No.309 大手銀行の統合について(1)

8月20日、日本興業銀行、第一勧業銀行、富士銀行の大手三行が包括提携して共同金融持ち株会社を設立し、2002年春を目処に事業を統合するという発表がなされました。これについてOW読者から意見を求められましたので、以下に私個人の見解を述べさせていただきます。

大手銀行の統合について(1)

 

日本興業銀行、第一勧銀、富士銀行の統合の目的は、ダウンサイズを図って利益を上げること以外、私には考えられない。これら三行は他の大手銀行や製造会社、流通業者と同様、過剰能力を抱えており、そのような大企業が最も手っ取り早く短期利益を上げる方法といえば、社員の解雇ということになる。統合によって過剰能力を削減することは社員解雇の口実にもなり、まさに一石二鳥の方策といえよう。8月20日付けの日本経済新聞は、持ち株会社設立から5年の間に三行合計で行員を6,000人削減して2万9,000人体制とし、店舗も約150ヵ所削減することで、1,000億円の節約が可能になると報じている。つまりこの三行の統合は、ほぼ5人に1人の割合で社員の首を切るという計画に過ぎないのである。

日本の金融業界に適切な規制が存在していた時代、銀行は日本の社会と経済に大きく寄与していた。私は、1985年前後までの日本経済は以下のようにうまく機能していたと考える。

1. 日本人家庭は所得の20%以上を貯蓄した。
2. その預入先は主に日本の銀行であった。
3. 銀行はその預金に対し、高金利を支払った。
4. 銀行は預金を日本の製造/流通業者に融資し、企業の新しい製造/流通技術や能力への投資を援助した。それによって、日本の産業は世界一の技術および生産性を獲得した。
5. 銀行が預金に高金利を支払えたのは、それより幾分高い利子を融資から引き出していたからである。
6. 先見の明のある製造/流通業者は、高い利子を支払うことをいとわなかった。なぜなら、借りたい時にはいつでも融資を受けられたと同時に、銀行に支払う利子のほとんどが、預金金利として還元されることを知っていたからである。その循環こそが、社員や消費者の貯蓄に対する見返りであり、貯蓄をさらに刺激する仕掛けでもあった。
7. さらに、製造/流通業者は必要な資金をいつでも銀行から借りることができたため、利益追求に拘泥する必要はなかった。銀行の金利は政府によって規制されていたので、企業は融資を受けるために銀行を喜ばせようと他の企業よりも高い利子を支払う必要もなかった。結果としてそれは、日本の製造/流通業者の立場を米国の競争相手に比べて極めて有利なものにした。米国の場合、企業は資金の多くを株式市場から得なければならなかった。株式市場は、配当金や株価の上昇率が最も高いと思われる企業に資金を提供しようとする。銀行の融資に対し支払う金利が固定されていた日本企業は顧客や社員を満足させることに集中できたが、米国企業が事業の運営や拡大に必要な資金を獲得するためには利益の増大や株価の上昇が欠かせなかった。こうして資金獲得のために競い合う必要のない日本企業が顧客や社員の満足度向上に専念する一方、米国では資金集めが優先し、顧客や社員の満足度は二の次となっていた。この好循環によって日本の製造/流通業者は技術および生産性において首位の座を獲得し、日本国民の所得を増加させる原動力となったのである。

海外での資金調達の開始

米国の大企業に買収され所有されている米国政府は、1985年頃、日本企業が海外で資金調達ができるよう、金融の規制緩和を日本の政治家および官僚に迫った。資金の好循環という構図がそれによって崩されたのである。腐敗した日本の政治家や官僚は、米国政府の買収や恐喝、騙しに屈し、日本の企業や労働者、国民を犠牲にして米国の大企業を助ける規制緩和を行った。その結果、最も近視眼的な日本の大企業(製造/流通業者)は海外での資金調達を開始し、国内の銀行よりも安い利子で資金を調達し始めた。

上得意客を失った日本の銀行は新たな融資先を見つける必要があった。銀行が目をつけたのは土地や株、通貨で博打を行う企業や人々であった。それと同時に、子会社を設立し、自ら博打に手を染める銀行も増えていった。その結果、1980年代後半のバブルを引き起こしたのである。

分別のある者ならば誰もが、博打は「勝者の利益は敗者の損失である」ゼロサム・ゲームで、敗者が持ち堪えられなくなれば博打は継続せず、したがって遅かれ早かれバブルが崩壊することはわかっていたはずだ。敗者の負けが込み、博打が続けられなくなると価格が競り上がらなくなり、下落に転じる。残りの賭博師たちが買いから売りに転じれば値下がりは加速し、最終的にバブルが崩壊する。

