「日本は諸外国に例を見ない超高齢化社会を迎え、少子化傾向とも相俟って働き手が減るため、社会保障関係費が増大し、財政赤字がますます拡大する」という主張をよく耳にします。しかし、私はこの主張を聞くたびに、問題の本質がすり替えられていると感じます。なぜなら、高齢化社会で社会保障関係費が増大するために財政が破綻するという論理は、「高齢化社会」を理由に国民により多くの負担を強いると同時に、自分達の失政が招いた財政破綻の原因を「高齢化社会」に負わせるための政治家や官僚のプロパガンダにほかならないからです。今回は、そうした私の見方を様々な数字を使って説明したいと思います。
財政破綻は高齢化が原因ではない
医療費負担や年金を賄う「社会保険費」、および高齢者や身障者のための「社会福祉費」などを含む「社会保障関係費」が高齢化の結果増大し、それが財政破綻の原因になるといわれているが、それは事実なのだろうか。政府や官僚、マスコミの言葉を鵜呑みにせず、それを数字できちんと確かめる必要がある。以下の表は1999年度の歳出予算の内訳を金額の多い順に並べたものである。
1999年度一般会計歳出内訳
国債費 19.8兆円 24%
社会保障関係費 16.1兆円 20%
地方交付税交付金 12.9兆円 16%
公共事業関係費 9.4兆円 12%
文教および科学振興費 6.5兆円 8%
その他の事項経費 5.4兆円 7%
防衛関係費 5.0兆円 6%
1997年度決済不足補填繰戻 1.6兆円 2%
恩給関係費 1.5兆円 2%
経済協力費 1.0兆円 1%
エネルギー対策費 0.7兆円 1%
地方特別交付金 0.6兆円 1%
公共事業等予備費 0.5兆円 1%
予備費 0.4兆円 1%未満
主要食糧関係費 0.3兆円 1%未満
中小企業対策費 0.2兆円 1%未満
産業投資特別会計へ繰入 0.2兆円 1%未満
(出所:大蔵省主税局)
政府、官僚、メディアの主張により、日本国民は高齢化と結びついた社会保障関係費が歳出を圧迫していると信じ込んでいるようだが、上記の歳出の内訳からわかるように、実際に歳出予算の首位を占めるのは社会保障関係費ではなく国家債務の返済に使われる国債費である。1999年度の歳出予算に占める社会保障関係費は20%であるのに対し、国債費は歳出の中で最も多い24%を占めている。
それだけではない。1999年度の歳入の内訳を見ると、税収は約47.1兆円であるが、その税収の42%にあたる19.8兆円が過去の借金の返済ともいえる国債費に充てられているのである。
1999年度一般会計歳入内訳
租税および印紙収入 47.1兆円 58%
その他収入 3.7兆円 5%
公債金 31.1兆円 38%
合計 81.9兆円 100%
こうした借金財政は今に始まったことではない。以下の表は、特に1980年以降、日本がいかに莫大な借金を積み上げてきたかを示している。これだけの国家債務を積み上げたからには、これから先、我々の世代だけではなく、何世代も先の子孫にいたるまで、過去の巨額な借金のつけを毎年返済していかねばならないということである。なお、この数字は国の債務残高に限ったものであり、国と地方を合わせた債務残高は600兆円を超え、GDP比ではなんと120%にも達している。
国債残高 GDP比
(兆円)
1965年 0.2 0.6%
1970年 2.8 3.7%
1975年 15.0 9.8%
1980年 70.5 28.7%
1985年 134.4 41.5%
1990年 166.3 37.9%
1995年 225.2 46.0%
1996年 244.7 48.6%
1997年 258.0 51.1%
1998年 299.0 61.0%
1999年 317.0 66.0%
(出所:大蔵省主税局)
では最後に、過去に溯って、国債の返済に使われる国債費と、高齢化と結びついた社会保障関係費の推移を比較してみる。以下の表は社会保障関係費が歳出に占める割合が1980年以降、19~20%とほとんど変わっていないのに対し、同時期、国債費の歳出に占める割合が12%から24%へと倍増していることを示している。こうした数字を見ると、社会保障関係費を問題視するのであれば、なぜ国債費をもっと話題にしないのかと疑問に思うのは私だけであろうか。
国債費 社会保障関係費
(兆円) 歳出比 (兆円) 歳出比
1960年 0.03 2% 0.19 11%
1965年 0.02 1% 0.54 15%
1970年 0.29 4% 1.15 14%
1975年 1.04 5% 4.03 19%
1980年 5.31 12% 8.26 19%
1985年 10.22 19% 9.83 18%
1990年 14.29 22% 11.55 17%
1995年 13.22 19% 14.55 19%
1999年 19.83 24% 16.10 20%
(出所:大蔵省主税局)
高齢化による社会保障関係費の増大を問題視し、それを諸悪の根元であるかのように断言する腐敗した政治家や無知な官僚、そして従順なメディアは、真の原因が過去の失政が招いた放漫財政にあることを隠し、また過去の借金を返済するために多額の税金が使われている事実から国民の目をそらそうとしているとしか思えない。日本が本格的な高齢化社会に突入するに従い、政治家や官僚はこれを理由に様々な施策を講じようとするであろう。国民はそうした主張を聞く際、真実をもとに判断すべきであり、問題の本質を決して見誤ってはならない。