今回はコソボ紛争に対する米国の外交政策を取り上げた2つの記事をお送りします。最初の記事の執筆者である米国陸軍最高の軍人養成機関、陸軍戦争大学校の特別研究員、ハリー・サマーズ2世は、米国のコソボ介入は犯罪以上の悪であると記しています。コソボ自治区のイスラム教徒に肩入れする米国はケニア、タンザニアの米大使館同時爆破テロ事件の首謀者であるラーディンを間接的に支援していると、米国の外交政策の矛盾を指摘しています。
また、2つ目の記事はコソボ問題をアメリカのカリフォルニア州に例えて説明しています。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。
バルカン問題:アメリカはコソボの呪縛にとりつかれている
『ワシントンタイムズ』紙、1999年1月26日
ハリー・サマーズ2世
シカゴほどの人口もないセルビア共和国コソボ自治州はクリントン政権にとって一生ついて回る十字架のような存在であり、そのやり方がいかに傲慢で、また外交政策がいかに愚かなものであるかを証明する事例である。
S.T.コールリッジの『老水夫行』の老水夫同様、オルブライト国務長官もコソボについて警告を発してきた。それは、彼女がコソボの呪いを知っていたからである。
177年前、クインシー・アダムズ国務長官は、米国が自由や平等を装い、しかし実際にはそれを侵害してバルカン諸国に介入すれば、利権や陰謀、強欲や妬み、野心などのすべての争いから抜けられなくなると警告した。そして、今まさにその通りになっている。
かつて米国は、どの国よりも国内の安定を誇り、国家の独立を神聖なものとしていた。しかし、クリントン大統領が民主主義の拡張を国家戦略として打ち出してから、米国は内乱と革命の扇動者として、かつてのソビエト・コミンテルン(国際共産党)にとって代わった。しかし、革命とは何かを熟知していた昔の共産主義の工作員とは違い、米国は自国の政策が焚き付けた残虐行為に恐れおののいている。
ジョン・クインシー・アダムスの正統な助言、そしてもっと最近では元国防長官のウィリアム・ペリーが1994年11月に発した、米国のバルカン介入は最善の国益ではないという警告にもかかわらず、米国はコソボに介入した。
ボスニアには善玉がいないことが明らかなのにもかかわらず、米国はイスラム教徒に味方して、クロアチアとセルビアを悪魔の化身だと中傷した。
同様の偏見が、この地を何世紀もの間支配してきたセルビアからの独立を求める運動につながり、アルバニア系イスラム教徒のコソボ解放軍(KLA)の反乱を引き起こした。米国はボスニアでコソボ解放軍の反乱を焚き付けただけではなく、セルビア大統領のミロシェビッチが自国内の反乱を沈静化しようとしたのを非難した。それはまるで、サミュエル・ジョンソンの風刺話にある、活きたうなぎの皮を剥ぐ魚屋の話のようだ。
1999年1月、コソボ地方ラチャック村の40人以上のアルバニア人がセルビア治安部隊によって虐殺されたことが、大きく報道された。政治家たちは遺憾の意を表し、NATO諸国の首脳はセルビアを爆撃するためにアドリア海に軍艦を配備することを検討した。しかし、98年8月にセルビア人がクレッカで殺害されたときや、また最近KLAテロリストがラパスチアとオブランザにあるセルビア人の住居に押し入り、セルビア人の警察官が殺された時にはこのような抗議の声が上がったことはなかった。
ワシントンポストに対して、セルビア人のポデュデボ市長ミロバン・トムキックは「これは民族浄化としかいいようがない」と語った。また、町外れに住むセルビア人の農婦は「いったいなんて国なの、国が守ってくれないなんて」と嘆いた。
しかし、国が彼らを守ろうとしても、また海外からの軍事介入によって直ちに脅威に晒されるだろう。米国は外交政策を極度に捻じ曲げ、今や米国の大敵であるイスラム教徒のテロ指導者オサマ・ビン・ラーディンが支援、煽動するKLAゲリラを暗黙のうちに援助することになった。ラーディンは98年8月のケニア、タンザニアの米大使館同時爆破テロ事件の首謀者とされる男であり、『ロンドンサンデータイムズ』紙は「ラーディン率いるグループはコソボに義勇軍を送り込むイスラム原理主義過激派グループの1つである」と報道している。彼らの目的はこれらのイスラム国家をヨーロッパでの活動拠点にすることである。
18世紀のフランスの政治家タレーランの言葉を借りれば、米国のバルカン政策は犯罪以上の悪であり、大失策である。ヨーロッパにイスラム・テロの基盤を育てることは米国の国益に反するだけではなく、バルカン介入の目的そのものを取り違えていることになる。バルカンの安定を図ることを名目にした米国の外交政策は、イスラム革命を支援することになり、まさに最初の目的とは逆を達成する結果となった。近隣のモンテネグロとマセドニアも、コソボ同様の内乱の危機に直面している。またNATO加盟国であるギリシャも、自国内の安定を懸念している。
コソボの呪いはどうすれば取り除けるのか。ベトナム戦争で学んだように、泥沼化する内戦に深く介入することは決して解決策にはならない。しかし、今になってコソボから手を引くためには、クリントン政権は自分の政策が過ちであったと認めなければならない。大統領弾劾裁判でわかったように、過ちを認めることはクリントン政権の切り札にはなり得ないようだ。クリントンが過ちを認め、コソボから手を引く可能性は低いであろう。
[Copyright 1999 News World Communications, Inc.
