No.228 米国を350万人の億万長者がいる国とみるか、3,000万人の飢えに苦しむ人間がいる国とみるか

  今回は、私が定期購読をしている雑誌で見つけた広告記事「米国を350万人の億万長者がいる国とみるか、3,000万人の飢えに苦しむ人間がいる国とみるか ―― 米国で飢餓や貧困が増加している原因」をお送りします。これは米国のフードファーストという団体が掲載した記事であり、米国の実態を浮き彫りにするデータで裏付けられています。是非お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。

米国を350万人の億万長者がいる国とみるか3,000万人の飢えに苦しむ人間がいる国とみるか

  活況を呈する株式市場では株価があらゆる予想を上回る勢いで上昇している。その一方で、飢えに苦しむ人間の数も1985年以降50%の急増を示している。これが米国の実態である。一体何が起きているのか。

 『Diet for a Small Planet』の著者フランセス・ムーア・ラペを共同設立者の1人とするフードファースト(正式名称、Institute for Food and Development Policy-Food First)は、世界の極貧国における飢餓の状況を23年間にわたって調査してきた。しかし、それと同様の飢餓状態がこの米国でも見られることをここに報告する。

 読者自身もこの事実を知って欲しい。その分析結果がこれまでの既成概念といかに違っていたとしても、その事実に目を向けてもらわなければ効果的な行動に結びつけることはできない。地球上でもっとも富める国、米国で進行する飢餓に対して、我々ができること、しなければならないことはもちろんある。しかし、それに触れる前に、まず基本的事実を提示しよう。

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1. 富める者はさらに富み、貧しい者は飢える

いくつかの主要な指標から、米国の好景気とともに「発展途上国」と同様の状況が生まれていることがわかる。所得は増えたが、富は上層部に再配分されている。
<米国の上位20%の国民と下位20%の国民の収入の格差>

1970年 7.5倍
1990年 8.9倍

(出所:1990年の数字はUNDP、1994年より。
1970年の数字はUNRISD Discussion Paper#37、1992年より)

<飢えに苦しむ米国人の数は
中東と北アフリカの飢えた人間の合計に匹敵する>

中東と北アフリカ 3,700万人
米国 3,000万人

(出所:FAO、The Sixth World Food Survey 1996、ローマ)

<飢餓は食糧不足ではなく貧困による>

  まず、米国そして世界のどの国においても飢餓は偶然の出来事ではないということを知って欲しい。世界に食糧は不足していない。もちろん米国でも食糧は不足していない。

  また飢餓について知っておくべきことは、どの国においても、たとえ飢饉の時でさえ金持ちは決して飢えることはないということである。飢餓に陥るのは最も貧しい者たちである。  

  米国議会のために行われた調査によると、3,000万人を超す米国人、つまり国民の9人に1人が、毎月何日間か、自分または家族のための食べ物を買うことができない。そしてお腹を空かせた1,200万人の米国人(全体の40%)は子供である。

  1985年以降、米国で飢えに苦しむ人の数は50%増加した。偶然にもこの時期は米国がその歴史の中で最も長期間にわたり、絶え間ない繁栄を遂げた時期でもある。それにもかかわらずなぜ人々は飢えるのか。  
  それは、経済が拡大する一方で、その恩恵を受ける米国人の数は減っているからである。新しく創出された富の大部分が、米国の最富裕層の懐に入っている。確かに失業率は低い。しかし、働く貧困者たちはもはや自分達の収入だけでは生計を立てることはできない。

  飢餓の増加は、所得格差の拡大で説明がつく。第三世界でも同じ現象を見てきた。第三世界には、消費の高いエリート層、減少傾向にある苦闘する中間層、そして増大する飢餓層がいる。  

  今、同じ状況が米国で起きている。しかし、富める者も貧しい者もひとまとめにした楽観的な政府の経済報告からは、この事実は把握できない。

<空腹者にとって国家への忠誠は何を意味するのか>  

  飢餓についてさらに知っておくべきことは、公共政策が良きにつけ悪しきにつけ、目に見える真の影響をもたらすということである。  

  もし我々国民が飢餓の蔓延を黙認することをやめて行動を起こせば、1930年代の大恐慌以来、米国が何度も行ってきた救済措置を政府にとらせ、援助の手を差し伸べることができる。  

  しかし、もし飢餓の問題を隠し続ければ、政府は食糧援助プログラムを削減して、状況はさらに悪化する。米国では1985年以降、まさにそうなっている(ごく最近の削減は「福祉改革」と呼ばれた)。  

