No.191 日本政府のブリッジバンク構想とは何か

日本政府のブリッジバンク構想とは何か

マイケル・ハドソン

先週のメモで、米国の指導者たちがいかに不良債権問題を利用して、日本の世論に圧力をかけ、自民党の政策を左右させようとしているかを説明した。自民党の政策は、ルービン財務長官、サマーズ財務副長官率いる米国の金融戦略家たちの具体的な指示に基づいて作られたものである。今回のメモでは、政府自民党が進めているブリッジバンク(受け皿・つなぎ銀行)構想を日米関係の観点から分析し、不良債権処理の受益者が誰になるのかを検証したい。

6月22日、橋本首相との会談を終えた自民党の加藤幹事長は報道記者団に対して、政府自民党は日本の不良債権問題を解決するために、受け皿銀行設立の構想を具体化させる予定であると発表した。加藤氏は、「銀行が破綻した場合、健全な借り手であればブリッジバンクが融資を継続する。これは1980年代に米国が不良債権処理のために設立したブリッジバンクをモデルにしている」と述べて世界中の金融市場を驚かせた。

加藤幹事長、橋本首相は、明らかにこの発表で日本の有権者が安心すると思ったに違いない。しかし、これは失敗に終わった。この発表の後、大口投資家は資金を日本から海外へ移動させたため、株価は下落、円安も加速し、7月12日の自民党の大敗のお膳立てができあがったのである。このブリッジバンク構想は6月17日のクリントン大統領との電話会談の際に受けた指示にしたがって橋本首相が用意したものである。日本側は明らかに、米国がこれと同じ措置によって金融危機を乗り切ったと思い込んだに違いない。そして、政府自民党の政策決定者は、米国の公的債権回収機構(RTC)が実際にはどのように運営されたか、ましてそれが失敗したという事実について、全く知らなかったようである。日本人は、RTCによって米国の納税者がどのような被害を被ったのか、その詳細を知ることにより、同じ失敗を繰り返さないようにすべきである。

当初は支払能力を持っていた日本の金融機関とは異なり、米国の貯蓄貸付組合(S&L)の問題は人為的に作られたものであった。1980年代初頭、レーガン、ブッシュ政権が金融の規制緩和策を盲目的に推し進めた結果、テキサス州やカリフォルニア州のように許認可が極めて緩い州に数多く設立されたのが貯蓄貸付組合(S&L)である。貯蓄貸付組合といってもその多くは単なる仮事務所で、地元の小口預金者など相手にせず、金融雑誌などの広告を利用して、少しでも高い金利を得ようとする預金者を引き付け、金を集めた。預金者は、政府が預金保険額を大幅に引き上げたことを知り、安心してS&Lに預金したのである。

S&Lはこうして集めた投機資金(ホットマネー)を不動産投機家に融資した。不動産投機家は、地価が高騰し続けることを見込んで、S&Lから受けた融資をさらに高利回りの不動産に投資し博打を行っていた。こうした不動産投機家は、たとえ地価が思惑通りに高騰しなかったとしても責任はS&Lにかぶせればよいと考えていたため、彼らにとっては負けることのない博打であったといえる。また、S&Lも責任は政府にかぶせればよいと考え、その米国政府は、いざとなればその処理に国民の税金を使えばよいと考えていたのである。

しかし、S&Lに資金が集まらなくなると同時に、地価も下落したため、S&Lの担保資産の価値が預金者の預金残高を下回ることになった。そのためS&Lは預金の保証をするため、連邦預金保険公社(FSLIC)から借金を始め、政府の保険基金であるFSLICの資金をすぐに枯渇させてしまったのである。

FSLICが大手S&Lの投機資金預金者に預金を返済できるよう、公的債権回収機構(RTC)が設立されたが、結局RTCはS&Lを1社も救済することができなかった。S&Lは破産させられ、RTCが抵当資産およびその抵当受け戻し権ともども、破綻したS&Lを引継ぐことになったのである。そして、FSLICにとっては、S&Lの預金の投資対象であった抵当貸付をどう処分するかが問題になった。

米国の銀行アナリストは、RTCが破綻したS&Lから引継いだ資産を持ち続けていれば、損失はわずか50億ドルであったと見ている。しかし、RTCが実際に使った税金は、S&Lの預金者を救済するために借りた約3,000億ドルに対する金利も含めておよそ5,000億ドルにも上った。政府は破綻したS&Lが投資した不良債権を持ち続けて金融事業に参入したくなかったのである。レーガン、ブッシュ政権は、たとえ民間部門から雇った官僚であっても、政府は本質的に金融事業には向かないという経済哲学を持っていたようである。その事業を効率よく行えるのは民間企業だけだと信じていた。

