No.229 沖縄県知事選で問われるもの ―

去る11月15日、米軍普天間基地の返還問題や沖縄経済の振興策を争点とした沖縄県知事選において、代替施設の期限付き県内移設を訴えた自民党県連などが推薦した新人の稲嶺恵一氏が、「県外移設」を主張した現職の大田昌秀氏を破り初当選しました。

今回はこの沖縄県知事選に関連して、選挙前日に『ジャパンタイムズ』に掲載された日本政策研究所所長チャルマーズ・ジョンソン氏の普天間返還に関する分析をお送りします。稲嶺氏が当選したとはいえ、沖縄の有権者が基地の県内移設を容認したとは必ずしも言いきれず、沖縄県内の反基地感情は依然根強いと言われています。これを機会に在沖縄米軍基地だけではなく、米軍による日本占領そのものについて日本国民全員が再考することを期待します。皆様からのご意見をお待ちしております。

 

沖縄県知事選で問われるもの
知事選は日米両政府に「ノー」を言う好機である

チャルマーズ・ジョンソン
『ジャパンタイムズ』(1998年11月14日)

11月15日の沖縄県知事選は、単に次期沖縄県知事を決定する選挙ではない。隠されてはいるが、真のテーマは日米両政府が普天間海兵隊飛行場の問題に真剣に取り組むかどうかということである。両政府が沖縄の人々のためにその問題に真剣に取り組むのか、それとも見せかけだけのポーズで済まされるのかが決まるのである。

政府管轄の基地であり空港である普天間は沖縄の恥辱である。他の民主主義の先進諸国の中で、こうした基地を受入れる国はないであろう。普天間基地はうるさく、危険で、みんなの厄介ものであり、貴重な土地を間違った目的に使用している典型である。在日米軍がよく主張するような真の「良き隣人」になろうとしていたら、普天間基地はとうの昔に閉鎖されていたはずである。

普天間のヘリコプター部隊については、いくらでも代替案がある。東アジア最大の嘉手納空軍基地と合体させることもできるし、経済的理由からすればずっと以前に合体させてしかるべきであった。それが実現しなかったのは、ただ単に米空軍と米海兵隊という軍部間の張り合いによるものである。

また別の案としては普天間に駐留する海兵航空部隊を岩国海兵隊基地や、厚木海軍基地、ソ連の崩壊で必要なくなった三沢空軍基地、あるいは韓国にある巨大な米軍基地のどこかに移駐させることもできるはずである。普天間のヘリコプター部隊が沖縄の民間人に脅威を与えないようにグアム、ハワイ、カリフォルニアに移すことも考えられる。軍事的理由から東アジアへの再配備が必要になれば、長距離輸送機で一夜のうちに海兵隊を移駐させることが可能なのである。

実際、普天間のヘリコプター部隊は過去30年間、軍事目的には一度も使われていない。解隊するのが最もよいのである。北朝鮮で開発中の長距離ミサイルをも含め、考えられうる東アジアの軍事危機にとっては、あってもなくても同じだといえる。

しかし、沖縄にいる米軍にとっては現状のままがいいのである。彼らはこれまでずっと沖縄に駐留してきたし、在沖縄米軍の必要性が低下したからといって沖縄駐留米軍を縮小しなければならないとは考えていない。さらに、1995年の少女暴行事件やその後続発している暴行やひき逃げ事件に対しても、米兵の過失責任を認めたがらず、それらは単なる不運な“事故”であったと装っている。そのために沖縄県民の怒りを和らげるような見せかけの政策をとる一方で、沖縄駐留米軍については大幅な整理・縮小をまったく行ってこなかった。

