No.258 日本の不況の原因に関する考察(2)

広島への原爆投下に関する文献を読んで強く印象に残っていることの1つは、原爆投下されてから数日たった後でも、被爆者が自分たちに何が起こったのかまったくわからなかった点であった。それは世界最初の原爆投下であり、地球上で誰も被爆の経験がなく、何の警告も与えられていなかったためである。戦争や火事、地震など、これまでに経験したり、知っている災難に直面するのと、誰も予測も経験もしたことがない、まったく新しい災難に遭遇することの間には、想像を絶する違いがあるに違いない。

私は現在の日本の経済的な病弊は、人類史上にないまったく新しい2つの災難によってもたらされたと考える。こうした災難を今までに経験した国はない。少なくとも、それに気づいた国はなかった。また経済の識者は、少なくとも日本の指導者が信頼している識者たちは、日本がこれら2つの災難に直面することを予想も、分析も、議論もまったくしていない。その結果、日本の指導者たちも、識者たちも、日本経済がまったく新しい2つの災難に直面していることに気づいていない。それに気づかないまま景気を立て直そうとしているために、時代遅れで効果のない、それどころかむしろ悪影響を及ぼす措置をとっているのである。

今回は日本が直面する2つの災難の1つを取り上げる。

日本の不況の原因に関する考察(2)

 

私には多くの日本人がモニカ・ルインスキーに思えて仕方がない。彼らは日本を米国のパートナーであると考えているが、これはモニカ・ルインスキーがビル・クリントンを自分のパートナーだと思っていたのとまったく同じである。クリントンはモニカ・ルインスキーを性的奉仕をさせるためだけに利用したのと同様に、米国は日本の軍事的、政治的、経済的な奉仕を求め搾取しているに過ぎない。モニカ・ルインスキーがクリントンの単なるセックス・パートナーであるのと同じように、日本が米国のパートナーたり得るのは属国という関係においてだけだということに、なぜ日本人は気づかないのであろうか。米国が日本を属国としてではなく、対等なパートナーとして扱ったことなど、今までにあっただろうか。米国と同じくらい日本が恩恵を受けたり、ましてや米国よりも日本の方が特をするようなことを、米国が日本のためにしたことがあっただろうか。米国が自国の利益よりも日本の利益を優先したことなどなかったはずである。

日本人のほとんどは、米国が今、この時、再び日本に戦争を仕掛けていることに気づいていない。それに気づかないのは、これがまったく新しい形の戦争だからである。誰も経験したことも、警告したこともなかった新しい種類の戦争であり、武力ではなく金融を武器にした、銃弾ではなくドルで戦う「経済戦争」だからである。そして、肉体的な威嚇ではなくマインドコントロールを利用した戦争である。

ここで私が述べていることを訝しく思う読者をマインドコントロールから醒ますには、恐らく、検察官が法廷で被告の有罪を立証するために証拠を提示するように、米国が日本に対して経済戦争を仕掛けていることを立証する証拠を示すべきであろう。検察官が犯罪の被害、動機、手口を次々に立証していくように、米国の経済戦争で日本がいかに苦しんでいるか、米国の動機、そのプロセスについて、それぞれ説明する。

米国の経済戦争による日本の被害

まず始めに、米国が仕掛けている経済戦争によって日本がどのような被害を受けているかを見てみよう。98年、日本は戦後記録をとり始めてから二番目に最悪の倒産件数、最悪の負債総額を記録した。(帝国データバンクがまとめた98年の企業倒産状況(負債1,000万円以上)によると、負債総額は前年比2.6%増の14兆3,812億円と過去最悪を記録した。倒産件数は同17.1%増の1万9,171件と戦後2番目の高水準となり、卸売業、小売業の倒産件数も2年連続で前年を上回った。)こうした倒産は主に貸し渋りが原因である。日本国民の貯蓄率は相変わらず他の諸国よりも高く、国民が所得の多くを銀行に預ける一方で、日本の銀行はその貯蓄を日本企業に融資するのではなく、海外、中でも特に米国に貸し付けている。企業倒産やその恐れから、企業が雇用を削減しているため、日本は戦後最悪の失業率を更新し続けている。今年4月に社会人になる学生の就職内定率が80%に過ぎないということから、この春、その失業率はさらに悪化すると見られる。こうしたことを考えれば、経済苦が原因の自殺件数が過去最后w)・u烽ナあるということも、驚くに当たらない。

