今回は『VENTURE LINK』誌(1998年9月号)に掲載された、船井総合研究所会長である船井 幸雄氏に対するインタビュー記事をご紹介します。船井氏は、米国型市場原理を導入しようとしている日本を批判するとともに、日本にとって望ましい経済の姿が「製造業に徹してしっかり働き貯蓄して節約することである」と主張しています。また船井氏は、この記事の中で、経営者としての立場から、企業が目指すべき方向性についても触れています。船井氏の考え方は、私のかねてからの主張と共通するところがありましたので、是非お読みいただきたいと思います。皆様からのご意見をお待ちしております。
米国型市場原理は弱肉強食、自然摂理に反します
<<インタビュー>>
船井総合研究所会長 船井 幸雄氏
第二の敗戦論がかまびすしい。弱気になる日本人と盛り上がる一方の欧米崇拝。何も偏狭なナショナリズムを是認するわけではないが、自虐ムードがこのまま続くことにはメスを入れなければなるまい。
- 日本経済が悪化の一途を辿る一方で、アメリカ経済はバブルに突入したといわれて久しいですが。
船井: アメリカの景気は必ずしもいいわけではなく、軍需産業はレイオフをどんどんやっているし、アメリカの景気動向が一番わかりやすいハワイでは、競売件数が昨年の2倍近くに増えている。結局、アメリカは金融と情報が強いから、世界中からあぶく銭が入ってきて繁栄しているだけなんです。どう考えても、日本以外に上手に富を創出する国はないが、日本はいかんせん金融が弱い。
- 時代はどう動こうとしているのでしょうか。
船井: 様々な矛盾が露呈して、この数ヵ月はこれまでの10年、20年に匹敵する大変革期になります。企業はちょっとでも延命しようと思ったら米国型市場原理、いわゆるグローバル・スタンダードを求めるべきだというが、ヨーロッパはこれに横を向き出したし、僕はグローバル・スタンダードをやり出したら、日本は潰れると思っています。
- そういう八方ふさがりの現状で、日本はどうすればいいのでしょうか。
船井: いま、日本経済にとって一番必要なのは、不良債権の処理と財政再建に加えて小さな政府、つまり行政改革と、以上3つが必要。金融再編成なんていうのは、ついでにくっついてくるわい、と思っているというわけです。そこで望ましい日本経済の姿とは、日本の長所を伸ばすことなんです。まず日本人は勤勉だということ。製造業は世界一で、和の精神にすぐれている。いまの金融再編成はこの日本の長所を伸ばさずに、その逆の米国型市場原理に従って再編成しようとしている。
- 米国型市場原理とは、どういう考え方なのですか。
船井: それは次の4つです。
(1) 競争は絶対的に善である
(2) 策略はできるだけやればいい
(3) 自分が何より大事
(4) お金は何より大事
これらをそのまま進めていったら弱肉強食になる。つまり、現代社会が問われている地球のバランス崩し、社会のバランス崩しになってしまうわけです。現にアメリカでは、ホームレスがこの1年間に500万人から1,000万人に増えた。世界の人たちが「日本にくると一番ホッとする、日本のような国にしたい」といっているのに、日本の政治家や官僚はアメリカのような国にしたいという。
- 国情と時流に逆行する政策ではよくなるわけがないですね。
船井: おもしろいことに、去年1年、ハーバード・ビジネススクールが船井総研を徹底的に調べたんですね。米国型市場原理というもので今後、世の中を進めていけるか、それとも相対する意見を持つ船井総研のいうことが正しいのか、というクラス討論をやって、教授や学生たちの一部が、「どうも船井流でいかないと、うまくいかない」と気づき出している。僕の考え方は、自然の摂理に従ってやることです。
(1) 競争はできたらしないほうがいい
(2) 策略は絶対やらないほうがいい
(3) お金より大事なものがある
(4) 自分と同じくらい他の存在も大事である
こんな発想で経営をやったらうまくいく。自然の摂理に一番反するのは米国型市場原理なんです。
- 日本で米国型経営をやったらうまくいかない、と。
船井: 現在、1日に1兆ドルの金が動く。しかし、実需は300憶から500憶ドルくらい。実需の30倍から50倍の金が動いているんですよ。だからアジアのように、まともに働いている人たちの生活がうまくいかなくなっている。そもそもアメリカは、製造業で日本に敗北して、目をつけたのが金融業界。ほとんどがゼロサム・ゲームである金融業界に日本のお金をはめ込んでいって、日本の損失がそのままアメリカの利益になっていったんです。そうして世界の金を動かして儲けているだけのことなんですね。そんな米国型の金融再編成がいいなんて、とうてい考えられない。では、スッカラカンになった日本になぜ金融再編成を迫るかといえば、アメリカの金融機関が日本の金融機関を買収しやすくするためです。
