No.263 日本の不況に対する解決策の提案(1)

OWメモ「日本の不況の原因に関する考察(1)~(4)」(No.257~No.260)では、日本が未曾有ともいえる不況に陥った原因や、産業革命の終焉について私なりに分析しました。今回から数回にわたって、こうした私の分析に対する解決策をお送りします。

日本の不況に対する解決策の提案(1)

 

メモ「日本の不況の原因に関する考察(1)~(4)」(No.257~No.260)でも述べたように、日本の生産能力は購買需要をはるかに超える段階に達したと私は確信している。生産拡大能力は、大量生産の規格品に対する需要の伸びをはるかに上回る速度で増加しているため、これは一過性の現象ではなく永続的なものといえる。つまり、産業革命の限界に達したのである。私は、日本はすでに約15年前に限界に到達しており、無能な日本政府がさらに状況を悪化させたと考える。以下にその経緯を説明する。

(1)  高度経済成長期の始めから約30年たった1980年代半ばには、日本の生産能力は需要を上回った。日本国民の個人消費は世界のトップレベルとなり、大量生産された規格品に対する需要は飽和点に達した。
(2)  日本企業は、過剰な大量生産の規格製品やサービスの生産能力を抱えるようになった。
(3)  こうして日本企業は、倹約家である日本国民が貯めた莫大な貯蓄(GDPの15%)の使い道を失い始めた。
(4)  潜在的には最悪であったこの時期、日本政府は米国政府の利己的な要求に屈し、資本規制を緩め、日本企業に資本の海外調達を許した。これによってさらに、日本の貯蓄が余り始めた。
(5)  日本政府は米国からの更なる要求に屈し、日本の金利を引き下げた。この結果この余剰貯蓄が低金利で借りられるようになり、悪名高きバブル発生となった。

過去2世紀、中でも過去半世紀における科学技術の偉大な進歩は、先進諸国、特に日本国内に消費を上回る規格品やサービスの生産能力の永続的過剰状態を作り出した。今日、その成功が日本を苦しめている。なぜなら、生産過剰という初めての経験にどう対処してよいかわからなかったか、あるいは今、それに真っ正面に向き合っていないためである。

現在の日本の不況は、生産が消費を上回っていることに起因する。社会が消費よりも多くのものを生産する時、その過剰分は利用されず、したがって、その過剰分がすべて消費されるまで、生産を増加させる必要はない。民間企業が消費を上回る生産を行う時、余分に生産されたものは売れず、生産すなわち雇用までも削減しなければならなくなり、こうして日本が今経験しているような倒産や失業の増加をもたらす。

いかなる社会においても、生産は、民間(個人)消費、政府(社会)消費、純輸出(輸出-輸入)、および設備投資を通じて処理される。生産されても、このいずれかの方法で消費されないものはすべて売れ残りとなり、在庫品を増やすことになる。生産者が生産を増やすには、売れ残りの在庫品をまず売却しなければならない。つまり、残ったものはすべて過剰生産であり、近い将来、過剰消費によって在庫が一掃されない限り、工場や労働者を生産的に、かつ利益を出しながらフル稼働させることはできない。

生産 = 民間最終消費支出
+ 政府最終消費支出
+ 純輸出
+ 総固定資本形成
+ 在庫品増加

この単純な等式が、日本の政治家や政府が日本経済を回復させるのではなく、むしろ悪化させている理由を端的に表している。

在庫増は生産されたが消費されない分の増加であり、日本は今、それを望んではいない。今ある在庫を消費しなければ、企業の生産増は利益の拡大にはつながらないのである。

さらに日本からの純輸出(輸出から輸入を差し引いたもの)の増加を世界は望んでいないし、喜んで受け入れもしないであろう。日本に対する世界からの経済的圧力の大部分は、日本が以前から一貫して抱えている世界最大の貿易黒字(純輸出)に対するものだからである。

OWメモ「日本の不況の原因に関する考察(4)」(No.260)で述べたように、総固定資本形成が社会に利益を与えるのは、現在生産されていない製品やサービスの生産能力の増大をもたらし、それが社会全体の消費や満足度の向上につながる場合に限られる。他者がすでに生産している製品やサービスの生産能力を拡大する投資(総固定資本形成)は、消費拡大にも満足度の向上にもつながらず、既存の生産者と新規参入者との競争を熾烈化させるだけである。また生産量は同じにもかかわらず生産能力が増えるため、生産能力の全体的な価値を低めることにもなる。つまり、総固定資本形成を増加させても、民間消費あるいは政府消費が増えない限り、社会の利益にはならない。

このように、現在の日本の経済不況は生産が消費を上回っていることに起因するのであって、不況から抜け出すための唯一の方法は民間または政府、あるいはその両方の消費を増やすしかない。

