No.301 バルカン戦争で潤う武器商人

 今回は、ユーゴスラビアへの空爆の裏には、米国兵器産業の存在が潜んでいたことを示す記事をお送りします。ポーランド、ハンガリー、チェコ共和国のNATOへの加盟にも、兵器産業の後押しがあったと指摘されています。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。

バルカン戦争で潤う武器商人

ラッセル・モクヒバー、ロバート・ワイズマン
『ボルチモア・サン』 1999年5月16日

 ジョン・R・ガルヴィンは最近、米国ABC放送の「ナイトライン」や国営ラジオ放送をはじめとする多数の番組に出演し、ユーゴスラビアに対するNATOの空爆がどのような利益をもたらすかについて吹聴している。番組の中でガルヴィンは、米フレッチャー法律外交大学院学長および元北大西洋条約機構軍最高司令官と名乗っている。

 しかし、これらのニュース番組が伝えなかったことは、このガルヴィンはまた、米国三大兵器メーカーのひとつ、レイセオン社の取締役だということである。同社は元ユーゴスラビアの国土に160発以上が撃ち込まれ、死と破壊をもたらしているトマホーク巡航ミサイルを製造している企業である。

 ガルヴィンとレイセオン社との関係を知ることは、国民にとって大変に重要なことである。なぜならば、この戦争がレイセオン社の収益にプラスの効果をもたらすからである。つまり、短期的には巡航ミサイルや他の防衛機器の売上増加がもたらされる。同社の株価は最近急騰している。さらに、長期的には議会に対して軍事予算の増加圧力をかけることができる。レイセオン社の株価はユーゴへの空爆開始以降、20%以上上昇した(株価平均はその間10%弱下がっている)。

 米国の軍産複合体は健在であり、多くの面から見て、今までになく強力になった。バルカン戦争は、石油利権を守るために起こった湾岸戦争と同じように、企業の利権主導の戦争として語られることはないが、国家安全保障の意思決定に与える企業の影響力としてはこれまでで最高である。

 NATOと米企業との緊密な関係が浮き彫りになったのは、4月のワシントンD.C.でのNATO発足50周年記念パーティであり、NATOの主催者委員会がパーティのために企業から800万ドル以上を集めた時であった。主催者委員会に名を連ねていたのはアメリテック、ダイムラークライスラー、ボーイング、GM、ハネウェル、モトローラ、ユナイテッドテクノロジーを含む13社で、各社は委員会会員になるために25万ドルを払っている。レイセオンやノースロップ・グラマンなど、その他28社はそれぞれ2万5,000ドル支払っている。

 スポンサー企業はNATOのパーティに資金提供する理由について、なんの臆面もなく次のように語っている。ユナイテッド・テクノロジーの政府関係担当副社長、ルース・ハーキンは「安定したNATOがあってこそ、我が社のような国際企業が平和を守るための製品を提供する好機がもたらされる」と語る。NATOのパーティは各企業のお偉方に、44ヵ国の国家主席や国防大臣や閣僚を含む1,700人の出席者への無制限なアクセスの場を提供した。

 兵器メーカーはNATO加盟国の決定にも大きな役割を果たしている。最近、ポーランド、ハンガリー、チェコ共和国がNATOに加盟したが、この計画を後押ししたのが新市場の開拓を狙った大手兵器メーカーであった。これによって、兵器メーカーに大きな見返りがもたらされる。ただし、NATOと相互利用可能な兵器にグレードアップする目的で、新加盟国の軍隊の兵器購入に提供される補助金の多くは、米国納税者が負担することになる。

 この分野の主要なロビー団体、米国NATO拡大委員会を設立したのは、ロッキード・マーチン社の世界展開担当ディレクターのブルース・ジャクソンである。ジャクソンはその後、NATO主催者委員会の顧問となっている。また『ニューヨークタイムズ』紙によると、ロッキード・マーチン社、ベル・ヘリコプター/テクストロン社、ボーイング社は、ルーマニア大使館が設立したNATO拡大賛成派財団のような、民族に基づくロビー団体にも資金援助しているという。