この不況は1980年代後半のバブルの崩壊によるところが大きいといわれている。それが事実であるとすれば、その真の原因は日本政府が米国からの圧力に屈したことにあったといわねばならない。日本政府が米国からの要求を受け入れ、1980年代初めに日本の資本規制を緩めるまでは、日本企業はほとんどの資金を日本の銀行から調達していた。史上最大の奇跡的成長といわれた高度経済成長期を資金的に支えたのは日本の金融制度であった。日本国民が倹約し、貯蓄に励んだ主な理由は、銀行が預金者に高金利を支払ったからである。銀行にそれができたのは、さらに高い金利を融資先の企業に課すことができたからだった。また、企業がその高金利を銀行に支払えたのは、倹約家の預金者から銀行を通じて、企業の急成長を支える豊富で安全な資金が絶えず企業に提供されていたからだった。しかし、日本政府が1980年代初めに米国の圧力に屈し、資本規制を緩め、日本企業に資金の海外調達を許した結果、近視眼的な企業はこぞって国内よりも海外に安い資本を求めるようになり、その結果、日本の銀行は預金者への利払い分をカバーするのに必要な信用度の高い・u毆)融資先の多くを失った。

マイケル・ハドソン氏がOur World 244~246(「日本はなぜ金融恐慌に陥ったか - そこから脱出するための代価」、「日本が経済的困難から抜け出すために支払うべき代償(前・後編)」)で詳しく説明したように、日本政府はプラザ合意での米国の要求を受入れ、日本の金利を米国よりも低く抑えた。(当時の米政権、共和党は再選のために米国の景気を刺激しようと、金利の引き下げを望んでいた。しかし、米国の金利だけを引き下げれば、米国よりも景気の良かった日本に資金が大量に流出することは明らかであったため、日本の金利を米国よりも下げる必要があった。)

日本政府が米国政府の圧力に屈して行った2つの政策、つまり資金の海外調達の解禁と、国内金利の引き下げによって、日本企業には、生産能力や流通規模の拡大目的だけでは使いきれないほどの大量の安い資本が提供された。その一方で、日本の銀行には社会的、経済的に価値のある投資先が不足したため、銀行は土地、株式、債券、通貨などの博打に自ら手を染めると同時に、そうした博打向けの融資も開始し、それによって資本コストを稼ぐようになった。こうした銀行による博打や賭博師達への融資がバブルを膨張させ、ついには崩壊させ、その結果、日本を現在のような苦境へと追い込んだのである。

米国が日本に経済戦争を仕掛ける動機

では、日本に経済戦争を仕掛けることで米国はどのような利益を得るのであろうか。

第二次世界大戦後、米国は日本に強い軍事力を持たせないことによって、日本の防衛を約束していないにもかかわらず、日本が他の国から攻撃や侵略を受けた場合には米国が守ってくれるという期待を持たせ続けた。(日米安全保障条約は20世紀で最も恥ずべき欺瞞である。安保には、日本が攻撃や侵略を受けた場合、米国側がどうするかは米国が一方的に決めるとしか約束されていないにもかかわらず、日本側はこの安保によって米軍による日本占領の継続を認めている。)米国は日本の軍事力を弱め自衛できない状態にし続けることにより、米国のいいなりにさえなっていれば有事の際に守ってもらえるという期待にすがりつかせている。それによって、米国は多大な利益を得ている。その例を、一部列挙しよう。

1.日本の防衛とはまったく関係のない、米国の国益を満たすための軍事基地として、米国は日本を占領している。

2.日本に米軍の駐留費用を支払わせている。

3.拒否権、賄賂、威嚇などを通して米国外交政策の道具となっている国連に、日本は巨額の拠出金を支払っている。しかし米国自身はその拠出金を滞納している。

4.同様に、米国が国益のために利用しているIMF、世界銀行、WTOなどの国際機関へも日本は巨額の分担金を支払っている。

5.米国が一方的に、日本の事前承認なしに開始した戦争の費用を、たとえそれが日本の国益を損ねる戦争であったとしても日本に負担させる。(例、湾岸戦争)

