去る8月19日の『産業経済新聞』(東京朝刊)の特集記事の中で、石原慎太郎都知事と私との対談が2ページにわたって掲載されました。日米関係をはじめ、現在の日本が抱えている問題や日本がとるべき政策について触れていますので、是非、お読み下さい。
【8月に語る】
石原慎太郎氏 Vs ビル・トッテン氏 「日本はどこへ行く」
『産業経済新聞』1999.08.19(東京朝刊)
朝刊特集(10頁~11頁)より抜粋
美し国、矜持(きょうじ)に満ちた国はどこへ飛び散ったのか。自ら仕立てた「世界標準」という幻想に沈みゆく日本。石原慎太郎東京都知事と、日本人を叱咤してきたビル・トッテン氏が対談、日本瓦解のメカニズムと再建への方途を分析した。
(司会 社会部長 高尾元久)
--お二人は以前からお知り合いだとうかがいましたが…
石 原 トッテンさんは日本人よりも日本思いで、でも実はあの人は巧妙なCIA(米中央情報局)のスパイじゃないかと、だれかが言ってましたけど(笑い)。それは冗談でね、不思議な情報を持っていらっしゃる、不思議な人なんですよ。言うことは、すべて正鵠(せいこく)を射ててね、とっても日本にとってはありがたいアドバイスです。
トッテン 私は日本に住んで三十年。石原さんはすごく有名でした。「『NO』と言える日本」が出版されたとき、面白い本だと思ったのですが、私は日本語が読めないから、社員に大切なところを英訳するよう頼んでいたんです。ところが、米ルイジアナ州に住む、おやじの本箱に、その英語版があった。アメリカにとっても重要な本でしょう。だからCIAが翻訳し、米ヘリテージ財団が自分のメンバーに読むよう、石原さんや盛田さん(盛田昭夫ソニー名誉会長、共著者)に内証で配っていたんですよ。
石 原 非常に意図的な削除とか、こっけいな誤訳に満ち満ちていて、アメリカは著者に断りもせず出し、議会(の議事録)に登録する。それをしたレビン下院議員に、正式な翻訳が出るから併せて議会に登録しろと言ったんだが、しない。あれは言論のリンチですよ。
トッテン いまレビンさんという話があったでしょう。一番日本たたきの激しいミシガン州の議員ですが、そこへ石原さんが行って議論したんですよ。大勢の前でね。ざっくばらんに議論したら、ものすごく好評。日本はアメリカとのつき合い方が下手。みんなアメリカにへつらうでしょう。石原さんは自分の立場、自分の意見をざっくばらんに言ったから初めて信用された。ずるい、へつらっている人をだれも信用しない。私はそのときから外務大臣になってほしかった(笑い)。
石 原 あの時ね、場所がデトロイトでしょう。アメリカの自動車産業は景気がよくないし、息子が心配して僕にくっついてきたんですよ。向こうで雇ったエージェントも念のためにというので、FBI(米連邦捜査局)のOBで、けん銃を持ったボディーガードをつけてくれた。
それで市民との対話が始まったんだけど、僕も冗談言うのが好きだから「私はアメリカに何回も来てるけど今日は一番緊張した。デトロイト空港に降りたときゲイリー・クーパーがふんした『ハイ・ヌーン』の孤独なシェリフみたいな気持ちだった」と(笑い)。みんな大笑いしてさ。それで「あなたたちの考え方は違うよ。日本に買え、買えという製品の欠陥がいかに多いか。取り換えたらいい、では済まないんだ。生産工程が合理化されてるときに、そんなものが千のうち十もあったら本当に迷惑するから、お前らそんな部品を作る資格がない」。
僕はハーバードの先生たちにも同じ講演したんです。ローラ・タイソンが聞いていて、いろいろな資料も送ってやった。彼女は「政府も品質管理しなきゃだめだ」と言い出し、それが注目されてクリントン政権の閣僚になったんですね。
トッテン はい。経済企画庁長官と同じ立場。
石 原 経企庁の長官と同じ、何とか委員長という経済閣僚になったんです。
