政府自民党は昨年、不況を解決すべく努力しているふりをしながら、日本の負債を71兆円も増加させた。“努力しているふり”というのは、自民党の真の狙いがこの不況を利用して自分の利益および支援者達の利益を増やすことにあると私は考えるからである。彼らの真の狙いは、バブル期に大手銀行が行った博打の負債を納税者に肩代わりさせることであり、さらには税負担を「天下り官僚を雇い、腐敗した政治家に政治献金を行う」裕福な権力者達から、「正直、勤勉、質素」という言葉で形容される一般国民に転嫁することだった。
71兆円がどれほど多額の負債であるか見当もつかないであろう読者のために、より身近な数字に換算しよう。生まれたての赤ん坊も含めた全国民の人数でこれを割ると、国民1人当たり56万8,000円、納税者1人当たりで計算すると177万7,000円にもなる。たった1年間にこれだけの負債を増やしたのである。
日本の高度経済成長期には国と地方を合わせた長期負債は国内総生産(GDP)のわずか5%でしかなかった。すなわち我々の祖父母の代はほとんど無借金の状態で日本の国を次世代に残したといえる。しかし浪費家である今の世代が日本を引継いでから、日本の借金は雪だるま式に増加し、現在の日本の公的債務は560兆円にも達した。GDPの112%、国民1人当たり448万円、納税者1人当たり1,400万円である。
日本政府はこれをどう返済するつもりなのか。政府は法人税、所得税の恒久減税を推し進め、一方では消費税収を福祉目的化する方向で検討している。このことは、政府自民党が自分達が増やした借金を自分達で返済するつもりがないことを言明したに等しい。現在の日本国民は、無借金の国を先達から引継ぎ、それを負債まみれの国にし、さらにはその借金を後世に押し付けた世代として汚名を残すことになるだろう。
日本のGDPに占める公的債務残高の割合は、他の国と比較しても惨澹たるものであり、先進国中最悪である。また日本の財政赤字はGDPの10%にも達しており、ブラジルよりもひどい状態にある。ブラジル経済が破綻寸前であることは周知の通りであるが、ブラジルの状況こそ、これから日本が直面すると思われる状況なので、今後はブラジルの情勢を注視する必要があるだろう。
健全だった経済が腐敗する政治家や官僚の私利私欲によって歪められたことはやりきれないが、さして驚くべきことではない。政府の腐敗はむしろ世の常だからである。それよりも私が最も驚き懸念しているのは、政治家、官僚、いわゆる経済や金融の識者、そしてマスコミの誰一人として、この戦後最悪の不況の原因を理解していないように思えることである。原因を理解していない彼らには、もちろん解決方法もわからない。
私は昨年来かなりの時間を費やして、日本の不況の原因を探ってきた。その結果、何が日本経済を苦しめているのか、またこの苦境を乗り越えるためには何をすべきかについて私なりの結論に達した。不況の原因に関する私の分析、そして私が日本に提案する解決策について、今後数回にわたって説明する予定である。
日本の不況の原因に関する考察(1)
今回はまず、No. 244~246(「日本はなぜ金融恐慌に陥ったか - そこから脱出するための代価」、「日本が経済的困難から抜け出すために支払うべき代償(前・後編)」)で掲載したニューヨーク在住のエコノミスト、マイケル・ハドソン氏の見解を再度検討してみることにしよう。
ハドソン氏は、日本の銀行が株や債券、通貨による銀行自らの博打、またそうした博打向け融資によって、日本の個人金融資産1,200兆円の4分の1がすでに消滅したと指摘した。日本の銀行は預金者から預かったお金を全額返済することはできない。なぜなら銀行には資金がないからである。銀行が所有しているのは、銀行自ら購入した、または不良債権の担保として差し押さえた株や債券、土地、為替だけである。銀行が所有する現金、株、債券、土地、為替をすべて合わせても、預金者から預かった金額の4分の3にしかならないというのが、マイケル・ハドソン氏の見解である。
この状況を立て直そうと、日本政府がとった不適切な政策は金利の引き下げであった。金利を引き下げれば、銀行が所有する資産価値が再び高騰すると愚かにも考えたのである。この戦略も金融ビッグバンを行っていなかったら功を奏したかもしれない。しかし実際には、政府が日本国内の金融基盤を守るという責任を放棄し、そのための武器をすべて捨て去った後の金利引き下げであったために、結局、日本は預金の消滅よりもっと深刻な事態へと引きずり込まれたのである。資本が自由に移動できるようにすべての障壁を取り払った後で国内金利を下げれば、日本の貯蓄は金利の高い海外に流れるのは当然である。その結果として、日本国内では貸し渋りが起こり、企業の倒産件数や失業率は戦後最高記録を更新するという事態になった。
ハドソン氏は、日本がこの経済危機を乗り越えるためには最悪の選択肢の2つのうち、いずれかをとるしかないという。1つ目は、増税を行い、銀行が失った貯蓄を税収で補填するというもの。預金者に全額返済できるよう、税金で補うのである。これは日本が米国にいわれてすでに実行している政策であり、ハドソン氏もこれが根本的な解決策になるとは考えていない。もう1つの選択肢は、もっと現実を直視したものだが同じように最悪の方法で、貯蓄の4分の1が博打で消滅したことを認め、すべての預金者に貯蓄の4分の1を帳消しにさせるという方法である。400万円の預金があった人には残高を300万円に変更することを認めさせるのである。
ハドソン氏は、日本政府が金利を引き上げさえすれば、どちらの解決策を選ぼうとも、銀行に銀行本来の役割、つまり国民に雇用を提供し、国民が必要としている製品やサービスを提供する日本企業向けの融資を提供させるようにすることは可能であるという。ただし、どちらの選択肢も、博打で負債を作った張本人である銀行が利することになる。銀行は博打を行って負債を作っても、また政府がなんとかしてくれると考えるであろう。そこで銀行にそうした不正行為を繰り返させないための措置が必要だとハドソン氏は提案する。
工場、事務所、機械、設備、研究開発などの直接投資の割合が高ければ高いほど、日本の貯蓄を長期的に支える基盤は頑丈になる。逆に、投機向け融資が多ければ多いほど、貯蓄を支える基盤が架空のものとして消え去る可能性は高い。そこでハドソン氏は、銀行が投機ではなく設備投資や研究開発、雇用などへの生産的投資を行った方が自分達の利益になると考えるような、規制や税制が必要であると主張している。
銀行の博打が損失を招き、またその損失を取り戻そうとして日本政府がとっている政策はすべて的外れであるとするハドソン氏の主張のほぼすべてに私は同意するが、1つだけ同意できない点がある。それはハドソン氏が、銀行が生産能力増大のための融資ではなく、博打に資金を投じたために問題が生じたと主張している点である。私も以前はそう思っていた。しかし多数の書物を読み、分析した結果、日本の銀行が博打に興じたのは、日本国民の幸せにつながる製品やサービスの生産能力を増大させるような投資機会が存在しなかったからだと考えるようになった。なぜ私がそう考えるようになったか、さらなる問題の分析を次回以降展開していく予定である。