腐敗した、愚直で臆病な日本の政治家や官僚が従順にも米国政府の要求を受け入れた結果、日本で金融バブルが発生し、加えて必然的な崩壊が生じたのである。

しかし、当時の日本の銀行は経営基盤が堅固であったため、1980年代後半のバブル期の博打および博打への融資で招いた損失にもなんとか対応できた。約2年前まではそれまでの事業のやり方を変えることなく、日本国民から預かった預金を日本企業に融資し続けてきた。その結果、日本経済はバブル崩壊後も健全であり続けた。その証拠に、1997年春までは日本企業に対する融資に目立った減少はなかったし、倒産や失業の著しい増加もなく、日本経済にも特に深刻な問題は見られなかった。もちろん、バブル膨張期に比べて、確かにバブル崩壊後の日本経済の成長速度は鈍化した。しかし、バブル崩壊後の鈍化した成長の方が、バブル期の表面的で持続不可能な博打主導型の成長よりもかえって健全であったといえる。

消費税増税とビッグバン

日本経済において最初に景気後退の徴候が見られたのは、1997年春、政府が消費税を3%から5%に引き上げた直後である。60%増という急激な消費税増税によって、所得のほとんどを消費に向ける低所得者の多くは消費するものの税込み価格が大幅に引き上げられたため、彼らの消費は減退した。この消費の減少、つまり、GDPの減少をもたらした直接の原因は、日本政府の消費税増税政策だったのである。

日本経済はバブル崩壊後7年の間、堅調であり続け、消費税引き上げの直後から後退し始めた。したがって、私は日本の景気後退の直接的な原因は銀行の不良債権処理ではなく、政府の消費税増税政策にあると分析する。

そしてさらに深刻な不況が日本を襲ったのは1998年春、政府がビッグバンを始動させてからである。倒産、失業、自殺が急増し過去最高を記録し始めたのもこの頃からであった。

ビッグバンは、日本の銀行に預貯金を日本経済に還元することを義務づけた規制を緩和させることで、日本の預貯金資金を海外に融資したり博打に投じることを可能にした。

ビッグバンの直後から日本政府は公定歩合をゼロ近くに引き下げ、日本の銀行が預金者に支払わなければならない金利を引き下げた。それは同時に、日本の銀行が預金を日本企業に融資しても、利益をほとんど上げられない状況を招いた。

つまり、ビッグバンは日本の高度成長の潤滑油であった「好循環」から、日本経済を今日のように麻痺させることになった「悪循環」へと変貌させたのである。高度成長期には、貯蓄に見返りを与え奨励するために高金利政策がとられ、また企業に融資が提供されるよう規制が設けられていた。しかし現在は、金利が引き下げられて貯蓄の見返りが奪われるとともに、ビッグバンの規制緩和と相俟って、日本の貯蓄が海外、特に米国に流出し、米国の金融バブルを膨張させるよう徹底されている。そしてその一方、日本国内では製造・流通業者が貸し渋りに苦しんでいる。

ビッグバンによって日本の大手銀行は、預貯金を日本の繁栄のために経済に還流させて社会に潤滑油を与える「建設的な金融機関」の立場から、社会を犠牲にして貯蓄を吸い上げ、最も早く最大利益が得られるところへ融資し博打を行う「破壊的な寄生虫」へと変貌したのである。

公的資金の使い道

大手金融機関は預貯金を海外へ流出させるだけではなく、日本の税金をも搾取した。1991年以降の7年間に、日本は不良債権処理のために70億円の公的資金を投じたと1999年5月18日の『ジャパンタイムズ』は報じている。

また、日本の大手金融機関17行は1998年だけで7兆2,600億円の公的資金を得、2兆5,510億円の利益を上げながら1,910億円の税金しか支払っていない。つまり、納税額の38倍の公的資金を納税者から奪ったことになる。また利益に占める税金の割合は7.4%に過ぎず、これは、年収346万円の低所得者の所得税率にほぼ等しい。今回統合される三行に関する数字は以下の通りである。

業務純益 公的資金  法人課税   税率 (億円)
注入額   納税額
——— ——– ———  ——   —-
富士     1,928  10,000     3    0%
第一勧業   1,786   9,000    50    3%
日本興業   2,121   6,000     1    0%

出所:『赤旗』、1999年5月27日

日本経済から預貯金を奪い、海外への融資や博打で自らを富ませることで社会を犠牲にし、さらにはその博打の借金のために70兆円の税金を使い、自らはほとんど税金を支払わないこれら寄生虫にも似た大手銀行は、他の業界より30%も高い給与を社員に支払っている。

