No.291 外資の「日本買い」最高 ― 昨年度の直接投資、1兆円を突破、金融・通信急増

 以下の日経の記事で、日本政府が「新規雇用の創出」を見込んで、より多くの外資を引き付けるために規制緩和を行うと主張しているのを読んで驚きました。現実はおそらく正反対になるでしょう。米国では、大企業は労働者の数を削減しており、1990年代に新規に創出された職はすべて、中小企業で生まれたものであって大企業で生まれたものではないのです。

 欧米の投資家が日本企業を買収する最大の動機は、その従業員を解雇し、少なくなった従業員をさらに働かせて生産性を上げ、より多くの収益を上げることにあります。したがって外資を引き付けることは、日本の失業問題を悪化させるようなものです。

 日本政府は、産業の構造改革のための法制化について外資系企業に助言を求めているようですが、外資系企業は日本の既存の規制のもとで日本企業を破格値で買収した後で、自社の利益率をさらに高めることを狙って特権や保証を含む新しい規制を作るよう働きかけるにちがいありません。

 規制の役割は、不正や悪事を阻止し、それに関する訴訟を未然に防ぐことにあります。反対に規制をなくすということは、米国で見られるような激しく高額で辛辣な訴訟を日本にも呼び込むことになります。日本企業は、契約破棄が利益を生む場合が多いことを法務アドバイザーから教えられるでしょう。企業は契約をした後で、その契約を破り、最初に約束した価格の半分を支払うよう申し出ることができるのです。自民党を後押しすることで、大手法律事務所は成長していきます。特に不動産開発業者は日本に新しい訴訟環境を作り出すでしょう。

 米国は、自国では決して経験したことがない規模の保険、金融分野の規制緩和を日本に強く求めてきましたが、米国自身は保険会社その他の金融機関の外資による所有を長い間禁じていました。日本の保険会社は優良企業で、総じて社会的に責任のある行動をとってきました。しかし外資所有となれば、日本に負うところは何もなく、日本社会の保護に貢献することが自社の利益になるとは決して考えないでしょう。米国では、保険会社は腐敗行動の中心的存在です。概して米国の保険会社は、保険金を支払うことを拒否して保険金請求者に訴訟を起こさせます。米国の法律では税制上の目的から、課税対象収益を低くするために、即座にその賠償額を損失として差し引くことが認められています。企業は節税分を投資に回し、保険加入者が法廷に出る頃には、賠償金の支払に十分な利益を投資で上げることが可能になるわけです。こうして米国の保険会社は労せずに利益を得ているのです。米国保険会社は、日本の法律も同じように書き換えることを要求するでしょう。

 保険を必要としている日本人にとって、外資による所有には良いところなどまったくないのです。皆様からのご意見をお待ちしております。

外資の「日本買い」最高                     
― 昨年度の直接投資、1兆円を突破、金融・通信急増 ―

『日本経済新聞』 99年5月12日朝刊 

 外国企業による日本企業の買収や土地購入などの対日直接投資が急拡大している。98年度の投資総額は今年2月末時点で1兆1,200億円と、年度として過去最高だった96年度の7,700億円を大幅に上回った。金融ビッグバンで日本の金融・保険業への投資の魅力が増したうえ、地価の下落による割安感も反映、買収や資本参加が相次いだ。今年度に入っても、国内景気の当面の底打ち感から、日本での事業機会に着目した積極投資も目立ち、「前年度の投資額を上回る」(通産省)見通し。外資導入によるノウハウの取得を通じ、新規雇用の創出や産業競争力の回復も期待される。

 大蔵省によると、98年度の投資総額は今年2月末までで、前年度の同時期の2.15倍と急増。昨年4月の改正外為法の施行など一連の金融ビッグバンで、日本市場の魅力が増したことや、金融危機や不況で体力が低下した日本企業が外資に経営支援を求めるケースが増えたことを背景に、外国企業による投資が相次いだ。

 業種別に見て、対日投資攻勢が最も目立つのは、金融・保険業。98年度上半期の投資額は2,720億円で、前年同期の13.4倍となった。米大手ノンバンク、GEキャピタルが昨年4月、東邦生命保険との合弁会社に720億円出資したのをはじめ、米トラベラーズ・グループによる日興証券への実質25%出資案件などが続いた。

 世界規模での事業展開が進んでいる通信業界でも、昨年2月に外資の参入規制が撤廃されたのを受けて、同6.4倍と急増した。日本での事業拡張に備えた設備投資では、米通信大手MCIワールドコムが昨秋から東京都心で全長100kmに及ぶ光ファイバー網の敷設に着手。投資規模は数百億円に達する模様だ。

 製造業は98年度上半期までは、非製造業に比べて投資金額の伸びは鈍かったが、最近は日本企業がリストラを加速、外資との大型の資本提携が増えている。仏ルノーが今月下旬に実施する日産への約6,400億円の出資により、これだけで製造業の99年度上半期の対日投資は前年同期の5.8倍に膨れ上がる。

 地価や企業の株価の下落により、外資にとって日本企業の営業網などを機動的に手に入れられる合併・買収(M&A)の魅力は増している。98年度に外資が日本企業を対象に実施した事例は96件で、前年度の1.5倍となった。

 外資の対日進出は「日本買い」の側面だけでなく、新たなノウハウの導入による新産業や雇用の創出にも役立つ。活力ある外国企業との競争を通じて、産業競争力の強化をもたらす効果も見込まれている。

 日本企業による海外への直接投資は不況の影響で低迷。通産省によると、98年度の日本企業の対外直接投資額は外資企業の対日投資額の4.2倍にとどまり、過去最低の比率になる見通しだ。従来この比率は10倍前後で推移しており、対外、対内投資額がほぼ均衡している米国、カナダ、フランスなど他の主要国に比べて日本が突出していた。日本市場の閉鎖性や投資先としての日本の魅力のなさなどを象徴する数字とみられていたが、ここにきて、急速に縮小してきている。