No.218 米国の歴史が語る「米国こそが世界一の悪党国家」(前編)

   米国のクリントン大統領は、イラクとその大統領サダム・フセインを非難し、イラクを「悪党国家」、「テロリスト国」と呼んでいます。米国はそのような残忍で攻撃的な政権を排除するためにあらゆる努力をしているといいます。以下はエドワード・S・ハーマンが『Zマガジン』に寄稿したもので、実は米国こそ世界一の悪党国家であるとする論説です。是非お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。

米国の歴史が語る「米国こそが世界一の悪党国家」(前編)
エドワード・S・ハーマン

 辞書によれば「悪党」には次の3つの要素が含まれるという。残忍であること、道義心に欠けていること、一方的な行動をとる傾向にあること。

 これがサダム・フセイン率いるイラクに当てはまるのは明らかである。残忍で道義心に欠けているのは1980年代のイランやクルド人への攻撃、さらには化学兵器の使用にも表れている。そして一方的な行動をとるという点についても、イランやクウェートへの侵攻がそれを物語っている。

 しかし、米国は1960年代のベトナム戦争でイラクよりも大規模に化学兵器を使用した。米国のインドシナに対する攻撃は、イラクが近隣諸国に与えた攻撃よりはるかに残忍で破壊的であった。

 道義心という点で忘れてならないのは、米国は1980年代にサダム・フセインを支援し、国際的な制裁から彼を守ってきたにもかかわらず、フセインが単独行動をとり始め米国の役に立たなくなると、イラク保有の「大量破壊兵器」を米国が容赦しなくなったということである。

 悪党という点において米国とイラクの違うところは、米国が世界の超大国でイラクはそれと比較すると弱い、地方の大国だということだ。米国は大規模な悪党で、イラクは小規模な悪党だといえるかもしれない。しかし、主流派の人間は誰も米国を大規模な悪党とは言わないし、どんなにそれが相応しくても米国にテロリスト国家あるいはテロのスポンサーというレッテルをはることもない。

 もしある一国が十分な力を持っていれば、地球の警察官の役割を担うことは当然で、誰が悪党で誰がテロリストかはその国が決める。そしてこの役割は、その国のメディアだけでなく、政治家や、さらには同盟国や従属国のメディアからも容認され、そう主張される。ラフォンテーヌがその寓話『オオカミとひつじ』で指摘したように、「最も力の強い者の意見が常に最善」となる。

 この最大の力を持つ者の支配下では、道義心の法則は支配者には適用されず、それ以外の者だけに適用される。この二重基準は力だけに基づく。これは様々なプロセスを経て実行されるが、その中で主流派メディアは、支配者が言語道断な行動や違法行為に出てもそれを無視または軽視するが、支配者と同等かそれ以下の敵の行動については怒りを募らせる。

 キューバが亡命者を乗せた飛行機を領空上で撃墜した際にメディアはそれを公然と非難したが、米国がフィデル・カストロの暗殺を何度も試みていたことが明るみに出たときには、まったく怒りも示さなければ「誰がテロリストか」を再考することもなかった。

 小国ニカラグアが米国の国家安全保障を脅かしているとして、1980年代に米国がニカラグアに対するテロ行為を正当化したときも、そしてイラクがブッシュ元大統領の暗殺計画を企てたとして米国が正当防衛の名の下に1993年にバグダッドを爆撃したときにも、重要人物の中でそれを嘲笑したり、憤慨したりする者は誰もいなかった。こうした不合理な正当化は「客観的に」報道され、米国の暴力行為は当然のこととして受け入れられた。

 世界一の悪党がいかに道義心に欠けていて、一方的行動をとる傾向にあるかをもっとも端的に表しているのが、国連と国際司法裁判所の扱いである。国連や国際司法裁判所が米国の目的にそわないと、米国は激しく非難し、法律に違反して分担金を滞納し、国連機関である国連教育科学文化機関(ユネスコ)や国際労働機関(ILO)から脱退し、さらに国連や国際司法裁判所の決定を無視した。