トッテン 話題は違うけど、日本はアメリカだけじゃなくて、アジアの国と慰安婦の問題とか、南京事件とかあるでしょう。しかし、広島の人、長崎の人が「アメリカは嫌い」と言うのをあまり聞かない。広島、長崎の残虐さから見ると、南京事件はたとえ中国の人が言うことをすべて信じたとしても、慰安婦の人たちが言うことをすべて信じたとしても、原爆には及ばない事件。しかし、日本人は広島、長崎を基本的に忘れ、現在や、これからのことばかり考えている。中国が何か尋ねても日本は答えない。アメリカの操り人形として動いているから人形は答えられない。だから中国や韓国は日本とつき合うよりアメリカと直接つき合う方がいいと考えるんです。
石 原 僕なんか国際ヨットレースに出るでしょう。船が来てぶつかりそうになり、ぎりぎりに回るとき、ものすごく判定が難しいんです。お前が悪かったんだと抗議すると、向こうもすぐ抗議の旗を上げる。そのあと、審判たちの前で自分の立場を釈明する。バンとぶつかったときに日本人はすぐ「すいません。ごめんなさい」と言うけど、そうすると負けなんだ。(逆に指さして)「お前が悪いッ」と言わなきゃだめだ。向こうも「お前が…」とくる。判決が降りて日本が勝ったら日本の得点。アメリカが負けたらアメリカが減点。しかも判決が決まったら、握手し笑ってウイスキーで乾杯、「シー・ユー・トゥモロウ・オン・ザ・シー(じゃ、また明日、海で)」と言って別れる。それが本当の国際政治であり、国際関係であって、自分の主張をしなかったらどうしようもないと思う。経済問題でも、なんで日本は相手のルールばっかりに従うことで自分のルールを作ろうともしないし相手に主張しないんですかね。
今年二月、『フィナンシャル・タイムズ』が世界の技術能力を計算して、日本の技術の可能性が一番高く、アメリカは二番目だというランキングを発表したんですよ。技術だけじゃなく、企業の経営の姿勢とか、そんなものを全部計算に入れてですね。そういうことを日本人は知らない。自らいい可能性を持っていても、日本人はそれを信じない。変な民族になっちゃったねぇ。
トッテン 日本はグローバル・スタンダード(世界の標準)と言っているけど、これは日本人しか使わない英語。アメリカ、ヨーロッパ、いろいろな人に尋ねても聞いたことがない。どうして日本の方が生産性が低いと言うんだろう。国の生産性は総生産割る人数でしょう。GDP(国内総生産)割る人口。アメリカの人口は日本の倍ぐらい。だけどGDPは倍に行かない。だから日本の生産性はアメリカよりもよっぽど高い。高い国が自分のやり方をやめて低い国のやり方に切り替える。アホらしいですよ。
最近の日本人は頭を使ってはいけないと思っているようですね。(トッテン氏が着ている作務衣を自ら指して)これを見たら日本人はびっくりするでしょう。制服は背広と決まっている。背広以外は変人。頭を使わず、みんなと同じことをやる。みんなが言っているから正しい。以前の日本人は誇りを持ち、自分の頭を使って判断した。それが最近、みんながアメリカンスタイルだったら、それは正しいという。まるで集団自殺のような感じだと思う。
石 原 それでも日本はアメリカを信じている。僕はこの次、本を書くとしたら「アメリカ信仰を捨てよう」という題にしようと思う。アメリカが開発した金融商品で非常に成功したものの一つに、がん保険がある。それをまねして日本の生命保険会社ががん保険を日本人にかけようとすると、クリントン米大統領が出てきて「おれたちの発明だから、やっちゃいけない」と言うと日本の政府はハアーとなっちゃって、大蔵省が許さない。アメリカの大統領が言うんだから日本はこの保険をやっちゃいけませんというのはおかしいんじゃない、これ。どう考えてもおかしい。日本人はそれ知らないんだよ。
トッテン それは恐らくアメリカでは(がん保険を独占的に)登録できない。特別なことじゃないからアメリカの中では競争相手がいっぱいいるはず。
石 原 まして日本の生命保険会社がアメリカで日本製のがん保険をかけるなんてとてもできません。それは、どうにもけしからんと思うけれども、日本人はシーンとしているわけ。この間、江藤淳が自殺しちゃったけどね、彼が僕と同じ考えで言ってきたことは、アメリカは見事に日本を解体した、バラバラにした、スクラップにしたということ。(バラバラにされたのは)メンタル(精神)よりもっと低いサブコンシャス(潜在意識)。アンダーコンシャス(下意識)なんですよ。それをもう一回作り直す、健康なものにするのは難しいね。
