No.280 受刑者移送協定締結へ

 今回の小渕首相の訪米で、受刑者移送協定の締結が実質的な合意に達しました。この協定が締結されれば、殺人、強姦、強盗、窃盗、詐欺、住居侵入などの罪で、日本で裁判にかけられ有罪になった米国人受刑者を、すべて日本から米国に移送することが可能になります。これによって、1998年2月に米軍機がイタリアのスキー場で20人を死亡させるという事故を起こしながら、米国の軍法会議によって全員無罪になったように、受刑者を日本から本国に移すことにより無罪にしようというつもりなのでしょうか。

 さらに、この受刑者移送協定は日本にいる米国人受刑者にだけ適用され、米国にいる日本人受刑者にも同じように適用されるかどうかは疑問だと思います。なぜなら、米国政府は連邦裁判所で有罪になった受刑者を移送する法的権限は持っていたとしても、例えばカリフォルニアやニューヨークなど、州の裁判所によって有罪になり投獄された受刑者に対しては、法的権限をまったく持たないからです。さらに最近あったように、カナダ人、ドイツ人、イタリア人の犯罪者に対し、母国からの強い抗議があったにもかかわらず死刑を執行しました。こうしたことを行っている米国が、日本と対等な受刑者移送協定を受け入れることはまずないと思われます。

 以下は受刑者移送協定の締結が実質的な合意を伝える『日本経済新聞』の記事です。是非、お読み下さい。日経以外の主要な新聞は、日米首脳会談の内容として、このことを大きくは取り上げなかったようです。皆様からのご意見をお待ちしております。

受刑者移送協定締結へ

 

『日本経済新聞』 1999年5月4日

 日米両国首脳が受刑者の移送を可能にする「受刑者移送協定」の締結で実質的に合意し、矯正施設内の犯罪者の扱いを巡る日米間の懸案が1つ決着した。同協定は刑事事件で有罪判決が確定し、相手国の矯正施設で服役している受刑者を引き取り、母国の刑務所で処遇する制度。日米間では捜査・司法共助条約締結協議も進んでおり、今後は締結時期などが焦点になる。

 米側はこれまで「受刑者の社会復帰を促すためには母国で矯正する方がいい」との立場から日本政府に受刑者移送協定締結を求めてきた。外国人を刑務所へ収容する際には言語や生活習慣、宗教の違いから刑務職員らとトラブルを起こすことが多く、人権問題に発展するケースもあった。

 先月八日には、フォーリー駐日米国大使が陣内孝雄法相を訪ね、同協定の締結へ向けた協力を要請。法相は欧州約四十ヵ国が参加する欧州会議・受刑者移送条約への加盟については「日本と法制度がかなり異なり現段階では難しい」との認識を示した。ただ日米二国間での協定締結には(1)移送は受刑者の犯罪行為が母国でも犯罪となる場合(2)両国政府と受刑者本人の同意を得る――ことなどを条件に前向きに検討する考えを伝えた。