No.269 民主政治を装った米国の金権政治

米国では選挙運動に巨額の資金がかかるという話をすると、日本人の多くは驚きます。今回は、私がこれまでに集めた米国の政治献金に関する新聞記事から、いくつかをご紹介したいと思います。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。

民主政治を装った米国の金権政治

 

 米国の政治制度が民主政治ではなく金権政治であると気づけば、米国を理解するのはとても容易になると思う。米国政府を所有しているのは富裕者および大企業である。彼らは政治家が国を統治できるよう買収し、選挙資金を提供する。この仕組みがわかると、米国政府が日本や他の諸国で米国企業への優遇措置を熱心に求める一方で国内市場に対しては保護主義をとるのはなぜか、米国社会が世界で最も二極化しているのはなぜか、また税負担を富裕者から貧困者へ転嫁する一方で社会保障や福祉を削っているのはなぜか、先進諸国で米国だけが国民健康保険を提供していないのはなぜか、犯罪者が多いのはなぜか等々、米国に関する疑問の答えが次々に解けていく。

* * * * *

選挙とカネ

 中流階級や貧困層の一票の重さは富裕層のそれよりも軽い、あるいは挑戦者よりも現職が圧倒的に有利である、さらには上院議員選挙はほとんどが大富豪の独壇場である、といった発言には多くの人が強い異議を唱えるであろう。しかし、巨額の選挙資金の実態はこれらすべてを肯定する仕組みを作り上げている。選挙用のテレビコマーシャル、高度な世論調査やDM手法、政治コンサルタントなどがますます重要性を増しているが、これらにかかる費用をすべて1人で賄えるのは大富豪しかいない。事実、92年には、上院議員100人中、51人が大富豪であった。
 大富豪でなければ物乞いをする必要がある。その最も手っ取り早い相手は企業や専門団体、労働組合からなる政治活動委員会(PAC)である。ただしPACは当選の可能性が高い現職に巨額の選挙資金を注ぎ込む傾向がある。1992年の下院選挙では、現職議員は挑戦者の8倍の政治献金をPACから得ていた。新人同士の選挙でさえ、勝敗の4分の3は獲得した選挙資金の額で決まった。
 経済市場において金は確かに潤滑油かもしれないが、政治においてはそうであってはならない。だからこそ賄賂や票買いは違法とされている。1人一票であって、1ドル一票であってはならない。大富豪は金にものをいわせ車や家を好きなだけ購入することができるかもしれないが、上院議員の地位やその後ろ盾まで金で買えるようなことがあってはならないのである。(『ジャパン・タイムズ』 1994年2月19日)

記録破りの金権選挙 カリフォルニア上院選(94米中間選挙)

 1994年11月8日投票の米中間選挙で、記録破りの「金権選挙」が、カリフォルニア州を舞台に進行中だ。連邦上院議員を争う民主、共和2人の候補がつぎ込んだ資金は、しめて2,700万ドル、日本円にして約27億円。「選挙とカネ」を問い直すクリントン政権の改革はつまずき、カネの猛威は米国の民主主義の土台を揺さぶっている。
 「相手は中傷やウソのつき放題。殴り返さないと負けてしまう」。米上院選でカリフォルニア州から再選を目指すダイアン・ファインスタイン氏(民主党)は19日、サンフランシスコ郊外で支持者に釈明した。
 下院から上院へくら替えを図るマイク・ハフィントン氏(共和党)との間で、巨額を投じて相手攻撃の「どぎつさ」を競い合っているテレビCM合戦を指してのことだ。ハフィントン陣営が「血税で私用運転手を雇っているのはだれか。ファインスタイン」「彼女は公職にしがみつくためなら何でもする」とやると、ファインスタイン陣営も負けていない。「政府の記録によると、ハフィントンは秘密主義でどん欲。恐ろしい」。ともに相手候補の顔写真に手を加え、マイナスイメージの浸透に手段を選ばない。
 最近、両陣営はこうしたCMを同州の5つの主要局で小まめに流し始め、放映料だけでもそれぞれ週に50万ドル以上。その煽りで、両候補が今年初めから9月末までに投じた選挙資金は2,700万ドル。米議会史上最高だった1984年のノースカロライナ州の上院選での記録を、すでに約5%上回るすさまじさだ。
 ハフィントン氏はテキサス州の父親の石油事業を継いだ大富豪。選挙資金のほとんどが私財といわれる。現職の強みで「安泰」と見られていたファインスタイン氏だが、ケタはずれの資金力を武器にハフィントン氏がじわじわと詰め、最新の世論調査の支持率は、ファインスタイン氏49%に、ハフィントン氏42%と接近している。
 脅威を感じたファインスタイン氏は「選挙資金集めパーティー」を日に3,4件もこなす。それがまた軍拡競争さながら、対立をエスカレートさせている。
 だが、選挙につぎ込む資金は、法律で「上限」の枠がはめられているわけではない。両候補とも「状況次第ではもっと使う」。両陣営合わせてさらに800万ドル以上がCMなどに注ぎ込まれると見られている。(『朝日新聞』 1994年10月24日)