トッテン それは本当にキーポイント。私が住み着いて最初の二十年の日本は好き。最近の十年はすごく心配している。基本的に昭和二十年までの教育は儒教中心、神道中心、仏教中心、日本の皇室中心、愛国精神。それが昭和二十年以降は儒教を捨てる、仏教を捨てる、神道を捨てる、皇室に用はない。お前たちは考えなくていい。おれたちの言う通りにするか、おれたちをまねるか…。考える日本人は邪魔。昭和二十年までの教育を受けた人は(私が日本に住み始めてほぼ二十年になる)昭和六十二年ぐらいまでに引退し、マッカーサー元帥が育てた素直な羊が平成の日本のウイル(意志)になった。考えず道徳もない、価値観もない、分析もしない、アメリカの機嫌を取る。安保(日米安保条約)を読んだら安全保障ではない。占領強化。第五条を読んでも「日本が侵略されたらアメリカは適切な行動をとる」としか約束していない。アメリカから見て「適切な行動」です。だから石原さんは東京都をよくするというより日本全体のために東京都知事の立場を使っていただきたい。
石 原 あまり、たきつけないでよ(笑い)。
トッテン 大勢が期待している。
石 原 世間がなんて激しいことを言うんだろうと改めて注目していることはとても大事なので、私はこの立場をかさに着て、日本人に知ってもらいたいことをもう一回言おうと思っているんです。世界の近代史を眺めると、白人にとって日本は非常に目障りだった。レーニンが書いた中に「近代ヨーロッパの繁栄は、しょせん植民地における豊富な天然資源の一方的な略奪と奴隷に近い非常に安い労働力の使役の上にのみあった」とある。その通りです。日本もそのまねをした。第二次世界大戦のあと、勝った白人たちがもとの植民地に戻った。オランダはインドネシア、イギリスはビルマ-ミャンマー、パキスタン、インド、中近東、エジプトもそう。それからアフリカ。ところがその人たちは日本人があそこまで戦ったのならおれたちもできると独立戦争をして、ほとんどの植民地が独立した。それは白人にとっていまいましいことです。
『ニューヨーク・タイムズ』がさっきインタビューに来たけど、八月十四日-日本が降伏したのは十五日でアメリカは十四日ですが、その(降伏した日の)論説を見ると、ドイツ降伏の日と全然違う。漫画があって、大きなこの部屋ぐらいのナマズみたいな化け物がひっくり返っている。そのあんぐり開いた口の中に英米のGI(兵士)が入っている。大きな機械で、その怪物のきばを抜いている。何が書いてあるかというと「この怪物は一応降伏して倒れた。しかし死んではいない。われわれのために、世界のために、この怪獣のきばを抜かなきゃならない。戦争に勝ってこの怪物を倒した作業よりもっと難しいかもしれないがアメリカのために、世界のためにこの怪獣をバラバラにしなくちゃいけない」
ミズーリ号で、ただポツダム宣言受諾に調印したあと、マッカーサー元帥は日本は無条件降伏したと嘘をついて、憲法を全部書き直し、教育は全部アメリカ人がやって、軍隊は撤廃された。ドイツはその三つとも全部ドイツ人でやるという条件をつけて降伏した。ドイツ人の新しい教育も、新しい憲法も、降伏した次の日から武装解除されてもドイツ国軍は残った。日本は全然違う。
しかも戦争中よりも厳しい言論統制をやった。江藤淳はこういう屈辱、こういう体験は潜在的に日本の言論をだめにしたと言ってきたけれど、みんな相手にしなかった。実はそういう下意識での言論の自由に対する解体があるから、アメリカに言われたらハハーと言うし、僕みたいな人間が「うそつけ、違うじゃないか」と言うと、日本人にしてみればかなり奇妙な人間になっちゃった。
しかし、事実は事実で発表したらいいし、自分はこれについてこう思うということを言ったらいい。私は中国がいかにおかしいことをしているか言ったら、最初はガアガア言ってましたけど、改めて産経の「正論」に書いたら、ぴたっと何も言わなくなった。だってチベットで大量虐殺し、核の中距離弾道弾を配備しているなんていうことは世界中知ってるけど日本人だけが知らない。
--しかし、経済的にもアメリカ優位が続く…
