結局は、その指揮監督責任を持つ国会議員を選んだ自分にその非難が返ってくるのである。

 日本が奇跡的な経済発展を遂げた1950年代から1970年代には、国が繁栄していただけでなく、投票率も70%から80%と極めて高かった。日本が目標を失い、停滞し始めたのは、国民が選挙で投票をしなくなってからである。そして日本がここ半世紀で最悪の状況を経験したのと時を同じくして国政選挙の投票率も史上最低に落ち込んだ。私はこれは単なる偶然ではないと考える。事実、投票率は1958年5月22日の衆議院選挙の76.99%から、来る7月12日の参院選ではその半分になると見込まれており、この投票率の数字自体、日本の盛衰を映し出しているのではないかと思える。

 民主主義国家の中で、日本の投票率はほぼ最低に近い。以下の表は、民主主義国家における、1995年初頭に行われた総選挙の投票率である。

各国の投票率

国名     投票率

ベルギー    93%
トルコ     92%
イタリア    89%
ルクセンブルグ 87%
オーストリア  86%
アイスランド  86%
スウェーデン  86%
デンマーク   83%
ノルウェー   83%
オランダ    80%
ドイツ     78%
ギリシャ    77%
イギリス    76%
フィンランド  72%
スペイン    70%
アイルランド  69%
ポルトガル   68%
フランス    65%
日本      45%
アメリカ    38%

 日本よりも投票率の低い国は、世界で最も二極化した民主主義国家、米国のみである。ジョン・ケネス・ガルブレイスはその著書『満足の文化』(新潮社)の中で、米国の大部分の有権者が投票行動をとらなくなったことが、米国の貧富の差の拡大の最大要因であると明晰に述べている。米国の政治家が富裕層や権力者を優遇するのは、彼らから投票や政治献金を受けているからである。そして、彼らよりも貧しい弱者は投票すらしないのであるから、むしろ優遇されなくても当然であるといえる。日本もまったく同じ状況ではないであろうか。

 最近の日本の投票率を年齢別に見ると、60代は60%、50代は50%、そして20代は20%と年齢に比例している。これはつまり50代、60代の人々がその子供たちに選挙へ行かなければならないことを教えていないからに他ならない。教師が生徒に、経営者が社員に投票しなければならないと伝えていないからである。つまり50代以上の私の世代が、次の世代に投票の大切さを教えていないのである。

 どうか日曜日は参院選に是非とも行っていただきたい。そして友人、知人、会社の同僚などにも選挙に行くように誘って欲しい。いつも選挙に行く40%の有権者がいつも選挙に行かない人を2人ずつ誘えば、投票率は100%に達する。そうすれば日本はすぐにでも好転するだろう。
 この参院選シリーズを最後までお読みいただいたことを深く感謝したい。