- 日本は、まるでアメリカの植民地ですね。
船井: だから、日本の政治家や官僚とか大企業の経営者は、まったく目の見えない人ばかりだというんです。自然の摂理というのは、メチャクチャになるときはそれを叩き壊して秩序維持機能が働くんです。皆さんの予想もしなかったことが10月頃には起こるだろうというのが僕の意見です。だから、日本にとって望ましい経済の姿というのは、製造業に徹してしっかり働き貯蓄して節約することなんです。内需拡大なんてとんでもない。浪費しなければやっていけない社会なんていいはずがない。
1980年代後半から
(1) 競争から共生へ
(2) 秘密から公開へ
(3) 分離対立から融合協調へ
(4) エコノミーからエコロジーへ
(5) 浪費から節約へ・・・・・・
と時流は変わってきているんです。そういうときに、その逆の米国型市場原理を導入しようというのは間違っている。どんなに尻を叩いても日本では内需は増えません。増えないときに流通業のトップは店舗を増やすことしか考えてこなかったから、一昨年あたりから二進も三進も行かなくなった。どの企業でも節約、節約の日々。皆さんの家だって節約しているはずですよ。そういうときにどうして内需拡大だというんですか。中堅以上から大手の流通業者は危ないですよ。
- これから訪れる新しい価値観の時代に、企業という組織がどのように変わり、また、それを導くリーダー像、企業家像とはどういうものでしょうか。
船井: 企業経営者にとって、いま、企業経営の目的は3つある。ひとつ目は社会性の追求。これは、どれだけたくさんの人を雇うか、雇ってどうして食わして守っていくかですよ。それと並行して教育性の追求ですよ。これは、従業員とかその会社と付き合う人たちの人間性を引き上げる。魂を入れ、純化し、進化させるのが、人間として生まれてきた目的のひとつ。それを一番うまくできるのが、企業経営者。そして収益性の追求です。この3つが一体化しないと企業は存在し得ないし、そのような意識をもった人が経営者にならないとダメなんです。
- この未曾有の危機は、明治維新、終戦に続く第3の革命期という、とらえ方もありますが、
船井: この間、ヨーロッパに行ったら、日本は総売りだね。ヨーロッパ人は、日本のことを「荒れ果てたどうにもならん、いっさい投資したくない国」だと思っている。アメリカの策略にやられてしまってね。「バカいえ、日本の時代が来るんだ」といったら、投資家はびっくりしちゃってね。日本人はちょっと弱気になり過ぎ。ちゃんと外国人に説明してやらないと、日本が潰れてしまう。
- オピニオンリーダーといわれる人たちも、自虐的な言説をテレビや新聞で展開していますが。
船井: 確かに内需拡大はしないけど、いままでの経済の仕組みが間違っていたんで、これからは縮小して永続可能な社会にしないといけない。そのためにいま、一番いいことが起こっている。日本が牽引車にならないといけない。日本が一番リーダーシップをとれるような体質と仕組みがあるのに、一番ムチャクチャで、虚業と浪費ばかりしているアメリカのマネばかりしようとしている。
- ところで、日本はどうしてこんなにも卑屈な「植民地外交」をしているんでしょうか。
船井: 戦争で負けた国は、次の戦争に勝つまではダメなんです。世界の歴史がちゃんと示している。戦勝国に対して政治家と役人はまったく頭が上がらない。日本人が元気を出す方法は、アメリカ大統領に「第二次世界大戦はアメリカが悪かった」と日本に対して謝らせること。その運動をいまやっています。アメリカというのは、間違いなく正義の国。どう見ても原爆を落としたのは悪い。それに戦勝国が負けた国を裁くなんて間違っている。アメリカの宗教界に働きかけて、2005年までに絶対謝らせようと思います。それをやらないと、日本は元気が出ない。とくに役人と政治家はね。民間人は大丈夫です。つねに1対1でケンカしているから。
- 虚業の国アメリカに勝つにはどうしたらいいのでしょうか。
船井: いま、アメリカは実業が潰れかかっている。アメリカの国債を売ってしまったら日本の勝ち。アメリカは大統領権限で、アメリカにある資産を凍結できる法律がある。これをやられる前に売ってしまったらいっぺんに円高になります。
- そんなこと、やれますか。
船井: やれますよ。先手必勝。潰される銀行はたまったものじゃないから、アメリカの国債を売って生き残ればいい。
[『VENTURE LINK』誌より、許可を得て転載 ]