石 原 日本はまだまだ生産性はある。アメリカ人はそれを知ってるから「日本人にモノを作らせておけ。そういう仕事を彼らにさせればいい。その稼いだお金をどう使うかはおれたちが決めるぞ」という金融戦略を展開してきた。だからデリバティブとか為替とか売買する、実体のないものを売買する経済で動いているお金の総額は「(実体の売買を伴う)モノ経済」の二十五倍にはなるでしょう。そしてヘッジファンドと格付け会社を使って、政府とグルになって戦略展開をしている。日本人にお金を稼がせ日本の金融会社をガタガタにしておいて「こんな銀行に金預けたらとんでもないですよ。アメリカの銀行に預けなさい。アメリカが作る商品買いなさい」
ASEAN(東南アジア諸国連合)の蔵相会議で円の決済圏とファンドを作ってくれという話が出て、日本が「やりましょう」とうっかり言ったら、ガーンとアメリカにたたかれ、ばかな大蔵大臣じゃ降参しちゃう。数年たってこの間の会議では、さすがにやらざるを得なくなった。宮沢蔵相といえどもウンと言わざるを得ない。アメリカの家来みたいなもんなんだけど。ところが結局アメリカの方が利口で、日本のお金をアジアのために使うけど、その使い方はアメリカが決めるみたいなシステムにされちゃったんだから。
トッテン 植民地そのものですよ。
石 原 ほんと、金融植民地、金融奴隷だよね。
--その状態から脱するには
石 原 まず自分を知ること。ヨーロッパだって随分時間がかかったね。ユーロという共通通貨を作りましたね。あれは結局アメリカに勝手に引きずり回されてたまるかと。(アメリカは)おれたちの子孫がつくった国じゃないか。おれたちが本家で、ヨーロッパがなんでこのままでいいんだ。アメリカに勝手なことをさせないぞという意思統一ができた。それまで五十年かかったね。
トッテン まず国民が正直であること。安保はインチキ、この間、非核三原則もインチキと知りました。いろいろなインチキがある。それをはっきりさせなければならない。日本の政府が国民と正直なつき合いをせず、国民が政府を信用できなかったら力をまとめられない。日本が独立した国として動けば、日本の方がアメリカよりアジアの国と親しくなれるはずです。
石 原 確かに、このままの日本じゃ、あまりあてにはされないね。
トッテン みんなアメリカにいじめられているでしょう。アジア同士の方が仲のいい関係を作れる。靴、足袋、帽子、背広、日本は欲しいものをほとんど作れる。一部海外から輸入しなければならないけど、日本は最高の技術、生産性があるから、無理せず自然に外国が買いたいものだけを売れば日本が必要な石油や原料を購入できる。日本の一部大企業は日本より自分の利益が大事。アメリカにものすごく売りたい。日本の輸出の半分は上位三十社で占められている。この三十社のために日本はアメリカにへつらっている。
アメリカ人の歴史では、アメリカは日本と戦争したけど、ドイツとは戦争しなかったんです。ドイツは敵じゃなかった。敵はドイツの中のナチス党。白人同士のドイツの中に悪いやつがいた。その悪いやつだけが敵。日本は全部敵。日本人、日本の文化、すべてが敵。イタリアもムソリーニだけ敵。子供の時に敵を差別した歌があった。日本は日本全体、日本は敵。イタリアはムソリーニだけ。ドイツのヒトラーだけは敵。
なんでこの国は技術が高いのか、ずっと不思議だった。考えてみたら、狩猟民族は食べ物を捕りに行く。農耕民族は食べ物を作る。食べ物に満足したらどうするか。作る習慣の人は次に服や家や道具を作る。捕る習慣の人は海賊か泥棒になっちゃう。ものを捕るのだったらべつに作らなくていい。戦争はうまくなるけど、技術を生み出すことはうまくならない。あちこちの農耕民族が狩猟民族にやられている。十九世紀、アジアは日本とタイ以外はやられた。
だから石原さんが日本人は立場を理解しなければと言う。農耕民族は狩猟民族に弱い。価値観が全然違う。農耕民族の価値観、考え方-技術を生み出し、モノを作る。それはいい。けれど、野蛮なやつが来るから自分を守る力も用意しなければならない。例え話ですが、僕には女房と二人の娘がいる。悪いやつが女房や子供を攻めにきたとき私が憶病でだれか僕の代わりに女房を守ってくださいといったら、おかしくない?