台風が多く、環境保全が必須のこの地域に普天間空港の代替海上ヘリポートを建設するなどあまりにばかげているということは誰もが知っている。また、名護市にもう一つ空港は必要ないし、決して建設されないだろうということも皆わかっている。沖縄はハワイのカウアイ島より小さいにもかかわらず、すでに東アジア最大の米軍飛行場が3つも存在するのである。日米両政府が考えていることは、基地に対する沖縄県民の反感を鎮め、できる限り長く普天間基地を存続させることなのである。

日本政府と米国防総省は皮肉で危険なゲームを行っている。日本政府は、沖縄に高失業率という状況のお膳立てをしたところに自民党推薦の稲嶺恵一氏を沖縄県知事に送り込み、沖縄県民が稲嶺氏を選出すればその状況が緩和されるとしたのである。一方で米国政府の懸念は、世界的覇権を堅持すべく、世界中で米国の野望を遂げるための特別保護区として沖縄を利用し続けられるかどうかである。両国政府が願っているのは、沖縄県民(特に大田昌秀知事)が従順になって自分達の命令を何でも受入れることである。そして米国は、沖縄に米軍を駐留させ続けると同時に、その費用を日本政府が引き続き負担することを期待しているのである。

すべての日本国民は、この高価な傭兵を本当に雇い続けたいのかどうかを考えてみる必要がある。日本を巻き込んだ次の紛争で命令を下すのは、雇い主側の日本ではなく、傭兵側である米軍なのである。そのような危険を伴なう暮らしを実際に体験してきた沖縄県民は、それが何を意味するかを知っている。だからこそ彼らはあれだけ怒りを露わにしているのである。

チャルマーズ・ジョンソンはカリフォルニア州サンディエゴにある日本政策研究所の所長である。

[著者の許可を得て翻訳転載]

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チャルマーズ・ジョンソン氏も触れていた沖縄で続発する米兵によるひき逃げ事件と、その後の日本政府の対応に見る米国への隷属的姿勢に関する私の見解を下記に添付しますので、併せてお読み下さい。   皆様からのご意見をお待ちしております。

米兵による飲酒運転、ひき逃げに見る日本の米国への隷属

98年10月に沖縄で起きた米兵による2つの事件は、日本政府が主権国家の統治者を装いながら実際には米国の植民地として日本を統治している、と考える私の見解を証明するものである。

10月30日、在沖縄海兵隊員が軍公用車を飲酒運転し、駐車中の車3台と原付バイク1台に衝突、バイクに乗っていた仲尾次仁さんに軽傷を負わせて逃亡した。容疑者はキャンプ・シュワブ所属の第四海兵隊本部大隊伍長、スコッティ・ジャクソン(22才)で、業務上過失傷害、道交法違反(ひき逃げ、酒気帯び運転)の容疑で11月1日、那覇地検に身柄付き送検され、11月6日に起訴されたが同日、沖縄簡易裁判所は罰金15万円の判決を下し、ジャクソンは罰金を支払った後その日のうちに釈放された。

日本人が同じ酒気帯び運転およびひき逃げ容疑で起訴された場合、たった7日で釈放されることがあるだろうか。犯人が日本人だったら飲酒運転とひき逃げに対する罰金がわずか15万円で済んだであろうか。また、日本人だったら刑務所に入れられるのは確実ではなかっただろうか。私はこうした疑問を次々に持ったが、日本人はこのような不公平な対応に何も感じないのであろうか。

沖縄県内では、10月7日にも北城村の県道でミニバイクを運転していた県立北中城高校3年の上間悠希さんが飲酒運転の米海兵隊員の車にひき逃げされ、死亡するという事件が起きている。この事件の容疑者、ランダル・エスクリッジは、11月18日に道交法違反(ひき逃げ、酒気帯び運転)の容疑で裁判にかけられることになっている。上間さんの遺族に2,600ドルの香典を支払った海兵隊は、エスクリッジと同様の軽い判決で済むと考えていることはまちがいない。

日米安全保障条約に基づく駐留米軍によるこうした事件は跡を絶たない。なぜ日本国民はこうした状況を許しているのだろうか。