No.210 もう1つの銀行スキャンダル

もう1つの銀行スキャンダル

8月27日付けの『デイリーヨミウリ』紙のスポーツ面に、デトロイトの中心街に新しい野球場を建設する球団、デトロイト・タイガースに対し、住友銀行が1億4,500万ドルの融資を引き受けたと報じられた。西暦2000年にオープンするこの新しい野球場にかかる建設費は総額で約2億9,500万ドルで、うち1億4,500万ドルが住友グループから、1億1,500万ドルが公的資金、残りの3,500万ドルが球団とそのオーナーの出資で賄われるという。同記事によれば、住友グループはナショナル・フットボール・リーグ(NFL)のワシントン・レッドスキンズのジャック・ケント・クーク競技場に対しても貸し手中最大の融資を行っており、またプロホッケー・チーム、オタワ・セネターズの本拠地であるコーレル・センターに対してもリファイナンス(再融資)を行ったという。

この記事を読んで私はなんとひどいことが起きているのかと嘆かずにはいられなかった。(秘書に日本語の新聞に同じ内容の記事が載っていないか調べさせたが、見つからなかった。英字新聞のスポーツ面にしか掲載されなかったようである。)日本の銀行は、国内企業に対する貸し渋りや貸し金の回収で、倒産の急増および過去最高の失業率や不景気が原因の自殺等を引き起こしているにもかかわらず、米国の競技場建設向けの融資は行うというのである。

1997年には企業の倒産件数が過去48年間で最高を記録した。倒産企業の負債額も過去最高となり、また倒産企業数の年間増加率も2桁台を記録し、97年の倒産総数は16,464社に達した。1998年上半期には、10,173社が1,000万円以上の負債を抱えて倒産した。これは前年同期比30%増で、1984年以来最悪となった。また、今年7月だけで1,673社が倒産し、これは前年比28.6%増であった。

これまで景気回復の牽引役を果たしてきた製造業では、1997年の倒産数が前年比45.4%増となり、このことが日本経済の先行きに暗い影を落としている。企業倒産の急増について帝国データバンクは、「流動性不足に陥りつつある企業の数が増え、戦後最高の速度で倒産が増えるであろう」と予測した。

こうした倒産急増の主な原因は日本の銀行の貸し渋りにあるとされている。日銀の発表によれば、銀行の不良債権額は1年間で2.3%減少し、この6月には6年ぶりに513兆2,000億円まで下がった。6ヵ月間連続して不良債権が減少したのは、銀行が自己資本比率を維持するために慎重に融資を行った結果であると日銀は見ている。もちろん日銀の発表には、日本の銀行が日本の借り手に対する融資よりも、米国の競技場建設に対する融資や、さらにはニューヨーク株式市場やその他国際通貨市場やカジノでの博打を「慎重」に優先させているとは書かれていなかった。

その間にも大手都市銀行や地方銀行の預金残高は1年間で2.7%増加し、449兆1,400億円に達した。日本国民の銀行預金高が増えたのであるから、日本の銀行が日本国民や企業に回せる融資も増えたはずである。しかし、日本の銀行はそれを事業のために融資を望む国内企業に回すのではなく、野球場を建設する米国人への融資やニューヨーク株式市場や他のカジノでの博打に投じたのである。

その結果生じた金融逼迫が、失業率を過去最高に押し上げた主な原因である。7月の倒産だけに限っても16,679人の職が失われた。失業率は6月に過去最高の4.3%を記録した後、4.1%とわずかばかり下がったものの就労者の数は依然として減少している。したがって、失業率が下がったのは職探しを諦めた人の数が増え、正式な失業者として登録されている人の数が減ったためであるというのが総務庁の見方である。職探しを諦めて失業者として登録されない人々の数は6月から7月にかけて98万人も増加し、総数3,871万人に達した。この増加は1993年以来、最大である。7月の求人倍率は、1963年に統計をとり始めて以来最低となった。

メモ『自民党は敗北から何も学んでいない(1)』(No.183)でも指摘した通り、悪化する経済がもたらす窮状の中でも、もっとも悲惨なのは自殺である。金銭的な問題に絡む昨年の自殺者の数は「バブル」がはじけた8年前と比べて3倍にも増加し、警察庁の調べでは3,556人が経済苦から自殺した。これは前年比18%増、1990年の自殺者数1,272人の2.8倍である。日本国民が銀行に預けた金が日本企業にではなく、より高い利回りを求めて米国やカナダでの競技場建設に融資されたり、株式市場や通貨市場等のカジノでの博打に投じられている中、銀行の貸し渋りが原因で自殺に追い込まれた人は何人いたのであろうか。

新聞報道によれば、住友系列の住友信託銀行による日本長期信用銀行の吸収合併を円滑に進めるために公的資金が投入されるという。8月20日付けの『日本経済新聞』は、長銀に対する5,000億~1兆円の公的資金の投入を含む、両行の合併を支援する方策を政府自民党が検討していると報じた。その中には住友信託が合併に難色を示す原因となっている不良債権問題を処理するために、長銀の不良債権買い取りを進めるための政府保証も含まれるという。融資を求める国内企業を見捨てる一方で、米国やカナダの競技場や野球場には融資する銀行の合併を支援するために、5,000億~1兆円の公的資金を投入するという政府自民党の政策を読者は支持する気になるであろうか。

もしこうした政府の方針に反対するのなら、「国民の税金を無駄にするのであれば政治生命は終わりである」と国会議員や自民党本部に告げるべく行動を起こして欲しい。

このメモの読者の方々には、次の選挙で自民党が再び大敗するのを待つのではなく、草の根的な行動をすぐにでもとっていただきたい。そのためには、もしあなたが私の意見に賛同するのであれば、衆参両院のあなたの選挙区の国会議員、そして自民党本部に手紙を書くか、このメモに署名してそれを彼らに郵送してもらいたい。国会議員、自民党本部の住所は下記の弊社インターネットのWebサイトでも調べられるし、弊社にご連絡いただければ喜んで情報を提供させていただく。

また、このメモをあなたのまわりの人たちにも読んでもらって欲しい。そして皆が国会議員や自民党に手紙を出すか、このメモに署名してそれを彼らに郵送するように勧めて欲しい。

もし私がここで述べた意見に反対なら、是非知らせて欲しい。異なる意見を理解したいし、私の考えに間違いがあればそれを正したいからである。