 米国は自国の目的を達成する隠れ蓑に国連を利用し、国連が米国の目的にそわない場合にはそれを許さなかった。

 そのもっとも顕著な最近の例が、国連を利用して1990年から91年に行ったイラク爆撃であり、イラクへの経済制裁は今も続いている。米国はイラクのクウェート侵攻を国連憲章に違反する不法占拠だとした。他の国連加盟国を威嚇、買収することで、世界一の悪党は国連からのお墨付きを得てイラクを自由に攻撃し、その後とられた経済制裁は今なお続いている。イラクではこれまでに数十万人にものぼる民間人が死亡している。

 実際には、国連憲章を破ったのは悪党の米国の方であり、いかなる和平調停をもかたくなに拒み、軍事攻撃を主張し、米国に自由裁量権を与える国連決議を履行した。ウラン増強砲弾や気化爆弾のような武器を使い、無力な、逃げ惑う多くのイラク兵士だけでなく避難民をも殺戮し、墓標もない墓場に彼らを葬り、ブルドーザーで塹壕に砂をかけてさらに数百人を殺害した米国は、国連の名を借りて、戦争法を破ったのである。

 イラクの場合は、世界一の悪党が自分に逆らうとどうなるかを小悪党に教えた例である。しかし、世界一の悪党の従属国に対する扱いはそれとは異なる。小悪党としては、南アフリカはおそらく、過去半世紀で最悪だったであろう。ナミビアを不法占拠し、そこからアンゴラを侵攻した。南アフリカのナミビア占領は、国連安保理と国連総会によって非難され撤退を命じられたが、それに従わなかった南アフリカに対していかなる措置もとられなかった。事実、米国はアンゴラ攻撃では南アフリカに協力した。

 もう1つの重要な例はイスラエルである。1967年、イスラエルはヨルダン川西岸地域とガザ地区を占領し、安保理が撤退を命じても20年間それを拒み続けたが、それに対していかなる罰則も適用されなかった。米国がイスラエルを支援しているため、その占領は国連の権限の及ぶところではない。米国はイスラエルを糾弾する40を超す国連決議に対し拒否権を行使した。

 国際司法裁判所については、米国はイランやその他の国に対してこれを効果的に利用した。しかし、1986年に国際司法裁判所が米国の違法な権力の行使に対して賠償を求め、ニカラグアに好意的な判決を下すと、米国はこの判決を無視した。

 世界一の悪党の特権に対して、いかに米国メディアが卑屈に従属しているかということは、『ニューヨークタイムズ』の社説が国際司法裁判所の判決を受け入れなかった米国を支持する論調で、国際司法裁判所を「敵意を持つ法廷」と呼んだことに表れている。国連についても『ニューヨークタイムズ』やその他メディアは、米国の国益を支持し、国連は無能であり米国の利益にならない間違った方向へ向かっていると唱え、湾岸戦争のときのように米国の手先として機能するとようやく、適切な役割を果たすようになったと述べた。

 ソ連の崩壊によって、米国は安保理を実質支配するようになり、常に国際司法裁判所や当然国連総会をも迂回して自国の目的を遂げている。そして、国連の名の下にイラクへの爆撃や制裁を行っただけでなく、パンナム機爆撃の容疑者引き渡しをリビアが拒否したとして、安保理を利用してリビアにも制裁を課した。米国支配の安保理は、誰が悪党でテロリストなのかを決定できる自由裁量権を手にした。

 この体制のもとでは、世界一の悪党の従属国や同盟国は制裁の対象にならない。

 第二次世界大戦終結以来、小さな爆撃や武力を使わない無数の破壊活動を除いて、米国はグアテマラ(1954年)、レバノン(1958年)、ドミニカ共和国(1965年)、ベトナム(1954年~75年)、ラオス(1964年~75年)、カンボジア(1969年~75年)、ニカラグア(1980年~90年)、グレナダ(1983年)、パナマ(1989年)に対して侵攻している。米国は過去半世紀に世界で最も多くの侵攻を行った。

[『Zマガジン』、 1998年2月号より翻訳転載。
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