  米国で飢えに苦しむ人間の数が増加しているという事実を知れば、米国経済 に関する勝ち誇ったような公式報告書を誰もがいぶかしく思うであろう。明らかに、経済は歪み、貧富の差は拡大し、不平等は広がっている。「繁栄」を口実に、増え続ける貧困が無視されているのである。

2. 米国における所得格差は世界最悪である

  最も富める20%の米国人は、最も貧しい20%の米国人より8.9倍もの高収入を得ている。この数字は、ケニア、ホンジュラス、ジャマイカと等しく、インド、日本、バングラデシュ、ルワンダの2倍である。
<上位20%と下位20%の所得格差>

ケニア     9.1倍
米国      8.9倍
ホンジュラス  8.7倍
ジャマイカ   8.1倍
ドイツ     5.6倍
インド     4.7倍
日本      4.3倍
バングラデシュ 4.1倍
ルワンダ    4.0倍

(出所:UNDP、Human Development Report、1994年ニューヨーク)

  米国では過去最高の億万長者が誕生している。しかし、1人の億万長者に対して、無数の飢えに苦しむ人間も存在する。彼らにとっては毎月100ドルか200ドルのフードスタンプ(政府発行の食料券)だけが、栄養失調、さらには餓死に対する防衛手段である。

  マスメディアは不可分所得の最も多い人々をターゲットにしているため、海外の飢餓の映像はよく流すものの、米国内の飢餓についてはほとんど取り上げない。飢餓層が増えていることが政治的に無視されるのは恐らくこのためであろう。

  もう1つの理由は最富裕者層は隔離された世界に生きているからであろう。塀で囲まれたコミュニティで、民間の警備員を雇い、黒ガラスの戦車のようなリムジンに乗っていれば、こうした恵まれた人々は、米国内の飢餓の現実を目にしないで済むのである。  

  教育レベルや公衆衛生をはじめ、飢えが社会に与える代償は途方もないものになる。飢えを未然に防いだ方が費用は少なくて済む。しかし、富裕者はそうした公共投資よりも、飢えがもたらすものから自分を隔離するために個人的な支出を増加させている。

3. 億万長者のための経済

米国経済は「好転」したわけではなく、「乗っ取られた」のである。最も富める1%の米国人の所有する資産は、下位92%の米国人が所有する資産の合計よりも多い。米国経済は、国家の社会問題や経済問題とは遊離した生活を送るグローバル化したエリートの要求を満たしている。
<米国における富の集中>

- 上位10%の富裕者が所有する資産の割合 -

1976年 19%
1996年 40%

(出所:Top Heavy、エドワード・ウルフ著、ニュープレス、ニューヨーク、1996年)

<米国における飢えをなくすために
世界標準の最低限の人権擁護を>

  米国は個人の権利を守ることに誇りを持っている。個人の権利、それはすなわち人権である。しかし、世界の中で米国は唯一、極貧から食べ物を手に入れることもできない人に対して、それをその人自身のせいだと非難し、経済的な不公平に対しては政治的な解決策がないと無視する国なのである。その結果、米国民は先進工業国中最悪の所得格差や欠乏状態を容認している。我々の子孫のためにも、これをいますぐやめなければならない。  
  言論や宗教の自由のような普遍的な人権だけでなく、最低限の社会的、経済的人権が、50年前に国連で世界人権宣言(UDHR)として採択された。これには食糧の権利も含まれる。

  米国政府の政策はUDHR違反である。事実、ある政府高官は最近、「福祉改革」が国際的に認められた人権水準に違反するので、米国は食糧の権利を支持しないと認めている。

  主要な経済指標は、米国が直面する増え続ける飢えの問題については不十分で誤解を招きやすい。米国には国家の経済的、社会的政策を評価するための、新しい基準が必要である。その基準を独自に考案しようとするよりも、我々フードファーストの運動に加わって欲しい。そして米国政府に食糧への権利を含むUDHRを守るよう働きかけて欲しい。

  今現在、米上院議員の億万長者たちが米国で誰が食べ物を得るべきかを決定している。米国の人権擁護の行動に一貫性をもたせるためにも、米国人すべての最も基本的な人権を擁護しようではないか。  

  詳細については、フードファーストのホームページ(www.foodfirst.org ) にアクセスしていただきたい。

[Food Firstより許可を得て翻訳転載]