No.278 小渕首相の訪米に見る日米関係の片務性

4月29日から5月5日の小渕首相の訪米は、日本にどのような利益をもたらしたのでしょうか。資金援助だけを見ても、コソボ紛争による被害地域へ総額2億ドルの支援策を約束し、また北朝鮮への軽水炉供給事業では、日本が朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)を通じて10億ドルを資金供与する協定に調印しました。米国の外交政策を後押しするために合計12億ドルの提供を約束した小渕首相は、その見返りに日本のためにどのような約束を米国から取りつけたというのでしょうか。以下に5月3日の共同通信の記事から、私の目を引いた報道を私のコメントをつけて取り上げます。

小渕首相の訪米に見る日米関係の片務性

共同通信 1999年5月3日

日米両国政府は5月3日の首脳会談で、規制緩和、投資促進、競争政策の強化という経済構造の改革につながる三分野で広範な合意をまとめる。日本の貿易不均衡が拡大し、両国の経済関係に緊張感が高まる中で、構造改革で足並みをそろえ「日米協調」を演出しようとする思惑が込められている。

耕助: 両国の間に緊張感が高まっているのではなく、米国が一方的に緊張しているに過ぎない。それは日本企業が日本で作り米国で販売した製品の総額が、米国企業が米国で作り日本で販売した製品の総額をはるかに上回っているためである。その緊張を和らげるには2つの良い方法がある。
1) 米国政府が米国企業に、人件費を削減するために海外で生産するのを止めさせ、高い賃金の米国民を雇用して米国内で生産するよう説得する。
2) 両国政府が二国間の貿易統計を、生産地に関係なく算出する。つまり本国あるいは現地で生産しようが、第三国で生産しようが、日本企業が米国で売った全製品の金額と、米国企業が日本で売った全製品の金額で比較する。こうした正しい統計で比較を行えば、二国間に貿易不均衡は存在しない。
米国政府が偽りの比較で貿易不均衡を訴えるのは、日本政府を威嚇し、米国企業に有利な条件を取りつけるためである。

<規制緩和、投資促進などで、経済不均衡、是正狙う>

今回の三合意には、「日本市場開放」を加速させるとの共通の効果が期待されている。規制緩和によって情報通信や金融などでビジネス機会を拡大。外国企業による日本企業の合併・買収(M&A)を後押しするとともに、米国が閉鎖的と批判する日本の流通慣行などに対して競争政策の面から監視を強めていく。貿易、投資、資金のあらゆる側面で、米国から日本へ流れるパイプを太くし、日米経済の不均衡是正を目指している。

耕助: 先にも述べたように、まず日米間に貿易不均衡は存在しないのであるから、日本はそれを削減するための行動をとる必要はまったくない。こうした米国による日本いじめは、過去2世紀にわたるアジア諸国に対する欧米列強の帝国主義政策と何ら変わらない。協調関係などまやかしに過ぎないことは明らかである。米国が一方的に、米国企業のために日本市場の開放を要求しているのであり、また日本はひたすらその要求に屈している。貿易、投資、資金のあらゆる面で米国から日本へ流れるパイプを太くするとあるが、日本から米国への流れについては言及されていない。日米関係に摩擦や不均衡が見られるのは、それが存在するように見せかけることで、日本を威嚇できると米国が知っているからである。モニカ・ルインスキーがクリントンのいいなりに行動したのは、クリントンに無視されたくなかったからであった。モニカ同様、米国がかんしゃくを起こすたびに日本が米国の要求を受け入れるのは、米国に怒られたり、無視されることに耐えられないからである。ここに見られる米国政府の態度は、日本経済の目的が、日本国民の幸せを満たすことではなく、米国からの輸入品を受け入れることであることを前提としている。まさに植民地の宗主国に対する役割そのものである。

<外国企業のM&A促進、会計制度を国際標準に>

日米両国政府は3日の首脳会談で、外国企業による対日投資促進を目指した投資・企業間関係の共同報告書を取りまとめる。報告は会計制度見直しなどを通じた外国企業による合併・買収(M&A)促進や、土地政策、労働政策、投資規制など6分野にわたる方策を盛り込んだ。日本政府は、停滞する日本企業を外国からの投資で活性化することを狙う。

耕助: 1,200兆円の個人金融資産があるのだから、日本には資本が十分にあるはずだ。実際にはそれだけ資本があっても、投資先が不足しているため、その大半が賭博に向けられている。したがって、日本は外国投資を促進する必要などない。第一、日本政府は、米国企業による日本企業買収を後押しすることなどに国民の税金を浪費すべきではない。まさにこれも、臆病な日本政府が、日本国民と日本企業を犠牲に、貪欲な米国の要求に屈服した例である。

報告書は、M&Aについて「乗っ取り」への不安から日本企業には抵抗感があったが、情報通信、会計分野を中心に海外企業によるM&Aが急増していると指摘している。

耕助: 急増しているかもしれないが、そのことだけでは、日本政府が日本の納税者の金を使ってM&Aを資金援助すべきだという理由にはなり得ない。

こうした傾向を後押しすることを目的に、連結会計や時価会計などの会計制度を国際的な基準に沿うように見直し、同時に、救済型のM&Aを容易にするため、破産法や会社更生法などの法改正作業を進めることも盛り込んだ。