 ロッキード・マーチン社や他の大手兵器メーカーは、東および中央ヨーロッパにおけるNATO拡大を求めて懸命にロビー活動を行った。また、NATOへの参加を呼びかけるためにロッキード社がスポンサーとなって、ポーランド、ハンガリー、チェコ共和国の政府と軍の高官を対象に「防衛計画セミナー」が開催された。世界政策研究所のウィリアム・アルトングの報告によれば、ロッキード社は米国納税者からの豊富な資金援助をちらつかせ、強力な売込みを行ったという。

 しかし、兵器メーカーの一番の成功は、ソ連崩壊後も軍事予算を膨張させ続けることに成功したことであった。ソ連という目に見える恐ろしい脅威もなく、また厳しい緊縮財政という時期にありながら、兵器メーカーとその仲間たちは軍事費の浪費と産業の非効率に象徴される新しい時代へと米国を先導しつつある。

 米国の連邦軍事予算はすでに年間2,650億ドルに達しているにもかかわらず、クリントン大統領は今後6年間に防衛予算をさらに1,120億ドル追加することを提案している。兵器調達予算は今後5年間に50%増加する予定である。また議会共和党議員にいたっては、軍事支出のさらなる増額を叫んでいる。

権力と影響力

 軍事産業が及ぼす政治力と影響力の大きさは想像を絶する。その影響力は製造業の有名な非効率に、同じように伝説的な洗練された政治組織を組合せて統合した産業構造に由来する。クリントン政権の間に、米国の軍事産業は国防総省からの奨励と補助金を受けて整理統合され、ロッキード・マーチン社、ボーイング社、レイセオン社の三大兵器メーカーに集約された。ロッキード・マーチン社は、ロッキード社、マーチン・マリエッタ社、ローラル社とジェネラル・ダイナミック社の一部が合併したものである。ボーイング社はマクダネル・ダグラス社を吸収して最大手となった。レイセオン社はヒューズ社を吸収した。

 全米に製造工場を持つこれら3社は巨大な政治的影響力を持つ。新しい兵器の契約は、何百人もの議員の選挙区、つまりほとんどすべての州で雇用を創出すると、兵器メーカーは約束する。この構造的な権力を支えるのが巨額の政治献金で、レスポンシブ・ポリティクス・センター調べによると1997~98年の選挙期間には850万ドル以上が政治献金として支払われ、さらにより巨額の資金がロビー活動に投じられているという(1997年は約5,000万ドル)。

 さらに、タカ派的政治研究所や兵器メーカーの社名とは違う名前をつけた関連組織に投資を行い、新聞の社説、議会証言、統計データ、報告書、警告などを通じて、防衛支出の増大の必要性を絶えず訴えさせている。

 国務総省からの天下りによる強力なロビー活動と、米軍の即応体制が欠如しているとの警告が功を奏した結果、兵器メーカーは軍事予算の新たな急増から利益を獲得する立場を得た。ユーゴでの戦争は2000年の歳出予算案の成立前に、その急増をもたらす口実を与えたことになる。

合法的な贈賄

 クリントン政権がユーゴでの戦争支援のための緊急予算として60億ドルの捻出を議会に求めたが、共和党議会は関連のない軍事目的のために、支出要求も出ていない50億ドルをさらに追加する意向である。ロッキード社、ボーイング社、レイセオン社にとって、これはもうひとつの勝利である。民間の力が政府の領域を完全に侵食する時、賄賂や政府の汚職を禁じる米国の法律はほとんど無意味なものとなる。米国には合法化された賄賂制度が存在する。その制度の中で大企業は、大量破壊兵器に何十億ドルを費やすのか、その兵器をいつ、どこで人殺しや破壊のために使用するかを決定する、選挙で選ばれた議員に接近するために巨額のお金を使うのである。

※ ラッセル・モクヒバーとロバート・ワイズマンは Corporate Predator: The Hunt for Mega-Profits and the Attack on Democracy”の著者。

(URL:http://www.corporatepredeators.org)

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