No.290 あなたの電話は聞かれているかもしれない

 これまで違法な形の盗聴しかできなかった検察や警 察など捜査機関に対し、日本でも盗聴を合法化するための通信傍受法案が衆院を通過しました。かたやオーストラリアでは、政府が国家レベルで通信を傍受していることを公表しました。米国主導の「新世界秩序」の従属国とし てのオーストラリアの現状を見るにつけ、米英の戦略と、そこで日本がどのような役割を果たしているかも垣間見 ることができると思います。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。

あなたの電話は聞かれているか もしれない

ダンカン・キャンベル
『The Age』紙 1999年5月23日

 オーストラリアは、地球規模の電子監視システムに加わっていることを初めて公 に認めた国となった。このシステムは、自国および他国からの、国民や企業の個人および商用の国際通信を傍受す るものである。5月23日に放映されたチャンネル9のテレビ番組でこれを公表したのは、キャンベラの防衛信号局の 局長であるマーティン・ブラディだった。UKUSAと呼ばれる、これまで認められていなかったスパイ組織の存在を ブラディが公に認めたことで、過去50年間、国民にわからぬよう秘密情報収集を行ってきた英国や米国のスパイ組 織を怒らせることになるであろう。

 チャンネル9に宛てた書簡でブラディは、「防衛信号局(DSD)はUKUSAとの連携の下で、海 外の信号諜報組織と協力している」と述べた。さらにインターネット上で公開された発言で(www.dsd.gov.au)、 ブラディはまた「DSDの目的はオーストラリア政府の意思決定者およびオーストラリア防衛軍に、海外の高品質な 信号諜報に関するサービスを提供することである。DSDは公開されている情報源からは入手できない重要な情報を 提供している」ともいっている。

 米国の国家安全保障局(NSA)およびカナダ、英国、ニュージーランドの安全保障組織と共 に、DSDは高度に自動化された巨大な追跡ステーション網を管理している。この追跡ステーションは、商用の人工 衛星通信を不正に傍受し、衛星が送信するファクス、テレックス、電子メール、電話、コンピュータのデータメッ セージなどあらゆる通信を調べている。5ヵ国の信号諜報機関がUKUSA協定を結んでいる。彼らは1947年、または 1948年に調印された秘密協定によってUKUSA加盟国になった。約定の詳細は明らかにされていないが、UKUSA協定は 加盟国の政府間で、設備やスタッフ、手法、作業、製品を共有する。

 現在、エシュロンと呼ばれるUKUSAのシステムが急激に拡張した結果、毎時に何百万もの メッセージが自動的に傍受され、UKUSAに加盟する5ヵ国の諜報機関と政府が提供した基準に基づいてチェックされ ている。傍受された信号はディクショナリと呼ばれるコンピュータ・システムに送られ、そこで新しいメッセージ や電話は何千もの収集要求に照らし合わせてチェックされる。ディクショナリはその収集要求を満たすメッセージ を諜報機関のインターネットに相当するものに送り、世界中からのアクセスを可能にする。

 このシステムに対してオーストラリアが最も貢献したのは、1990年代初頭、西オーストラリ ア州のジェラルトン近くのコジャレナの超現代的な諜報基地の建設である。コジャレナでは衛星追跡のための4つ のパラボラアンテナがインド洋と太平洋の通信衛星を傍受している。各パラボラがどこに向いているかは、ゴルフ ボールのようなレードーム(レーダーアンテナ用の覆い)の中にあるためわからない。コジャレナで傍受される メッセージの約80%はオーストラリアで見たり、読まれたりすることなく、ディクショナリ・コンピュータから自 動的に米国のCIAかNSAに送られる。オーストラリア政府の指令下にあるにもかかわらず、同じく論議の的となって いるパイン・ギャップと呼ばれる情報機関と同じく、コジャレナの基地では米国人と英国人が主要な地位に就いて いる。

 コジャレナのディクショナリが収集を要求しているものには、北朝鮮の経済、外交、軍事に 関するメッセージやデータ、日本の通産省の計画、パキスタンの核兵器の開発技術や実験の進展に関するものなど である。その見返りとしてオーストラリアも、別のエシュロン基地が集めた情報をキャンベラに送信するよう依頼 することができる。

 技術的にはそれほど高度ではないが、2番目に大規模なDSD衛星基地がノーザンテリトリーの ショアル・ベイに建設された。ショアル・ベイでは、9つのパラボラアンテナが地域通信衛星に組み込まれ、その 衛星の中にはインドネシアと南西アジアを網羅するものも含まれている。UKUSAのエシュロン・システムに対する 国際的また政府レベルの懸念が広がったのは、ニュージーランドの作家ニッキー・ヘイガーが1996年に、その活動 の詳細を暴露してからである。ニュージーランドには、南島のブレニムの近くのワイホパイにエシュロン衛星傍受 基地がある。「フリントロック」というコード名のこのワイホパイ基地はコジャレナの半分の規模で、太平洋沿岸 の国々を網羅するワシントン州ヤキマのNSA基地の半分の規模でもある。ワイホパイの役目は2つの太平洋通信衛星 をモニターすることで、南太平洋諸島間またはそこから発せられるすべての通信を傍受している。