耕助: 会計制度に国際的な基準などあるのだろうか。ドイツ、フランス、イタリア、中国など、主要国はすべてそれに沿った会計制度を使っているのだろうか。

<投資・企業関係報告書の要旨>

日米包括経済協議の投資・企業間関係作業部会報告書の要旨は次の通り。

▽ 合併・買収 上場企業の財務会計制度について連結会計、時価会計、税効果会計の各制度で国際的調和を進める。企業年金の法律改正によって企業の株式持ち合いの解消を促す。円滑で柔軟な倒産手続きは、会社とその資産の救済M&Aを容易にするため、倒産法制を全体的に見直す。

耕助: 倒産法制に国際基準があるのか、それともただ単に日本が自国の法制度を捨て、米国の法律を採用するということなのか。

▽ 土地政策 日本の高い不動産関連費用・規制は対日投資促進の障害となっている。日本政府は土地利用規制の緩和や不動産賃貸借制度の改正、土地税制の見直しなどに取組んでいる。

耕助: 日本は日本国民の幸せのために国を治めるべきだという主張をすべて捨て、帝国主義的主人、米国の軍隊、経済、政治のためだけに国を治めるべきなのか。

▽ 労働政策 (転職時に年金を移動することができる)ポータビリティ改善のため2000年度導入を目指して確定拠出型年金制度の基本的枠組みを検討する。
▽ 法人課税 連結納税制度の本格的検討を行う。
▽ 地域の対日投資促進策 外資系企業誘致は地域経済の活性化と雇用確保に有効。政府と地方自治体は投資交流促進施設の整備などの措置を講じている。
▽ 投資規制 日本政府は外国投資に対する規制を最小限にとどめることを認識する。

耕助: 上記すべては、米国企業による日本での投資、販売を助けるために、日本が米国の要求に一方的に譲歩することである。日本企業や国民の助けになる、双務的なものは何もない。

<不当廉売措置の運用改善、米、WTO協議を容認>

日米両政府は5月3日、規制緩和協議の共同報告書をまとめ、首脳会議に提出する。昨年の報告書は、米側からの緩和要求に対する日本政府の対応だけが記載されていたが、今回は初めて、日本から米側に要求した約50項目のうち30項目が取り上げられた。特に日本が米側に強く要求していた反ダンピング(不当廉売)措置の運用改善について、米側が「世界貿易機関(WTO)の反ダンピング委員会の活動や適切な利用について重要性を認識する」とし、WTOでの協議に応じることを事実上容認。

耕助: 米国は日本からの要求50項目のうち30項目しか取り上げず、残りの20項目は無視したのだろうか。さらにここにある米国からの回答は、反ダンピング措置の運用改善について、「WTOでの協議に応じることを事実上容認」とあるが、日本には米国の反ダンピング措置をWTOに調査するよう要求する権利はないのか。反ダンピング措置をWTOが調査するかどうかを決めるのは、米国ではなくWTOではないのか。米国からの回答のうちこれ1つだけとっても、日本から米国に対する50項目の要求、そして米国からの30の回答は、主人である米国からの一方的な要求を奴隷である日本がすべて飲み込んだに過ぎない今回の日米首脳会談を、あたかも日米相互協調であったかのように見せかける演出なのではないかと思える。

一方、日本に対しては、米政府から出されていた270項目のうち、160項目について具体策を盛り込んだ。

耕助: 米国が50項目のうち30項目しか取り上げなかったのに対し、日本は270項目のうち160項目について具体策を盛り込んだ。それが二国間の協調と呼べるだろうか。さらに以下の内容は、日本が単に検討することに同意しただけではなく、具体策を講じたことをはっきりと示している。

米が対日要求の中で重視していた大規模小売店舗立地法(大店立地法)をめぐっては、地方自治体による運用が法の目的から外れて過度の規制をしないように通産省が注視することを記した。共同報告書は当初、3月までにとりまとめる予定だったが、NTT回線の接続料金の引き下げ問題で対立が続いた。最終的には「料金の引き下げを可能な限り促進する」ことで決着した。日本の緩和策に関しては、このほかに?新薬の承認審査期間を2000年4月までに現在の18ヵ月間から12ヵ月に短縮、?規制の制定や改廃の際、国民の意見を求める「パブリック・コメント」を可能な限り広範囲に適用することなどを明記した。

<規制緩和報告書の要旨>

日米規制緩和協議共同報告書の要旨は次の通り。

耕助: 以下の日本側措置5つと、米側措置3つの表現を比べてみて欲しい。日本はすべて具体的に措置を示しているのに対し、米側は不明瞭である。

〈日本側措置〉

▽ 電気通信 NTTの接続料金の引き下げを“可能な限り促進する”。
▽ 医薬品 新薬承認審査期間を2000年4月までに12ヵ月に“短縮する”。
▽ 流通 大規模小売店舗立地法の運用で、通産省は大型店設置者が交通や騒音など配慮すべき事項をナショナル・スタンダードとして“詳細に定める”。地方自治体による運用が法の目的を損なうことのないよう“注視する”。
▽ 競争政策 公正取引委員会は、競争を促進するため参入規制や需給調整規制を“積極的に見直し”、必要なときは関係省庁に規制の廃止を“提案する”。
▽ 透明性 パブリック・コメントの手続きを実施するに当たり、日本政府は中央政府が可能な限り広範に適用するよう“最大限努力”。

〈米側措置〉

▽ 政府調達 連邦政府の米国製品の使用を原則として義務付けた「バイアメリカン条項」について、日本政府と“対話を継続する”。
▽ メートル法 メートル法のみの表示の選択を可能とするよう表示法の改正を“検討する”。
▽ 反ダンピング措置 世界貿易機関(WTO)アンチダンピング委員会の活動と適切な利用についての“重要性を認識する”。