激増する世界人口
日本の高齢化に関して政府やマスコミが示すばかげた懸念は、日本の政治指導者やオピニオンリーダー達の見識が現実からいかにかけ離れているかを端的に表わしている。博打に夢中になった金融機関に60兆円もの公的資金を注ぎ込むように、政府やマスコミが日本社会を改善するための政策ではなく、社会を損なう政策ばかり提言していることを示すもう一つの例である。
日本の人口構造が高齢化している理由は2つある。まず第一に、日本人の寿命が延びたためである。日本が世界でもっとも高齢化が進んでいることを心配する人々は、日本人の寿命が世界一長いことについては触れない。日本人は寿命が長いだけでなく、世界で最も健康である。長寿や健康であって何が悪いというのだろうか。
日本の高齢化のもう1つの理由は少子化にある。しかし、少子化は本当に問題なのであろうか。過去200年間、世界人口は爆発的に増加し、それが人類の生存そのものを脅かしている。世界人口は紀元前8000年から紀元1000年までの9000年間に1,000万人から3億人に増え、次の750年間に8億人に増えた。1000年から1750年までの人口増加率は0.1%であった。その後1800年に10億人に達し、次の130年間で倍の20億人になった。その後30億人になるには30年間、40億人になるにはたったの14年間しかかからなかった。現在の世界人口は1800年の5倍以上、1930年のほぼ2.5倍以上であり、現在は年間8,000万人の割合で増加している。今後もこの速さで増加し続ければ、2030年には90億人に達するといわれている。(ブリタニカ1996年より)
年 世界人口
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紀元前8000 10,000,000
紀元0 300,000,000
1000 300,000,000
1750 800,000,000
1800 1,000,000,000
1930 2,000,000,000
1960 3,000,000,000
1974 4,000,000,000
1990 5,000,000,000
世界中の指導者が人類の存在そのものを脅かす人口の爆発的増加を問題視している一方で、日本の政治家やマスコミは人口を増加させるための方法を模索している。また、日本の指導者やオピニオンリーダーはこの国の人口過剰や過密化といった問題に驚くほど無関心のようでもある。以下の表は、日本の人口が過去1世紀の間にいかに激増したか、この小さな島国にいかに多くの人間がひしめき合うようになったかを示している。
年 日本の人口 人口密度
(百万人) (1平方km当たり)
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1872 35 91
1932 66 174
1952 86 233
1972 108 289
1992 124 334
1996 126 337
(出所:朝日新聞ジャパン・アルマナック 1997年)
OECDのデータによれば、日本の人口密度は他のG7諸国平均の13倍、他のOECD諸国平均の11倍にもなる。
OWメモ『日本の生産性は低くない』(No.212)で日本人の生産性を取り上げた時にも述べたが、生産性が急増したということは、より少ない数の勤労者でより多くの定年退職者を養うことができるということを意味する。日本の生産性は10年前に比べると60%増、20年前の3.5倍、30年前の13.6倍にも増加している。高齢化に比べてこれだけ急速に生産性が伸びているのであるから、高齢化は災いというよりも、むしろ恵みのはずである。生産性の増加により日本人は消費しきれない量の商品やサービスを産出している。生産過剰によってもたらされる失業や貧困を防ぐには、我々が労働に費やす時間を減らすしかない。生産量が消費を上回るのであれば、その分の時間を余暇にあてるべきである。労働日数や労働時間を減らし、その分勉強やお年寄りの支援に時間を注ぐのである。
日本の指導者は子供の数を増やして社会をさらに過密化させることを思いあぐねるよりも、生産性の向上が国民に害をもたらすのではなく、助けになるような方法を模索すべきである。