9月に開催された7ヵ国蔵相・中央銀行総裁会議について、ニューヨーク在住のエコノミストである私の友人、マイケル・ハドソンが所見を送ってくれましたので、以下にお送りします。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。
7ヵ国蔵相・中央銀行総裁会議(9月25日)についての所見
マイケル・ハドソン
私の予測通り、米国がこの会議で日本に対してとった態度は厳しいものであった。ポール・クルーグマンに代表される著名な米国エコノミストによって繰り返された米国政府高官の声明は、日本の経済的崩壊を楽しんでいるかのような内容だった。
米国の主張を要約すると、次のようになると思われる。
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日本経済は縮小し、円高が進むにつれてますます縮小し続けるかもしれないが、米国は円・ドル為替レート安定のための介入は行わない。なぜならば、安定させるためには米ドルをすべて使い果たさなければならないからである。米ドルは米国人のためにあるのであって、外国の問題を解決するためにあるわけではない。
日本が国内で何をやろうと知ったことではない。米国の関心は、米国の投機家および投資家が日本の金融市場で金儲けができるようにすることにしかない。日本政府がこれからも米国に好機をもたらすよう日本経済を管理し続けることを米国政府は期待している。日本の経済管理がうまくいっているか否かの米国の基準は、いかに米国が儲けているかであって、日本がどれだけ利益を得ているかではない。
第一に、米国の通貨投機家は今後も円の対ドル・レートが上昇すると予測し、それに賭けることで儲けたいと考えている。円高が日本の輸出産業に打撃を与えることはわかっているが、それは米国には関係のないことである。それどころか輸出における日本の損失は米国の得になる。もし日本が円高を望まないのであれば、米国の国債をもっと買ってドルを使えばよい。そうすれば国債価格が上がり、米国の金利は下がるだろう。
第二に、米国は日本に、米国の年金基金、ヘッジファンドその他の投資家が外国為替差益以上に日本の株式市場で儲けることを保証して欲しいと考えている。株式市場投機家に利益を提供するために、日銀が国債やその他有価証券を購入することで日本のマネーサプライを増やすことを要求する。それによって市場の流動性が高まり、株価が上昇するからである。
米国は多くの日本人が今、株を売却していることを認識している。我々はこの傾向が続くことを望む。米国人はこれからも日本の株式市場の株価をつり上げるが、そのためにはもっと多くの株を手にする必要がある。日本は株の持ち合いを止めなければいけない。日本の銀行が顧客の株の売却に合意したことを米国は喜んでいる。一般の企業も同じように、サプライヤーや取引先の株を売却するようになるだろう。これによって米国政府が巨額の政治献金提供者に約束した通り、米国人が日本企業の株を買って利益を手にすることができるようになるだろう。
今や、日本の銀行が不動産を破格の値段で売却し、米国人は日本の不動産市場にかなり食い込めるようになった。そろそろこれら米国人投機家が利益を手にすることができるよう、日本経済を本格的に膨張させ始める時である。この売却益はなるべく早く提供されなければならないことも忘れないで欲しい。なぜなら投機家たちは、可能な限り早く利益を手にして次の投機に移りたいと考えているからである。
日本が米国に資金を投入すればするほど、円高のペースを遅らせることができるであろう。ビッグバンは水門を開けるのに大いに役立った。米国は、クレスベール証券東京支店を通じて販売された外国債券「プリンストン債」の国際詐欺事件を通して、日本から10億ドルもの資金が米国に流れ、それによって米国の国際収支が改善されたことを評価している。もちろん、日本の一部の投資家が損失を出し、不満に思っていることも米国は知っている。しかし、彼らには余剰のドルを米国に還流させることによって、日本経済を助けているのだと説明して欲しい。彼らの資金が米国に流れてしまった今、それが日本に戻って円をさらに押し上げることは決してないのである。プリンストン債で損失を被った投資家たちは円高を抑える働きをすることによって、日本製品の価格における輸出競争力を高めるのに貢献したということで、日本の輸出業者から感謝されるべきである。
日本が輸出過剰によりドルを稼ぎすぎているのだから、米国はそれを自業自得と見ている。繰り返していうが、日本が重要な米国企業を買収することを我々はこれからも決して許さない。米国が日本に買うことを許すのは、米国債と不動産、コロンビア映画など差し障りのない娯楽会社数社だけに限る。
日本が米国経済に日本の余剰ドルを還流させるのがいやなら、ユーロはどうだろうか。もしくは米国が買い入れたロシアの国債や株を日本の投資家に売却してもよい。運がよければ日本人投資家は我々が手に入れられなかった利益を手にすることができるかもしれない。
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以上が米国の主張の要約である。日本人はG7蔵相会議で冷たくあしらわれた。求められたのは、とにかく日本市場を膨張させること、つまりそれによって米国人投資家が株式市場から利益を手にすることができるようにというものだった。
日銀が金融市場で国債(または株)を買っても日本の雇用や消費需要を増やすことにはならない。それどころか、日銀が国債を買えば日本の消費者の借金、つまり税金で返済しなければならない借金が増えることになり、その借金で株式市場を膨張させるようにいわれているのである。市場を膨張、活性化させるとは、すなわち不動産を買い叩いた米国のやり手の投資ファンドのために売却益を生み出すことを意味し、そのために税負担が不動産から消費者、つまり、税の徴収対象が土地から労働に移るということである。
ここで注目すべきことは、この米国の主張が、米国民の利益を第一に考える人民主義の立場として提言され、それが有権者の支持を獲得できるという点である。米国有権者は、外国の利益を満たすために米国経済を動かそうとする政治家など、即座に落選させようとするであろう。