No.194 マスメディアの嘘と詭弁

マスメディアの嘘と詭弁

 新聞報道は詭弁や欺瞞、そして真っ赤な嘘であふれている。それは政府自民党が自民党の支援者や富裕者の税金を減税するために権力を振りかざし、国民を騙して残りの大部分の国民に増税を受け入れさせるためである。読売新聞は提言として次のように書いている。

 「所得税と住民税の最高税率は65%であるが、これは他の先進国、例えば米国の46.45%およびイギリスの40%よりもかなり高い。多くの場合、このことは日本では、一生懸命働けば働くほど、税負担が高くなることを意味する。これによって勤労意欲を削ぐことにもなり得る。そこで、日本の累進課税をなるべく早くグローバル・スタンダードに近づけるべきだとされるのである」

 これは真っ赤な嘘である。去る7月27日にお送りしたOWメモ『自民党は敗北から何も学んでいない(4)』(No.186)で指摘したように、最高税率65%が適用されるのは年収3,000万円以上、給与所得者のわずか0.1%の国民に過ぎない。またこの指摘は控除額を意図的に無視しており、これを考慮すれば実際に税率が65%になるのは年収9億円以上の納税者だけである。年収3,000万円の納税者を例にとれば、昨年支払った所得税・住民税の合計は平均で34%である。これは米国で同額の年収を得る納税者が支払う所得税・住民税の割合とほぼ同等、イギリスやドイツと比べると日本の方が低いのである。さらに、年収“9億円”から税引き後の手取りが35%にしかならないからといって、あるいは年収3,000万円を得る納税者が34%を所得税・住民税で取られるからといって勤労意欲が失われるであろうか。日本が高度経済成長を遂げた時代の所得税率は今よりもずっと高かったが、それが勤労意欲の妨げになることは決してなかった。教育、福祉や社会施設の整備拡充のために税金が使われることを考えれば、社会の公器である新聞は「納税は国民の責務だ」と説くべきではないだろうか。さらに、年収3,000万円以上の0.1%の納税者こそ、経費や架空の会社を利用して様々な節税対策を行い、高級車やお抱え運転手、ゴルフの会員権やヨット、別荘など、贅の限りを尽している人たちであり、実際の税負担率はずっと低くなっているはずである。
 読売新聞の論説には嘘だけではなく詭弁も含まれている。外国人投資家を引き付け、また日本企業に海外移転を思いとどまらせ国内生産を奨励するためには、法人税を引き下げるべきだという主張である。読売新聞はこうした詭弁をよく使い、例えば、6月4日付けの『あすでは遅すぎる・税制改革への提言(8)首相が具体案を示せ』では、次のように述べている。

 「経済がグローバル化し、企業や個人が国を選ぶ時代を迎えている。税制が歪んだままでは国家間競争を生き抜けない」

 さらに5月30日付けの同連載『あすでは遅すぎる・税制改革への提言(4)法人税実効税率40%に』では、不動産コストや賃金の高さに加えて、法人税などの税率の高さが、外資系企業の日本への投資を阻む主な原因であるとし、次のように結んでいる。

 「海外進出した日本企業も日本の法人税が高いため、海外で得た収益を日本ではなく海外で再投資する傾向が強い。日本企業も外国企業も、日本が投資対象国としては魅力がないと判断しているのだ」

 また、7月29日付けの『100日間緊急行動計画を作れ:新政権への5つの提言(5)』では、次のように述べている。

 「税制は多くの人が少しずつ負担する方向に改革し、個人と企業の活力を引き出す制度にすることが原則だ。努力が報われる税制にしないと、世界に通用する企業やビジネスマンが日本から逃げ出してしまうからだ」

 読売新聞が提唱していることは、日本が所得税や法人税を減税すると同時に、一般国民や中小企業に対する公的保護を減らし、賃金や地価を世界最低レベルに引き下げることで、優秀な日本人を日本にとどまらせ、また海外から優秀な人物を日本に引き付けようというものである。言い換えれば、日本が主権を放棄し、日本政府が日本国民のために仕えるのではなく、世界市場を喜ばせるために日本を統治することを読売新聞は提唱しているのである。これは言語道断である。その理由を述べよう。

 1. 富裕者や権力者に規制や税制を支配させ、また賃金や地価を決めさせるような政府に対して、残りの国民がなぜ税金を支払い、そうした政府の規制や法律を守らなければならないのか。
 2. 世界に通用する企業や個人が、日本を維持するための応分の費用負担をしたくないために日本を離れたいのであれば、日本国民はそれを歓迎こそすれ、止める必要はない。日本が戦後成し遂げた繁栄は、少数の優秀な人間によってではなく、誠実で勤勉な多数の国民によるものであった。一握りのスーパースターを日本にとどまらせる理由はない。彼らが日本を去れば、残りの国民により多くのチャンスがもたらされるであろう。
 3. 日本は税を逃れるだけのために国外に移ろうとする国民に対抗すべきである。米国では米国外に在住し、その国の税金を納めている米国人に対しても年収7万ドル以上であれば米国の税金を課している(住宅控除等があるが、詳細は省略する)。米国の市民権を持つ限り、どこにいようが税の支払いから逃れられないのである。こうした米国式の二重課税は不公平であると思うなら、日本はもっと公平な方法で税金逃れを防げば良い。例えば、日本ではなく海外で税金を納めることによって節税できた差額分を、税金として日本が徴収する。このような政策をとれば、日本に対して応分の費用負担もせずに、利益だけを日本から吸い取ろうとする寄生虫を取り締まることができる。
 4. 同様に、企業に対しても、日本で事業を行うことで恩恵を受けている企業には、日本という国家を維持・向上させるために公平な費用を負担させるべきである。読売新聞や自民党のように国民を脅して増税を受け入れさせるよりも、企業に社会的な行動をとらせる方が容易に徴税できるはずである。

 確かに、多国籍企業は世界の産出の約3分の1、世界貿易の約3分2を占めている。多国籍企業は自由に生産過程を分割し、世界中のどこにでも生産拠点を移すことが可能である。そのことから、多国籍企業の国家への依存度は以前にも増して低くなり、労働市場や税制や規制、インフラが最も自社に適していると思われる国を自由に選び、その国の政府の政策に対し、直接投資の約束や撤退の脅威によって甚大な影響力を持っている。しかし、ジョン・グレイがその著書The False Dawn”(GranataBooks