経営者の強欲
ラルフ・ネーダー氏からビル・ゲイツ氏に宛てた手紙を私が取り上げたことについて、ある読者から「これはマイクロソフト社に対する中傷ではないか」というご批判を受けた。さらに、私の経営する会社が扱うソフトウェア製品の開発会社に関する『ビジネスウィーク』誌の論評を送られ、「信じがたいほどの米国の富の不均衡を指摘したいのであれば、これを使うこともできたはずだ」と非難された。
まず、ネーダー氏の公開状を取り上げた理由は、米国にこのような驚くほどの富の不平等をもたらしたレーガン/サッチャー政策の危険性と、政府自民党とそのプロパガンダ機関がまさにその政策を日本に持ち込もうとしていることを、読者に知らせるのが目的であり、マイクロソフト社、ビル・ゲイツ氏のいずれをも中傷する意図は全くなかったことをここで言明したい。
今回は、私の意図が特定の団体や個人を中傷することではないと証明するためにも、この読者から送られた記事を取り上げたいと思う。この記事も、米国のやり方に警告を放つものである。以下に、『ビジネスウィーク』誌の記者、ジョン・A・バーン氏が書いた“経営者の強欲はいかにして株主に6億7,500ドルの代価をもたらしたか”という論評(98/8/10号)を紹介する。
この論評では、今年7月22日、コンピュータ・アソシエイツ・インターナショナル社(以下、コンピュータ・アソシエイツ社と略記)の株価が31%下落し、39ドル50セントに落ち込んだことについて、筆者バーン氏は同社の第1四半期の報告書に記載されたある1つの報告に起因すると結んでいる。それは、「同社の会長兼CEOウォン氏を含む3人の経営者に対して11億ドル分の株を譲渡するのに、税引き後の金額で6億7,500万ドルの費用が発生した」という報告である。その金額が差し引かれる前の同社の収益は1億9,420万ドルであったのが、差し引き後は4億8,080万ドルの損失となった。筆者はこの「過剰な強欲」はウォールストリートの基準からしてもショッキングだと言う。これは、同社の株価が12ヵ月のうち60日間、53ドル33セントを上回ったら、ウォン氏を含む3人の経営者に対して2,000株以上を(売るのではなく)譲渡するという報酬プランによるものであり、ウォン氏は1,200万株以上(当時の株価で6億7,000万ドル以上に相当)、残りの2人は4億4,700万ドル分を手にした。税引き後費用6億7,500万ドル(1ドル/145円換算で978億円以上)という金額は、上場企業の役員報酬としては過去最高であ り、コンピュータ・アソシエイツ社の過去3年間の純益の43%に相当する。目標株価を設定しそれを達成すれば経営者に報酬を出すというこの手法は米国企業では目新しいものではなく、大概はそれによって経営者よりも投資家の方が確実に利益を手にできることから、株主もこの手法を好む。
ここまで読めば、この米国の手法がいかに株主が短期間で儲けられるよう、経営者に仕向けるものであるかわかるであろう。しかし、これは社員や顧客の利益に反するものであり、企業の長期的な健全性や企業を育む社会の利益にとってもマイナスである。
さらに筆者バーン氏は、コンピュータ・アソシエイツ社の役員報酬は度を越したものであり、株式市場が上げ相場のときに株価と連動した報奨制をとることが基本的な欠陥を含んでいることを、この例が示すと述べている。なぜならすべての船を持ち上げるような満ち潮の時には、株価は必ずしも企業の実績を反映することにはならず、事実、同社でこの報奨制度が承認された1995年以来、格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ株価指数500種のうち、44%以上の企業がコンピュータ・アソシエイツ社を上回る株価上昇率を示しているという。
ではなぜ企業の収益にこのような悪影響を及ぼす制度を株主は承認するのであろう。バーン氏はその答えとして、このようなプランに関する提案書は、株主どころか、専門家でも理解できないような難しい表現で書かれているからだとし、同社の場合、株主に提示された提案は「誤解を招くような不明瞭なものになるように意図的に書かれた」という専門家の言葉を引用している。純益を何億ドルも下げるようなプランだと株主が知っていれば、それを認めるようなことはなかったはずである。
以上が、『ビジネスウィーク』誌に書かれていた論評である。読者の皆さんは日本もこのような強欲と富の不平等を採用するべきだと思うであろうか。もし日本にこうした不平等が生まれることを望まないのであれば、草の根的な行動をすぐにでもとっていただきたい。これを家族や同僚、友人に見せ、自民党のレーガン/サッチャー政策の信奉を今阻止しなければ、日本の将来がどうなるかを警告して欲しい。衆参両院のあなたの選挙区の国会議員、そして自民党本部に手紙を書くか、このメモに署名してそれを彼らに郵送してもらいたい(国会議員、自民党本部の住所は下記の弊社インターネットのWebサイトでも調べられるし、弊社にご連絡いただければ喜んで情報を提供させていただく)。そして、日本にこうした貧富の差が生まれるのを望んではいないし、金持ちや権力者を優遇し、残りの国民に増税を行うのであれば、彼らの政治生命は終わりであると告げるのである。