No.189 自民党は敗北から何も学んでいない(6)

自民党は敗北から何も学んでいない(6)

自民党新総裁の小渕氏は、自民党、そして日本をどこへ導こうとしているのかを間もなく言葉と行動で示すことになるであろう。「ミスター・オーディナリー・マン」(普通の人)のあだ名通りならば、従来の自民党の政策を踏襲し続け、この経済的苦境に乗じて、自民党やその議員、さらに支援者達の特別利益を優先させようとするであろう。具体的には、年収3,000万円以上の日本国民、つまりトップ0.1%(その中には自民党議員ももちろん含まれる)の超富裕者のための所得税減税、自民党のスポンサーである大企業の法人税減税、またバブル時の博打のつけを抱える金融機関の借金返済のための公的資金の投入などの政策をとるであろう。
しかし、小渕氏はそのあだ名を打ち消すことも可能である。日本経済を治療するために、次の4つの措置をとれば良い。まず第一に、橋本首相が消費税引き上げによって低迷させた消費需要を回復させるために消費税を3%に戻す。第二に、金融逼迫によって過去最高の倒産や失業、自殺をもたらす原因となったビッグバンをとりやめる。ビッグバンをこのまま推進すれば、IMFがタイやインドネシア、韓国などに対して押し付けた改革を日本も行うよう求められ、アジアのIMF隷属国と同様の悲惨な状況に陥るであろう。第三に、政治献金やプロパガンダ支援、天下り先などの提供元である金融機関のバランス・シートを守るために自民党が行っている「地価維持政策」をやめる。この政策のために多くの日本国民は良質な住宅を手にすることができないのである。第四に、日本の教育、健康、社会保障、福祉、住宅、その他の公的サービスの水準を他のG7やOECD諸国並みに引き上げる。これにより、日本国民はより快適な生活を送ることが可能になり、同時に日本経済も活況を取り戻すであろう。
前回紹介したOECDのデータが下の表の1列目にあるのでもう一度ご覧いただきたい。この表から、自民党政権が提供してきた日本の社会資本やサービスは、他の先進国に比べて、かなり劣っていることがわかるであろう。日本政府の社会資本および公的サービス向け支出のGDP比は、他のG7およびOECD諸国のわずか半分である。日本の社会消費について、他の項目をそれぞれ検討してみよう。

1. 防衛
日本の軍事費のGDP比は1%未満であるのに対し、他のG7諸国の平均は2.4%、OECD諸国の平均は2.2%である。米国が保護してくれるから軍事費は少なくて済むという人がいるかもしれないが、日米安保条約は全くのまやかしでしかないことを思い出して欲しい。この条約は日本の防衛に米国をコミットさせるものでは決してない。米国が守ってくれるから安全だと信じているのであれば、パナマのマヌエル・ノリエガ将軍が、1989年の米国によるパナマ侵攻で3,000人のパナマ人の命を奪われ、自分が誘拐されるまで、日本と同じように考えていたということを忘れてはならないはずである。またサダム・フセインも湾岸戦争が勃発するまで、米国を敵に回すことになるとは思いもよらなかった。日米安保は米軍による日本占領の継続を認める条約にすぎない。日本は世界最強の軍事力に守られていると信じているかもしれないが、実際には、日本の安全保障は裸の王様の状態に等しいのである。

2. 治安
OECDは、日本が治安に費やす支出データを持っていない。この表の空白部はOECDがデータを持っていないことを示している。

3. 教育
日本政府の教育支出のGDP比は、他のG7およびOECD諸国に比べて30%も低い。小渕氏や自民党議員が日本国民の生活を向上させるよう日本経済を立て直したいと考えるのであれば、教育面で改善すべき余地は多い。例えば、日本人が自分の国や文化、民族を恥じるのではなく愛せるようになるような教育プログラムを開始する。規制緩和や民営化、グローバル化、その他祖先が築いた制度を「改革」などという流行や甘い表現に躍らされて、きちんと理解もせずに盲従するようなことがないよう、日本やアジアの古典を教え、しっかりとした文化的・歴史的基盤を国民に植え付けるのである。さらに、民主主義社会の一員としての、義務と権利を教えると同時に、高齢化社会に対応するために、高齢であっても生産的かつ競争力を保てるようなプログラムを提供すべきである。

