自由主義を追いかけた米国の実態
最近の一連のメモで、国民に対する政府の保護を撤廃し、自由で規制のない市場で誰もが自力でやっていくというレーガン/サッチャー政策を推し進めることによって利益を得るごく少数の人々がいることについて述べてきた。今回は、そのレーガン/サッチャー政策のモルモットとして犠牲になった何百万人もの米国人について取り上げたい。
8月3日、AP通信は米国司法省が発表した投獄に関する最新データを報道した。
1997年、米国の囚人数は120万人を超えた。刑期の長期化に加え、絶え間なく送り込まれる受刑者により、囚人の数は過去10年間にわたり年5.2%の割合で増加し、1997年には124万4,554人にも上ったのである。その他に短期刑の受刑者と拘置所で判決を待っている者が50万人以上いる。今後も同じペースで増加し続ければ、2000年には刑務所と拘置所にいる者の数は合わせて200万人を超すと予測される。1997年度末現在、米国の州立刑務所はその収容能力の15%から24%を超す囚人を収容しており、連邦刑務所では19%超過している。米国の32の州が収容能力を超えていると報告しており、最悪はカリフォルニアで収容能力の2倍の囚人が拘置されているという。
ジョン・グレイはその著書『False Dawn』(Granata Books、1998年)で、米国における犯罪者の急増はレーガン大統領が米国社会を否応無しに自由市場に作り変えたことに起因するとしている。レーガン政権の政策により、米国はどの先進国よりも経済的な不平等が広がった。こうして米国はアルゼンチンやチリといった南米諸国よりも、貧富の差の激しい、分断された国となった。
レーガン大統領の政策とは、規制緩和、民営化、グローバリゼーションであり、政府による統制から米国を自由にするというものであった。そして、規制が取り払われた結果、市場の力によって地域社会が破壊されると、米国は大量の犯罪者を刑務所に放り込むという手段に出たのである。それと同時に、これまでで最多の裕福な米国人が、富裕者だけの隔離された地域社会へと逃げ込んだのである。米国の全人口の約10%以上にあたる2,800万人が、警備員つきの住宅地や建物に住んでいる。米国には警察官の数を上回る民間の警備員がいるのである。
グレイは米国司法省の数字を引用して、“政府からの自由”という1980年にレーガンが大統領に就任した時の公約が、実際は人々からいかに自由を奪ったかについて述べている。
年度 国民10万人中の囚人(成人)の割合
1980年 103人
1994年 373人
1994年度末における米国の囚人の割合はカナダの4倍、イギリスの5倍、日本の14倍にもなる。米国を上回る国は共産主義崩壊後のロシアだけである。1997年初め、米国の成人男性50人に1人は刑務所に、そして20人に1人は保護観察下か仮釈放の身である。この数はヨーロッパ諸国の10倍である。
グレイは、自由競争が米国の資本主義に変質をもたらし、それによって米国は、初期の米国やヨーロッパの自由資本主義の文明化時代よりも、むしろ南米に見られるような独裁政権に近い国家になってしまったと見ている。
米国の囚人の増加率は、暴力犯罪の増加率と等しく、殺人および銃犯罪を例にとると、1993年の男性殺人犯は10万人に12.4人で、ヨーロッパの1.6人、日本の0.9人と比べると格段に多い。1994年に殺人の犠牲者となったのは、日本では10万人中0.98人であるのに対し、米国は9.3人、強姦については日本が1.5人のところ米国では42.1人、強盗事件は日本が1.75人に対し、米国では255.8人が被害に遭っている。
米国で特に多いのは子供の殺人で、先進国全体で起こった子供の殺人の4分の3は、米国で起きている。子供の自殺、殺人、銃関係による死亡人数も、世界26ヵ国の先進国中、米国が最も高い。
これは米国が想像できないほどの銃社会であることも原因だが、経済状態の悪化により家庭でのしつけが行き届かなくなったことも大きな要因の1つである。1995年に上海で生まれた赤ん坊よりも、ニューヨークで生まれた赤ん坊の方が生後1年以内に死亡する確率が高い。米国の方が文盲率が高い上に、平均寿命も2年短いのである。
米国では犯罪、投獄率が高いのと比例して、訴訟や弁護士の数も多い。米国では国民10万人当たりの弁護士の数が300人以上であるのに対し、日本はわずか12人である。1987年に不法行為に対して米国で支払われた損害賠償金の総額は、米国のGDPの約2.5%にもおよぶ。日本はわずか0.3%に過ぎなかった。グレイによれば、これら投獄者、暴力犯罪、訴訟の数字は、「法律が、機能している唯一の社会制度になってしまい、刑務所が社会を統制する数少ない手段となっている現状を表している」という。米国の刑務所の対極には、エリートの富裕者たちが、自分たちが見捨てた社会の危険から自らを守るために、民間の警備員に守られながら隔離されたコミュニティに住んでいるという状況がある。こうした状況は、これまで社会が機能するのを支えていた、家族、隣人、企業といったその他の社会制度が空洞化した結果なのでる。ハイテク刑務所と塀に囲まれた富裕者たちのコミュニティ、そして仮想企業が21世紀初めの米国の象徴になると考えて良いであろう。
このメモの読者の方々には、こうした米国社会を信奉する自民党が、次の選挙で再び大敗するのを待つのではなく、草の根的な行動をすぐにでもとっていただきたい。そのためには、もしあなたが私の意見と同じであれば、衆参両院のあなたの選挙区の国会議員、そして自民党本部に手紙を書くか、このメモに署名してそれを彼らに郵送してもらいたい。国会議員、自民党本部の住所は下記の弊社インターネットのWebサイトでも調べられるし、弊社にご連絡いただければ喜んで情報を提供させていただく。
また、このメモをあなたのまわりの人たちにも読んでもらって欲しい。そして皆が国会議員や自民党に手紙を出すか、このメモに署名してそれを彼らに郵送するように勧めて欲しい。
もし私がここで述べた意見に反対なら、是非知らせて欲しい。異なる意見を理解したいし、私の考えに間違いがあればそれを正したいからである。