円相場の下落:犯人は不良債権ではなくビッグバンだ
マイケル・ハドソン
過去数ヵ月間の日本の経済問題に関する政府の論争や新聞の社説には欠けているものがある。それは、ビッグバンが予測通り、日本の投資資金の円から米ドルへの流出を招いたという事実である。日本政府は下落する円を買い支えるため、数日間で250億ドル、3.4兆円(1ドル135円換算)の税金を使った。その後、円の価値は再び下がり始め、日米協調介入か、といった大掛かりな広報キャンペーンに後押しされて、米財務省が比較的少額の介入を行い、現在の為替相場に落ち着いている。3.4兆円という日本の預金者の貯蓄が、海外の株式や債券に投資されるために米国をはじめとする海外の金融マネジャーの手に渡ってしまったことになる。これは明らかにビッグバンがもたらした現象の一部であり、以前このメモで予測した通りのことが起こっているのである。
しかし、日本ではこの円の流出の原因として10年前に作られた不良債権ばかりに矛先が向けられ、ビッグバンが問題にされないのはなぜであろうか。これに答えるためには、いかにして米国外交官が広報機関を利用して日本の世論に影響を与えているのか、そして人工的に危機を作り出してパニックになった日本の大衆が米国の外交官が推薦する方法に飛びつくよう仕向けているか、ということを知る必要がある。
普通の状況であれば、円相場の下落は一番大きなニュースであったはずだ。また、メリルリンチやその他外資系の金融機関が、日本人の預貯金をかき集め、それを米国に送金して米国の債券や株式市場をさらに押し上げる(それによって日本の円がさらに下がる)ことが果たして賢明なことだったのかと、国民も考え直したかもしれない。しかし、円相場の下落はビッグバンがもたらしたものであるにもかかわらず、ルービン財務長官やサマーズ財務副長官による懸命な広報活動によって、人々の注意はうまくビッグバンから不良債権にそらされた。日本のマスコミは米国の罠にはまり、円相場の下落は、日本の金融システムにおける不良債権問題が原因であるとされた。しかし、不良債権の問題はそれ以前からずっと続いていたのではなかったか。
ビッグバンの影響が出始めた6月末のG7会議以降、米国の官僚たちは不良債権問題があたかも今始まったかのごとく、それを議論の中心にもってきた。彼らの要求は日本の指導者を完全に降伏させることになった。米国の官僚たちの要求は、日本の不良債権を米国やその他の国の、「弱者を食い物にする」投資家たちにほぼ投売り価格で即座に売却処理させることであった。また同時に米国官僚は、日本に対して憲法改正、政治制度や行政改革、金融制度全体の再設計など、最も米国の国益になると自分たちが信じていることを次々に要求している。
参院選前の3週間に激しい両国政府の話し合いが行なわれたが、これを理解するには日米経済関係を3回戦マッチと考えるとよい。第一ラウンドはすでにビッグバンの発動で終わった。戦いの頂点は、日本人の預貯金を外国人投資家が狙うことが許可されたことである。メリルリンチ、ソロモン・スミス・バーニーその他の大手外国金融機関が、日本人の預貯金を米ドル建ての株式や債券に換えることが可能になった。第二ラウンドは今すでに始まっているもので、米国官僚は日本の銀行制度を米国やその他の外国企業の統制下に置き、不相応な価格のついた日本の不動産資産を外国資産にしようとしている。これは、日本の金融機関に不動産を外国投資家に安く売り渡させ、その一方で銀行の抱える不良債権は日本国民の税金で尻拭いさせようという目論見なのである。
この計画は2つのうちいずれかのやり方でうまくいくかもしれない。1つは、銀行が不良債権を市場開放により、最低価格で投売りすることである。これで銀行のバランスシートには傷がつくが、資産の市場価格が下がっていることを考えるとより現実的であろう。もう1つのやり方は、政府または「ブリッジバンク」が合意価格、おそらくは銀行がつぶれない程度の価格で銀行から不動産を買い取るのである。政府のブリッジバンクは損失を出してもそれを買い値以下の価格で売却し、差額は国民が支払う消費税やその他の税金で補填し、不動産部門や金融部門に負担がかからないようにする。銀行の貸し渋りを考えれば、金融機関が抱える不良債権の多くは外国機関投資家に売却されるであろう。これらの投機家は資産を安く買いたたくことにおいてはプロであり、一度外国人が日本の不動産をたくさん手中に収めれば、不動産価値を上げるために再び地価が暴騰するような状況を作るよう日本政府に圧力をかけるであろう。言い換えると、日本は不動産を安値で外国人に手渡した後で、今度は再び新しい不動産バブルを起こすように圧力をかけられるのである。
そして第三ラウンドは今年の後半に始まる。外国人投資家が日本の銀行を支配下に置けば、次にその銀行は日本の産業を支配下に置くようになる。同時に日本の消費者に消費者ローン・キャンペーンや簡単に入手可能なクレジットカードなどの様々な企画を展開し始めるであろう。この第三ラウンドの目的は日本の預貯金、銀行や他の金融機関、そして最後には産業資産や不動産などを、すべて米国に引き渡させることなのである。日本は経済的に米国の植民地となるがその過程はきわめて民主的な方法で行われており、米国では日本の有権者はおとなしく自民党を再選するだろうと考えられていた。
日本の新聞の読者が、国際金融評論家を訓練された実務家であり弱者を食い者にするようなことはしないと考えている限り、日本経済を低迷させた一連の大失策に疑問を投げかけることはまずないであろう。結局のところ、自民党政治家たちが行おうとしていることは、米国が考えた政策に従っていればすべてがうまくいくと国民に思い込ませることである。そして、米国が提供する政策を実施に移す仲介役は大蔵省である。この政策で救われるのは日本ではなく、米国の金融業界であり、日本の預金者はこの新しいシナリオで米国経済に貢ぐために、さらに絞り取られるようになるであろう。これこそ、「市場開放」と「ビッグバン」の本当の意味なのである。
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このハドソン氏の論文からも明らかなように、ビッグバンを発動したのは自民党である。自民党が日本の経済や社会をこれ以上破滅させる前に、私たちはこのように腐敗しきった自民党を今すぐ正気に戻さなければいけない。次の選挙で自民党が再び大敗するのを待つのではなく、草の根的な行動をすぐにでもとっていただきたい。そのためには、もしあなたが私の意見と同じであれば、衆参両院のあなたの選挙区の国会議員、そして自民党本部に手紙を書くか、このメモに署名してそれを彼らに郵送してもらいたい。