 他のエシュロン基地同様、ワイホパイの施設は電流が流れる柵、侵入者探知器、赤外線カメ ラなどで守られている。ヘイガーの本の出版から1年後、ヘイガーとニュージーランドのテレビレポーター、ジョ ン・キャンベルがテレビカメラとはしごを抱えてワイホパイに大胆な侵入を試み、開いた高い窓から、その操作セ ンターの内部をフィルムにおさめた。彼らはそれが完全に自動化されているのを目にして驚愕した。

 オーストラリアのDSDは「エシュロン」という言葉は使わないものの、政府筋がチャンネル9 に対して、システムに関するヘイガーの描写は正しく、コジャレナにあるオーストラリアのディクショナリ・コン ピュータもニュージーランドにあるものと同じように稼働していることを認めている。

 今年になるまで、米国政府は、エシュロンの存在を認めることを拒み、それにまつわる騒動 も無視しようとしてきた。5月23日のオーストラリアの発表は、その立場をゆるがせた。米国スパイ作家のジェ フ・ライチェルソンもまた、米国の情報の自由法に基づき、ウエスト・バージニア州シュガーグローブにある、海 軍が運営している衛星受信基地はエシュロン基地で、民間の衛星から情報を収集していることを示す文書を入手し ている。

 ワシントン州南西部のその基地は、シェナンドア山脈の僻地にある。公開された米国の文書 によると、その基地の任務は「エシュロンの保守と運営」だという。この他にエシュロン基地はプエルトリコのサ バナセカ、カナダのリートリム、英国のモーウェンストーとロンドンにもある。

 インターネットの傍受や海底ケーブルの溝のモニターからも情報が収集されエシュロン・シ ステムに送られる。1971年以降、米国は特別に改装した核潜水艦を使って、世界中の深海海底ケーブルに盗聴用の 溝を取り付けている。

 UKUSA協定とエシュロン・スパイ・システムについて公表することをオーストラリア政府が 決定したのは、経済情報の収集に関する国際的な懸念の高まりに対応しなければならなくなったのと、もう一つ は、オーストラリア国内のスパイ活動は厳重に制限され厳しく監視されているということを国民に知らせ安心させ たいというDSDの願いからであった。DSD局長のマーティン・ブラディは、この活動はオーストラリア人のプライバ シーを侵害するものではなく、DSDは「信号情報とオーストラリア人の規定」として知られる、内閣が承認した機 密司令に基づいて行われていることを知らせるために公表したと述べた。

 内閣の指令に従っているかどうかは警備・諜報担当検察長官ビル・ブリックが監視する。彼 は、「オーストラリアの国民はDSDの活動について私に苦情をいうことができる。それに対して私は調査を行う権 利を持つ」という。

 しかし内閣は、指定された状況下ではNSAまたはDSDが、オーストラリア人の国際電話、ファ クス、電子メールを傍受できると規定している。指定された状況とは、重犯罪が行われた、オーストラリア人の安 全または生命に脅威を与えた、またはオーストラリア人が外国権力のスパイとして行動した場合などが含まれる。 ブラディは、いずれの場合にも特定の承認を得なければならないという。しかし、オーストラリア国内の電話の計 画的傍受は、警察かオーストラリア・セキュリティ・インテリジェンス機関の管轄となる。

 ブラディは、他のUKUSA諸国はオーストラリアの指示に従うべきであり、オーストラリアが 必要だと決定した場合に限り、彼らの通信を記録すべきであると主張する。「DSDとそれに相当する他国の機関 は、自国の国益と政策が他国に尊重されるような、満足のいく内部手続きをとるべきだ」と彼はいう。

 したがって、もしDSDが関係ないと定めたオーストラリアの国民や企業からのメッセージを NASが傍受しても、固有名詞は削除され「オーストラリア国民」または「オーストラリア企業」といったものが代 りに挿入されるべきである。または傍受内容そのものを破棄しなければならない。

 論理的にはそうだが専門家の意見は違う。ヘイガーによれば、UKUSAの下位の加盟国は断れ ないとし、「ニュージーランドやオーストラリアのような下位の同盟国は、大国の要求を拒否できない」という。

 さらに、オーストラリアが与えた情報で、同盟国がどのようなことを目論むのかという懸念 もある。英国がインドネシアに対してホーク戦闘機や他の兵器の極めて問題の多い販売契約をとるために、イギリ スが東ティモールに関するDSDの情報をスハルト大統領に流すことを国家評価局の職員は恐れている。オーストラ リア政府は、DSDとUKUSA加盟国が、経済および商業情報を集めるよう指示されていることを否定しない。米国同様 オーストラリアも、もし他の国や他の国の輸出業者が不公正に行動していることがわかれば、その行動は正当化さ れると思っている。英国は経済情報の収集にいかなる規制も設ける必要はないと考えており、フランスも同様であ る。元カナダの諜報員であるマイク・フロストは、米国がコジャレナのような基地を経済情報の収集のために利用 しないと考えているのなら、オーストラリア人は愚直すぎるという。「米国は何年もスパイ活動を行ってきた。冷 戦が終わった今、焦点は経済情報に移った。米国のスパイ組織などがエシュロンのようなシステムを悪用するため に使う権力は計り知れない。オーストラリアでは起こり得ないなどと考えるべきではない。実際に起こっているの である」