「自由」で規制の撤廃されたあらゆる市場では、詐欺行為が横行する。事実、ホワイトカラーの犯罪が解禁となり、もはや彼らに検察の手が及ぶこともなくなった。この新しい正義という哲学は、最終的には最近の米国史においてもっとも悲惨な「投売り」をもたらすことになったのである。RTCは投売り価格で民間投資家に不良債権を売却し始めた。政府の競売に参加した投機家たちは、不良債権の中から土地や建物などよりどりみどりであった。投機家たちはこうして手に入れた不良債権を持ち続け、価値が上がってから転売して大儲けをしたのである。

米国政府自ら資産を管理する管財人を雇って、これと同じことをすることができたはずである。その管理者に詐欺的な債権(S&Lの不良債権のわずか5~10%にあたる)と、当時の資産価値を超えたに過ぎない債権とを区別させ、資産価値が通常に戻るまでそれらの資産を管理させればよかったのである。納税者の負担は、管理費用と、おそらく250億ドルの不良債権消却費用で済んだはずである。また政府は詐欺行為を追求することもできたし、それによって不正なキャピタルゲインの大半を回収できたはずである。しかし、そうしなかったために、負担はすべて米国の納税者が負うことになったのである。では誰が利益を得たのか。まず、無責任な運営を知りながらS&Lに預金することで高金利を手にした大口機関投資家である。彼らは約束されていた高金利を手にすることを許され、元金も保証された。

もちろん米国民は受益者ではない。RTCは融資を行うことは許されなかったし、存在しないS&Lの顧客に融資することはできなかった。RTCの目的は不動産分野を支援するためにさらなる融資を行うことではなく、S&Lを破綻させ、不動産の抵当資産を安く売却することだった。こうして一番利益を得たのは、抵当資産を買った「弱い者を食い物にする」投資家であった。

RTCが債権を安値で売り払ったために、投機家は公開市場で土地や建物の入札をするのではなく、非常に低価格の不動産や抵当流れの物件の抵当権を破格値で手に入れることができるようになった。これによって、資産価格は回復するどころかさらに下落した。投売り価格で資産の抵当権を買うことができるのに、わざわざ入札で不動産を手に入れようとするはずがなかった。

同じことが日本に起こり得るということを、日本人は理解しているのであろうか。政府自民党は、米国をモデルにしたブリッジバンクの設立が適当かどうか、本当に検証したのであろうか。最も重要なことは、日本の政府は金融機関が抱える不良債権をどう処理するつもりなのであろうか。不良債権を安値で売りさばくということは、資産価値が上がるまで待てる資金力のある投資家にさらに数百億、数千億ドルも儲けさせることになる。今、日本政府が提案しているブリッジバンク構想の狙いはこうした投資家を儲けさせることにあるようだ。事実、米国の金融機関がハイエナのようにこれを狙っている。

日本の納税者にとってこれは破局かもしれないが、日本の市場に入り込もうとしている大手外国金融機関の乗っ取り屋にとってはこれは大きな富となる。一度不動産を破格な値段で手にしてしまえば、後は日本政府に圧力をかけて新しい不動産バブルを起こさせるだけで、大儲けができるのである。

日本の銀行に米国のS&Lと同じ運命をたどらせてよいのであろうか。米国の金融投機家に不良債権を安く売却してよいのであろうか。政府が無能だという米国の考えに日本も同感なのだろうか。それとも政府は銀行を倒産させて、ブリッジバンクを使ってその不良債権を日本人のために持ち続けようとするのであろうか。

米国が「米国式はこうだよ」と笑って押し付けてくる計画は自民党議員にそのまま受入れさせてしまうには、これはあまりにも重大な問題である。1980年代に米国が一度失敗した方法をなぜ日本人は真似ようとしているのであろうか。それが失敗であったこと、いかに深刻な悪影響を米国にもたらしたかを日本人は理解していない。

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このハドソン氏の論文からも明らかなように、自民党が打ち出したブリッジバンク構想は間違った政策である。自民党が日本の経済や社会をこれ以上破滅させる前に、私たちはこのように腐敗しきった自民党を今すぐ正気に戻さなければいけない。次の選挙で自民党が再び大敗するのを待つのではなく、草の根的な行動をすぐにでもとっていただきたい。そのためには、もしあなたが私の意見と同じであれば、衆参両院のあなたの選挙区の国会議員、そして自民党本部に手紙を書くか、このメモに署名してそれを彼らに郵送してもらいたい。国会議員、自民党本部の住所は下記の弊社インターネットのWebサイトでも調べられるし、弊社にご連絡いただければ喜んで情報を提供させていただく。

また、このメモをあなたのまわりの人たちにも読んでもらって欲しい。そして皆が国会議員や自民党に手紙を出すか、このメモに署名してそれを彼らに郵送するように勧めて欲しい。

もし私がここで述べた意見に反対なら、是非知らせて欲しい。異なる意見を理解したいし、私の考え方に間違いがあればそれを正したいからである。