No.197 日本の不良債権市場を狙う外国人投資家

『日米金融抗争の構図』(No. 192)で、エコノミストのマイケル・ハドソンは、日本の金融機関に不良債権を投売りさせるよう、米国政府が日本政府に圧力をかけていることを指摘し、次のように述べています。

「米国側が日本に要求しているのは、ビッグバンに起因する貯蓄の流出分を日本に戻すために日本が米国に好都合な投資機会を用意すること、つまり日本の資本資産、具体的には破綻した銀行や不動産、企業などを破格の値段で米国企業に売却させることである。米国の金融機関が日本の消費者から集めた貯蓄をやり手の投機家に融資し、その投機家に日本の資産を購入させる。こうして、日本人消費者の貯蓄を使って外国人が日本経済を所有するという構図ができあがるのである」  このハドソンの主張を裏付けるような英文記事を見つけました。『ビジネスウィーク』誌(7/27/98号)”The Slowest Fire Sale of Earth(最も遅い投売り)”と、『デイリーヨミウリ』紙(8/4/98付け)の”Bad Loans a great opportunity for investment adviser(投資アドバイザーにとって不良債権は大きなチャンス)”です。今回はこれをもとにお送りします。

日本の不良債権市場を狙う外国人投資家

2つの記事に共通して登場するのが、日本に進出している米国の投資会社アドバイザーを務める米国人、ジャック・ロドマン氏である。読売の記事は、「ロドマン氏は日本の金融危機を大きなチャンスと捉えている」という出だしで始まる。その記事によれば、ロドマン氏が拠点とするのは東京は恵比寿にある高級ホテル、ウエスティン・ホテル。彼が日本の金融危機で荒稼ぎしていることだけは間違いない。

日本を食い物にするのは誰か

ロドマン氏の顧客は、主に米国やヨーロッパの投資銀行である。推定6,000億ドルと言われる日本の不良債権市場を狙って、過去1年間に何百社もの外国資本が日本に押しかけた。中でも大手は、ゴールドマン・サックス、モーガン・スタンレー、バンカーズ・トラスト、ソロモン・ブラザーズ、CSファースト・ボストン、ドイツ・モルガン・グルエンフェルなどで、これら投資会社の8割以上は米国系で、残りがヨーロッパ勢である。米国の資産価格が急騰しているため、投資家達にとって底値のアジア市場は最高の狙い目なのだという。しかし現在、日本の資産に対する需要は供給を上回り、買取りは考えていたよりも手間取っているのが実状だ。米国のルービン財務長官やウォール街の金融機関が、日本に早く不良債権を売却するよう圧力をかけているのは、まさにこのためなのである。

投売り価格

日本にある6,000億ドルの不良債権が「不良」と言われる所以は、債権の担保資産の価値が急落したためである。ロドマン氏によれば、昨年以来、欧米の投資家は評価額約200億ドルの債権を、約20億ドルで購入したという。日本の銀行は投売りも同然で不良債権を売却したことになる。これまでに行われた取引は約20件だが、不良債権の価格は当初は評価額の4~5%だったが、今では10%以上に上昇しているという。評価額の4~5%、あるいは10%で不良債権が売られているという事実は、まさに、ハドソンの主張通り、ウォール街の経営者や米国政府が日本の金融機関に「不良債権の処理」を急がせている証拠である。

ロドマン氏によれば、米国人投資家が海外の不動産に投資するのは、それが再取得原価以下の場合に限るという。さらに投資家たちは20%の収益率を見込んでいる。いずれ日本の生命保険会社なども参入してくるだろうが、日本の投資家は収益率20%にこだわらないため、外国人投資家よりも高い値段で不良債権を購入するだろうと言う。このため2~3年後には、米国人は日本の不動産市場から締め出されてしまうというのがロドマン氏の予測である。だからこそサマーズ米財務副長官などが、繰り返し日本に対して不良債権処理を急がせるよう圧力をかけているのであり、そうすれば日本人投資家が出てくるのは、米国のやり手投資家が良いところをすべて買いあさった後、ということになるのである。