『ワシントンタイムズ』紙より許可を得て翻訳転載。
無断転載・複製を禁じる。]
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コソボの真の犯罪はNATOによる軍事干渉
『オーランド・センティネル』紙 1999年2月25日
チャーリー・リース
今から10年後、カリフォルニア州人口の90%がラテン系、10%が白人となり、ラテン系住民が2つのグループに分かれたとする。1つのグループはカリフォルニアのラテン系住民の自治権を求め、もう1つのより過激なグループは独立したいという。そこで米国連邦政府はカリフォルニア州の警察を増強し、連邦軍をカリフォルニアに派遣する。
すると中国とロシアが、カリフォルニアでの米国政府の行動は北半球の安定を脅かすと主張し、さらに、米国はラテン系住民に自治権を与えなければいけないという。そして軍隊および警察を引き上げるよう主張し、さらに米国がその要求を盛り込んだ合意内容をきちんと遵守するかどうかを監視するために、中国とロシアが軍隊をカリフォルニアに駐留させ、米国側が受け入れなければ空爆すると威嚇する……。
この仮定の話は、コソボをカリフォルニアに、ラテン系住民をアルバニア系住民に、さらに中国とロシアを米国とイギリスに置き換えれば、そのままセルビア人が直面している状況と等しくなる。まったくばかげた気違沙汰である。
2月23日、両陣営が完全な合意に達しなかったためにコソボの和平交渉は2週間延期された。セルビア人への空爆を正当化するためにも、米国がアルバニア系住民の合意を求めているのは明らかである。まったくおかしなことだ。
交渉の成果がどうであれ、北大西洋条約機構(NATO)がユーゴスラビアをもはや独立した主権国家ではないといとも簡単に明言し、ユーゴスラビア国内問題の処理方法を指示できると考えていることは、大きな犯罪である。
この狂った政策が持つ影響力は計り知れない。NATOの本来の役割は防衛にあるという考え方などいまやまったく残っていない。NATOはヨーロッパの新しいごろつきであり、ごろつきの仲間に入っていないヨーロッパ諸国は、万一に備えて戦いの準備をしておくべきである。
国連はもはや役に立たず、費用ばかりかさむ無用の組織であり、自らが国連憲章を破り、新しい悪の帝国である米国の手先以外の何者でもないということは、地球上のすべての国が知るところである。国際法や国連憲章などを持ち出しても、嘲笑されるのが関の山だろう。
私は、ビル・クリントンを頽廃的な社会病質者だと常々思っていたが、ついに気が狂ったのかもしれない。NATOを拡大し、それを利用して独立主権国家が外国の命令に従わないからといって、威嚇し、制裁することは悲劇的ともいえる大失策である。
独善的で傲慢な米国人が、ロシアを破産した弱小国だと嘲笑するのを私は見てきた。経済制裁によってイラクの子供たちが数多く殺されていることにまったく関心を払わない、冷酷な米国人の姿も目にしてきた。
しかし、今さら米国人が独善的だとか傲慢だとかいってもはじまらない。滅びゆく帝国の寵臣たちはいつもそうだった。詩人のロビンソン・ジェファーズはそれをうまく言い得ている。「他者が味わった敗北という残酷な恐怖を、我々も味わうのは明らかだ。だからドイツを見て、将来を思い描け。もちろん、女は地下室のネズミのように、男は山のオオカミのように死ねればいい。しかしそうはならないだろう。男はののしり、へつらい、服従し、女は一かけらのチョコレートのために、にやけた征服者に身を任せるであろう」
たとえ怖気をふるう予測でも、宇宙の法則を避けることはできない。法の支配を崩すことは自分達の保護を取り払うことであり、国家の主権という概念をないがしろにすれば、自国にも跳ね返ってくるのである。
クリントンが世界の帝王になるのは問題だ。彼はわがままで自己中心的、人間的に卑怯で残酷で不道徳であると同時に、無能でもある。彼は世界を弱肉強食の無法地帯に戻しながら、愚かにも自国の牙や爪を捨て始めているのである。