No.226 自民党の放漫財政の財源を負担するのは誰か

自民党の放漫財政の財源を負担するのは誰か

自民党は10月だけで少なくとも87兆円の税金をばらまくことを決めた。この金額は日本国民1人当たりに換算して696,000円、給与所得納税者である約4,000万人で計算すると1人当たり2,175,000円に相当する。この87兆円の内訳は次のようなものである。

1. 10月3日、ワシントンにて東南アジア5ヵ国(インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ、フィリピン)に韓国、日本を加えた初のアジア新興市場国蔵相・中央銀行総裁会議が開かれた。通貨危機に見舞われたアジア諸国を支援するため、宮沢蔵相は総額300億ドル(3.6兆円)の支援構想を発表した。

2. 10月6日の閣議で小渕首相は追加的な景気対策として、事業規模10兆円を上回る第二次補正予算案を前倒しで編成することを明らかにした。

3. 10月8日、日韓首脳会談において小渕首相は歴史認識に関し、韓国国民に対して過去の植民地支配への「反省」と「おわび」を表明した後、日本は、韓国の経済危機支援のため、日本輸出入銀行による総額30億ドル(3,600億円)相当の融資の実現を図ることを正式に表明した。

4. 10月16日、政府は朝鮮民主主義人民共和国のミサイル発射への対抗措置として打ち出した朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)への資金拠出凍結を解除する方針を固めた。日本にはまったく発言権のないKEDOに対し、日本は約10億ドルを拠出する見込みである。それに対してKEDOの発案者であり中心的な役割を果たす米国は、10月15日までに、99年会計年度で3,500万ドルを限度にKEDOへ拠出することで最終合意に達している。小渕首相は、北朝鮮のミサイル発射に対する日本の遺憾の意は十分に伝わったとの判断のもと、北朝鮮からの正式な謝罪もなければ悔恨の表明もないまま、KEDOの分担金に関する合意文書に署名する方針を固めた。「日本側の遺憾の意が伝わったであろう」という首相の判断だけで、日本は簡単に10億ドルもの拠出を決めたのである。

5. 同16日、参院本会議において金融機関の破綻前処理の枠組みを定めた金融早期健全化法案などを可決、成立させた。これで、バブル期の博打のつけを払えなくなった銀行に対し60兆円の公的資金が注入されることになる。この決定によって、博打に勝った者は儲けを自分のふところへ、負けた者もその負債を関係のない国民に肩代わりさせられるという博打天国が築かれることになった。

6. 10月18日、堺屋経済企画庁長官はフジテレビの討論番組で、7兆円規模の法人税、所得税減税など、99年1月からの減税実施を政府として改めて表明した。

7. 10月30日、大蔵省は1998年度の一般会計税収が第一次補正予算後の見積りより、6兆円以上も不足するとの見通しを報告した。この税収不足のほとんどは橋本龍太郎首相による所得税および法人税減税によるものである。

10月に限って見てきた、これら自民党の政策はまるで論外である。政府自民党は、1965年にはGDPのわずか5%に過ぎなかった国と地方の長期債務残高を、1997年にはGDPの92%にまで増大させた。また、それが今年度前半には102%になると予測されていたが、この10月だけの支出および減税計画による87兆円の追加債務を加えると、今年度の国と地方の長期債務残高はGDP比119%に達することになる。

名目GDP    国と地方の長期  債務/GDP
年度      (兆円)    債務残高(兆円)    (%)
—-     ————   ————-   ——–
1965       33.8       1.6          5%
1970       75.3       7.3         10%
1975       152.4       32.1         21%
1980       245.5      118.2         48%
1985       324.3      204.8         63%
1990      438.9      265.8         61%
1995      487.4      410.1         84%
1997       515.8      475.5         92%
1998(前半)  519.7      529.0         102%
1998(11月現在)519.7      616.0         119%

さらに信じられないことに、自民党はこの87兆円にも上る放漫財政の財源についてまったく触れていないし、日本のマスメディアもこの点についてまったく言及していない。私には、この87兆円の財源として次の2つしか考えられない。

1つは消費税を10%、あるいは18%に引き上げることである。現に大蔵省が国会に提出した消費税増税に関する資料には、初めからこの2つの消費税率での試算が盛り込まれていた。消費税は、所得の中で消費に回る割合が最も大きい低所得者に厳しくなる税金である。消費税増税で財源を賄うことになれば、銀行救済や、高額所得者に有利な減税、その他の政策のための87兆円の大半を低所得者が負担することになる。弱者や貧困者に負担を強いることで強者や富裕者が得をするような社会には、公平さも崇高な道徳的義務もまったく存在しない。

もう1つは赤字国債で資金調達し、それを我々の子孫に支払わせる方法である。許可を得ずして他人のものを奪うのが盗人ならば、この行為も盗みと同じではないだろうか。公的債務を肩代わりしてくれるかどうかの許可を子孫から得ずに、公的資金を使い放題の我々はまさに盗人としかいいようがない。

しかし、これ以外にどのような財源があるというのだろうか。自民党の本性がこうした政策によって明確になったのであれば、次は国民が態度を明らかにする番である。自民党の政策を傍観し、黙認し続けていれば、強者や富裕者が弱者や貧困者から略奪する行為や、子孫に対する盗人行為に我々国民も加担することになるのである。日本国民に残されている選択肢は、これを許すか、あるいは自民党やその支持者を政権から退かせるよう全力を尽すかのどちらかしかない。