日本人の抵抗

『ビジネスウィーク』誌の記事の方は、「急がないのであれば」日本は不良債権を買うのに絶好の市場だとしている。外国人投資家が債権や不動産向けに集めた200億ドルによって、日本の銀行の帳簿の約50%の不良資産が処理できるとロドマン氏は見積もっている。しかし、「日本の銀行の多くはまだ不良資産償却に踏み切れず、売り手を見つけるのは困難である。また、日本の銀行は公開入札ではなく非公開取引を望む傾向がある。さらに、優良物件はほとんどなく、不動産を狙う投機家は、債権しか見つけることができない。市場に必要なものはすべて揃っているが、売り手が渋っている状態だ」とロドマン氏は指摘する。
ロドマン氏は、その不良債権売却の遅れの原因が日本の官僚にあるとし、銀行のバランスシートから不良債権を引き受ける組織は設立したものの、債権を売却するメカニズムがまだ確立されていないことが元凶だという。
3,000億ドル相当の資産をわずか200億ドルで売却したくないと考える銀行の立場を私はよく理解できる。また、そうした日本国内の資産を外国の略奪者に、評価額のたった7%で売らせたくないと日本政府が考えるのも、もっともである。私の考え方は間違っているであろうか。

ブリッジバンク

政府自民党のブリッジバンク構想をどう思うかとの読売の質問に対し、ロドマン氏は次のように答えている。「ブリッジバンクと政府の共同債権買取機構(CCPC)の機能拡充が原因で、債権の売却をほぼ決めかけていた銀行が躊躇し始めた。CCPCを拡充するなら、CCPCが引き受けるすべての資産は1年以内に売却しなければならないというような規制を設けるべきだった。それがなければ、これは良い対策とは思えない。私の提案はあくまでも債権の売却であり、他の組織に資産を移管するだけでは何の解決にもならない」
ロドマン氏が望んでいるのは、日本の銀行に資産をなるべく早く、しかも米国人投機家が望む破格の値段で売却させること、この一言に尽きるのである。

無税償却

資産の投売りに対する抵抗感にもかかわらず、過去数ヵ月間ですでに不良債権売却を決定した銀行もある。その理由をロドマン氏は、「日本政府は昨年ようやく、債権の評価額と売却益の欠損分を無税償却することを許可し、この優遇措置によって状況が一変した」という。つまり、日本政府は銀行の博打のつけを清算するためにすでに税金を使っていると、ロドマン氏は述べている。銀行の税金を免除すれば、その分政府は国民の税金を増税するか、我々の子孫が負担する公的債務を増やすしかない。読者はこのような措置がすでにとられている事実を知っていたであろうか。

急ぐ必要はない

『ビジネスウィーク』誌は、日本の銀行および政府が不良債権の投売りを急ぐべきではないという理由を次のように説明している。「日本の金利が低いため、米国の投機家は日本の不良債権を買いたたくための資金を安く調達できる。また、資産に対する需要が供給を上回っているため、資産価値の上昇が起る可能性は高い。ある米国人は、日本の不動産価格は底値にあると見ている。米国の投機家はこのような不動産の底値状況をS&Lの時代に経験して熟知している。これは破格値で資産を購入し、損失分は納税者に負担させ、最終的な資産価格の上昇で利益を得る千載一遇のチャンスなのだ」
また、読売によると、ロドマン氏は過去3年間にわたり不良債権の処理方法および日本の不動産市場に流動性を取り戻す方法について、日銀その他の政府機関にアドバイスをしてきたという。弱者を食い物にするような人物から、なぜ日本政府は助言を受けなければならないのであろう。

このメモの読者の方々には、次の選挙で自民党が再び大敗するのを待つのではなく、草の根的な行動をすぐにでもとっていただきたい。そのためには、もしあなたが私の意見に賛同するのであれば、衆参両院のあなたの選挙区の国会議員、そして自民党本部に手紙を書くか、このメモに署名してそれを彼らに郵送してもらいたい。国会議員、自民党本部の住所は下記の弊社インターネットのWebサイトでも調べられるし、弊社にご連絡いただければ喜んで情報を提供させていただく。
また、このメモをあなたのまわりの人たちにも読んでもらって欲しい。そして皆が国会議員や自民党に手紙を出すか、このメモに署名してそれを彼らに郵送するように勧めて欲しい。
もし私がここで述べた意見に反対なら、是非知らせて欲しい。異なる意見を理解したいし、私の考えに間違いがあればそれを正したいからである。