6.米国が独断で決定した米国主導のプロジェクト(例えばKEDO)に関して、その請求書は日本に回しながら、米国はほとんど、もしくはまったく資金を負担しない。

7.日本の国と地方を合わせた長期債務残高のGDP比は先進国中最大である。それにもかかわらず日本は、米国の公的債務を肩代わりするために米国に50兆円も貸し付けている。

8.日本の食料自給率は30%と、他の先進諸国を大きく引き離して最低であり、経済封鎖に遭えば北朝鮮と同じ状況になるのは目に見えている。これもすべてただ単に米国を喜ばせるためであり、日本は今や米国産農産物の最大の輸入国である。

すでにこうした利益を享受している米国が、日本にさらなる経済戦争を仕掛ける理由は何か。

1.米国は20世紀のほとんどを共産主義と戦ってきた。それには2つの理由がある。まず第一に、米国の指導者たちは米国式の規制のない自由な競争以外のいかなる種類の政府や経済も成功させるわけにはいかなかった。世界の覇権を獲得し維持するためには、米国モデルに代わる新しい形態の政府や経済の隆盛を許してはならないと信じてきた。第二に、第二次世界大戦は米国の指導者たちに、米国式の資本主義にとってもっとも多くの利益をもたらすのは戦争であることを教えた。そこで米国の指導者には戦時下経済を装うために、もっともらしい敵が必要であった。1980年代末の冷戦終結まで、もっとも適役だったのが共産主義国であった。

2.冷戦時代、米国には日本という同盟国が必要だった。そのためには、日本を軍事的だけではなく、経済的にも米国に従属させる必要があった。そこで、米国を輸出市場として開放することで、日本に経済的繁栄を築くことを奨励した。

3.しかし、冷戦が共産圏だけではなく米国経済をも疲弊させた結果、レーガン政権時代に米国は世界最大の債権国から世界最大の債務国へと転落した。一方、冷戦の終結までに日本は世界で最も豊かな国となり、国民は少なくとも個人所得と個人消費において世界最高の生活水準を獲得した。また、他のアジア諸国も米国を真似るのではなく、日本を模倣することで高成長を遂げていった。米国の指導者が米国モデルにとって代わるものとして出現を許さなかった新しいモデルを、日本や他のアジア諸国が提供したのである。この結果、日本とアジア諸国は米国指導者たちの新しい敵となった。

4.さらに、上院議員のアルバート・J・ベバレッジが1900年を祝う演説で、「太平洋を支配する国が世界を支配する」と述べて以来、米国は、日本であろうが他の大国であろうが、米国に従順でない国が太平洋の主導権を握ることを許さなかった。日本を軍事面だけではなく経済的にも従属させ、さらには日本が米国抜きでアジア諸国と緊密な関係を築くのを防ぐことこそ、太平洋、ひいては世界を支配するための米国の戦略の鍵なのである。

5.最後に、より直接的、現実的なレベルでは、日本は米国の金融略奪家にとって最も魅力ある標的である。日本の国民1人当たりの所得および消費は世界一高い。米国政治家にとっては、政治献金の提供者である米国企業に対し日本市場での有利な条件を取り付けることこそ、最優先事項なのである。日本の国民1人当たりの貯蓄額は世界一高い。その貯蓄を米国が手にすることが、米国の金融バブルを膨張させ続け、崩壊させないために必要不可欠である。また、日本企業の技術力および生産性は世界で最も高い。日本企業を経営破綻に追い込み、米国の略奪者が安くその企業を買い叩けるようにすることが、日本を軍事面だけでなく経済面でも米国に従属させ続ける最も確実な方法である。