96年大統領選に見る共和党候補者の戦い

 11ヵ月後の予備選挙を有利に運ぶために、共和党大統領候補者がいくら選挙資金を集めたかを報告した。

*テキサス州上院議員フィル・グラム氏 — 前回の上院議員選挙の残金500万ドルに加え、850万ドルを調達。
*元テネシー州知事ラマー・アレキサンダー氏 — 500万ドル強。
*共和党院内総務、カンザス州上院議員のボブ・ドール氏 — 400万ドル強。

 3人とも95年末までに2,000万ドル以上集められると述べた。
 連邦政府からは、大統領予備選挙の年に、250ドル以下の小口献金の総額と同額のマッチングファンド(公的活動資金)が提供される。グラム氏はすでに340万ドルのマッチングファンドを手に入れることになっているという。
 多くのアナリストは、2,000万ドルの最終目標は多めに見積もった数字であり、実際には1,000万~1,800万ドル集めた候補者が他を抑えるだろうと見ている。しかし、候補者にとっては選挙資金が多いに越したことはない。1988年のブッシュもそれで成功した。ただし、予備選挙前の同時期、ブッシュの選挙資金は238万ドル、過去最高のモンデールでさえ240万ドルであった。(AP 1995年3月30日)

 ドール共和党上院院内総務は1996年の大統領選挙に向けて2,400万ドル以上の選挙資金を集めた。すでに使った資金を除くと手元には500万~600万ドル残っているが、それに加えて1996年初めには940万ドルのマッチングファンドが提供されることになっている。第1回目の党員大会直前の世論調査および選挙資金調達額でトップにある候補者が最終的な党の指名を受けることはほぼ間違いないといわれている。
 テキサス州上院議員のグラム氏は650万ドルのマッチングファンドを手に入れる予定だが、それを見込んだ借金ですでに主要な州での宣伝活動費を賄っている。元テネシー州知事のアレキサンダー氏もマッチングファンドを当て込んだ借金を余儀なくされた。残る候補者の中でドール氏に太刀打ちできるのは大富豪スティーブ・フォーブス氏だけであり、勝ち目のない選挙の資金を自費で賄い、今後さらに2,500万ドルを投じる余裕があるという。最初の指名争いが行われるアイオワ州の党員大会でフォーブス氏が費やした選挙資金は、1988年の共和党候補者13名がこの州で投じた資金の合計を上回るという。(ロイター 1995年12月16日)

腐敗したソフトマネーの王様、クリントン

  政治献金プロセスを浄化すると豪語したクリントン大統領は、改革どころか率先して金持ちの政治献金者を接待している。クリントンが1992年7月に民主党の大統領指名を受けて以来、民主党全米委員会は400万ドルもの政治献金(ソフトマネー)を受領した。大統領就任後の最初の15ヵ月で比較すると、クリントン政権が集めた2,000万ドルは、共和党のブッシュ政権(当時)を700万ドルも上回る。
 連邦法は、選挙候補者への政治献金の上限を1,000ドルとし、企業や労働組合からの金品の寄贈を禁じている。しかし、この規則は政党へ贈られる「ソフトマネー」には適用されない。そこで政党を通じて、規制のない巨額の政治献金、ソフトマネーが候補者に提供されている。以下は1992年7月から1994年3月までに民主党が受け取った政治献金の上位に挙げられたものである。

政治献金者 金額

Time Warner Inc. $508,333
National Education Assoc. 339,950
Mashantucket Pequot Tribe 300,000
Archer-Daniels-Midland 270,000
Carl Lindner 250,000
MCA Inc. 250,000
The Walt Disney Co. 250,000
Swanee Hunt 237,200
Communications Workers of America 229,100
Service Employees International Union 217,000
American Federation of State, County & Municipal Employees 213,927
Edgar Bronfman and Edgar Bronfman Jr. 200,000

(『ニューヨーク・タイムズ』 1994年5月31日)