--全くおかしい
トッテン 日本の安保はそれと同じようなものじゃない? 日本の男は自分の国を守る意思が全然ない。アメリカに頼んでいる。その意思を変えなければいけない。この国は日本のもの。どの動物でも、虫でも雄が守る。日本はその雄の機能、自分が自分の国を守る意識をまず作らなきゃいけない。もう一つ、もし、悪いアメリカ人が日本に来て、日本の友達をいじめ殺した後、アメリカに帰って、がんかなんかで死んだら、どっちのお墓参りをしたい? 殺された日本の友達?、日本の友達を殺したアメリカ人?
--もちろん、殺された日本人
トッテン だけど、日本の首相は首相として靖国神社に行かないで、アメリカに行ったときアーリントン墓地に、日本人を殺した人のお墓参りに行く。これは一体どういう国?
もう国の人間性が腐っている。「個人だったら行ってもいい。おれたちの代表、首相として靖国神社に行ってはだめ!」という日本人は多い。けれどアーリントン墓地に、靖国神社にいる人を殺した人のところに行くことに、だれも何も言わない。日本人の考え方は本当に…。
石 原 それは全部アメリカの戦後統治から来ている。とくに安保に表象される日本の男は男の機能を果たさなくていい-「奥さんや娘さんがレイプされそうになったら、アメリカという警官が来て助けてあげますから何もしなくていい。男が腕まくりして頑張ろうとすると、また昔のようにとんでもないことをするから、そういうことをしてはいけません」ということできたわけ。ところが最近変わってきたのは、北朝鮮がああいうテポドンを作り出した。僕はうっかり言ったんですね。あれならとにかく一発日本に打ち込んでもらいたい、と。どっか。それで(トッテンさんが住む)京都の金閣寺あたりに落ちて。また焼けて。
トッテン あ、ちょっと京都じゃないよ。(石原知事の住む)田園調布(笑い)。
石 原 そしたらとんでもないと選挙の時に怒られたんだけど、半分近く本気、半分以上冗談で言ったんです。それが何を証明するかというとアメリカがいかに頼りにならないかということですよ。もう一つ、アメリカの海兵隊が三人、小学生をレイプした。しかもその時に僕らが火をつけた尖閣諸島の問題が起こった。あれはアメリカが正式に日本に返したわけです、条約の中で。ところが海底油田が出るというので中国がおれたちの領土だと言い出した。もっと先鋭化して、軍事的な紛争が起こったとき、アメリカは安保を発動して日本を守るんですかと、モンデール(前駐日)大使に『ニューヨーク・タイムズ』の記者が聞いた。彼は「ノー」と言ったんです。私は聞きとがめて、なんで国会はこれを問題にしないか、こういう認識は非常におかしい、それだったら安保はまったく意味ない-と言った。結局モンデール大使はクビになったんですよ、アメリカ側で問題になってね。
アメリカも大統領選挙が終わった後だったから、どさくさに紛れて、大使を代えたんだけれども、その後、一年半日本に大使が来なかった。フォーリー(現駐日大使)が来るまで一年半かかったのよ。こんななめられた話はない。冷戦構造があれだけ厳しく一番ソビエトが力を持っていたときに、一番ソビエトに近い北海道にアメリカの兵隊一人もいなかったんだ。それが日米安保の実態だ。アメリカの国益はアメリカの世界戦略を遂げるためだけであって、日本を守るためにあるんじゃない。
日本を完ぺきな防衛国家にしたらいい。その設備投資、軍事投資をして、日本は完ぺきな再軍備をする。しかもそれは絶対に外へ攻めていかない。しかし攻められたら完全に逆を取って守る。そういう軍事国家になったらいいが、一番好まないのはアメリカと中国だろう。しかし一番景気をよくするよ(笑い)。
トッテン アメリカは弱い国をいじめる。日本が北朝鮮に何かやられたらアメリカは日本を手伝うかもしれません。けれども相手が中国だったら、アメリカは中国とけんかする勇気がない。ソ連とも、その勇気がなかった。パナマやイラクやグレナダ程度の小さい国はいじめてるけど。中国を空爆したら、中国は反撃しますよ。ソ連もやり返す。でもイラクやセルビアは何も反撃ができないからそういうところを空爆している。アメリカが日本を助けてくれるとは考えられない。そう考える人がいるのが信じられない。
