今日のメモは、米国の消費者運動家であるラルフ・ネーダー氏が億万長者のビル・ゲイツ氏に出した公開状をお送りします。ネーダー氏はこの公開状で、米国における富の不平等を指摘し、ビル・ゲイツ氏に対して「米国および世界における富の不平等をどうするか」という会議を億万長者の間で行うことを提案し、ビル・ゲイツ氏にそれを主催するよう訴えています。
一方、日本では現在、自民党とそのプロパガンダ機関であるマスコミが、米英にここまで大きな富の不平等をもたらしたレーガン/サッチャー政策を日本でも実施しようと必死になっています。日本の読者にとっても、この公開状が説得力のある警告となることを願っています。
米国の消費者運動家ラルフ・ネーダーからビル・ゲイツへの公開状
1998年7月27日
マイクロソフト会長兼CEO
ウィリアム・H・ゲイツ殿
ニューヨーク大学エドワード・ウルフ教授が行った推計の驚くべき結果は、あなたに重大な契機をもたらすと思います。富の経済学の専門家であるウルフ教授は、あなたの正味資産は、米国民全体のうち下位4割の国民(1億600万人)の正味資産の合計を超えると推定しました。これは彼らの住宅資産や年金、ミューチュアル・ファンドや401(k)プラン(確定拠出金型年金)の総計で、自家用車は含んでいません。
ウルフ教授がこの分析を行った時点での、ゲイツ氏、あなたの総資産は400億ドルでしたが、今年の『フォーブズ』誌の億万長者特集によれば、あなたの総資産は510億ドルを超えています。さらに最近のマイクロソフト社の株価の急騰を考えれば、これよりもずっと増えているはずです。ですから、現在のあなたの資産は、米国の下位4割の国民の自家用車(ほとんどが中古車)を加えた資産を大きく上回っていると見て間違いないでしょう。
これだけの資産を持つあなたは、世界第一位の働く大富豪です。富裕者と貧困者の間に貧富の差が存在するのはいつの世も同じですが、1億人を超える米国人が、中には一生働いても、ごくわずかな資産しか持てないということは極めて深刻な問題です。ジェフ・ゲイツの新著、The Ownership Solution”にはこう書かれています。「資本主義は資本の創出には非常に優れているが、資本家を生むには劣っている」
米国は現在、欧米諸国の中で最も富の不均衡が大きくなっています。米国民の最上位1%の所有する富は、下位90%の米国人のそれを上回ります。ジェフ・ゲイツ氏はこう述べています。「活動を起こさなければ、財政、社会、政治、ひいては環境面において多大な影響が生ずるであろう」。もしあなたが、政財界におけるジェフ・ゲイツ氏の経歴を知っているのなら、彼の結論が単なる思いつきではないことがお分かりいただけるはずです。
もちろんこの富の不平等は世界中に広がっています。国連開発計画(UNDP)によれば、世界の358人の億万長者の資産は、世界人口の45%(約30億人)をかかえる国々の国民所得の合計よりも大きいというのです。
こうした貧富の差は、技術革新の加速化、貿易障壁の減少、資本の移動、医学の進歩などを背景にさらに広がっており、それと同時に、歴史の最も悲劇的な失敗や強欲、独占、そして残虐が何をもたらしうるかということに対する意識も高まるはずなのです。
1つの例としては、昨年、全世界で結核とマラリアで死亡した人の数(約600万人)は過去最高を記録しました。地球全体のGNPや能力がいくら向上しても、貧困が原因の病からこうした大量の死者を出すことを阻止できずにいます。権力と富の集中、そして経済的、政治的指導者達の無神経さが、こうした犠牲者を防げないことと大いに関係があります。
これは明らかに、分配に関する正義の問題であり、グローバル資本主義のリーダー達がこれを無視しているために起きているのです。私は最近ある会議で次のようなメッセージが書かれたTシャツが配られるのを見ました。「A Rising Tide Lifts All Yachts.」(満ち潮はすべての船を持ち上げる)。現代の人々が好きそうなフレーズです。
あなたの親しい友人であり、同士でもあるウォーレン・バフェット氏はおそらく世界で二番目の働く億万長者で、その資産は330億ドルを超えています。どうか私に次のような提案をさせて下さい。ゲイツ氏、あなたがバフェット氏と手を組んで、米国と世界の富の不平等とそれをどうすればよいかというテーマで、億万長者たちの会議を主催・企画し指導的立場をとって下さい。経済が産出するものの量、質そして配分という次元で討議すれば、参加者に経済システムの基本的な目的とその経済指標を理解させることができるはずです。
ゲイツとバフェットの両氏が組めば、成功よりもむしろもっと意義のあることをしたいと大志を抱いているビジネス界のあなたの同僚や仲間たちが、人類の窮状を深刻な問題として受け止めるようになるでしょう。
今年初めに、ニューヨークのタイムワーナー社の75周年夕食会においてお会いした際、あなたは手紙を受け取ってくれるとおっしゃっていました(そして、電子メールでと笑顔で付け加えました)。お返事をお待ちしております。
ラルフ・ネイダー
P.O. Box 19312
ワシントン、DC 20036
日本にこうした不平等が生まれることを望まないのであれば、草の根的な行動をすぐにでもとっていただきたい。これを家族や同僚、友人に見せ、自民党のレーガン/サッチャー政策の信奉を今阻止しなければ、日本の将来がどうなるかを警告して欲しい。衆参両院のあなたの選挙区の国会議員、そして自民党本部に手紙を書くか、このメモに署名してそれを彼らに郵送してもらいたい(国会議員、自民党本部の住所は下記の弊社インターネットのWebサイトでも調べられるし、弊社にご連絡いただければ喜んで情報を提供させていただく)。そして、日本にこうした貧富の差が生まれるのを望んではいないし、金持ちや権力者を優遇し、残りの国民に増税を行うのであれば、彼らの政治生命は終わりであると告げるのである。