No.276 偽りの時代、バルカンでの行動は言葉よりも大きな影響力を持つ

 前回までの4回にわたって、チャーリー・リースによるコソボに関する論評(『オーランド・センティネル』紙より)をお送りしてきましたが、今回はそのシリーズ最後の論評をOW読者の皆様にお届けします。米国の政策を批判するものですが、新ガイドライン関連法案が国会で審議されている今、日本の行く末を考える上で有益な示唆を与えてくれるはずです。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。

偽りの時代、バルカンでの行動は言葉よりも大きな影響力を持つ

 

『オーランド・センティネル』紙 1999年4月20日
チャーリー・リース

 戦争プロパガンダの霧が立ち込める中、事実だけは心に留めておこう。北大西洋条約機構(NATO)は間違っている。NATOは、「近隣諸国と平和な関係を保つ主権国家に対する軍事侵略を禁ずる」国連憲章に違反している。ユーゴスラビアは近隣諸国と平和な関係にあった。NATOは、NATO憲章にも違反している。本来NATOは防衛上の同盟のはずであったにもかかわらず、NATO加盟国のどの国も攻撃されてはいないのに、爆撃を行ったからである。

 ユーゴスラビアに対する今回の戦争を計画した米国はバルカンにおいて、正当で重要かつ戦略的な国益どころか、最低の利権すら持ってはいない。NATOの攻撃が始まった時点で、ユーゴスラビア政府とコソボ解放軍との2年にわたる内乱により、セルビア人とアルバニア人合わせて約2,000人が殺されていた。この数字がどれほどのものか理解するために、米国では1年間で約18,000人の人間が犯罪者によって命を奪われていることを考えて欲しい。

 共和党と民主党の両党は、ともに最も馬鹿げた声明を発表した。ユーゴスラビアへの攻撃は間違いだったかもしれないが、すでに攻撃を始めた以上、米国は勝たなければならないと述べたのである。これがいかに馬鹿げているか、その理由はたくさんある。戦争はスポーツではない。この声明を行った政治家が述べていることはつまり、人殺しをしたり人々の財産を破壊することは悪いことだが、すでに始めてしまったのだから、これからも人殺しを続け、さらに建物を壊し続けなければならない、ということではないか。次に、米国が戦争に勝つということなどあり得ない。もしセルビアからコソボを取り上げてアルバニア人に与えれば、セルビア人はコソボを取り戻すためにゲリラ戦を続けるだろう。そしておそらく、アルバニア人はアルバニアの拡大という目標を達成するために、NATO軍を追い出そうと戦闘を始めるであろう。米国がこの侵略を止めない限り、2000年を過ぎても戦火は続くであろう。

 最後に、クリントン大統領の無能な外交政策担当チームの名声のために、アメリカ人とセルビア人が命を失わねばならないとは、実に暗澹たる気持ちになる。バーガー大統領国家安全顧問とオルブライト国務長官の名声など、アメリカ人やセルビア人の男女はおろか、ねずみの命ほどの価値もない。

 この偽りの時代においては、言葉よりも行動を見た方がよくわかる。NATOの行動は次のようなことを意味している。同盟の目的を拡大解釈し、即座に主権国家に対して攻撃的な戦争を起こしたことによって、NATOの存在意義は東欧における米国支配の増強のための武器になったことを表している。

 事実、ユーゴスラビアとの交渉などまったくなかった。ユーゴスラビアはこういわれたにすぎない。「コソボをアルバニア人に返せ。外国の軍隊がおまえの国の領土を占領することを認めろ。さもなければ爆撃する」。ユーゴスラビアの指導者は、NATOの要求を呑むことはできなかった。これは現指導者であるミロシェビッチ大統領のせいではない。誰がユーゴスラビアの大統領であっても、この命令を拒絶せざるを得なかったであろう。

 その結果、深刻な状況がもたらされた。この戦争によって、ロシアにおいて西欧びいきの大統領が選出される可能性が完全になくなった。今回の攻撃についてロシアは道義的に優位な立場にあり、NATOの侵略をロシアに対する潜在的脅威と見なしている。核兵器を断念したウクライナとベラルーシは、今その決定を再検討し始めている。ロシアと中国には、より緊密な軍事協力を確立させる理由が増えた。

 国連は、その前身の国際連盟同様、もはや死に体である。エチオピアがファシズムのイタリアによって侵略された時、何もできなかった国際連盟はその役割を終えた。今、NATOに攻撃されているセルビアを助けるために、国連は何の行動もとってはいない。クリントンは未来を蝕んだ。クリントンの人柄など問わないとした人々は間違っていた。

[著者の許可を得て翻訳・転載]