政治献金総額

 米国のシンクタンク、政治対応センターが公表した政治献金に関する報告によると、民主、共和両党が1994年11月の中間選挙から1996年11月の大統領・議会選までの2年間(95~96年度)に集めた献金総額は史上最高の2億6,300万ドルで、93~94年度の約2.5倍、91~92年度の約3倍に上ったという。
 報告によると、95~96年度には、共和党が93~94年度に比べ2.4倍増の1億4,100万ドル、民主党が同2.6倍増の1億2,200万ドルを獲得。共和党は献金の96%、民主党は87%を財界から集め、ともに選挙のテレビコマーシャルに大半を使ったという。民主党はアジア企業などからの不正献金約150万ドルを返還している。
 報告は、献金の大半は個人や法人が自由に出資できる規制の少ない「ソフトマネー」で、70年代の政治資金改革が効力を失ったと指摘している。クリントン大統領は1997年7月までに選挙資金規制法改正を実現すると表明した。(『朝日新聞』 1997年2月18日)

賭博業界の影響力

 ミズーリー州の賭博業界は、同州で最も影響力のある元民主党下院院内総務ディック・ゲッパート氏のために21万8,750ドルで主任戦略家を雇い、1994年国民投票で川船の上でのスロットマシン利用を合法化するよう画策した。ゲッパート自身も同州にある彼の政治活動委員会を通じて5万ドルの献金を受けた。さらに、主な反対派であるセントルイスの保守派実業家の身辺調査と、右派過激派デイビッド・デュークとのつながりをほのめかす噂の流布のために、私立探偵を1万ドルで雇った。さらに、カンザスシティにある投票斡旋会社、フリーダム社に対し5万ドル以上を払い、投票者の登録を促し、反対者が教会から投票所へ向かうのを阻止させた。結局、ヒルトン、プレイヤーズ、プロマスなどを含む賭博権益グループは総額115万ドルを費やし、国民投票で過半数を獲得した。
 こうした賭博業界の政治や選挙に対する影響力は全米で見られる。イリノイ州の賭博業界は、下院司法委員会委員長のヘンリー・ハイド(イリノイ州共和党議員)を含む2人の議員の政治コンサルタントに、カジノの営業権を条件に2,000万ドルの政治献金を提供した。ネバダ州のミラージュ・カジノ・カンパニーの所有者、スティーブ・ウインはボブ・ドールのために95年6月に政治献金集めのイベントを主催し、47万8,000ドルの献金を集め、またその1年前には共和党全米会長のハーレイ・バーバーを囲むカジノ経営者の会合で共和党のために54万ドルを集めた。1990年前半だけで、賭博業界は両政党および候補者に合計で450万ドルを献金し、うち180万ドルは政党委員会向けの規制のない献金、ソフトマネーであった。(AP 1996年2月22日)

ロビイストからの献金

 1995年に、ワシントンのロビイストや弁護士およびその家族は選挙候補者や政党、選挙委員会に300万ドル以上の政治献金を行った。ホワイトハウスの元顧問によれば、ロビイストの政治献金の過去最高金額は C・ボイデン・グレイの14万3,910ドル(1995年)であり、元民主党委員長の息子、ロレンス・F・オブライエン3世も7万7,500ドルを献金した。
 ロビイストや弁護士は共和党と民主党に均等に政治献金を行う。その上で、3分の2を議員に、残りを政党、政治活動委員会、大統領候補に献金する。ほとんどが現職議員、中でも上院議員や強力な議会委員会の会長や幹部に回り、挑戦者にはほとんど提供されない。(UPI 1996年5月1日)

規制の抜け穴

 共和党上院議員のボブ・ドールは1995年、マサチューセッツ州のスポーツ用品メーカー、アクアレジャー・インダストリーズ社の社員から大統領選の資金として数千ドルの不正献金を得ていた。同社は、ドールの予算担当全米副委員長、サイモン・ファイアーマンが経営する会社で、ファイアーマンとその社員および家族は小切手40枚、総額4万ドルの選挙資金を献金した。社員には100ドル紙幣の札束が4,000ドル渡され、ドールを大統領にするための選挙資金として、その金で政治献金用の小切手を用意するよういわれたという。
 連邦法は候補者の選挙活動委員会に、1回の選挙につき個人が1,000ドル以上の献金をすることを禁じ、また他者の名前で献金することや他者に金を渡し代理で献金させることも禁止している。
 アクアレジャー・インダストリーズ社の創設者兼会長のファイアーマンは共和党の主要政治資金調達者であり、過去3人の大統領の貿易アドバイザーを務め、最近では輸出入銀行の理事でもあった。(AP 1996年4月21日)

 元カリフォルニア州州知事のピート・ウィルソンは大統領選に再出馬しないと発表した。理由は第一次予備選までにかかる選挙費用、1,500万ドルを捻出できないからだという。(UPI 1999年2月15日)