経済に壊滅的な打撃を与えている金融危機は、何千社もの企業を倒産に追いやり、何百万人もの人々の職を奪い、国民の貯蓄を消失させると同時に、老後のために必要な年金まで奪う危険性があります。この金融危機は極めて複雑で対応に注意を要するものではありますが、間違った解釈が多いのも事実です。こうした問題はおそらく、自国の問題としてよりも、遠く離れた国の問題として捉えてみるとより客観的に冷静な判断が下せるのではないでしょうか。
そこで今回は、カナダの銀行がウォール街の海賊たちと共謀して、いかにカナダドルの価値を低下させ、政府を蝕み、経済を略奪してきたか、その経緯を書いたオタワ大学経済学部教授マイケル・チョスドフスキーの論文をお送りします。日本の状況を理解する一助となれば幸いです。
カナダドルに対して投機を行うカナダの銀行
マイケル・チョスドフスキー
カナダドルの下落について、これまで政治家も金融アナリストも一様に「アジアの風邪」と「それに伴うカナダの主要輸出品の値下げ圧力」のせいだと説明してきた。しかし、カナダの主要輸出品が外国為替取引に占める割合は1%にも満たず、いうなれば大海の一滴に過ぎない。1日の外国為替取引高550億カナダドルのうち、主要輸出品の取引高はわずか3億3,700万カナダドルであり、つまり取引きの90%以上は投機的なものである。
一般国民は明らかに間違った説明をされている。カナダドル下落について政府の説明は理にかなっておらず、外国為替市場の影響を考慮していない。世界の為替市場を一掃した投機の波は、「アジアの虎」と呼ばれた国だけではなく、カナダを含む西欧諸国にも打撃を与えた。
カナダの金融機関もその投機の波を仕掛けたグループの一員だった。特許銀行(カナダ政府から特許状を得て営業している商業銀行)を含むカナダの金融機関は、定期的にカナダドルに対する投機に関与している。ありとあらゆる投機商品を利用してこれらの金融機関が行う外国為替の取引高は、途方もない金額になる。カナダの外国為替市場の1日の取引高は554億カナダドル(360億米ドル)以上にのぼり、これはカナダ人が受け取る給与や賃金の32倍に相当する。
何百億ドルもの取引高のうち、正当な商品取引きの金額はわずか25億カナダドル(16億米ドル)である。また外国為替取引高の97%が対米ドルであり、このこともカナダの銀行が米国の金融界の一部であると示唆している。
カナダドルに対する投機を主に行っているのは、特許銀行、信託銀行、証券会社、外国為替ディーラーを含むカナダの36の金融機関である。彼らが顧客のために行う投機はそのうちのごく一部に過ぎない。
カナダドルは今や「北米のペソ」となった。アジアや中南米の通貨を不安定にしたのと同じ手法が、カナダや米国の金融機関のカナダドルに対する攻撃において定期的に使われてきた。
この影響は広範囲に及ぶ。カナダドルに対する投機的な攻撃はカナダの通貨政策を崩壊に追い込んだ。政治家たちは通貨に対する投機の存在と、その恐ろしい影響を認識していなかった。通貨の下落は悪いことのように見えるが、弱いカナダドルが雇用の創出につながるために良しとされた。その結果、カナダドルの下落を防ぐ措置が講じられず、もちろんカナダの金融機関に対していかなる規制も課せられなかった。政治的措置がとられなかったことで、投機家はそれを最終的なゴーサインと捉えたのだった。
カナダドルに対する投機活動の急増は、カナダの外貨準備の劇的な流出につながった。98年後半の数ヵ月間に、カナダ中央銀行はカナダドルの価値を上げるために外国為替市場で数百億ドルの契約を結んだが失敗に終わっている。中央銀行の金庫はカナダと米国の投機家に襲撃され、結局、何十億ドルものカナダの外貨準備が民間の金融機関の手に渡った。
ウォール街の債権者がカナダの中央銀行を救済
外国の債権者による銀行救済は、メキシコ、韓国、インドネシアだけに当てはまるというわけではない。カナダの中央銀行(カナダ銀行)はカナダドルの買い支えに失敗した結果、ウォール街の銀行団(チェース・マンハッタン、シティバンク、モルガン・ギャランティ・トラスト、クレディ・スイス・ファースト・ボストンを含む)と60億米ドルの救済を再交渉しなければならなくなった。銀行用語で「スタンバイ・クレジット・ファシリティ(借入れ予約措置)」と婉曲に呼ばれるこの救済措置は、カナダ中央銀行に外貨準備を新たに供給するためのものだった。「最後の貸手」といわれる中央銀行が、借金で外貨準備を補給せざるを得ないという、考えられない状況に陥ったのである。
こうしてカナダにおける最後の貸手は、カナダ中央銀行の債権者であるウォール街となった。1991年から預金準備率が引き上げられ、カナダ中央銀行ではなく民間の銀行が完全に通貨創造を管理している。いい換えれば、カナダおよび米国の民間の金融機関が所有する預金準備高の規模はカナダ中央銀行の限られた資力で対応できる範囲をはるかに超えている。ウォール街はカナダ最大の特許銀行と一緒になって究極的な采配を振るっている。投機的な取引きを通してこうした銀行がカナダドルの下落を引き起こし、最終的に通貨政策を崩壊させたのである。
皮肉なことに、カナダドルの下落に一役買った当の銀行が、借入れ予約協定に基づきカナダ中央銀行が借入れた外貨準備によってカナダドルを立て直す手助けをするよう求められたのである。その借入金はカナダ中央銀行の外貨準備の大半を占めている。
カナダドルに対する投機は中央銀行の消滅および、中央銀行を通じた連邦政府による通貨創造の統制が機能しなくなったことを表している。これは同時に、カナダの通貨政策がカナダ中央銀行の債権者であるウォール街の手に移ったことを意味する。
カナダ財務省が1998年10月に発表した、1997~98年度の財政黒字であるわずか35億カナダドルでは、ウォール街への借金の利払いがやっと賄えるに過ぎない。カナダ政府がウォール街の債権者への返済に、社会保険制度の黒字分の一部を使いたいと思っているのは間違いない。
カナダ中央銀行がトロント連邦準備銀行に?
中央銀行の将来はどうなるのか。外貨準備が枯渇したカナダ中央銀行は近い将来、単なる通貨局となってカナダドルと米ドルを、例えば2カナダドル=1米ドルの固定相場制にするかもしれない。あるいは、カナダドルは完全になくなり、カナダの物価および賃金はすべて米ドル建てになるかもしれない。カナダドルはすべて米ドルにとって代わられ、カナダ中央銀行は米国の金融制度の一部に組込まれ、カナダの特許銀行を株主とする米連邦準備制度の13番目の地域準備銀行になるかもしれない。
[著者の許可を得て翻訳転載]
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