4. 健康
日本政府が健康に費やしている支出のGDP比はわずか0.5%であり、他のG7およびOECD諸国に比べて90%も低い。それどころか、日本社会が高齢化し、健康管理に対する需要がますます高まる中で自民党政府は健康管理のための支出を増やすどころか削減している。自民党が本当に日本国民の生活向上を図るような経済の改善を目指したいのであれば、自分達を含む富裕者や権力者に対する保護を増やすような政策は捨て、国民の健康管理を充実すべきである。病気や事故で働けない、配偶者や子供のいる労働者に対して、国からの援助がいかに乏しいかを考えてみて欲しい。もっと改善されるべきではないだろうか。

5. 社会保障と福祉
日本政府はGDPのわずか0.7%しか社会保障および福祉に回していない。これは他のG7諸国の平均よりも60%少なく、またOECD諸国の平均からは70%も低い。しかし、自民党やそのプロパガンダ機関が提唱していることは、社会保障および福祉の増加ではなく、削減なのである。自民党政権は終身雇用やその他の自助努力手段を無責任に弱めたり奪ったりする政策を推進しながら、補償のための公的保護を増やすことはなかった。自民党は高齢化社会を政府の負担を増加させるものと捉え、日本国民の幸福を政府が支援するための好機になるとは考えない。阪神大震災が多くの日本国民に悲惨な状況をもたらした時でも、健康保険にあたるような国の地震保険を自民党が提供することはなかった。

6. 住居および地域環境
住居および地域環境は日本が他のG7およびOECDを抜いた唯一の項目である。

政府の最終消費支出のGDP比(%)

国         政府の最終消費支出のGDP比(%)
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合計         内訳
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社会保障 住居
国名            防衛  治安  教育  健康 と福祉 地域環境
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日本        9.9  0.9      3.2  0.5  0.7  0.7
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カナダ
フランス        19.8  3.1  0.9  5.2  3.4  1.5  1.4
ドイツ         20.0  1.6  1.6  3.7  6.3  2.9  0.3
イタリア        16.3  1.7  1.7  4.2  3.4  0.7  0.5
イギリス        21.3  3.2  2.0  4.5  5.7  1.9  0.6
米国          15.8
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他のG7諸国平均   18.6  2.4  1.6  4.4  4.7  1.8  0.7
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日本対他のG7諸国  0.5  0.4      0.7  0.1  0.4  1.0
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オーストラリア     17.2  1.9  1.3  3.6  3.1  1.0  0.4
オーストリア      19.0  0.9  0.9  4.3  5.2  3.3  0.0
ベルギー        16.5  2.5  1.6  6.1  0.5  1.0  0.2
チェコ共和国
デンマーク       25.2  1.8  1.0  5.6  5.0  6.7  0.2
フィンランド      21.8  1.6  1.2  5.9  4.7  3.4  0.5
ギリシャ        19.8  4.9      3.1  2.3  0.3
ハンガリー
アイスランド      20.8  0.0  1.3  4.0  6.6  1.7  0.8
アイルランド
韓国          10.3  3.0  1.3  2.6  0.2  0.5  0.2
ルクセンブルク
メキシコ
オランダ        15.3  2.7      4.6      0.7
ニュージーランド    14.6  1.1  1.5  3.8  2.9  1.1  0.0
ノルウェー       21.5  3.2  0.9  5.5  4.9  2.3  -0.1
ポーランド
ポルトガル       18.1  1.9  2.0  5.4  3.4  0.6  0.5
スペイン        16.1  1.4  1.2  3.1  3.9  1.8  1.0
スウェーデン      27.2  2.6  1.5  5.3  4.8  6.0  0.5
スイス
トルコ
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他のOECD諸国平均  18.8  2.2  1.4  4.5  3.9  2.1  0.4
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日本対他のOECD諸国 0.5  0.4      0.7  0.1  0.3  1.6
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読者は、これからも国民全体への社会投資を犠牲にして、自民党が金持ちや大企業を優遇する政策をとることを望むであろうか。もし望まないのであれば、今すぐ次のような草の根的な行動をおこしていただきたい。

もしあなたが私の意見と同じであれば、衆参両院のあなたの選挙区の国会議員、そして自民党本部に手紙を書くか、このメモに署名してそれを彼らに送ってもらいたい。