私の知る個人(民間)消費を増やす唯一の方法は、所得の大部分を消費に向ける人々の可処分所得を増やすことである。つまり可処分所得が多ければ実際に消費を増やすであろう人々の可処分所得を、減税によって増やすのである。

以下の表から明らかなように、家計所得が増えれば増えるほど、消費に回る所得の割合は減少する。この表で年収が最も低い世帯は年収以上を消費に回しているが、一方、年収が最高の階層の世帯は年収のほんの一部しか消費に回していない。また消費税5%分が所得に占める割合は、最下位の階層では6%であるのに対し、最上位の階層では2%にも満たない。

年収(円) 世帯の割合 消費支出が  消費税が年収に 消費を減らさず
年収に占める 占める割合   払える最高
割合             所得税率
————————————————————
2,000,000    2%    129%      6%
2,500,000    5%    100%      5%
3,000,000    9%     87%      4%      13%
3,500,000    15%     81%      4%      19%
4,000,000    21%     78%      4%      22%
4,500,000    27%     70%      3%      30%
5,000,000    33%     67%      3%      33%
5,500,000    40%     64%      3%      36%
6,000,000    46%     62%      3%     38%
6,500,000    52%     58%      3%     42%
7,000,000    57%     59%      3%      41%
7,500,000    62%     57%      3%      43%
8,000,000    66%     55%      3%      45%
9,000,000    74%     54%      3%      46%
10,000,000    81%     52%      3%      48%
12,500,000    91%     48%      2%      52%
15,000,000    95%     44%      2%      56%
15,000,001以上 100%     33%      2%未満    67%

(出所:『総務庁統計局の家計調査年報平成9年』)

個人消費を刺激し、さらに日本経済を活性化するための方法は、徴収されなければ消費に回っていたであろう所得を減税し、たとえ徴収されなくとも消費には回らない所得に増税することである。具体的には次のような政策をとればよい。

(1)  消費税を撤廃する。上の表からわかるように、低所得の家庭は消費税が減ればその分消費を増やすであろう。
(2)  同時に所得税の累進性を高め、消費に使われない所得を税金として徴収する。所得が増えるにしたがって消費に回る所得の割合が減るのであるから、所得に応じて低所得者層よりも高所得者層の所得税率が高くなるよう累進性を今より高めれば、消費を減退させるのではなく刺激することになるはずだ。上の表の一番右側の欄は、消費を減退させずに課税できる最高の所得税率を示している。

この提案は、もちろん、自民党の政策とは正反対である。自民党は消費税率を2年前に60%も上げ、さらに次の表が示すように、少数の高額所得家庭に所得税減税を行い、大半の家庭に所得税増税を行うことで、累進性を高めるどころか緩めることで、日本を不況から完全な恐慌へ導こうとしている。この数字は夫婦子供2人(1人は2万円の地域振興券をもらえる年齢の子供)のサラリーマン家庭に関するものである。

所得税・個人住民税の年収別の負担増減額
(単位:円、夫婦子供2人のサラリーマン標準世帯)

年収     98年の      今回の    98年比の
定額減税後    減税後    税負担の
(万円)    の税額      の税額    増減額
————————————————————
400         0      36,325   +36,325
500      32,500     125,750   +93,250
600      157,500     226,400   +68,900
700      321,500     361,700   +40,200
800      516,500     512,400   – 4,100
900      780,500     741,200   -39,300
1,000     1,044,500     970,000   -74,500
1,100     1,329,500    1,217,000  -112,500
1,200     1,640,500    1,478,400  -162,100
1,500     2,901,500    2,624,800  -276,700
2,000     5,039,000    4,667,300  -371,700
3,000     9,977,000    9,205,900  -771,100
4,000    15,615,000    13,955,900 -1,659,100
(出所:『日本経済新聞』、1998年12月17日)

日本国民は今、自分たちの選択肢によって、日本経済を不況から立ち直らせることもできれば、もっとひどい恐慌へと導くこともできる、まさに黄金のチャンスを手にしている。それは、来たる4月11日と4月25日の統一地方選挙である。1つの選択肢は、できる限り多くの自民党議員を当選させ、自民党を強くすることで、日本経済をさらに崩壊へと導かせることである。自民党に、少数の富裕者を助け大多数の国民を犠牲にする政策を続けさせたければ、自民党候補者に投票するのが最善である。または選挙を棄権して政治への無関心を装うことも、組織票の多い自民党を助ける次善の策となろう。

一方、日本経済を不況から救い、活力を取り戻したいと考えるのであれば、これまで自民党がいかに失策を重ねてきたかを、彼らに思い知らせるような一票を投じなければいけない。それによって、日本経済を回復させる根本的な政策変更を政治家に行わせるのである。地方選挙で大敗すれば、自民党議員および他の政治家は、主権は国民の手にあり、彼らの政治生命が、いかに国民のための政治を行うかにかかっていることを思い知るであろう。