ここ数年来、不良債権問題に始まって、数々の銀行の破綻や公的資金による救済、最近では大手銀行の合併と、銀行に関するニュースが新聞やテレビで取り上げられない日はありません。そうしたニュースを毎日目にするにつけ、銀行は本当にそれほど困っているのだろうかという素朴な疑問を持ちました。そこで、銀行が公表している貸借対照表や損益計算書などの財務諸表をもとに、過去30年間の銀行に関する基本的データを分析してみることにしました。この分析を通じて、我々一般市民や他の企業に適用される所得や消費の増加に応じて納税額が増えるという一般原則が銀行には適用されないという事実が明らかになりました。以下に私が試みた分析過程とその結果をお送りします。
国民の税金に依存する銀行
銀行が公表する貸借対照表や損益計算書には様々な数字が掲載されているが、ここでは誰もが理解できる数字、さらには過去30年間一貫して記録されている数字をもとに、分析を試みた。分析対象は、都市銀行9行(1989年までは13行)、信託銀行7行、長期信用銀行3行に絞り、地方銀行などは除いた。そして分析期間をバブル崩壊前の20年間(1970~1989年)、その後の10年間(1990~1999年)、さらに最近5年間の3つの期間に分けた。
単位:億円 1970~89年 1990~99年 1995~99年
年間平均 年間平均 年間平均
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資本金 13,903 60,446 67,416
役員数(人) 606 766 727
職員数(人) 207,294 189,002 179,078
預金高 1,320,092 3,315,034 3,014,857
最終損益 5,499 -6,465 -22,405
納税額 6,192 5,835 2,204
(注:納税額には、法人税、住民税、事業税が含まれる。)
以下は、各指標に対する私の分析である。
(1) 前述の指標からいえることは、日本の大手銀行はバブル崩壊前の20年間よりも、その後1990年以降の10年間、あるいは最近5年間の方がはるかに規模が大きくなっているということである。90年以降の数字がその前の20年間より下回っているのは、最終損益および納税額だけである。最終損益が減少したのは、OWメモ「大手銀行の統合について(2)」(No. 310:1999年9月9日号)で示したとおり、預金利子と貸出金利子の利ざやを稼ぐという銀行本来の業務からは外れた行為が招いた損失、つまり株式や債券、デリバティブに対する博打の損失が増加したのと、公的資金の注入を受けて巨額の不良債権処理を行ったためである。現にここ数年、大手銀行の業務純益はプラスでありながら、不良債権処理や業務外の損失増加で最終損益は大きくマイナスになっている。その結果、納税額が減少したことはいうまでもない。我々一般個人が博打で失敗し損失を被っても、それを課税所得から控除することはできないし、巨額の政治献金や大蔵官僚に天下り先を提供できない一般企業も、博打で莫大な負債を作ったからといって税金で救済してもらうことはない。なぜ銀行だけがこれほどまでに優遇されるのか。
(2) 1990年以降とその前の20年間を比べると、日本の大手銀行は資本を5倍に増やしながら、納税額はここ10年間の平均で6%の減少、5年間の平均では3分の1に減少させている。税金を課税/徴収する大蔵省が銀行と結託し、銀行の支払う納税額を90年以降減少させておきながら、その一方で銀行が資本を増やし最終損益も増加させているということに、銀行に投入された公的資金の提供者である納税者は納得できるのであろうか。どのように考えても、私にはこのような銀行を「民間企業」と呼ぶことはできないと思う。
(3) 1990年以降、銀行は役員数をここ10年間の平均で26%、5年間では19%増やしながら、納税額は減らし、同時に職員数を9~14%削減した。増えた役員の多くは、大蔵省からの天下りなのではないだろうか。99年9月15日付けの『日本経済新聞』は、大蔵省、日本銀行などから民間銀行に役員として天下りした人は、今年9月時点で158人と、依然として高水準であると記している。
次に、各指標に対して、どれだけ税金を納めているかを見るために、納税額を各指標で除したものを対比させ検討してみることにする。
単位:億円 1970~89年 1990~99年 1995~99年
年間平均 年間平均 年間平均
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資本金1,000円当たりの納税額406 81 -16
役員1人当たりの納税額 9 3 -5
職員1,000人当たりの納税額 30 14 -19
預金1,000円当たりの納税額 5 1 -1
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税額/最終損益 107% 35% -34%
どの指標と対比しても、資本金、役員、職員、預金、最終損益当たりの納税額は減少していることがわかる。
では最後に、納税額が他の指標と同じペースで増加していたならば、つまり上記の表でバブル崩壊前の20年間と、その後の10年間で、資本金、役員、職員、預金、最終損益当たりの納税額が変わらなかったら、納税額はいくら増加していたかを検討しよう。それによって、各指標に合わせて納税額が増えていた場合と比べ、銀行の納税額がいくら不足していたかを明らかにしたい。
各指標と同じペースで納税額が増加していた場合の
納税額不足分年間) 単位:億円
1990-1999 1995-1999
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資本金 -18,077 -25,002
役員数 - 1,577 - 4,663
職員数 - 81 - 3,279
預金 -10,588 -12,378
過去10年間の資本金増加率と同じペースで増加していたならば、納税額は実際よりも年間1兆8,077億円増えていたことになり、10年間で18兆円増えていたはずである。同様に、役員の増加率と同じペースで税金が増えていたら年間1,577億円、10年間で約1兆6,000億円の納税額が増加していたことになる。従業員の増加率で考えれば、年間81億円、10年間で810億円、預金増加率で考えれば1兆588億円、10年間で約10兆6,000億円である。
どの指標をとっても、1990年以来、銀行の規模は拡大していながら、納税額は減少している。また他の指標と同様なペースで納税額が増加していたと考えた場合に、銀行はさらに数10兆円にのぼる税金を支払っていたはずである。つまりこれは、政府や大蔵省は納税額において銀行をそれだけ優遇していたといえる。すなわち、日本国民が銀行に預けた金で株やデリバティブなどを行い自ら博打に興じると同時に、土地投機に奔走する不動産会社への融資をまともな審査も行わずに行って焦げ付かせ、巨額の不良債権を積み上げた銀行の行為を、政府や大蔵省は評価し、奨励したことになる。消費税により一般国民が衣食住に対する支出を抑制させられる一方で、不良債権を積み上げた銀行を優遇することによってその博打を奨励するという日本の政策は、あまりにも不合理だと思うのは私だけであろうか。