米国は日本にどのように経済戦争を仕掛けたか

では最後に、米国はどのようにして日本に経済戦争を仕掛けたのであろうか。

米国が1945年に日本を占領した時にまず最初に行ったことは、日本人、日本国家、日本文化を愛することを日本人に教えてきた従来の教育制度を一掃することだった。それは古来から祖先がいかにして日本列島で幸せかつ平和に暮らしてきたかを教える教育制度でもあった。米国の植民地支配者は儒教、神道、仏教などの価値観の教育である修身、日本やアジアの古典を学習する歴史と地理を廃止した。しかし、それに代わるキリスト教やユダヤ教、あるいはその他の価値観や古典文学の教育を導入しなかったため、日本社会は価値観をまったく教えない社会となってしまった。自分の考えを持たず、ただ単に命令に従う植民地の住人からなる従順な社会を望むのであれば、価値観を教えないことは確かに良いことかもしれない。米国が押し付けた教育制度によって直接的、さらにはアメリカ映画などにより間接的に、占領軍は日本人や黄色人種、さらには日本国家や文化を軽蔑し、米国人や白人、米国や米国の文化、慣習、米国式手段や方法をすべて羨み、崇め、模倣し、さらにはそれに従うことを教えた。身近な例でいえば、道端にタバコの吸い殻を投げ捨てることを日本人に教えたの・u毆)はアメリカ映画の他にあるだろうか。

もちろん、こうした占領教育は1945年以前の教育を受けた日本人にはほとんど影響を与えなかった。だからこそ、日本は戦前教育を受けた人々が指導者であった時代には、独立国としての誇りを持ち続けていた。日本が米国に従属し始め、米国のご機嫌とりを始めたのは1980年代半ばからである。ちょうどこの頃、戦前教育を受けた指導者たちが引退し、代わりに戦後教育を受けた植民地の住民がトップの座を占めるようになった。1980年代半ば以降、日本には独立した考え方や行動がまったく見られない。見られるのは無教養な、自分で考えようとしない日本人だけで、米国人を真似たり、にやにやしながら米国の命令に従うことしか知らない輩ばかりである。

日本でもっとも広く教えられている外国語は英語であり、今や英語は大学の入試および卒業にとって日本語と同じくらい重要な教科となった。日本における英語の位置づけは、植民地時代の韓国における日本語、インドにおける英語と同様に、植民地にとっての宗主国の言葉に相当する。日本人の留学先のほとんどが米国であり、その留学先では主人である米国人をもっとうまく真似、命令に従う方法を学んでくる。海外旅行先も米国が圧倒的に多い。輸入もほとんどが米国からで、それはまるで植民地の輸入がすべて宗主国からのものであるのと同じである。

その結果、植民地の住人である羊のように臆病な現代の日本人は、日本の国益のためではなく、米国の利益のために日本を治めている。もっと正確にいえば、米国が日本を米国の利益のために治めることを可能にしているのは臆病な日本人である。日本は米国に日本国内の政策や規制を決定させている。米国の要求に屈服して日本政府が行ったことの例としては、日本市場を開放したり、米国が勝手に決めた米国製品の輸入数値目標を受入れたり、日本からの輸出自主規制を米国に決めさせたり、さらには日本の国内規制について米国に相談したり、弱体化した日本企業を支払不能状態にさせて米国企業が安く買収できるようにしたりと、数限りない。また、日本の歴代の首相は主人からの命令を受けるためにワシントン詣でに馳せ参じ、日本の唯一の外交政策は米国に従属することだけだと呪文のように自らにいい聞かせている。ロックフェラーの独占から抜け出すために田中角栄は中国から石油を購入しようとした。その結果どうなったか、読者の記憶にも残っているであろう。田中角栄のように米国支配から逃れて独立国家のとるべき行動を敢えてとろうとした時、米国によって田中角栄の・u毆)政治生命がどのように奪われたか、日本の政治家は忘れることができないのであろう。

まとめ

日本の経済問題の原因の多くが米国にあるということに気づかない限り、日本はこの戦後最悪の不況から抜け出すことはできないであろう。米国が経済戦争を仕掛けていることが原因なのであるから、日本の指導者たちは米国の圧力に屈することをやめ、また米国の助言に従うこともやめるべきである。また日本を背負って立つべく将来を嘱望される有能な人物を米国へ留学させるべきではない。日本にではなく、帝国主義者の主人に奉仕するよう洗脳され、マインドコントロールにかかって帰ってくるだけである。