産業別正社員平均給与(月額)(単位:千円)
*常用労働者30人以上の事業所

年 全産業 鉱 建設 製造 電気 運輸 卸売 金融 不動産 サービス
平均          ガス 通信 小売 保険
水道    飲食
1985 317  342  306 300 427  344 273  408 333  338
1990 370  380  402 352 517  413 309  490 442  380
1995 409  435  451 391 584  454 336  541 465  413
1997 421  461  468 413 602  433 357  554 432  422

出所:労働省「毎月勤労統計調査」

また、大手金融機関の役員に対する報酬はさらに手厚い。

役員1人当たりの報酬
(百万円)
98年3月  96年3月  増減

都市銀行9行   23    28   -18%
長期信用銀行3行 23    24   - 4%
信託銀行6行   19    21   -10%

役員1人当たりの退職慰労金
(百万円)
98年3月  96年3月  増減

都市銀行9行  135    86    57%
長期信用銀行3行 42    73   -43%
信託銀行6行   54    66   -18%

上記の2つの表は、金融危機管理審査委員会が1998年9月2日に衆院金融安定化特別委員会に提出した資料からの引用である。(『毎日新聞』、1998年9月3日)

また、これらの数字は平均であり、最高経営責任者が受け取った退職金がいかに巨額であったかは平均だけではわからない。実際にはさらに途方もない額の報酬や退職金が支払われている。例えば、日本長期信用銀行の元頭取、杉浦敏介氏は9億3,000万円の退職金を受け取り、日本債券信用銀行の元頭取、頴川史郎氏は約6億円、北海道拓殖銀行の元頭取の鈴木茂氏は4億円の退職金を受け取っている。また、山一証券は退職した社員と役員に合わせて450億円を支払った。昔の経営者は愚行や重罪を犯せばまず自分が責任をとったものだが、今の日本の経営者がとるのは責任ではなく、金なのである。

8月20日の『日本経済新聞』によれば、日本興業銀行、第一勧業銀行、富士銀行三行の統合は、世界トップ5に入る巨大金融グループを誕生させ、その業務純益は1兆円を超えるという。しかし、日本に世界規模の金融グループなど必要であろうか。そうした巨大な金融グループは日本国民の繁栄のために日本人の預貯金を国内に還流させるのではなく、自行の利益拡大のために海外へ流出させるだけである。また、世界規模の金融グループは博打にふけり、そのつけを国民に押し付けることを当然と考えるであろう。たとえ業務純益1兆円を達成したとしても、税金をほとんど支払わないのは目に見えている。

銀行の2つの機能

銀行の真の機能は、1つは貯蓄の実際の価値が失われないように守ること、またもう1つは預貯金によって社会から離れた資金を再び社会に流入させ、経済が滞りなく機能し続けるよう徹底させることにあると私は考える。

貯蓄の実際の価値を維持するとは、貯蓄に対して支払われる金利をインフレ率と一致させることで、預金者が銀行にお金を預けている間に、その貯蓄の購買力を増減させないことを意味する。金利がインフレ率よりも低いと貯蓄の購買力が低下し、預金者は騙されたも同然である。逆に金利がインフレ率よりも高い場合は、預金者が何の価値も提供せずに利益を手にすることになり、他者から無償で利益を奪うことを意味する。だからこそ聖書およびアリストテレスや孔子は、高利貸しや利益の追求、お金からお金を生むことに反対したのである。

社会が生産するものすべてに対して、代価が支払われる。労働者には賃金、家主には家賃、預貯金者には金利、また企業家には収益がもたらされる。こうして得たお金が、社会が生み出す生産物に対して支払われなければ、社会は生産したものをすべて消費することはできない。そして余剰品が消費されるまでは、生産を削減しなければならない。生産の削減は、労働者の賃金カット、家主の受け取る家賃の減少、企業収益の減少を意味する。つまりデフレである。預貯金によって社会経済から離れた資金を再び社会に還流させることでデフレを防ぐことは、先に挙げた銀行の2つ目の重要な役割なのである。

規制に守られていた銀行は、高度成長期にこれら2つの役割をきちんと果たしていた。今のヨーロッパ社会民主主義国における銀行もそのような役割を果たしている。

しかし、規制が緩和されたイギリスおよび米国の銀行は、これら銀行本来の2つの役割を無視し、預貯金を使って最も早く最大限の利益を生み出すことのみを目指している。彼らは私利私欲のために預貯金を搾取し、社会を食い物にする寄生虫か海賊のように見える。または、政府を買収して自分達の博打のつけを国民の税金で支払わせる博打中毒者であろうか。それとも、道路や学校、警察、病院、港湾など公的サービスや社会資本の費用を賄う税金を負担することをしない「たかり」であろうか。

銀行が果たすべき機能は、人体における心臓のような役割である。つまり、心臓が血液を身体全体に送って人間の健康を維持しているように、銀行が社会経済全体にお金を行き渡らせることによって、社会が健全に機能していくのである。