前回に引き続き、エドワード・S・ハーマンの米国そのものが世界一の悪党国家だとする論説をお送りします。是非お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。
米国の歴史が語る「米国こそが世界一の悪党国家」(後編)
エドワード・S・ハーマン
ベトナムで米国は、1954年に締結されたジュネーブ条約を無視し、南ベトナムに傀儡政権を樹立させ、インドシナ全土を侵攻、爆撃し、約20年間に国連や国際司法裁判所からまったく干渉されることなく400万人もの人々の命を奪った。
1989年にはパナマへ侵攻し、指導者ノリエガを麻薬取引きと独裁主義の容疑で捕えた。しかし、ノリエガは麻薬取引きや恐怖政治を行っている間ずっと米国に雇われていたのである。パナマ侵攻の真の理由は、米国のニカラグアへの不法攻撃に対しノリエガが協力を拒否したためである。ここでも米国は拒否権とその力によって何の障害もなしに、ならず者としての行動をとることができた。
米国は、敵や犠牲者の中から誰が悪党で「テロリスト」かを素早く判別してきた。しかし中には、米国がスポンサーとして支援するテロリスト・グループもある。アンゴラのサビンビ、ニカラグアのコントラ、キューバの難民ネットワークなどはテロリストではなく、「自由の戦士」と呼ばれている。
CIAや米軍は最高のテロの道具でもあった。ウィリアム・ブルムはその著書『キリング・ホープ』の中で、米国の諜報員が暗殺を試みた35の個人やグループを挙げている。カストロやカダフィのように繰り返しその対象となった人物もいるし、実際、かなりの人数が暗殺されている。より大規模な米国のテロ行為は米軍によって遂行され、多くの民間人の負傷者を出した。ハノイ爆撃などがそうである。
米国によって保護されている従属国も世界のテロリズムの最前線にあった。1980年、エルサルバドルのリオ・スンプル川ではエルサルバドル軍によって約600人の民間人が大量虐殺され、1978年、アンゴラのカシンガ・キャンプでは南アフリカによって600人以上の難民が殺され、1982年にはサブラ・シャティラで1,800人以上のパレスチナ人がイスラエル人によって大量虐殺された。これらの虐殺はそれぞれが、PLO、バーダーマインホーフ団(資本主義社会の打倒を目標とするドイツのゲリラ集団)、赤い旅団(イタリアの都市ゲリラ)の合計と同じか、それを上回る死者を出している。
だが、これらは大量虐殺を行った政権のエピソードの1つにすぎない。米国はこの他にもマルコス、モブツ、イランのシャー、スハルトなどの政権を支持し、それには地球規模の国家テロの支援が含まれた。「テロネットワーク」はまさしく、市場拡大や米国支配の障害となるものをテロで取り除くために作られた米国の政策に他ならないのである。
こうした現実にもかかわらず、米国は断固として「テロリズム」に反対する国として描かれ続けているのは、西洋のプロパガンダの特徴である。
経済テロリズム
このゲームの経済における規則もまた、主に他者には適用されるが支配者にはあてはまらない。日本の自動車産業が米国に勝った1980年代、米国は輸出割当てを課した。この時期、米国は「積極的に一方的行動」をとり、神聖なる自由貿易の原則をもとに、他の国に市場開放を迫る圧力をかけていた。
さらにひどいことには、米国は政治的に敵対するベトナム、キューバ、イラン、ニカラグアその他の国に対して食糧戦争を行い、貿易や投資を禁止した。その結果、これらの国には深刻な飢餓、病気、死がもたらされた。1980年代、ニカラグアでは家計の実質収入が50%減少し、栄養失調が蔓延し、医療が行き届かなくなり、最終的にサンディニスタ政権が失脚した。
米国はキューバに対して破壊活動を行い、キューバの生活水準と健康状態を悪化させた。米国の世界健康協会の最近の報告によると、キューバに対する食糧戦争によって深刻な栄養失調が起きており、その影響は特に妊婦に著しく、低体重児の出産が増加したという。さらに、食糧不足によって何万人もの神経症患者が発生した。1989年~1993年のカロリー摂取量は3分の1に減少し、水処理用化学薬品や医薬品へのアクセスには特に大きな影響が出た。
キューバとイランに対する米国のボイコットや、二次的なボイコット、すなわちキューバやイランと取引きをする外国企業への報復の脅威は、米国が中心となって作成した世界貿易の規則に反する。しかし、米国自身はたいてい「国家安全保障」の名目で規則の適用から除外され、力によって例外を認めさせているのである。
世界一の悪党が行った経済テロで最も重大なものは、今なお世界中の人々の経済生活に米国が新自由主義モデルを強引に押し付けていることであろう。このプログラムを推進しているのは米国だけではなく、世界中の多国籍企業や、政府が有力な多国籍企業の奴隷になっている国家も多数支援している。しかし、多国籍企業の多くが本拠地とし、IMFと世界銀行を自在に操っている米国がリーダーであることに変わりはない。
この新自由主義モデルを押し付けることで、国家の自治権は剥奪され、その国の国民が組織化して伝統的な政治過程を通じて変化を起こさせる力が弱められた。所得と富の大部分が上位層に再配分され、この新しい世界の階級闘争では何億人もの敗者が計り知れない苦悩に直面している。
帝国主義の勝者による権力の乱用と搾取は、かつての英国やスペインの統治 にも見られるように今に始まったことではない。しかし、ここで異例なのは、米国をあたかも救世主であるかのように誉めそやす偽善の存在である。米国は「保護主義」や悪魔のような小規模テロリスト、悪党国家と戦って世界に民主主義をもたらしているという偽善である。これは、米国がやっていることが清廉潔白だと印象づけるためにでっち上げられたものにすぎないのである。
[『Zマガジン』、 1998年2月号より翻訳転載。
この雑誌の講読その他については、ホームページをご参照下さい。
http://www.zmag.org/ ]