ロシアにおけるマネーロンダリング(資金洗浄)が問題になっていますが、これには欧米がロシアの改革を信じるふりをして資金援助をしたことが大きく関係していると以下の記事が指摘しています。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。
スキャンダルではなく、国家の略奪だ
『ジャパン・タイムズ』紙、1999年9月2日
ウィリアム・パフ
ロシア資金のスキャンダルは、エリツィン大統領率いるロシアが改革と国際社会との統合に向かっているとの主張に逆らうものである。
このスキャンダルで、西側諸国と今日ロシアを支配する者たちとの関係はまさにくわせもので、責任は両者にあるということが露呈した。
ロシア政府とその関係者は、ロシア国民を騙して援助資金を着服した。同様に主要国際金融機関や西側政府も、ロシア国民だけでなく西側諸国の納税者をも欺いて国際支援金として提供された推定100億ドルを騙し取った。その100億ドルは今、租税回避地の個人口座に流れている。
一番ひどいのは、誰もこれらを意外だと思わなかったことだ。ある国際金融機関の元役員は、要塞化したメナテプ銀行モスクワ本社で同行の経営陣と初めて会った時、彼らが拳銃を取り出し机の上に置いて面会するのではないかと思ったくらいだと、私に語っている。
帰国した彼は、所属する国際機関に対し、メナテプと関係を持たないよう忠告した。しかし、他の国際金融機関や民間の銀行の中には、慎重さを欠いた選択を行ったところもあった。FBIによれば、メナテプは、ベネックス・ワールドワイドと呼ばれる幽霊会社を通じて、資金を海外に流す主要チャネルの働きをしていたという。
この幽霊会社ベネックスは、ロシアのマフィアと関係を持ち、すでに解雇されているニューヨーク銀行幹部の1人の夫が役員を務めている。このスキャンダルに絡むもう1人の人物は、IMFの元ロシア代表である。
1991~92年以降、西側の政府関係者や観測筋は、いわゆるロシア産業の民営化と呼ばれるプロセスから利益を得る寡頭政治の執政者たちによって、ロシアから資金が絞り取られていることに気づいていた。そのプロセスは民営化などではなく、実際は政権に就いている者およびその仲間たちによるロシア資産の横領にほかならなかった。
改革者を名乗る人物やエリツィンの側近を含め、ロシア現政権のほとんど全員がこの横領に加担していることは誰もが認めている。
これは、西側のロシア政策を擁護する人々が好む表現を借りれば、「縁故資本主義」以上の問題であることは明らかである。誰もが、これはロシアの経済改革と民主化のために払わなければならない代価であると思っていた。
しかし、それは完全に間違いであった。搾取の規模やその関係者の身分から、これが民主主義を犠牲にした私利私欲のための国家の略奪であることは明確である。しかも、西側諸国の目の前でそれは公然と行われてきた。
西側諸国は道義的な共犯を務めてきた。中でも大きな過ちは、米国政府が伝統的な国家対国家の関係という防衛手段をとらずに、個々の指導者との個人的関係と外交とを一貫して混同してきたことにある。
これにはマスコミの関与も大きいが、むしろ自分一人の力で国際問題を取り仕切っていると誇示したい西側指導者の自己権力の拡大欲によるものである。
ビル(クリントン)とボリス(エリツィン)、アル(ゴア)とビクトル(チェルノムイルジン元首相、民営化された天然ガス独占企業のガズプロムのオーナー)という関係は、新生ロシアの支援者、そして国務を司る者として、自分達自身そして有権者の目にそう映っていると思っていた。
彼らは米国の資源、さらには、米国が支配する国際金融機関の資源を利用して、友人であるエリツィンを政権に引き留めてきたが、その政権そのものが腐敗の温床だった。[1996年の大統領選の前には、エリツィンを勝たせるために、IMFが35億ドルを融資した。この融資で、当時滞っていた公務員や国有企業に対する給料を支払い、エリツィンは再選を果たしている。]
それには野心も絡んでいた。米国務省ロシア関係担当のリーダー、ストローブ・タルボットは、常に興味をそそられてきた国ロシアの改革に重要な影響を与えているという名声が欲しかった。大学の市場経済学者達がその災難ともいえる改革を支援し、名声は現実になっただけでなく、さらに脚色された。
認めようとする者はいないかもしれないが、西側全体、特に米国が、変革に不適任であったばかりか理解さえ不完全であったために、ロシアにおける共産主義の崩壊が始まったのである。西側の歴史的および文化的見地がロシアのそれとあまりにも隔たりが大きいことを考えるとそれも当然である。
その単なる無知が災いした。IMFのカムドシュ専務理事は、パリの新聞社に対し、共産主義の崩壊が国家の崩壊を意味するとは考えていないと語っている。
政治学を専攻する大学院生であれば誰もが、ソビエト連邦という国家は、共産党の外貌にすぎなかったと彼に教えてやれたであろう。だからこそソ連の改革にあたったゴルバチョフは、それを合法的に行い、かつ意義のあるものにするため、共産党を改革しようとしたのである。
1990年以降の西側の対ロシア政策は、このような素人芸や出世第一主義、無知、さらには米国史上比類のないほどの影響力をクリントン政権に与えている大企業の商業的利権によって支配されてきた。
ロシアにもたらされたこのような状況の中でも最悪なことは、道徳原理の崩壊ともいえるニヒリズムが再度取り込まれたことだった。泥棒達は西側を侮辱する行為を自ら行いながら、西側に教えられた通りに行動しているだけだと主張した。
ロシアで起きた最善のことは、不安定ではあるが、明らかに民主主義的価値観がロシア社会に定着したことである。検察、裁判所、マスコミが、強い抵抗に遭いながらも、こうした犯罪を調査している。今こそ、合法性が通用するかどうかが試される時であり、その判断は、ロシア人自らの手に委ねられている。
※ ウィリアム・パフはパリ在住のベテラン政治アナリストであり、『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』紙のコラムニストである。