No.320 米軍は沖縄の悩みの種

日本政策研究所所長のチャルマーズ・ジョンソン氏が、沖縄では軍用機事故がいつ発生してもおかしくない状況にあることを、空軍特務曹長の署名入り書簡を引用しながら、以下に説明しています。その軍用機事故を回避するためには、沖縄から海兵隊を撤退させるよう小渕首相が米国に要求すべきだと解決策も提示しています。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。

米軍は沖縄の悩みの種

沖縄県民は1995年の少女暴行事件でショックを受けた。もしここで重大な軍用機事故が起きたら、県民はどうするであろうか。

チャルマーズ・ジョンソン 
『ロサンジェルス・タイムズ』紙、1999年9月3日

 4年前の1995年9月4日、12才の沖縄の少女が2人の海兵隊員と1人の海軍兵士に暴行を受け、第3海兵師団の撤退騒ぎにまで発展した。130万人の沖縄県民は、南国のその小さな島に、日本に駐留する4万7,000人の米兵の3分の2以上と、それに加えてほぼ同数の扶養家族や米国防省の非戦闘員などの受け入れを強いられていることに長い間抗議をしてきた。

 少女暴行事件の直後、基地縮小を求める県民の声は沖縄全土に広まり、その後続いた自動車事故や米軍によるその他の犯罪によって、駐留米軍と受け入れ側の沖縄との関係はますます難しくなっていった。しかしこれまで、日本本土に住む日本国民や日本政府は、この問題を無視し続けてきた。彼らは、海兵隊を沖縄という自分たちから遠く離れた島に置いておく限り、日米安全保障条約を受け入れようという態度である。

 しかし、観光が主力産業の沖縄で重大な軍用機事故が発生すれば、この状況は一瞬のうちに変わりうる。米軍は沖縄領土の20%を占領しているだけではなく、沖縄の領空を事実上すべて支配している。沖縄県民も他の日本国民も知らないかもしれないが、この空域の安全を監視する米軍兵士は、過重労働、貧弱な機器と訓練不足、空の安全規制の不徹底という非常に危険な状態に置かれている。

 民間、軍用合わせても東アジア最大規模の飛行場である沖縄の嘉手納空軍基地で航空交通管制官を務める主席下士官は、沖縄上空が安全ではないと警告する。また、空軍特務曹長は、沖縄に着陸するのは必要以上の注意を要するほど危険だと世間に知らしめるために、インターネットで日本に広く流れている署名付きの手紙に、自分の身分を明らかにした上で次のように記している。

 「嘉手納基地の様子を伝えよう。嘉手納空軍基地と普天間海兵隊空軍基地の両施設では、配属人員が危機的状況レベルの人員数よりもさらに下回り、担当者は週6日勤務である。そのため管制官は疲れ果て燃え尽きた状態であるにもかかわらず、この状況が変わる気配はない。訓練担当者の負荷も20倍に増加し、1人の教官が3~4人を受け持っている。管制官は人手をさらに減らすわけにはいかないため、具合が悪くても航空軍医の元へは行かずに働き続けている。私が来て以来、管制違反は急増している。事実、日本の大型旅客機と空中衝突寸前の状況に直面した。一瞬の差で、400人が死亡していたかもしれない。その時、勤務していたのは経験不足の管制官であった。私は、こうした民間旅客機との衝突は、国際問題に発展しかねないと考える。管制官の過失となれば、恐らく日本の刑務所でしばらく過ごさなければならないであろう。モラルは低下している。何か大惨事が起これば、我々は人殺しになる」

 こうした事故が起こりかねない状況を回避するための解決策は単純である。日本政府あるいは米国政府が行動を起こせばよい。小渕首相が米国側に、沖縄から海兵隊を撤退させるよう要求すれば、米国側はフィリピンでそうであったように、その要求を呑む他、道はない。このために日米安全保障条約を破棄する必要はない。したがって、米国の船が日本の基地に寄港することは今後も可能であるし、アジアで問題が起これば、米国の軍用機や軍隊をグアム、ハワイ、米国西海岸のいずれかから現地へ送ることができる。

 あるいは、クリントン大統領が、沖縄に前方展開配備されている米軍の削減と、代替基地を要求することなく沖縄基地の日本返還を命じればよい。

 3つ目の選択肢は、沖縄の軍事用航空管制システムを大幅に改善することだが、この選択肢は恐らく実現できないであろう。なぜならば、米空軍は平時の今、最大の人員不足にあるからである。

 しかし、こうした措置がとられなければ、航空管制官に関連した事故は必ず発生し、逆上した市民によって事態は両政府には収拾がつけられない方向へと発展するであろう。

 来年7月、先進国G8サミットが、沖縄県名護市で開催される予定になっている。名護市は那覇の北に位置する小さな集落で、1997年末に海兵隊の普天間基地移設の候補地として住民投票が行われたが、結果は6対1で却下されている。多くのビジネスをもたらすであろうサミット開催地として小渕政権が名護市を選んだのは、海兵隊の名護市移転を受け入れさせるための報奨としてサミットを利用しているのではないかと沖縄県民は訝っている。

 しかし沖縄県民は、それよりも沖縄領空の安全について心配したほうがいいかもしれない。

※ チャルマーズ・ジョンソンはカリフォルニア州サンディエゴにある日本政策研究所の所長である。

[著者の許可を得て翻訳転載]