--次に国政と都政の関係ですが
石 原 東京都は何といったって日本の首都。ここでやるといい影響が出てくるので、やろうと思っても、国の法律があってできないことがたくさんあるんですよ。それを僕はあえてやろうと思う。どっかの役所がそれはいかんといって行政訴訟で止めたら、負けるの覚悟でやろうと言っている。いかに東京の言っていることが妥当であり、国の役人は遅れてて、ばかなことをしてることが分かるから、と。
たとえば今働く女性が増えている。ところが子供を預けるところがなかなかない。保育所が安いけど、足りない。だったら、このごろ幼稚園の子供が少なくなっているから、保育所がやっていることと同じことを幼稚園でもやったらどうか。子供たちが四時に帰った後、やりますよ。いいことだ。やりなさい。ところが文部省がウンと言わない。午後ならいいけど午前中はだめだとか。そんなものは構わないからやっちゃえ。国とけんかしたらいいじゃないか。自動車の車両制限とか、排ガスの制限なんかもやったらいいです。どんどん。国とけんかして負けたらいい。こっちは健康のためにやってるんだから。
トッテン 裁判だけじゃなくて石原さんの広報の力を使いながら向こうが抵抗できないように…。空港もよろしくお願いします。
石 原 横田基地なんてロジスティックベース(補給基地)ですからね。アメリカの民間機、(国際貨物便の)フェデラルエクスプレスなんかもっと便数を増やしたいと思ってるけれど、日本の飛行場は容量がないから飛んで来れないし、アメリカの民間のカーゴ(貨物便)だってもっと入りたいけど入って来れない。アメリカ以外の国で日本に乗り入れたいけど、入って来られない国が三十いくつあるんですよ。そんなものを待たしておくからどんどん日本の国力おっこっちゃって、外国へ飛んでちゃって、外国は繁栄するけど、日本はだんだんシャビー(みじめ)になってきた。トッテンさんね、この二十年間、三千三百万人いるメガロポリスに四千メートルのランウエー(滑走路)が一つしかないなんていう国は日本だけでしょう。
トッテン 石原さんに頼みたいことがあるんです。京都で移動する時、私は自転車しか使わない。東京でも一部を自転車専用にすると効率が随分よくなるし、エネルギーも助かる。公害も。新宿から虎ノ門なら自転車で十五分ぐらい。
石 原 僕もそう思ってる。盗んで帰っても、これは東京都の自転車と分かる独特の自転車にする。乗ったらどこにでも、ほったらかしにして、置いてある自転車をみんな勝手に使ったらいい。それを東京で二十万台ぐらい使い、その代わりこの地域は自動車を入れないというようにしたい。
トッテン 乗る時に自分のカードを入れて、置く時にカードを出すというやり方もいいけど、やっぱり勝手に使いなさいというのが一番経費がかからない。自転車を盗む人が多いですけどね。
石 原 その自転車はカギをかけちゃいけないんだ。その自転車はみんなが使ったらいい。
トッテン それはすごくいい。すごく嬉しいね。
石 原 何万台で足りるかね。一時、霞が関でお役人が役所から国会とか行く時に車を使うのはもったいないというので自転車にしたんですよ。あそこはわりと坂が多いでしょう。だから部長ぐらいになるともうだめなんだ(笑い)。
トッテン 最近の自転車はエンジンがついてるから坂の場合だけ、それを使う。実験して足りなかったら増やせばいいと思う。
石 原 そうそう。その代わり、どことどこを自動車の乗り入れ制限にするか。なかなかまた難しい問題があるんです。トッテンさんには東京の問題を話し合っていただく諮問委員になってもらったんで、またよろしくお願いします。
トッテン 私は京都に住んでいるけど、商売は東京です。
石 原 トッテンさんは前に東京にいらしたし、とくに京都に居を構えていると、東京と京都というかなり対照的な二つの町を比べて、いろいろな都市の問題が分かると思うんですよ。東京だけでは分からない問題がありますから。
トッテン ほんとに都民と国民のために期待してますから、石原さんには頑張っていただきたい。
[産業経済新聞社より、許可を得て転載]