No.186 自民党は敗北から何も学んでいない(4)

先週金曜日に行われた自民党の総裁選では、派閥力学という自民党の論理で小渕恵三氏が選出された。ここにも参院選での敗北から何も学んでいない自民党の姿が伺える。この小渕氏も梶山、小泉両氏と同様に減税を公約に掲げ、その提案は最高所得税・住民税課税率を現在の65%から50%に引き下げ、年収700万円から1,000万円の富裕者の税率を引き下げるというものであった。現在の経済停滞を引き起こした主な原因は1997年4月に消費税が3%から5%に引き上げられたことであると誰もが考えているにもかかわらず、総裁選に立候補した3氏のうちで消費税の引き下げを口にした者はもちろん1人もいない。さらに、日本国民の約80%は年間所得700万円以下であるという現実があるにもかかわらず、この大多数に対する減税を提案した者もいないのである。この80%の国民こそが所得を最も多く消費にまわしている層であり、減税されれば消費を増やし、経済を刺激する可能性も最も高い所得層である。つまり、自民党総裁となった小渕氏が国会そして国民に提案していることは日本経済を治療する可能性が最も低い政策であり、消費支出を上向かせる可能性が最も高い層の減税を全く無視したものだといえる。

先週の総裁選が如実に表したこと、それは「自民党所属国会議員の声を聞き総合力を発揮して難局に立ち向かう」と語った小渕氏が、国民の経済的苦悩を誠実に救済しようとはせず、経済の混乱に乗じて、これまでと同様、自分たちや一部の支援者を貪欲に助けるような政策をとるであろうということである。

読者もすでに新聞などで繰り返し報道されている、自民党が掲げている減税計画についてご存知のことと思う。しかし、実態は次の通りである。

1.  所得税と住民税を併せて65%という税率が適用されるのは年収が3,000万円を超えた人だけであり、これにあてはまる納税者は全体のわずか0.1%である。わずかこれだけの国民に減税をすることが、日本経済の大幅な改善につながるとあなたは本当に思うだろうか。

2.  では、一体どのような国民が年収3,000万円を超しているのか。まず国会議員たちである。読売新聞によれば、昨年の議員の平均年収は3,120万円であった。日本の経済を正し、倒産件数や失業率、経済問題による自殺者を減らす代わりに、自民党の政治家たちは、経済不安を利用して、自分たちの払う税金を減らそうとしているのである。年収3,000万円を超すその他の納税者には、法人税減税や自分の所得税を減税してもらうために自民党に巨額の献金や接待を行う大企業の経営者がいる。さらに、バブル時代に博打で作った不良債権を国民の税金で補填してもらえるように自民党に献金を行っている大手金融機関の経営者も含まれる。

あなたはわずか0.1%の年収3,000万円以上の納税者への減税が、日本経済を救う治療薬になると思うだろうか。それともこれは、我々の経済的不安に乗じて、自民党の政治家とその支援者たちに減税をするための搾取だと思うであろうか。

3. 年収が3,000万円を超す人の納税額の計算式は以下の通りである。

求める税額=課税される所得金額 × 税率 - 控除額
所得税  =課税される所得金額 ×  50% - 6,030,000円
住民税  =課税される所得金額 ×  15% -  355,000円

実際には多額の控除があるため、年収9億円にならないと課税率が65%に達することはない。自分で計算してみればすぐわかるはずである。さらに、上の控除額は標準の額である。高額所得者は高い費用を払って税理士を雇い、あらゆる節税策をとることもできる。年収9億円以上の人の減税をすることが、日本経済を苦境から救うとあなたは思うだろうか。

4. 1998年4月17日の国会に大蔵省が提出した資料を見てみよう。この資料によれば、夫婦と子供2人の年収3,000万円のサラリーマンが実際に支払う所得税・個人住民税は1,011万2,000円、年収の34%である。同じ資料によると、年収3,000万円の場合、米国では33%、イギリス36%、ドイツ36%の税負担となっている。日本のトップ0.1%の給与所得者が払っている税金が、他の先進諸国と比較して高いというのは全くの嘘なのである。自民党がやろうとしていることは、納税者のわずか0.1%にしか影響を与えない最高課税率を引き下げる、すなわち現在払っている34%という課税率をさらに引き下げ、他の先進国の同じトップ1%が支払っている税負担率よりもさらに低くしようとしているのである。あなたはこの政策に嫌気がささないだろうか。残りの99.9%の国民よりも多くの所得を得ている人であれば、自分がそれほどの所得を得られるのも道路や鉄道、港湾、空港、学校、病院、警察などの、社会設備やサービスのおかげであると、むしろその費用を喜んで負担すべきではないだろうか。

5. 小渕氏が提案する年収700万円以上の人に対する減税についても、日本の給与所得者のうちの上位わずか17%の国民にしか恩恵をもたらさない。なぜ自民党は金持ちに対してのみ減税をしたいのであろうか。なぜ83%の国民を差し置いて17%の国民のみを優遇するのだろうか。以下の資料を見て欲しい。これも98年4月17日の国会に大蔵省が提出したものである。夫婦と子供2人の給与収入700万円の人が払っている所得税・個人住民税の率はわずかに7%で、この税率は米国、ドイツの半分、イギリスの3分の1なのである。また年収1,000万円以上になると所得税・個人住民税は12%で、これも米国、ドイツ、イギリスと比べて低くなっている。なぜ小渕氏はすでに諸外国と比較して低い税率をさらに下げようというのか。日本の給与所得者のわずか17%に過ぎない年収700万円以上の国民(その大半が自民党支持者である)を買収して、自民党の国会議員やその取り巻きたちの税金を減税する自分の計画を支持させるためであろうか。

給与収入階級別の所得税・個人住民税負担額の国際比較(単位:万円)

収入    日本     米国    イギリス    ドイツ
700    45.7      94.6     154.2     106.5
(7%)     (14%)     (22%)     (15%)
1,000   118.0      196.9     274.2     215.5
(12%)      (20%)     (27%)     (22%)
3,000  1,011.2      997.9    1,074.2     1,264.7
(34%)      (33%)     (36%)     (42%)

高額所得者のための減税という自民党の計画は、まさに税金詐欺である。この貪欲な不正行為を今すぐに阻止し、自民党を正気に戻さなければいけない。次の選挙で自民党が再び大敗するのを待つのではなく、草の根的な行動をすぐにでもとっていただきたい。そのためには、もしあなたが私の意見と同じであれば、衆参両院のあなたの選挙区の国会議員、そして自民党本部に手紙を書くか、このメモに署名してそれを彼らに郵送してもらいたい。国会議員、自民党本部の住所は下記のインターネットのWebサイトでも調べられる。